「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・南征伝 4
神様たちの話、第67話。
離脱。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
山越え自体は――エリザの精神安定と言う面を除いて――特に問題無く終わり、遠征隊は山の南側、即ちエリザの故郷がある地域に到着した。
「こっちはもう雪が解けてるんだな」
「って言うか、微妙に暑い気がする」
「草とか木も、かなり茂ってるな。牛が良く育ちそうだ」
「羊もな」
北と大きく異なる気候に、遠征隊の誰もが驚いており、中には感動する者さえいる。
「なあエリザちゃん、あれ何だ? 水の上に花が咲いてるぞ?」
「アレ? ……ああ」
エリザは近くにあった湖に手を伸ばし、その花を手折る。
「蓮ですわ。こっちの方では結構あっちこっちで見られるヤツです。ちゅうても、アタシも目にしたんは故郷を離れてからですけども」
「はす、かぁ。白くて、綺麗な花だな」
「ええ、アタシも好きな花です。コレの名前元にもしとりますしな」
そう言いつつ、エリザは自分の魔杖を掲げ、先端におごられた水晶を見せる。
「前にも話したかもですけど、コレ、今から行く村で造ったヤツなんです」
「ああ、『ロータステイル』だったっけ。見れば見るほど、いい出来だよな。俺たちもこんないい武器、是非欲しいもんだ」
「向こうでそう言うたら、皆大喜びで造ってくれはりますよ」
と、そこへモールがやって来る。
「ちょいと、エリザ。あんまり大きなコト、言うもんじゃないね」
「……何やねんな」
モールを見て、エリザは途端に、邪険に扱おうとする。
「またいらんコトやいやい言うて、ケンカ売るつもりか?」
「違うっつの。そうじゃなくてね、『もしも』があるよってコト、忘れるんじゃないって言いたいんだよ、私はね」
「もしも? アタシらがおらへん間に、村が襲われとるかもってコトですか?
そうならへんように、村を出たすぐ後、アタシら仕掛けてたやないですか」
「そうだよ。でもさ、アレだって絶対間違い無く思い通りになるって保証は無いよね?」
「……チッ」
ここまでの行軍で散々苛立たされていたため、エリザは思わず声を荒げてしまう。
「こんなトコで何言い出すねんな、このポンコツ!」
「……あ?」
エリザと同様、気の短い性質のモールも、この一言で火が点いた。
「何がポンコツだ、この向こう見ずのバカ」
「バカぁ? 山の向こうからわざわざ来てくれてはる皆のド真ん中で『行ってもどうせ皆死んでるね』なんてやる気削ぐようなコト抜かす方がよっぽどバカとちゃうんかい? あぁ?」
「んなコトまで言ってないだろ? 人が言ってもいないコトまで捏造してなじるんじゃないね。嘘つきは泥棒の始まりって親から聞いてないのかねぇ? ああ、親は自分から縁切って捨てたんだったっけ? 根っからの人でなしってワケか、生きてて恥ずかしくないのかねぇ?」
「……ッ、この」
モールのあまりにもひどい罵倒に、エリザは我を失いかけ、魔杖を振り上げた。
だが――。
「いい加減にしとけよ、兄ちゃんよぉ?」
エリザの前に黒い影が飛び出し、モールを殴りつけた。
「おご……っ!?」
モールは簡単に弾かれ、地面に倒れ込む。
「前からいっぺん言おうと思ってたが、アンタめっちゃくちゃ嫌な奴だな。
挙句、女の子に『人でなし』だと? アンタの方が百倍人でなしだぜ!」
「……チッ」
モールは頬を押さえつつ立ち上がり、自分を殴った黒毛の狼獣人をにらむ。
「何だ、女の子にいいトコ見せて男を上げようって魂胆かね?
ヘッ、今回は若気の至りってコトで許してやるけどね、忘れるなよ? 今回この行軍はゼロの、つまり私の友人の命令で動いてるってコトを……」「ええ加減にせえよ、ボケ」
今度は冷静に魔杖を振り上げ、エリザがモールを叩きのめした。
「うっぐ……、武器使うなよ。マジで痛いっつの」
「やかましわ、アホンダラ!
アタシ、前にも言うたよな? ホンマに友達やったら、ゼロさんに恥かかすようなコトするなって。今、『友人』言うて笠に着て、何やかや振りかざそうとしとったけど、ソレが友達に対する態度か!?
見下げ果てたわ。先生は確かに魔術の腕はええけど、ソレだけのヤツや。人としてはえげつないくらい腐っとる! 臭くてたまらんわ!」
「ソコまで言うかね、まったく……」
ブツブツ唱えながら、モールはエリザに背を向ける。
それを見て、エリザは更に声を荒げた。
「何やな、謝らへんのか!? アンタ謝ったら死ぬっちゅうんか、あぁ!?」
「ああ死ぬね、くっだらないコトで一々謝ってたらストレスで死んじまうね。
もうココまで人が来たら、後は君だけでどうともできるだろ? できるんなら勝手にやりゃいいさ、私抜きでね。
じゃあね」
モールはそのままスタスタと歩き去り、遠征隊から離れて行った。
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4.
山越え自体は――エリザの精神安定と言う面を除いて――特に問題無く終わり、遠征隊は山の南側、即ちエリザの故郷がある地域に到着した。
「こっちはもう雪が解けてるんだな」
「って言うか、微妙に暑い気がする」
「草とか木も、かなり茂ってるな。牛が良く育ちそうだ」
「羊もな」
北と大きく異なる気候に、遠征隊の誰もが驚いており、中には感動する者さえいる。
「なあエリザちゃん、あれ何だ? 水の上に花が咲いてるぞ?」
「アレ? ……ああ」
エリザは近くにあった湖に手を伸ばし、その花を手折る。
「蓮ですわ。こっちの方では結構あっちこっちで見られるヤツです。ちゅうても、アタシも目にしたんは故郷を離れてからですけども」
「はす、かぁ。白くて、綺麗な花だな」
「ええ、アタシも好きな花です。コレの名前元にもしとりますしな」
そう言いつつ、エリザは自分の魔杖を掲げ、先端におごられた水晶を見せる。
「前にも話したかもですけど、コレ、今から行く村で造ったヤツなんです」
「ああ、『ロータステイル』だったっけ。見れば見るほど、いい出来だよな。俺たちもこんないい武器、是非欲しいもんだ」
「向こうでそう言うたら、皆大喜びで造ってくれはりますよ」
と、そこへモールがやって来る。
「ちょいと、エリザ。あんまり大きなコト、言うもんじゃないね」
「……何やねんな」
モールを見て、エリザは途端に、邪険に扱おうとする。
「またいらんコトやいやい言うて、ケンカ売るつもりか?」
「違うっつの。そうじゃなくてね、『もしも』があるよってコト、忘れるんじゃないって言いたいんだよ、私はね」
「もしも? アタシらがおらへん間に、村が襲われとるかもってコトですか?
そうならへんように、村を出たすぐ後、アタシら仕掛けてたやないですか」
「そうだよ。でもさ、アレだって絶対間違い無く思い通りになるって保証は無いよね?」
「……チッ」
ここまでの行軍で散々苛立たされていたため、エリザは思わず声を荒げてしまう。
「こんなトコで何言い出すねんな、このポンコツ!」
「……あ?」
エリザと同様、気の短い性質のモールも、この一言で火が点いた。
「何がポンコツだ、この向こう見ずのバカ」
「バカぁ? 山の向こうからわざわざ来てくれてはる皆のド真ん中で『行ってもどうせ皆死んでるね』なんてやる気削ぐようなコト抜かす方がよっぽどバカとちゃうんかい? あぁ?」
「んなコトまで言ってないだろ? 人が言ってもいないコトまで捏造してなじるんじゃないね。嘘つきは泥棒の始まりって親から聞いてないのかねぇ? ああ、親は自分から縁切って捨てたんだったっけ? 根っからの人でなしってワケか、生きてて恥ずかしくないのかねぇ?」
「……ッ、この」
モールのあまりにもひどい罵倒に、エリザは我を失いかけ、魔杖を振り上げた。
だが――。
「いい加減にしとけよ、兄ちゃんよぉ?」
エリザの前に黒い影が飛び出し、モールを殴りつけた。
「おご……っ!?」
モールは簡単に弾かれ、地面に倒れ込む。
「前からいっぺん言おうと思ってたが、アンタめっちゃくちゃ嫌な奴だな。
挙句、女の子に『人でなし』だと? アンタの方が百倍人でなしだぜ!」
「……チッ」
モールは頬を押さえつつ立ち上がり、自分を殴った黒毛の狼獣人をにらむ。
「何だ、女の子にいいトコ見せて男を上げようって魂胆かね?
ヘッ、今回は若気の至りってコトで許してやるけどね、忘れるなよ? 今回この行軍はゼロの、つまり私の友人の命令で動いてるってコトを……」「ええ加減にせえよ、ボケ」
今度は冷静に魔杖を振り上げ、エリザがモールを叩きのめした。
「うっぐ……、武器使うなよ。マジで痛いっつの」
「やかましわ、アホンダラ!
アタシ、前にも言うたよな? ホンマに友達やったら、ゼロさんに恥かかすようなコトするなって。今、『友人』言うて笠に着て、何やかや振りかざそうとしとったけど、ソレが友達に対する態度か!?
見下げ果てたわ。先生は確かに魔術の腕はええけど、ソレだけのヤツや。人としてはえげつないくらい腐っとる! 臭くてたまらんわ!」
「ソコまで言うかね、まったく……」
ブツブツ唱えながら、モールはエリザに背を向ける。
それを見て、エリザは更に声を荒げた。
「何やな、謝らへんのか!? アンタ謝ったら死ぬっちゅうんか、あぁ!?」
「ああ死ぬね、くっだらないコトで一々謝ってたらストレスで死んじまうね。
もうココまで人が来たら、後は君だけでどうともできるだろ? できるんなら勝手にやりゃいいさ、私抜きでね。
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