「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・南征伝 1
神様たちの話、第64話。
山越え問題。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「……そんなこんなで、私らはココに来たってワケさね」
モールとエリザから旅の話を聞き終えたゼロは、ふう、とため息をつく。
「すごいね。僕のやってきたことなんかより、よっぽどハードだ」
「何言ってんだか。君だって相当だろ? 私ゃ国なんか作っちゃいないし、バケモノを駆逐させきってもいないしね」
モールの返事に、ゼロが「あ、そうだった」と答える。
「山の向こうに軍を派遣してほしいって話だったよね? 君の頼みなら勿論、引き受けたいところなんだけど……」
その言い方に、シノンが反応する。
「できないの? してあげればいいじゃない」
「いや、僕個人は引き受けるつもり満々だよ。ただ、山越えするってなるとさ、……例えばシノン、君は怖いって思わないの?」
「……あ、そうよね。嫌がる人、いっぱいいるかも知れないわ」
「それに、こっちならバケモノ退治に行く時、ほとんど平地ばっかりだから十分な装備も持って行けるけど、山越えすることを考えると、重装備で行くのは難しい。
だからって軽鎧だけとか、槍や魔杖を一本、二本持たせるだけなんて、死にに行かせるようなもんだし」
「そうねぇ……。考えてみると、色々問題があるのね」
しゅんとした顔をしたシノンに、ゼロはいつもの、穏やかな笑みを返す。
「ま、その辺りは皆で話し合ってみるよ。モールやエリザちゃんもいるし、何かしらいいアイデアが閃くかも知れない」
「っちゅうか」
と、エリザが手を挙げる。
「別に武器やったら何でもええんでしょ? 基本的に魔術で攻撃するワケですし」
「ん? まあ、そう言えばそうなんだけど、魔術は魔杖とか、武器の質も良くないと……」
言いかけたゼロの鼻先に、エリザが自分の魔杖を向ける。
「コレ、ラボさんトコで造ったヤツですけども、そう質がよろしないってコトは無いですよね?」
「なるほど」
ゼロはエリザの魔杖を確かめつつ、こう続けた。
「つまりエリザちゃん、君が言いたいのは――僕らは負担の軽い軽装で山を越え、現地に向かう。そして現地で十分な装備を調達する、って作戦だね?」
「そう、そう。ソレやったら手間もかからへんやろし」
「いい案だと思うね、私は」
やり取りを眺めていたモールが、ニヤっと笑う。
「怖いだの何だのって話も、要は『向こうに何があるのか分かんない』ってコトだろ?
そんなら、私とエリザの話をしてやりゃいい。どんなトコか分かりゃ、何にも怖いコトなんて無いさね」
「そうね、むしろそんな話を聞いたら、みんな行ってみたいって思うかも知れないわ」
シノンが楽しそうにうなずいたところで、モールが席を立った。
「善は急げだ、ゼロ。早速人を集めて講演会しようかね」
人を集め、モールとエリザの二人が体験談を一通り話したところ――。
「ま、……マジかぁ」
「山の向こうって、人いたのか……」
「て言うか、結構デカい村まであんのかよ?」
「すごーい!」
聴衆のほとんどが目を輝かせ、興奮した様子を見せていた。
「あっ、あの、あの! えっと、モールさんでしたっけ!?」
と、一人が手を挙げ、モールに近付く。
「何さ?」
「山って、越えるのにどれくらいかかったんですか?」
「あー、そうだねぇ、半月くらいかね。慣れてて」
続いて、別の者も挙手する。
「向こうにも短耳とか長耳って、います?」
「いるいる、短耳は一杯いるね。でも長耳はあんまり見たコト無いね。だよね、エリザ」
「せやねぇ。ウチも見たんはこっちが初めてかも」
「あの、君って毛並みが何か違うけど……」
その後も次々と質問攻めに遭い、モールたちは次第に辟易としてきた。
「……あーもう、ラチが明かないね! 質問はまた時間設けてゆっくり受けるから、ともかく今日はココまで! ねっ!」
しまいには強引にモールが質問を締め切り、その日の講演を終わらせた。
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山越え問題。
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「……そんなこんなで、私らはココに来たってワケさね」
モールとエリザから旅の話を聞き終えたゼロは、ふう、とため息をつく。
「すごいね。僕のやってきたことなんかより、よっぽどハードだ」
「何言ってんだか。君だって相当だろ? 私ゃ国なんか作っちゃいないし、バケモノを駆逐させきってもいないしね」
モールの返事に、ゼロが「あ、そうだった」と答える。
「山の向こうに軍を派遣してほしいって話だったよね? 君の頼みなら勿論、引き受けたいところなんだけど……」
その言い方に、シノンが反応する。
「できないの? してあげればいいじゃない」
「いや、僕個人は引き受けるつもり満々だよ。ただ、山越えするってなるとさ、……例えばシノン、君は怖いって思わないの?」
「……あ、そうよね。嫌がる人、いっぱいいるかも知れないわ」
「それに、こっちならバケモノ退治に行く時、ほとんど平地ばっかりだから十分な装備も持って行けるけど、山越えすることを考えると、重装備で行くのは難しい。
だからって軽鎧だけとか、槍や魔杖を一本、二本持たせるだけなんて、死にに行かせるようなもんだし」
「そうねぇ……。考えてみると、色々問題があるのね」
しゅんとした顔をしたシノンに、ゼロはいつもの、穏やかな笑みを返す。
「ま、その辺りは皆で話し合ってみるよ。モールやエリザちゃんもいるし、何かしらいいアイデアが閃くかも知れない」
「っちゅうか」
と、エリザが手を挙げる。
「別に武器やったら何でもええんでしょ? 基本的に魔術で攻撃するワケですし」
「ん? まあ、そう言えばそうなんだけど、魔術は魔杖とか、武器の質も良くないと……」
言いかけたゼロの鼻先に、エリザが自分の魔杖を向ける。
「コレ、ラボさんトコで造ったヤツですけども、そう質がよろしないってコトは無いですよね?」
「なるほど」
ゼロはエリザの魔杖を確かめつつ、こう続けた。
「つまりエリザちゃん、君が言いたいのは――僕らは負担の軽い軽装で山を越え、現地に向かう。そして現地で十分な装備を調達する、って作戦だね?」
「そう、そう。ソレやったら手間もかからへんやろし」
「いい案だと思うね、私は」
やり取りを眺めていたモールが、ニヤっと笑う。
「怖いだの何だのって話も、要は『向こうに何があるのか分かんない』ってコトだろ?
そんなら、私とエリザの話をしてやりゃいい。どんなトコか分かりゃ、何にも怖いコトなんて無いさね」
「そうね、むしろそんな話を聞いたら、みんな行ってみたいって思うかも知れないわ」
シノンが楽しそうにうなずいたところで、モールが席を立った。
「善は急げだ、ゼロ。早速人を集めて講演会しようかね」
人を集め、モールとエリザの二人が体験談を一通り話したところ――。
「ま、……マジかぁ」
「山の向こうって、人いたのか……」
「て言うか、結構デカい村まであんのかよ?」
「すごーい!」
聴衆のほとんどが目を輝かせ、興奮した様子を見せていた。
「あっ、あの、あの! えっと、モールさんでしたっけ!?」
と、一人が手を挙げ、モールに近付く。
「何さ?」
「山って、越えるのにどれくらいかかったんですか?」
「あー、そうだねぇ、半月くらいかね。慣れてて」
続いて、別の者も挙手する。
「向こうにも短耳とか長耳って、います?」
「いるいる、短耳は一杯いるね。でも長耳はあんまり見たコト無いね。だよね、エリザ」
「せやねぇ。ウチも見たんはこっちが初めてかも」
「あの、君って毛並みが何か違うけど……」
その後も次々と質問攻めに遭い、モールたちは次第に辟易としてきた。
「……あーもう、ラチが明かないね! 質問はまた時間設けてゆっくり受けるから、ともかく今日はココまで! ねっ!」
しまいには強引にモールが質問を締め切り、その日の講演を終わらせた。
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