「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・南征伝 6
神様たちの話、第69話。
故郷奪還へ。
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6.
ラボに案内され、エリザは東の村から逃れてきた難民たちが住む小屋を訪ねた。
「……」
だが、そこにいた者たちはいずれも虚ろな目をしており、エリザを見ても、ほとんど反応を示さなかった。
たまりかねたエリザは、彼らの前に立ち、自分の名を名乗る。
「アタシはエリザ。エリザ・アーティエゴや。覚えてへんか? 宝飾屋のアーティエゴのコトを。仲間仰山連れて帰って来たんや」
「……」
と、一人がのろのろと顔を挙げ、小屋の隅を指差す。
「ソコにアーティエゴのせがれがおる」
「えっ」
エリザは示された方を向き、自分より2、3歳年下の少年が膝を抱え、ちょこんとうずくまっているのを確認する。
「に、……ニコルか? アンタ、ニコル?」
「……」
エリザがすぐ前まで近付いたところで少年は顔を挙げ、こくんとうなずく。
「お父やんは? ドコにおるんや?」
「……」
ニコルは力無く首を横に振り、ふたたび膝に顔を埋める。
と、指差した男がまた口を開く。
「俺らが見つけた時はソイツ一人やった。ヨブのヤツがどうなったかは俺も知らへんし、誰も知らへんと思うで。ま、どうせ死んどるやろな」
「……っ」
男の心無い言葉に、エリザは思わず下唇を噛む。
そんな様子を見せてもなお、男の罵倒は続く。
「でもアレやな。よく今更戻ってきよったもんやな、お前」
「……」
「親の言うコト聞かんと好き勝手あっちこっちブラブラして、親が死んでからノコノコ戻ってきよって。
仲間連れてきた? なんやそれ。人集めてバケモノ倒してもろて、自分だけ感謝してもらおか、ってか? はっ、ええ根性しとるやないけ」
「……」
なおも中傷し続ける男に背を向け、エリザはニコルに手を伸ばす。
「こっち来、ニコル。こんなトコおったら人間、腐るで」
「……うん」
もぞもぞと立ち上がったニコルの手を引き、エリザは小屋の出口に向かう。
そしてまだ何かぶつぶつと唱える男に、エリザは背を向けたまま、こう吐き捨てた。
「気ぃ済むまでソコでほざいとき。痛くも痒くもないし。
他にやるコト無いんやったらアタシがバケモノ倒すん、指くわえてボーッと見とき」
そのままエリザは、ニコルを連れて小屋を出る。
彼女が小屋を後にしてもなお、男はまだ何かうなっていたが、既にエリザの耳には入っていなかった。
ラボの村に到着してから1週間後、遠征隊の装備が整い、いよいよ東の村へ向かうことになった。
「今までの経験から、バケモノは村や集落、その他人が集まるところを襲った後、数日から半月程度は留まっていることが分かっている。ゼロの言葉を借りるなら、『人がもう一度集まって結束できないように図ってる』と言うことだ。
東の村が襲われたのは10日近く前だそうだから、まだ大勢残ってる可能性は高い。俺たちが到着し次第、交戦に入ることも大いにあるだろう。
だがバケモノを見付けたら勝手に攻撃しようとせず、まず発見したことを魔術と口頭で周知すること。攻撃する際は必ず2班、8人以上で連携を取り、態勢を整えた上で討伐に当たれ。
全員、気を引き締めてかかれ。では、出発!」
ゲートの命令に、エリザを含む全員が敬礼を返し、行軍が開始された。
「……っと、エリちゃん」
動き始めて間も無く、ゲートがエリザに声をかける。
「弟さん……、ニコル君だっけ。もう大丈夫なのか?」
「ええ、アタシに再会してからは、ちょっとは気分良うなったみたいで。ラボさんの子供さんらとも遊んどるん、昨日も見ましたし、大丈夫やろと思います」
「そっか。いや、なんだ、君が不安になってるんじゃないかって、気になったんでな」
心配そうに自分を見つめるゲートに、エリザは笑って返す。
「すぐ終わらせて、すぐ帰る。そのつもりですから。ゲートさんのご家族のコトもありますし、この遠征も3ヶ月でスパッと終わらせましょ」
「はは、そうだな。……っと、あともう一つ、気になってたことがあるんだ」
「何でしょ?」
「モール氏のことだ。
君だから正直な感想を言うんだが、彼にはあんまりいい印象が持てなかった。山越えの間、結構キツいことを言われたしな。隊の皆も苦い顔してたよ。
だけどネール氏の村じゃ、『偏屈だけど良い奴』って言われてた。偏屈だってところは共感できるんだが、どう考えても『良い奴』ってのが、ピンと来ないんだ。
それで思ったんだが、もしかしたら彼の方でも、俺たちにいい印象を持ってなくて、だから俺たちにああ言う態度を取ってたんじゃないかって。
そこを一度、弟子の君に聞いてみたかったんだが、どうだろうか?」
「んー……、そうですな」
エリザは首を傾げつつ、途切れ途切れに答える。
「まあ、その……、元から気紛れな人っぽいですし、何ちゅうか、単に虫の居所が悪かっただけやないかなー、……って」
「そんなもんなのか……?」
「長年一緒におりましたし、そんなもんやろと思いますで」
「そうか……」
ゲートはまだ腑に落ち無さそうにしていたが、エリザはそれ以上言及しなかった。
(もしかしたら、っちゅう予想はあるけど……、まだ何とも言えんし)
エリザ自身ももやもやとしたものを抱えつつ、遠征隊は東へと進んで行った。
琥珀暁・南征伝 終
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故郷奪還へ。
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ラボに案内され、エリザは東の村から逃れてきた難民たちが住む小屋を訪ねた。
「……」
だが、そこにいた者たちはいずれも虚ろな目をしており、エリザを見ても、ほとんど反応を示さなかった。
たまりかねたエリザは、彼らの前に立ち、自分の名を名乗る。
「アタシはエリザ。エリザ・アーティエゴや。覚えてへんか? 宝飾屋のアーティエゴのコトを。仲間仰山連れて帰って来たんや」
「……」
と、一人がのろのろと顔を挙げ、小屋の隅を指差す。
「ソコにアーティエゴのせがれがおる」
「えっ」
エリザは示された方を向き、自分より2、3歳年下の少年が膝を抱え、ちょこんとうずくまっているのを確認する。
「に、……ニコルか? アンタ、ニコル?」
「……」
エリザがすぐ前まで近付いたところで少年は顔を挙げ、こくんとうなずく。
「お父やんは? ドコにおるんや?」
「……」
ニコルは力無く首を横に振り、ふたたび膝に顔を埋める。
と、指差した男がまた口を開く。
「俺らが見つけた時はソイツ一人やった。ヨブのヤツがどうなったかは俺も知らへんし、誰も知らへんと思うで。ま、どうせ死んどるやろな」
「……っ」
男の心無い言葉に、エリザは思わず下唇を噛む。
そんな様子を見せてもなお、男の罵倒は続く。
「でもアレやな。よく今更戻ってきよったもんやな、お前」
「……」
「親の言うコト聞かんと好き勝手あっちこっちブラブラして、親が死んでからノコノコ戻ってきよって。
仲間連れてきた? なんやそれ。人集めてバケモノ倒してもろて、自分だけ感謝してもらおか、ってか? はっ、ええ根性しとるやないけ」
「……」
なおも中傷し続ける男に背を向け、エリザはニコルに手を伸ばす。
「こっち来、ニコル。こんなトコおったら人間、腐るで」
「……うん」
もぞもぞと立ち上がったニコルの手を引き、エリザは小屋の出口に向かう。
そしてまだ何かぶつぶつと唱える男に、エリザは背を向けたまま、こう吐き捨てた。
「気ぃ済むまでソコでほざいとき。痛くも痒くもないし。
他にやるコト無いんやったらアタシがバケモノ倒すん、指くわえてボーッと見とき」
そのままエリザは、ニコルを連れて小屋を出る。
彼女が小屋を後にしてもなお、男はまだ何かうなっていたが、既にエリザの耳には入っていなかった。
ラボの村に到着してから1週間後、遠征隊の装備が整い、いよいよ東の村へ向かうことになった。
「今までの経験から、バケモノは村や集落、その他人が集まるところを襲った後、数日から半月程度は留まっていることが分かっている。ゼロの言葉を借りるなら、『人がもう一度集まって結束できないように図ってる』と言うことだ。
東の村が襲われたのは10日近く前だそうだから、まだ大勢残ってる可能性は高い。俺たちが到着し次第、交戦に入ることも大いにあるだろう。
だがバケモノを見付けたら勝手に攻撃しようとせず、まず発見したことを魔術と口頭で周知すること。攻撃する際は必ず2班、8人以上で連携を取り、態勢を整えた上で討伐に当たれ。
全員、気を引き締めてかかれ。では、出発!」
ゲートの命令に、エリザを含む全員が敬礼を返し、行軍が開始された。
「……っと、エリちゃん」
動き始めて間も無く、ゲートがエリザに声をかける。
「弟さん……、ニコル君だっけ。もう大丈夫なのか?」
「ええ、アタシに再会してからは、ちょっとは気分良うなったみたいで。ラボさんの子供さんらとも遊んどるん、昨日も見ましたし、大丈夫やろと思います」
「そっか。いや、なんだ、君が不安になってるんじゃないかって、気になったんでな」
心配そうに自分を見つめるゲートに、エリザは笑って返す。
「すぐ終わらせて、すぐ帰る。そのつもりですから。ゲートさんのご家族のコトもありますし、この遠征も3ヶ月でスパッと終わらせましょ」
「はは、そうだな。……っと、あともう一つ、気になってたことがあるんだ」
「何でしょ?」
「モール氏のことだ。
君だから正直な感想を言うんだが、彼にはあんまりいい印象が持てなかった。山越えの間、結構キツいことを言われたしな。隊の皆も苦い顔してたよ。
だけどネール氏の村じゃ、『偏屈だけど良い奴』って言われてた。偏屈だってところは共感できるんだが、どう考えても『良い奴』ってのが、ピンと来ないんだ。
それで思ったんだが、もしかしたら彼の方でも、俺たちにいい印象を持ってなくて、だから俺たちにああ言う態度を取ってたんじゃないかって。
そこを一度、弟子の君に聞いてみたかったんだが、どうだろうか?」
「んー……、そうですな」
エリザは首を傾げつつ、途切れ途切れに答える。
「まあ、その……、元から気紛れな人っぽいですし、何ちゅうか、単に虫の居所が悪かっただけやないかなー、……って」
「そんなもんなのか……?」
「長年一緒におりましたし、そんなもんやろと思いますで」
「そうか……」
ゲートはまだ腑に落ち無さそうにしていたが、エリザはそれ以上言及しなかった。
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