「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・駆逐伝 3
神様たちの話、第72話。
巨敵の予兆。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
エリザたちが村に到着する頃には、既にバケモノたちと本隊との交戦が始まっていた。
「撃てッ、撃てーッ!」
「押してるぜ! このまま進め!」
「後ろにもいるぞ、気を付けろ!」
あちこちで魔術による光や火が明滅し、バケモノを退けている様子がチラチラと見える。
「あ、アタシも!」
乗り込もうとしたエリザを、ゲートが手を握り直して止める。
「待った、待った」
「な、何でですか」
「俺の勘だ。君はまだ出るな」
「勘?」
ゲートの言っていることが納得できず、エリザは手を振り払おうとする。
「だから、待ってくれって」
しかしゲートはなお手を離さず、エリザを諭す。
「『勘』って言葉が気に入らないなら、経験から来る予測って言い換えてもいい。
双月暦3年9月の話だが、俺はゼロと一緒に――ゼロにとっては最後の出陣だな、今んとこ――サウスフィールドってところへ出撃した。
作戦は全面的に、問題無く進んだ。猛火牛級のバケモノが5頭も出たが、それでも俺たちは難なく倒した。……問題はその後に起こった。作戦終了したと確信したその次の瞬間、って奴だ。
『さあ帰って祝杯だ』っつって俺が号令かけた途端に、巨獅子が現れた。疲れ切ってる俺たちを囲むように、3頭もだ。勿論、結果的には倒せたが、ゼロは鼻血噴いて倒れるし、俺も手練の仲間たちも大ケガしたり死んだりで、討伐隊結成以来最悪の被害を出した。
ゼロをこっちに来させなかった本当の理由はそれだ。その作戦以来、ゼロが出撃するのをシノンが嫌がってな。『絶対出ちゃダメ』って相当駄々こねてるらしい。俺としても、ゼロを危ない目に遭わせたくないって気持ちは一緒だし、あいつが出るっつっても断ってるんだ。もしもあいつが死んだら、俺たち全員路頭に迷う羽目になるし。……っと、話が逸れたな。
ともかく、こんだけ俺たちの側が優勢ってなると、それはそれで、逆に不安が増すんだ。俺たちをイケイケにさせて疲れ切って、さあ帰るぞって状態になった時、ドデカいのが襲ってくるんじゃないか、……ってな」
「……分かりました」
まだ信じかねてはいたものの、エリザは素直に従い、手を握り直した。
二人が話していた間にも作戦は進んでおり、大部分でバケモノたちを制圧しつつあった。
《ドッジ班、バケモノ撃破!》
《ギャガー班も終わったぞ! どっか手ぇ貸そうか?》
《テニール班、交戦継続中! もうちょいで終わりそうだが、できれば応援求む!》
ゲートの元に次々と順調である旨を伝える報告が入るが、次第にゲートの表情が堅くなっていく。
「やっぱり、不安ですか?」
尋ねたエリザに、ゲートは小さくうなずいて返す。
「ああ。100人以上いた村を襲って潰したにしちゃ、妙に手応えが無さすぎる。北じゃもっと人の少ない村を、倍の数で囲んでたこともある。
こりゃマジに、巨獅子級の出現も覚悟しとかないとな……」
真剣な表情でそうつぶやくゲートを見て、エリザもごく、とのどを鳴らした。
「……エリちゃん、ちょっと手、離してくれるか?」
と、ゲートが済まなさそうに手を引く。
「あっ、あっ、ごめんなさい」
慌ててエリザが手を離し、ゲートは頭に巻いていた通信用の魔術頭巾を解き、一部を描き直す。
「どないしたんです?」
「基地に連絡を取ってみる。……おう、俺だ。状況、変わりないか?」
エリザも頭巾を巻き、基地とのやり取りを傍受する。
《こちら基地保守、ピット班。異状ありません》
「そうか、ありがとう。引き続き警戒に当たれ」
《了解で、……ん?》
問題なさげな返答を返しかけていた基地側が、妙な声を上げた。
「どうした?」
《……少々お待ち下さ、……え、おま、何だ、……ちょっ、うわ、うわっ!? ちょ、まずっ、……あ、あっ、失礼しました!
隊長、出現です! きょっ、巨獅子級! 東門! の近く! です!》
「……ッ!」
基地からの報告に、ゲートの顔が強張る。
「すぐ戻る! 持ちこたえてくれ!」
《了解!》
ゲートはエリザの手を引き、踵(きびす)を返す。
「やっぱり思った通りだったか……! 戻るぞ、エリちゃん!」
「は、はい!」
エリザも振り向こうとした瞬間――彼女の中を、とてつもない悪寒が走り抜けた。
「……っ、待って!」
自分でも何をしているのか把握できないまま、エリザは魔杖を掲げ、魔術で盾を展開する。
「何を……」
ゲートが驚いた顔をして振り返ると同時に、びちゃっ、と言う水音とともに、盾に何かがぶつかってきた。
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3.
エリザたちが村に到着する頃には、既にバケモノたちと本隊との交戦が始まっていた。
「撃てッ、撃てーッ!」
「押してるぜ! このまま進め!」
「後ろにもいるぞ、気を付けろ!」
あちこちで魔術による光や火が明滅し、バケモノを退けている様子がチラチラと見える。
「あ、アタシも!」
乗り込もうとしたエリザを、ゲートが手を握り直して止める。
「待った、待った」
「な、何でですか」
「俺の勘だ。君はまだ出るな」
「勘?」
ゲートの言っていることが納得できず、エリザは手を振り払おうとする。
「だから、待ってくれって」
しかしゲートはなお手を離さず、エリザを諭す。
「『勘』って言葉が気に入らないなら、経験から来る予測って言い換えてもいい。
双月暦3年9月の話だが、俺はゼロと一緒に――ゼロにとっては最後の出陣だな、今んとこ――サウスフィールドってところへ出撃した。
作戦は全面的に、問題無く進んだ。猛火牛級のバケモノが5頭も出たが、それでも俺たちは難なく倒した。……問題はその後に起こった。作戦終了したと確信したその次の瞬間、って奴だ。
『さあ帰って祝杯だ』っつって俺が号令かけた途端に、巨獅子が現れた。疲れ切ってる俺たちを囲むように、3頭もだ。勿論、結果的には倒せたが、ゼロは鼻血噴いて倒れるし、俺も手練の仲間たちも大ケガしたり死んだりで、討伐隊結成以来最悪の被害を出した。
ゼロをこっちに来させなかった本当の理由はそれだ。その作戦以来、ゼロが出撃するのをシノンが嫌がってな。『絶対出ちゃダメ』って相当駄々こねてるらしい。俺としても、ゼロを危ない目に遭わせたくないって気持ちは一緒だし、あいつが出るっつっても断ってるんだ。もしもあいつが死んだら、俺たち全員路頭に迷う羽目になるし。……っと、話が逸れたな。
ともかく、こんだけ俺たちの側が優勢ってなると、それはそれで、逆に不安が増すんだ。俺たちをイケイケにさせて疲れ切って、さあ帰るぞって状態になった時、ドデカいのが襲ってくるんじゃないか、……ってな」
「……分かりました」
まだ信じかねてはいたものの、エリザは素直に従い、手を握り直した。
二人が話していた間にも作戦は進んでおり、大部分でバケモノたちを制圧しつつあった。
《ドッジ班、バケモノ撃破!》
《ギャガー班も終わったぞ! どっか手ぇ貸そうか?》
《テニール班、交戦継続中! もうちょいで終わりそうだが、できれば応援求む!》
ゲートの元に次々と順調である旨を伝える報告が入るが、次第にゲートの表情が堅くなっていく。
「やっぱり、不安ですか?」
尋ねたエリザに、ゲートは小さくうなずいて返す。
「ああ。100人以上いた村を襲って潰したにしちゃ、妙に手応えが無さすぎる。北じゃもっと人の少ない村を、倍の数で囲んでたこともある。
こりゃマジに、巨獅子級の出現も覚悟しとかないとな……」
真剣な表情でそうつぶやくゲートを見て、エリザもごく、とのどを鳴らした。
「……エリちゃん、ちょっと手、離してくれるか?」
と、ゲートが済まなさそうに手を引く。
「あっ、あっ、ごめんなさい」
慌ててエリザが手を離し、ゲートは頭に巻いていた通信用の魔術頭巾を解き、一部を描き直す。
「どないしたんです?」
「基地に連絡を取ってみる。……おう、俺だ。状況、変わりないか?」
エリザも頭巾を巻き、基地とのやり取りを傍受する。
《こちら基地保守、ピット班。異状ありません》
「そうか、ありがとう。引き続き警戒に当たれ」
《了解で、……ん?》
問題なさげな返答を返しかけていた基地側が、妙な声を上げた。
「どうした?」
《……少々お待ち下さ、……え、おま、何だ、……ちょっ、うわ、うわっ!? ちょ、まずっ、……あ、あっ、失礼しました!
隊長、出現です! きょっ、巨獅子級! 東門! の近く! です!》
「……ッ!」
基地からの報告に、ゲートの顔が強張る。
「すぐ戻る! 持ちこたえてくれ!」
《了解!》
ゲートはエリザの手を引き、踵(きびす)を返す。
「やっぱり思った通りだったか……! 戻るぞ、エリちゃん!」
「は、はい!」
エリザも振り向こうとした瞬間――彼女の中を、とてつもない悪寒が走り抜けた。
「……っ、待って!」
自分でも何をしているのか把握できないまま、エリザは魔杖を掲げ、魔術で盾を展開する。
「何を……」
ゲートが驚いた顔をして振り返ると同時に、びちゃっ、と言う水音とともに、盾に何かがぶつかってきた。
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