「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・南征伝 3
神様たちの話、第66話。
遠征隊の出発。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
エリザたちが山を越えてから1ヶ月後、いよいよ南への遠征隊が動き出した。
「ソレにしても、まさかこんなに来てくれるなんてね」
坂の中腹で、モールが後ろを振り返る。
「壁の山」を登り始めてまだ二合目と言うところだったが、そこからふもとまでの道のりをほぼ、人が埋め尽くしている様子が、隣りにいたエリザにも確認できた。
「何人って言ってたっけね?」
「聞いた話やと、……200人くらい? やったはず」
「結構な人数だね。どれくらいだっけ、派遣期間って」
「まず3ヶ月。ソレでもまだ駆逐しきれへんってなりそうやったら、状況に応じて延長ありって、ゼロさん言うてた」
「そっか。北じゃどのくらいで駆逐したって判断したんだっけね」
「さあ……? ソコら辺はアタシも、詳しくは聞いてへんわ」
と、師弟の話を横で聞いていたゲートが割り込む。
「4年、……双月暦4年だな。
その年の半ばくらいになって、何回遠征してもバケモノが見つからないってなって、それでゼロが、『完全に駆逐した』って宣言したんだ。
実際、それからもう2年経ってるけど、北じゃもうまったく、見たって話は聞かない」
「確か、始めに討伐作戦やったはったんて、元年――の1日前――からですよね。ちゅうことは3年半、……くらい?」
それを聞いて、エリザは不安になる。
「来てもらえるんが3ヶ月だけやったら全然、足りひんですよね」
「いや、そうとも限らん」
ゲートは自分の胸をどん、と叩いて見せる。
「最初は装備も人も、対策方法もまとまってなかったんだ。だから4年かかった。
だけど今なら――まあ、装備はこれからとして――十分手慣れてた奴がいっぱいいるし、どう戦ったらやりやすいかも把握できてる。
そりゃ確かに3ヶ月じゃ足らんかも知れんが、かと言って4年もかかったりしないさ」
「だといいけどね。
あ、別に君らの腕を信用してないってワケじゃなくてね、北と南じゃ勝手が違ったり、北にゃ無い出来事が南で起こったりするかも、って意味でね。
ソレにさ、今までの討伐はゼロがいたらしいけど――アイツ、忙しくて城から離れらんないっつってさ――今回はいないってコトもあるしね。火力不足ってのは確かだろ?」
モールの言葉に若干むっとした表情を見せながら、ゲートはこう続けた。
「確かに不測の事態ってのはあるし、ゼロがいないことも確かだ。だがそれも込みで、4年はかからん。そう言ったつもりだ」
「ああ、うん、分かってるってね。いや、まあ、気分を悪くさせるつもりは無くてね、あくまで何があるか分からないから……」「あー、と」
たまらず、エリザがモールの返答をさえぎる。
「大丈夫です。あたしも先生も、十分に信頼しとりますよって。頼りにしてますで、シモンさん」
「うん、……まあ、それならいいんだ」
まだ不機嫌な様子を見せるゲートを見て、エリザは無理矢理話題を変える。
「あ、あー、と、……せや、シモンさん。ご家族……、奥さんいてはるんですよね? こないだ話した時、そう言う感じのコト言うてはったなーって」
「ん? ああ、いるよ」
「確か、メノーさんでしたっけ」
「そう、そう。嬉しいね、そこまで覚えててくれてるなんて」
「アタシ、記憶力ええ方なんで。もうどれくらいに?」
「3年になる」
「ほな、お子さんもおったり?」
「ああ、1人いる。ハンニバルって言って、ゼロに名付けてもらったんだ。今年で2歳。
あと、もしかしたらもう一人産まれるかも、……って」
「あら、そうやったんですか? ほな、ホンマに3ヶ月ですぱーっと終わらさなあきませんね」
「そうだな。正直、早く帰りたいよ」
「分かります、分かります。あたしも精一杯やりますし、早よ帰れるように頑張りましょ」
「おう」
どうにか機嫌が直ったらしく、ゲートはにこにこと笑っている。
それを確認しつつ、エリザはモールの方に向き直る。
(ホンマにこのポンコツは~……! 一々人にケンカ売らな、話もでけへんのかっ)
が、モールの方は気まずくなったか面倒臭くなったか、あるいは既に関心を失ったらしく、二人から離れた場所で別の人間に話しかけていた。
(……コイツ、どさくさに紛れて一回ブッ込んだろかな、ホンマに)
逆にエリザの方が苛立ちを募らせたまま、行軍は進んで行った。
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エリザたちが山を越えてから1ヶ月後、いよいよ南への遠征隊が動き出した。
「ソレにしても、まさかこんなに来てくれるなんてね」
坂の中腹で、モールが後ろを振り返る。
「壁の山」を登り始めてまだ二合目と言うところだったが、そこからふもとまでの道のりをほぼ、人が埋め尽くしている様子が、隣りにいたエリザにも確認できた。
「何人って言ってたっけね?」
「聞いた話やと、……200人くらい? やったはず」
「結構な人数だね。どれくらいだっけ、派遣期間って」
「まず3ヶ月。ソレでもまだ駆逐しきれへんってなりそうやったら、状況に応じて延長ありって、ゼロさん言うてた」
「そっか。北じゃどのくらいで駆逐したって判断したんだっけね」
「さあ……? ソコら辺はアタシも、詳しくは聞いてへんわ」
と、師弟の話を横で聞いていたゲートが割り込む。
「4年、……双月暦4年だな。
その年の半ばくらいになって、何回遠征してもバケモノが見つからないってなって、それでゼロが、『完全に駆逐した』って宣言したんだ。
実際、それからもう2年経ってるけど、北じゃもうまったく、見たって話は聞かない」
「確か、始めに討伐作戦やったはったんて、元年――の1日前――からですよね。ちゅうことは3年半、……くらい?」
それを聞いて、エリザは不安になる。
「来てもらえるんが3ヶ月だけやったら全然、足りひんですよね」
「いや、そうとも限らん」
ゲートは自分の胸をどん、と叩いて見せる。
「最初は装備も人も、対策方法もまとまってなかったんだ。だから4年かかった。
だけど今なら――まあ、装備はこれからとして――十分手慣れてた奴がいっぱいいるし、どう戦ったらやりやすいかも把握できてる。
そりゃ確かに3ヶ月じゃ足らんかも知れんが、かと言って4年もかかったりしないさ」
「だといいけどね。
あ、別に君らの腕を信用してないってワケじゃなくてね、北と南じゃ勝手が違ったり、北にゃ無い出来事が南で起こったりするかも、って意味でね。
ソレにさ、今までの討伐はゼロがいたらしいけど――アイツ、忙しくて城から離れらんないっつってさ――今回はいないってコトもあるしね。火力不足ってのは確かだろ?」
モールの言葉に若干むっとした表情を見せながら、ゲートはこう続けた。
「確かに不測の事態ってのはあるし、ゼロがいないことも確かだ。だがそれも込みで、4年はかからん。そう言ったつもりだ」
「ああ、うん、分かってるってね。いや、まあ、気分を悪くさせるつもりは無くてね、あくまで何があるか分からないから……」「あー、と」
たまらず、エリザがモールの返答をさえぎる。
「大丈夫です。あたしも先生も、十分に信頼しとりますよって。頼りにしてますで、シモンさん」
「うん、……まあ、それならいいんだ」
まだ不機嫌な様子を見せるゲートを見て、エリザは無理矢理話題を変える。
「あ、あー、と、……せや、シモンさん。ご家族……、奥さんいてはるんですよね? こないだ話した時、そう言う感じのコト言うてはったなーって」
「ん? ああ、いるよ」
「確か、メノーさんでしたっけ」
「そう、そう。嬉しいね、そこまで覚えててくれてるなんて」
「アタシ、記憶力ええ方なんで。もうどれくらいに?」
「3年になる」
「ほな、お子さんもおったり?」
「ああ、1人いる。ハンニバルって言って、ゼロに名付けてもらったんだ。今年で2歳。
あと、もしかしたらもう一人産まれるかも、……って」
「あら、そうやったんですか? ほな、ホンマに3ヶ月ですぱーっと終わらさなあきませんね」
「そうだな。正直、早く帰りたいよ」
「分かります、分かります。あたしも精一杯やりますし、早よ帰れるように頑張りましょ」
「おう」
どうにか機嫌が直ったらしく、ゲートはにこにこと笑っている。
それを確認しつつ、エリザはモールの方に向き直る。
(ホンマにこのポンコツは~……! 一々人にケンカ売らな、話もでけへんのかっ)
が、モールの方は気まずくなったか面倒臭くなったか、あるいは既に関心を失ったらしく、二人から離れた場所で別の人間に話しかけていた。
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逆にエリザの方が苛立ちを募らせたまま、行軍は進んで行った。
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