「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・群獣伝 5
神様たちの話、第61話。
モールの検分。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
エリザを見送ってから若干の間を置いて、モールは村の外れにある森へと向かう。
(さーて、我が不肖の弟子の腕前はどんなもんかね)
モールは樹上に潜み、エリザと村人たちの様子を観察する。
「俺たちが援護する!」
「今のうちにやっちゃってくれ!」
槍や斧を手にした村人たちが、エリザの周囲に固まって陣取り、バケモノと距離を取っている。
「分かった!」
陣の中心にいたエリザが魔杖を掲げ、呪文を唱え始める。
(どうやら『エクスプロード』を使う気だね。
普通に考えるなら、確かにいい選択だ。チマチマ小技をかましてどーにかなるような相手じゃ無さそうだし、そんなら自分が持てる最強の術で一気に焼き払っちゃった方が、結果的に早いだろう。
だけど『免疫』の懸念がある。その最強の術をバケモノたちに克服されたら、次がまずいコトになる。ソレは即ち、エリザが勝てなくなってしまうってコトだ。そうなったら、私だって相当まずくなるね。
しかしその『免疫』だけど、ソレが機能するには、攻撃を受けたバケモノが生き残るか、攻撃を受けたトコを別のバケモノが確認するコトの、いずれかが必須だ。
そのどっちのケースにも対応するには……)
モールが思案にくれている間に、エリザの準備が整ったらしい。
「行くでぇ! 『エクスプロード』!」
魔術が発動され、バケモノは呆気無く吹き飛ばされる。
(ふむ……。こっちは問題なしか。一撃でやったっぽいし、コレなら生き残っちゃいないだろうね。
となると、残る懸念は……)
モールは周囲を見回し、他にバケモノがいないかを探る。
(……ん、んん?)
が、モールが想定していたような、別のバケモノが監視しているような様子は無い。それどころか、他にバケモノがいる気配も、どこにも感じられなかった。
(ありゃ……? まさか、あの一体だけなのか? まさか、だろ?)
木から降り、念入りに辺りを調べたが、やはりどこにもバケモノの存在は無い。
(おっかしいねぇ……? じゃあまさか、私の仮説が誤りだったってコトか?
いや、ソレじゃ強いバケモノが出てきた理由は? 事実、出現してるワケだしね。じゃあその出現条件が、私の思ってたモノとは違う、ってコトか。
もっと詳しく調べてみなきゃね……)
と、エリザたちがモールの存在に気付いたらしい。
「あれ? 先生、おったん?」
声をかけてきたエリザに、モールはひょい、と手を挙げて返す。
「おう。この辺りを回ってきたけども、バケモノはいないっぽいね。もう危険は無さそうだね」
モールの言葉に、村人たちは揃って安堵の表情を浮かべる。
「ふう……、良かった」
「いやぁ、ヒヤヒヤしたぜ」
「ま、こっちにゃエリちゃんがいるけどな」
「わははは……」
すっかり緊張が解け、和気藹々(あいあい)とし始めた彼らに、モールが声をかけた。
「とりあえずさ、今夜はもう村に戻ろう。なんだかんだで私もエリザも、歩き通しでまともに休んでないもんでね」
「お、そうだな」
モールは村人たちと合流し、そのまま村へと戻った。
翌日早朝、モールはまた一人で森を訪れていた。
(一晩寝て、ようやく気付いた可能性だけども――やっつけられたバケモノが、その敗因を仲間に『送信』したってコトは、考えられないだろうか?
あの異形のバケモノは、どう考えても自然進化の賜物じゃない。人工物であるコトは、疑いようが無いね。ソレなら、頭かどっかに通信装置めいたモノが組み込まれてて、ソレで敗因を送ったって可能性も、考えられなくはない)
モールは昨夜、エリザが倒したバケモノの死体を見付け、検分を始めた。
(つっても私ゃ、生物学の知識なんぞはからっきしだ。こんな残りカスをいくらいじくったトコで、何が分かるもんかってね。
調べるのはコイツの体のコトじゃない。コイツの体から、『何が発せられてた』か? その痕跡だ)
そう考えながら、モールは呪文を唱える。
(魔術の中でも通信術は、色々と応用性が効く。声を送る、見たモノや映像を送る、位置情報を送る、……他にも色々、特定の情報を送るコトもできる。
この呪文は一種の通信試験ツールだ。反応があったのなら、何かしらの情報を送ったコトは確実ってコトになる。もしも送ったモノがあるとしたなら……)
いくつかの呪文を唱えたところで、モールは「それ」を検知した。
(この反応……、やはり何かを送信したらしいね。となりゃ、私の予想は的中と考えていいだろう。
つまり昨夜、エリザがブッ放した魔術も、残ってるバケモノ共に知られてるってコトになる。となれば一両日中にも、『免疫』を持ったバケモノが出現するだろう。
コレはまずいかも知れないね――昨夜と同じようにエリザが出張ったら、確実にエリザは、殺される)
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モールの検分。
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エリザを見送ってから若干の間を置いて、モールは村の外れにある森へと向かう。
(さーて、我が不肖の弟子の腕前はどんなもんかね)
モールは樹上に潜み、エリザと村人たちの様子を観察する。
「俺たちが援護する!」
「今のうちにやっちゃってくれ!」
槍や斧を手にした村人たちが、エリザの周囲に固まって陣取り、バケモノと距離を取っている。
「分かった!」
陣の中心にいたエリザが魔杖を掲げ、呪文を唱え始める。
(どうやら『エクスプロード』を使う気だね。
普通に考えるなら、確かにいい選択だ。チマチマ小技をかましてどーにかなるような相手じゃ無さそうだし、そんなら自分が持てる最強の術で一気に焼き払っちゃった方が、結果的に早いだろう。
だけど『免疫』の懸念がある。その最強の術をバケモノたちに克服されたら、次がまずいコトになる。ソレは即ち、エリザが勝てなくなってしまうってコトだ。そうなったら、私だって相当まずくなるね。
しかしその『免疫』だけど、ソレが機能するには、攻撃を受けたバケモノが生き残るか、攻撃を受けたトコを別のバケモノが確認するコトの、いずれかが必須だ。
そのどっちのケースにも対応するには……)
モールが思案にくれている間に、エリザの準備が整ったらしい。
「行くでぇ! 『エクスプロード』!」
魔術が発動され、バケモノは呆気無く吹き飛ばされる。
(ふむ……。こっちは問題なしか。一撃でやったっぽいし、コレなら生き残っちゃいないだろうね。
となると、残る懸念は……)
モールは周囲を見回し、他にバケモノがいないかを探る。
(……ん、んん?)
が、モールが想定していたような、別のバケモノが監視しているような様子は無い。それどころか、他にバケモノがいる気配も、どこにも感じられなかった。
(ありゃ……? まさか、あの一体だけなのか? まさか、だろ?)
木から降り、念入りに辺りを調べたが、やはりどこにもバケモノの存在は無い。
(おっかしいねぇ……? じゃあまさか、私の仮説が誤りだったってコトか?
いや、ソレじゃ強いバケモノが出てきた理由は? 事実、出現してるワケだしね。じゃあその出現条件が、私の思ってたモノとは違う、ってコトか。
もっと詳しく調べてみなきゃね……)
と、エリザたちがモールの存在に気付いたらしい。
「あれ? 先生、おったん?」
声をかけてきたエリザに、モールはひょい、と手を挙げて返す。
「おう。この辺りを回ってきたけども、バケモノはいないっぽいね。もう危険は無さそうだね」
モールの言葉に、村人たちは揃って安堵の表情を浮かべる。
「ふう……、良かった」
「いやぁ、ヒヤヒヤしたぜ」
「ま、こっちにゃエリちゃんがいるけどな」
「わははは……」
すっかり緊張が解け、和気藹々(あいあい)とし始めた彼らに、モールが声をかけた。
「とりあえずさ、今夜はもう村に戻ろう。なんだかんだで私もエリザも、歩き通しでまともに休んでないもんでね」
「お、そうだな」
モールは村人たちと合流し、そのまま村へと戻った。
翌日早朝、モールはまた一人で森を訪れていた。
(一晩寝て、ようやく気付いた可能性だけども――やっつけられたバケモノが、その敗因を仲間に『送信』したってコトは、考えられないだろうか?
あの異形のバケモノは、どう考えても自然進化の賜物じゃない。人工物であるコトは、疑いようが無いね。ソレなら、頭かどっかに通信装置めいたモノが組み込まれてて、ソレで敗因を送ったって可能性も、考えられなくはない)
モールは昨夜、エリザが倒したバケモノの死体を見付け、検分を始めた。
(つっても私ゃ、生物学の知識なんぞはからっきしだ。こんな残りカスをいくらいじくったトコで、何が分かるもんかってね。
調べるのはコイツの体のコトじゃない。コイツの体から、『何が発せられてた』か? その痕跡だ)
そう考えながら、モールは呪文を唱える。
(魔術の中でも通信術は、色々と応用性が効く。声を送る、見たモノや映像を送る、位置情報を送る、……他にも色々、特定の情報を送るコトもできる。
この呪文は一種の通信試験ツールだ。反応があったのなら、何かしらの情報を送ったコトは確実ってコトになる。もしも送ったモノがあるとしたなら……)
いくつかの呪文を唱えたところで、モールは「それ」を検知した。
(この反応……、やはり何かを送信したらしいね。となりゃ、私の予想は的中と考えていいだろう。
つまり昨夜、エリザがブッ放した魔術も、残ってるバケモノ共に知られてるってコトになる。となれば一両日中にも、『免疫』を持ったバケモノが出現するだろう。
コレはまずいかも知れないね――昨夜と同じようにエリザが出張ったら、確実にエリザは、殺される)
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今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
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モール「この困難な状況を打開するには、『足』を使うッ!」
エリザ「師匠、それって……」
モール「逃げるんだよォーッ!」
……(違う(^^;))
エリザ「師匠、それって……」
モール「逃げるんだよォーッ!」
……(違う(^^;))
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……などと冗談はさておき。
「あのヤな奴」の仕掛けは、かなりひねくれたものとなっています。
モールくらいのひねくれ者でも、それを解くのはなかなか難しい。