「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・群獣伝 7
神様たちの話、第63話。
バケモノ・スタンピード。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
「……」
エリザの目が、じいっとモールを見据えている。
モールも視線を外さず、黙って眺める。が――内心では、かなりビクビクとしていた。
(あー……、ついにハッキリ言っちゃったねぇ、この猛烈火の玉娘に。間違い無くコイツ、『ふざけんなアホボケカス』とか叫びながら、私に殴りかかってくるだろうね。
さー来るぞ、今に来るぞー……)
心の中で身構えつつ、エリザの反応を伺っていると――。
「……分かった」
凍りついたような真顔で一言、それだけ返して、エリザの方から顔を背けた。
「えー……と」
そんな反応は予想しておらず、モールは面食らう。
「あ、あのさ? ホレ、あの、ほら、何かさ、言いたいコトあったら、あの、何でもいいからさ、ズバズバ言っちゃっていいから、……ね?」
「……」
あれこれとモールは声をかけたが、それ以上、エリザは何も言うことは無かった。
その時だった。
「……エリザ」
「……」
なお答えないエリザに、モールは真面目な声色でこう続けた。
「マジな話だ。ヤバいのが来てるね。多分、私の後ろからだ」
「……!」
ようやくエリザが振り向き、そして息を呑む。
「確認できたね?」
「う、うん。デカいのんが、こっち見とる」
「そうか」
モールも振り返る。
そして、まるで巨石のような体躯のバケモノが、静かに佇んでいるのを確認し、固唾を呑んだ。
「……マジか。まるで、……獅子(ライオン)、……みたい、な、……ヤバすぎだろ」
「らい……おん?」
尋ねるエリザに、モールは振り向かず、首を横に振って答える。
「めちゃヤバいバケモノだってコトだね。とにかく立て。そして構えるんだ」
そう指示しつつ、モールも立ち上がって魔杖を構える。
次の瞬間、「ライオン」も前傾姿勢を取り、攻撃する気配を見せた。
「『ファイア……』」
エリザが魔術を放とうとしたところで、モールは制そうとする。
「バカ、まだ攻撃……」
だが言いかけたところで、モールはぞくりと寒気を覚えた。
「……ヤバいなんてもんじゃないね。
絶対に、何が何でも、どうあってもって感じで――私らを殺すつもりで布陣を敷いてきてたか」
辺りの木々がバリバリ、バキバキと音を立てて薙ぎ倒され、モールたちの周囲に、様々なバケモノが姿を現した。
ぎゅ、とモールの袖をエリザが引く。
「せ、先生……」
エリザの声は震えている。
「エリザ」
モールは、彼女の手を優しく、しかし力強く握る。
「私が今、君に言えるコトは、たった一つだ。
ソレはダメだとか無理だとか、そんな後ろ向きの言葉なんかじゃない。
頑張れだの何とかなるさだの、そんな向こう見ずの言葉なんかでもない。
たった一つだ。たった一つ、私は君に、コレを言う。
君ならできる。できないはずが無いね」
「……」
袖を引いたまま、エリザがぽつりと尋ねてくる。
「でけると思とるん?」
「『思う』じゃないね。『信じてる』んだ。
君ならこんな大群の一つや二つ、返り討ちさ。チョイチョイってなもんで、ブチのめしてやれるね。
そりゃあもう、一度この目で見たかってくらい、ハッキリと確信してるコトさね」
「……分かった」
エリザはモールから手を離し、呪文を唱え始めた。
最初に飛び込んできたのは、角の生えた兎の群れ。
それをエリザが、炎の壁で一掃する。
続いて駆けてくる5頭の戦車馬を、モールが九条の光線で貫く。
倒れた戦車馬を踏み越え、六つ目狼が突進してくる。
その間にエリザが呼吸を整え、炎の槍で一頭、一頭を射抜いていく。
倒れていく狼たちの隙間を縫うように、トカゲ鳥が怒涛のごとく押し寄せる。
モールがふたたび光線を放ち、それらを撃ち落とす。
何頭も、何十匹も、さらには百に及ぼうかと言う数のバケモノたちを――モールとエリザは、倒して、倒して、ひたすら倒し続けた。
そして――疲労困憊の二人の前に、あの「ライオン」がにじり寄ってきた。
「ホレ、エリザ、とうとう、最後の、大ボスだね」
モールは息も絶え絶えながらも声をかけたが、エリザはゼェゼェと荒い息をするばかりで、答えない。
「おいおい、へばったって、言うんじゃ、ないだろうね、エリザ?」
「ハァ……へばる……に……ハァハァ……決まっとるやん……」
「もっぺん気合を入れ直しな。コレが最後だからね」
そう言いつつモールも深呼吸し、魔杖を構え直す。
「二人で合わせるよ。でっかいアレをやるね」
「ハァ……ハァ……うん」
エリザが呪文を唱え始める。モールもそれに合わせ、詠唱する。
じわじわと距離を詰めていた「ライオン」が、そこで駆け出し、一気に迫ってくる。
そして累々と横たわるバケモノたちを、一足飛びに越えたところで――。
「『エクスプロード』!」
二人は同時に魔術を発動させ、「ライオン」を周囲の木々や他のバケモノごと、空高く吹き飛ばした。
「……やった?」
「やったに決まってるね。もし死んでなくとも、少なくとも私らから遠く離れた場所まで弾かれたはずさ。到底、今夜中に戻って来られやしないね」
「……はぁ」
途端、エリザが座り込む。
「しんどぃ……」
「同感。ま、私が寝ずの番しといてやるから、君は休んでな。
こんだけ総掛かりで襲ってきたんだし、もう残党はいないと思うけども、万一ってコトもあるからね」
「……ん」
エリザはその場でごろんと横になり、そのまま寝息を立て始めた。
琥珀暁・群獣伝 終
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バケモノ・スタンピード。
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7.
「……」
エリザの目が、じいっとモールを見据えている。
モールも視線を外さず、黙って眺める。が――内心では、かなりビクビクとしていた。
(あー……、ついにハッキリ言っちゃったねぇ、この猛烈火の玉娘に。間違い無くコイツ、『ふざけんなアホボケカス』とか叫びながら、私に殴りかかってくるだろうね。
さー来るぞ、今に来るぞー……)
心の中で身構えつつ、エリザの反応を伺っていると――。
「……分かった」
凍りついたような真顔で一言、それだけ返して、エリザの方から顔を背けた。
「えー……と」
そんな反応は予想しておらず、モールは面食らう。
「あ、あのさ? ホレ、あの、ほら、何かさ、言いたいコトあったら、あの、何でもいいからさ、ズバズバ言っちゃっていいから、……ね?」
「……」
あれこれとモールは声をかけたが、それ以上、エリザは何も言うことは無かった。
その時だった。
「……エリザ」
「……」
なお答えないエリザに、モールは真面目な声色でこう続けた。
「マジな話だ。ヤバいのが来てるね。多分、私の後ろからだ」
「……!」
ようやくエリザが振り向き、そして息を呑む。
「確認できたね?」
「う、うん。デカいのんが、こっち見とる」
「そうか」
モールも振り返る。
そして、まるで巨石のような体躯のバケモノが、静かに佇んでいるのを確認し、固唾を呑んだ。
「……マジか。まるで、……獅子(ライオン)、……みたい、な、……ヤバすぎだろ」
「らい……おん?」
尋ねるエリザに、モールは振り向かず、首を横に振って答える。
「めちゃヤバいバケモノだってコトだね。とにかく立て。そして構えるんだ」
そう指示しつつ、モールも立ち上がって魔杖を構える。
次の瞬間、「ライオン」も前傾姿勢を取り、攻撃する気配を見せた。
「『ファイア……』」
エリザが魔術を放とうとしたところで、モールは制そうとする。
「バカ、まだ攻撃……」
だが言いかけたところで、モールはぞくりと寒気を覚えた。
「……ヤバいなんてもんじゃないね。
絶対に、何が何でも、どうあってもって感じで――私らを殺すつもりで布陣を敷いてきてたか」
辺りの木々がバリバリ、バキバキと音を立てて薙ぎ倒され、モールたちの周囲に、様々なバケモノが姿を現した。
ぎゅ、とモールの袖をエリザが引く。
「せ、先生……」
エリザの声は震えている。
「エリザ」
モールは、彼女の手を優しく、しかし力強く握る。
「私が今、君に言えるコトは、たった一つだ。
ソレはダメだとか無理だとか、そんな後ろ向きの言葉なんかじゃない。
頑張れだの何とかなるさだの、そんな向こう見ずの言葉なんかでもない。
たった一つだ。たった一つ、私は君に、コレを言う。
君ならできる。できないはずが無いね」
「……」
袖を引いたまま、エリザがぽつりと尋ねてくる。
「でけると思とるん?」
「『思う』じゃないね。『信じてる』んだ。
君ならこんな大群の一つや二つ、返り討ちさ。チョイチョイってなもんで、ブチのめしてやれるね。
そりゃあもう、一度この目で見たかってくらい、ハッキリと確信してるコトさね」
「……分かった」
エリザはモールから手を離し、呪文を唱え始めた。
最初に飛び込んできたのは、角の生えた兎の群れ。
それをエリザが、炎の壁で一掃する。
続いて駆けてくる5頭の戦車馬を、モールが九条の光線で貫く。
倒れた戦車馬を踏み越え、六つ目狼が突進してくる。
その間にエリザが呼吸を整え、炎の槍で一頭、一頭を射抜いていく。
倒れていく狼たちの隙間を縫うように、トカゲ鳥が怒涛のごとく押し寄せる。
モールがふたたび光線を放ち、それらを撃ち落とす。
何頭も、何十匹も、さらには百に及ぼうかと言う数のバケモノたちを――モールとエリザは、倒して、倒して、ひたすら倒し続けた。
そして――疲労困憊の二人の前に、あの「ライオン」がにじり寄ってきた。
「ホレ、エリザ、とうとう、最後の、大ボスだね」
モールは息も絶え絶えながらも声をかけたが、エリザはゼェゼェと荒い息をするばかりで、答えない。
「おいおい、へばったって、言うんじゃ、ないだろうね、エリザ?」
「ハァ……へばる……に……ハァハァ……決まっとるやん……」
「もっぺん気合を入れ直しな。コレが最後だからね」
そう言いつつモールも深呼吸し、魔杖を構え直す。
「二人で合わせるよ。でっかいアレをやるね」
「ハァ……ハァ……うん」
エリザが呪文を唱え始める。モールもそれに合わせ、詠唱する。
じわじわと距離を詰めていた「ライオン」が、そこで駆け出し、一気に迫ってくる。
そして累々と横たわるバケモノたちを、一足飛びに越えたところで――。
「『エクスプロード』!」
二人は同時に魔術を発動させ、「ライオン」を周囲の木々や他のバケモノごと、空高く吹き飛ばした。
「……やった?」
「やったに決まってるね。もし死んでなくとも、少なくとも私らから遠く離れた場所まで弾かれたはずさ。到底、今夜中に戻って来られやしないね」
「……はぁ」
途端、エリザが座り込む。
「しんどぃ……」
「同感。ま、私が寝ずの番しといてやるから、君は休んでな。
こんだけ総掛かりで襲ってきたんだし、もう残党はいないと思うけども、万一ってコトもあるからね」
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