「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・群獣伝 6
神様たちの話、第62話。
告白の返事(モールの場合)。
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6.
村に戻ってすぐ、モールはエリザと共にラボのところへ向かい、こう切り出した。
「恐らくそう遠くないうち、さらに強いバケモノがやって来るだろう。一旦、ココを離れた方がいいね」
「なにぃ?」
モールの話に、ラボは顔をしかめる。
「馬鹿言っちゃいかんぜ、モール。ここには鉱床や工房があるんだ。ここを離れたら、俺たちは生きてられん」
「ココに留まりゃ、どっちみちバケモノに殺されるさ。ソレに鉱床がココにしかないってワケじゃないだろ?」
「そりゃそうだが……」
渋る様子を見せるラボの手を、エリザがぎゅっと握る。
「アタシからもお願いします。死なんといてほしいもん」
「……ん、ん、……そう言われちまっちゃなぁ」
ラボはまだ苦い顔をしつつも、渋々と言った様子でうなずいた。
「分かった。皆と相談して、移動するよ」
「ホンマ?」
「ホンマに、だ」
「ウソやあらへんよな」
「マジだよ、マジ」
ラボに何度も念押しし、村を離れさせることを約束させた後、モールがこう切り出した。
「君らが移動してる間に、私らもちょっと北へ行く」
「北? こないだ言ってた、『山』の北側へか?」
「そうだ。私だってバケモノを一掃したいって気持ちはあるし、こんな理不尽なお願いなんざ、金輪際したかないしね。
だから北にいるって言う友達を連れて来る。私とエリザとソイツがいりゃ、どんなバケモノが出てこようが倒せないってはずは無いね。
そんなワケでだ、ラボ。私らが戻ってくるまで、死ぬんじゃないよ」
ラボの村を出たところで、モールが口を開く。
「間違い無くラボたちは、ココを離れないね」
「……は?」
目を丸くするエリザに、モールはニヤっと笑って返す。
「あの頑固者共が、余所者にやいのやいの言われてハイそうですかなんて、簡単にうなずいたりするもんかってね。むしろアイツらだけで話し合いして、じゃあ引っ越そうかって結論になっちゃう方がよほどまずいね」
「え、ほな先生……」
「そうさ、下手にあっちこっち移動されるより、ココにじっとしててもらった方がいい。その間に私たちは北へ行き、ゼロに助けを借りに行くんだ。
と言っても時間がそうそうあるワケじゃないから、私らも全速力で山を越えなきゃならないけどね。
ただしその前に、バケモノの注意をこの村から離しとかなきゃいけないけどね」
「どないするん?」
「一旦、森の方で待ち構える。そう遠くない内に、バケモノは村に近付いて来るはずだ。
で、現れたら私らだけで攻撃する。決して村の連中にゃ接触させない。接触させたら、ターゲットは村の方に向いたまんまになるからね。
確実に私らの方を狙うよう、バケモノ共を操作してやるんだ」
それを聞いて、エリザは顔をこわばらせる。
「アタシらを襲わせるっちゅうコト?」
「まさか。襲われる前に逃げるね。ただし、引き付けながら逃げる」
「この村から離すために、……っちゅうコトやな」
「そーゆーコトさ」
モールたちは森に潜み、バケモノの出現を待った。
「山の方で色んなもん食べとったせいか、ココら辺でも食べられそーなもん、ピンと来るな」
「鳳凰の無神経さと蛮勇に感謝だね。とは言え毒探知の術は忘れないようにね」
「あいあい」
二人で野草や木の実を取り、術で精製した水と共に、鍋に入れて煮込む。
「料理の腕も上がったし、修行しとった間のコト全部、役に立っとるって気ぃするわ」
「そりゃ何より」
鍋を眺めたまま、エリザが尋ねてくる。
「ほんで、先生。今、他に話しとかなアカン話題、ある?」
「ん?」
「無かったら、そろそろ返事聞かしてほしいんやけど」
「……あー」
鍋をかき混ぜつつ、モールも視線を合わせず答える。
「まず、第一に。私と君は、師匠と弟子だ。そりゃ世の中にゃ、そーゆー関係であっても好きになっちゃって結婚するのもいくらかいるみたいだし、ソイツらを否定しようって気も無いね。
第二に、人間にゃ好みのタイプってもんがある。絶世の美貌の持ち主であっても、ズバ抜けた能力や才能があっても、誰からも好かれるカリスマの持ち主であっても、『どーしたってソリが合わないなコイツ』ってのはいるもんさね。
そして第三に、私自身の問題だ。私は色々と厄介事を抱えた身でね。伴侶を得て安穏と暮らそうって権利は、私にゃ未来永劫、与えられやしないのさ」
「……だから?」
はっきり言え、とばかりに、エリザはモールをにらむ。
そしてモールも顔を挙げ、穏やかな口ぶりで答える。
「私と君は、ずっと師匠と弟子だったし、コレからもずっと、そのままでいるつもりだ。
君を私の奥さんにしようって気は、まったく無い」
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告白の返事(モールの場合)。
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6.
村に戻ってすぐ、モールはエリザと共にラボのところへ向かい、こう切り出した。
「恐らくそう遠くないうち、さらに強いバケモノがやって来るだろう。一旦、ココを離れた方がいいね」
「なにぃ?」
モールの話に、ラボは顔をしかめる。
「馬鹿言っちゃいかんぜ、モール。ここには鉱床や工房があるんだ。ここを離れたら、俺たちは生きてられん」
「ココに留まりゃ、どっちみちバケモノに殺されるさ。ソレに鉱床がココにしかないってワケじゃないだろ?」
「そりゃそうだが……」
渋る様子を見せるラボの手を、エリザがぎゅっと握る。
「アタシからもお願いします。死なんといてほしいもん」
「……ん、ん、……そう言われちまっちゃなぁ」
ラボはまだ苦い顔をしつつも、渋々と言った様子でうなずいた。
「分かった。皆と相談して、移動するよ」
「ホンマ?」
「ホンマに、だ」
「ウソやあらへんよな」
「マジだよ、マジ」
ラボに何度も念押しし、村を離れさせることを約束させた後、モールがこう切り出した。
「君らが移動してる間に、私らもちょっと北へ行く」
「北? こないだ言ってた、『山』の北側へか?」
「そうだ。私だってバケモノを一掃したいって気持ちはあるし、こんな理不尽なお願いなんざ、金輪際したかないしね。
だから北にいるって言う友達を連れて来る。私とエリザとソイツがいりゃ、どんなバケモノが出てこようが倒せないってはずは無いね。
そんなワケでだ、ラボ。私らが戻ってくるまで、死ぬんじゃないよ」
ラボの村を出たところで、モールが口を開く。
「間違い無くラボたちは、ココを離れないね」
「……は?」
目を丸くするエリザに、モールはニヤっと笑って返す。
「あの頑固者共が、余所者にやいのやいの言われてハイそうですかなんて、簡単にうなずいたりするもんかってね。むしろアイツらだけで話し合いして、じゃあ引っ越そうかって結論になっちゃう方がよほどまずいね」
「え、ほな先生……」
「そうさ、下手にあっちこっち移動されるより、ココにじっとしててもらった方がいい。その間に私たちは北へ行き、ゼロに助けを借りに行くんだ。
と言っても時間がそうそうあるワケじゃないから、私らも全速力で山を越えなきゃならないけどね。
ただしその前に、バケモノの注意をこの村から離しとかなきゃいけないけどね」
「どないするん?」
「一旦、森の方で待ち構える。そう遠くない内に、バケモノは村に近付いて来るはずだ。
で、現れたら私らだけで攻撃する。決して村の連中にゃ接触させない。接触させたら、ターゲットは村の方に向いたまんまになるからね。
確実に私らの方を狙うよう、バケモノ共を操作してやるんだ」
それを聞いて、エリザは顔をこわばらせる。
「アタシらを襲わせるっちゅうコト?」
「まさか。襲われる前に逃げるね。ただし、引き付けながら逃げる」
「この村から離すために、……っちゅうコトやな」
「そーゆーコトさ」
モールたちは森に潜み、バケモノの出現を待った。
「山の方で色んなもん食べとったせいか、ココら辺でも食べられそーなもん、ピンと来るな」
「鳳凰の無神経さと蛮勇に感謝だね。とは言え毒探知の術は忘れないようにね」
「あいあい」
二人で野草や木の実を取り、術で精製した水と共に、鍋に入れて煮込む。
「料理の腕も上がったし、修行しとった間のコト全部、役に立っとるって気ぃするわ」
「そりゃ何より」
鍋を眺めたまま、エリザが尋ねてくる。
「ほんで、先生。今、他に話しとかなアカン話題、ある?」
「ん?」
「無かったら、そろそろ返事聞かしてほしいんやけど」
「……あー」
鍋をかき混ぜつつ、モールも視線を合わせず答える。
「まず、第一に。私と君は、師匠と弟子だ。そりゃ世の中にゃ、そーゆー関係であっても好きになっちゃって結婚するのもいくらかいるみたいだし、ソイツらを否定しようって気も無いね。
第二に、人間にゃ好みのタイプってもんがある。絶世の美貌の持ち主であっても、ズバ抜けた能力や才能があっても、誰からも好かれるカリスマの持ち主であっても、『どーしたってソリが合わないなコイツ』ってのはいるもんさね。
そして第三に、私自身の問題だ。私は色々と厄介事を抱えた身でね。伴侶を得て安穏と暮らそうって権利は、私にゃ未来永劫、与えられやしないのさ」
「……だから?」
はっきり言え、とばかりに、エリザはモールをにらむ。
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