「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・駆逐伝 5
神様たちの話、第74話。
因縁の狼獣人。
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5.
巨獅子を倒してしばらく、ゲートはぜぇぜぇと荒い息を立てていたが、やがて一息すう、と深呼吸し、エリザに向き直った。
「待たせたな。すぐ行こう」
声こそしっかりとしたものだったが、ゲートの顔色は悪く、青ざめているのがはっきりと分かる。
「だ、……大丈夫そうに見えまへんよ」
「顔色のこと言ってるなら、これは元からだ。ハン……、息子も青白い系だから、そう言う家系なんだろ」
「ボケかましてどないするんですか、もう」
エリザは背を伸ばし、ゲートの肩をぽん、と叩く。
「シモンさんは休んどって下さい。アタシ一人でも行けます」
「ボケをかましてるのは君だ。今のを見てただろ?」
「う……」
「……とは言え、半分くらいはお言葉に甘えたいところでもある」
そう返すなり、ゲートはその場にうずくまる。
「俺の力量じゃ『エクスプロード』撃つのは重荷すぎるんだよな。一発撃ったらヘトヘトになっちまう。正直、マジ動けん。
動ける奴、エリちゃんと一緒に基地東側へ向かってくれ。俺含めて動けない奴は掃討班呼んで、助けてもらうから」
「了解です」
エリザは本隊に連れられ、来た道を引き返す。
「シモンさん、大丈夫かな……」
誰にともなく尋ねたエリザに、以前モールを殴りつけたあの黒い狼獣人が答える。
「大丈夫だよ。あの人とは何度か一緒に討伐行ったことあるけど、本当に引き際って言うか、『これ以上やったらまずい』ってとこをちゃんと把握してる人だし、そこまでは絶対行かない人でもある。
俺の兄貴と一緒に最初の遠征行った時、学んだんだってさ」
「え……?」
走って戻っている最中のため、携行している灯りはチラチラと揺れており、狼獣人の顔色を伺うのは難しかったが、それでもエリザには、彼が表情を強張らせているのが分かった。
「俺の兄貴――メラノって言うんだけどな――腕自慢で通ってて、正直、結構な乱暴者でさ、故郷じゃ割りと厄介者だったんだ。
まあ、その腕を買われて最初の遠征に参加したんだけど、その途中でバケモノに襲われて、……一緒にいたフレンさんはヤバいってんで逃げたけど、兄貴は逃げなかったんだ。でも結局、バケモノにやられてさ。しかもそのせいでシノンさんにケガさせるし、バケモノ討ったのはタイムズさんだし。犬死にした上に迷惑かけたんだぜ。マジ最低だろ?
それでゲートさんも、あそこにいるフレンさんも、それから弟の俺も、『引くべきところ』ってのを知ったんだよ。だから安心してくれ。ここにいる奴は皆、絶対無茶しないし、エリちゃんにも無茶させないから」
「……無茶させへん、無茶させへんて」
妙におかしさが込み上げ、エリザはクスクスと笑い出す。
「皆、そんなにアタシが無茶しそうに見えるんかな?」
「そりゃ見えるだろ。自分のお師匠さんひっぱたく子だし」
「あちゃー……、やってしもたな。ソレやったら、もうちょいおしとやかに叩いとけば良かったわぁ」
そう返したエリザに、周囲からも笑いが漏れた。
基地が目に見える距離まで近付いた辺りで、巨獅子の咆哮がエリザの耳を震わせる。
「基地、まだ大丈夫そう……、かな」
眺める限りでは基地に大きな損害は見られず、巨獅子も壁へ突進を繰り返しているばかりで、攻めあぐねているようにも見える。
「油断するなよ」
そう声をかける狼獣人に、エリザは手をぺら、と振って返す。
「大丈夫やって、そんな心配せんでも」
エリザは周囲を見渡し、指示を送る。
「アタシが『エクスプロード』撃ちます。その間、援護をお願いします」
「分かった」
手慣れているためか、エリザからの指示でも特に戸惑う様子も無く、皆が散開する。
エリザも狼獣人を始めとする護衛に囲まれながら、巨獅子との距離を詰めていく。
「今から呪文唱えるし、応答しきれへんなるから今のうちに聞いとくけど」
と、エリザは狼獣人の袖を引く。
「な、何だよ?」
「先生のコトとか色々お世話になったし、名前聞いとこうかなって」
「いや、後でいいだろ」
呆れた顔でそう返した狼獣人に、エリザはぷるぷると首を振る。
「いきなり何やかやあるかも知れへんやろ。そん時に『ソコの黒いのん』やったら呼びにくいし分かりにくいやん」
「ああ、まあ、あるかもな。
俺はロウだ。まだタイムズさんから苗字もらってないし自分で考えんの面倒臭いから、名前だけだ」
「そうなん? ほな、……いや、後にしとこ」
「何だよ?」
ロウが尋ねたが、エリザは既に呪文の詠唱に入っていた。
と、頭巾から通信が入る。
《基地東の巨獅子、包囲完了! いつでもとどめ行けるぞ!》
「……****……、了解!」
詠唱を止め、エリザが答える。
そして魔杖を掲げ、巨獅子に向けて発射した。
「ブッ飛ばせ、『エクスプロード』!」
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因縁の狼獣人。
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巨獅子を倒してしばらく、ゲートはぜぇぜぇと荒い息を立てていたが、やがて一息すう、と深呼吸し、エリザに向き直った。
「待たせたな。すぐ行こう」
声こそしっかりとしたものだったが、ゲートの顔色は悪く、青ざめているのがはっきりと分かる。
「だ、……大丈夫そうに見えまへんよ」
「顔色のこと言ってるなら、これは元からだ。ハン……、息子も青白い系だから、そう言う家系なんだろ」
「ボケかましてどないするんですか、もう」
エリザは背を伸ばし、ゲートの肩をぽん、と叩く。
「シモンさんは休んどって下さい。アタシ一人でも行けます」
「ボケをかましてるのは君だ。今のを見てただろ?」
「う……」
「……とは言え、半分くらいはお言葉に甘えたいところでもある」
そう返すなり、ゲートはその場にうずくまる。
「俺の力量じゃ『エクスプロード』撃つのは重荷すぎるんだよな。一発撃ったらヘトヘトになっちまう。正直、マジ動けん。
動ける奴、エリちゃんと一緒に基地東側へ向かってくれ。俺含めて動けない奴は掃討班呼んで、助けてもらうから」
「了解です」
エリザは本隊に連れられ、来た道を引き返す。
「シモンさん、大丈夫かな……」
誰にともなく尋ねたエリザに、以前モールを殴りつけたあの黒い狼獣人が答える。
「大丈夫だよ。あの人とは何度か一緒に討伐行ったことあるけど、本当に引き際って言うか、『これ以上やったらまずい』ってとこをちゃんと把握してる人だし、そこまでは絶対行かない人でもある。
俺の兄貴と一緒に最初の遠征行った時、学んだんだってさ」
「え……?」
走って戻っている最中のため、携行している灯りはチラチラと揺れており、狼獣人の顔色を伺うのは難しかったが、それでもエリザには、彼が表情を強張らせているのが分かった。
「俺の兄貴――メラノって言うんだけどな――腕自慢で通ってて、正直、結構な乱暴者でさ、故郷じゃ割りと厄介者だったんだ。
まあ、その腕を買われて最初の遠征に参加したんだけど、その途中でバケモノに襲われて、……一緒にいたフレンさんはヤバいってんで逃げたけど、兄貴は逃げなかったんだ。でも結局、バケモノにやられてさ。しかもそのせいでシノンさんにケガさせるし、バケモノ討ったのはタイムズさんだし。犬死にした上に迷惑かけたんだぜ。マジ最低だろ?
それでゲートさんも、あそこにいるフレンさんも、それから弟の俺も、『引くべきところ』ってのを知ったんだよ。だから安心してくれ。ここにいる奴は皆、絶対無茶しないし、エリちゃんにも無茶させないから」
「……無茶させへん、無茶させへんて」
妙におかしさが込み上げ、エリザはクスクスと笑い出す。
「皆、そんなにアタシが無茶しそうに見えるんかな?」
「そりゃ見えるだろ。自分のお師匠さんひっぱたく子だし」
「あちゃー……、やってしもたな。ソレやったら、もうちょいおしとやかに叩いとけば良かったわぁ」
そう返したエリザに、周囲からも笑いが漏れた。
基地が目に見える距離まで近付いた辺りで、巨獅子の咆哮がエリザの耳を震わせる。
「基地、まだ大丈夫そう……、かな」
眺める限りでは基地に大きな損害は見られず、巨獅子も壁へ突進を繰り返しているばかりで、攻めあぐねているようにも見える。
「油断するなよ」
そう声をかける狼獣人に、エリザは手をぺら、と振って返す。
「大丈夫やって、そんな心配せんでも」
エリザは周囲を見渡し、指示を送る。
「アタシが『エクスプロード』撃ちます。その間、援護をお願いします」
「分かった」
手慣れているためか、エリザからの指示でも特に戸惑う様子も無く、皆が散開する。
エリザも狼獣人を始めとする護衛に囲まれながら、巨獅子との距離を詰めていく。
「今から呪文唱えるし、応答しきれへんなるから今のうちに聞いとくけど」
と、エリザは狼獣人の袖を引く。
「な、何だよ?」
「先生のコトとか色々お世話になったし、名前聞いとこうかなって」
「いや、後でいいだろ」
呆れた顔でそう返した狼獣人に、エリザはぷるぷると首を振る。
「いきなり何やかやあるかも知れへんやろ。そん時に『ソコの黒いのん』やったら呼びにくいし分かりにくいやん」
「ああ、まあ、あるかもな。
俺はロウだ。まだタイムズさんから苗字もらってないし自分で考えんの面倒臭いから、名前だけだ」
「そうなん? ほな、……いや、後にしとこ」
「何だよ?」
ロウが尋ねたが、エリザは既に呪文の詠唱に入っていた。
と、頭巾から通信が入る。
《基地東の巨獅子、包囲完了! いつでもとどめ行けるぞ!》
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