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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第2部

    琥珀暁・南征伝 2

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    神様たちの話、第65話。
    文化の違い。

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    2.
     講演後も、モールたち師弟のところには引っ切り無しに、質問に来る者たちが訪れていた。
    「……だからね、ココより魚とか多いと思うよ。つっても川魚の方だけど」
    「いやぁ、それでも楽しそうっス。川のは川ので、また変わった釣り甲斐が……」「んで、他に質問は?」「……あー、いや、無いっス」
     モールに邪険にされ気味に応じられたものの、質問に来たその黒毛の狼獣人は、満足そうに頭を下げる。
    「今日はありがとうございましたっス。……あ、そんでモールさん」
    「ん? まだ何かあるね?」
    「あ、いや。南の方に行く奴、集めてるって聞いたんスけど」
    「ああ、うん。細かいコトはゼロに任せてるから、行きたいってんならソッチに相談してね」
    「了解っス。そんじゃ……」
     もう一度ぺこ、と頭を下げ、狼獣人はその場を後にする。
    (……今日はもう終わりかねぇ?)
     人が途切れたのを確認し、モールはエリザの方に目をやる。
    (アレが最後かね)
     エリザの方もモールと同様、質問に訪れた客と話していた。
    「ほんなら今、こっちの皆さんってみんな、ゼロさんに苗字付けてもろてる感じなんですか?」
     と言うよりも、逆にエリザが質問しているらしい。
    「いや、流石にゼロも忙しいからなぁ。
     俺と友達のフレンと、後何人かは付けてもらったけど、ゼロがいっぱいいっぱいになってからは、なかなかそこまで手が回らなくなっちまってさ。
     だから最近じゃ、皆自分で考えて名乗ってるみたいだぜ」
    「へぇ」
    「でもやっぱ、『カミサマに付けてほしい』って思う奴もいるみたいでさ、たまーにゼロがやってるってのは聞くかな。
     南の方じゃ、苗字ってもうみんな付いてるんだろ?」
    「ええ。ウチの方はカミサマとかおらへんから、全部自分らで付けたヤツっぽいですけど」
    「そこが不思議なんだよなぁ」
     訪れたその短耳は首を傾げつつ、こう続ける。
    「俺たちは何でもかんでもゼロから話聞いてやってきたんだけど、南の奴ってどうやって、あれやこれやの知識を蓄えてきたんだろうなぁ」
    「今までバケモノからうまいコト逃げ回って長生きでけた人も結構いてはるし、そう言う人らから伝え聞いて、何とかやってこられたんやないですかねぇ」
    「なるほどなぁ。ま、こっちだってバケモノを駆逐できたんだ。これからはきっと、そう言う生き方もできるさ。
     あ、そうそう。俺も南への遠征、参加するから。と言うか、遠征隊のリーダーを任されることになってる」
    「あら、そうなんですか?」
     嬉しそうに笑みを浮かべたエリザに、短耳も笑って返す。
    「だからさ、俺のこと覚えといてくれよ。今度会った時、『誰?』なんて言われたら寂しいし」
    「アハハ……、大丈夫です。ゲート・シモンさんて、フルネームでバッチリ覚えました」
    「そりゃ嬉しいね。じゃ、今日はこの辺で」
    「はい、また」
     客が去り、二人になったところで、モールが声をかける。
    「随分仲良くなったみたいだね」
    「あれ? 嫉妬しとるん、先生?」
     エリザはいたずらっぽく笑い、こう返す。
    「アタシのコト、振ったクセして」
    「あ、いや、そう言うのじゃなくてさ」
    「ソレは置いといて、先生な?」
     一転、エリザは真剣な表情になる。
    「遠征の話、ゼロさんに任せっきりやって今、チラっと耳に挟んだけど」
    「ん」
    「アタシも色々やってんねんで。放りっぱなしにしとるん、先生だけやで」
    「う、……いやね、政治だとか軍事だとか采配だとか、そう言うの苦手なんだよね、私。ソレもあるから、こっちに来たワケでね」
    「せやからって、丸投げするのんはおかしいやろ。ちょっとくらい手ぇ貸したってもええと思うんやけど。
     今やって先生、ウチらんトコに来はったお客さん、邪険にしよって。ちょっと意地の悪いのんがおったら、『ゼロさんの友達やって聞いたのに、けったいなヤツやったで』とか言いふらされるで?
     そうなったらゼロさんに迷惑かかるって思わへんの?」
    「……チッ」
     謝るどころか、モールは悪態をつく。
    「そーゆーせせこましい人間関係なんか、私が知ったこっちゃないね。元から俗世間を離れた身だしさ」
    「はーぁ」
     エリザはイライラした様子で、背を向けた。
    「やっぱり振られて正解やね。先生みたいなんをダンナにしたらアタシ、苦労しまくりやわ」
    「フン」
     モールもぷい、と背を向け、結局その日は、二人とも無言で過ごした。
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