「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・駆逐伝 6
神様たちの話、第75話。
今後の打算。
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6.
エリザの放った魔術によって巨獅子は吹き飛ばされ、基地の壁に叩きつけられる。
「グウ……ウ……」
そのまま壁を突き破り、基地の中にまで入ってきたものの、巨獅子はぴくりとも動かず、大量の血を流している。
頭や体も左半分ほどしか残っておらず、絶命したのは明らかだった。
「よっしゃ!」
エリザは魔杖を振り上げ、一目散に基地へと向かう。
「皆、無事ですー!?」
中に入るなり、エリザは大声を上げて尋ねる。
「ああ、大丈夫だ!」
「ヒヤヒヤしたけど、問題なし!」
すぐに大声で返事が返され、エリザも、続いて基地に戻ってきた本隊も、一様にほっとした表情を浮かべた。
やぐらから降りてきた見張りに、エリザはにこっと笑いかける。
「後はシモンさんらを待つだけですな」
「いや、その前にさ」
が、見張りは苦笑いを浮かべる。
「壁直さないと。そこから入って来られたら困るし」
「あ、……すんません」
ぺこっと頭を下げたエリザに、見張りが「いやいや」と返す。
「巨獅子が生きて入ってくるより全然ましだし、気にしないでいい。
それより疲れただろ? 寝床の準備できてるらしいから、皆、ゆっくり休んでくれ」
「は~い」
見張りに促され、エリザたちはぞろぞろと屋内に向かった。
一方、村の方では――。
「掃討班、応答願う。こちら隊長のゲート・シモン、どうぞ」
まだ疲労の回復しきっていないゲートが、まだわずかに形を残していた廃墟にもたれかけながら、救助を要請していた。
《こちら掃討班、ゴア。どうしました、隊長?》
「村に出現した巨獅子を撃破したが、疲れて動けん。
こっちに残ってるのも似たような奴ばっかりだから、戻るのに手を貸して欲しい」
《了解です。何人残ってますか?》
返事を受け、ゲートは周囲の人数を数える。
「えーと……、14人だな、俺含めて。ケガ人もいるし、マジで立ち上がれんくらいぐったりしてるのもいるから、担架がいりそうだ。そっちで用意できそうか?」
《いやー、ちょっと持ってきてないです。そちらで作れます?》
「分かった。有り合わせでどうにか作ってみる。何人くらい来られる?」
《そうですね……、巡回がもう必要なければ全員で向かいますが、どうしましょう?》
「そうだな、村は制圧したし、増援が来る可能性もほとんど無いだろう。分かった、皆こっちに来てくれ」
《了解》
通信を終えるなり、ゲートはその場に座り込む。
「ふー……、どうにかなったな」
その一言に、周囲の緊張も緩み始める。
「そうですね」
「一時はどうなるかと思ったけどな」
「ああ。ドッジがやられたって聞いた時は……」
それを聞いて、ゲートがふらふらと立ち上がる。
「どうしたんですか、隊長?」
「いや、バタバタしてて一瞬忘れてたが、……ドッジたちを弔ってやらなきゃな」
「ああ……」
ゲートの後を何人かが続き、巨獅子が現れた周辺を探る。
「ひどい格好だな。……原型残ってるだけマシか」
ゲートたちは仲間の死体を集める一方で、村の外れに穴を掘り、そこに埋めていく。
「勝手にこんなとこ掘っていいのか?」
一人がそう尋ねたが、ゲートは苦い顔を返す。
「他に無いだろ。持って帰るには数が多いし。
それに――エリちゃんには悪いが――既に村としては崩壊してるからな。どこに穴掘ったって、咎める奴はいないさ。一応、通行の邪魔にならなさそうな場所にはしたが」
「ここ、これからどうするんだろうな?」
と、また別の一人がそうつぶやき、ゲートが尋ね返す。
「どうって言うと?」
「お前も自分で今言っただろ? ここはもう、村としては終わっちまってる。元いた奴らもネール氏の村に移ってるし。
もっぺん村として作り直すには、かなり手をかけなきゃならんだろうし、もう放棄するかも知れないな、って」
「いや、エリちゃんが言ってたが、ここにはかなり良質の鉱床があるらしい。金も出るって言ってた」
「そうなのか? ……そうか」
ゲートの言葉に、何人かがきょろ、と辺りを見回す。
「どこにあるって?」
「さあ? そこまでは聞いてないな。……まさかお前ら、勝手に掘ろうって思ってるんじゃないだろうな」
「いや、思わない方が無理だろ?」
ゲートに咎められるが、反発する者も現れる。
「あの山越えてまで遠征させられた上、死人が出たんだぜ? それなりの報酬が無きゃ、誰だって納得できないだろうと、俺は思うがね」
「……うーん、……確かに、一理ある」
「だろ? そこら辺、一度タイムズに確認するべきじゃないのか?
この遠征を指示したのはタイムズだし、報奨もあいつの裁量で決定されるだろうし」
「そうだな。基地に戻ってから報告する予定だから、その時に聞いてみるよ」
「ああ、たの……」
と――全員が顔を真っ青にし、静まり返る。
ゲートも「その異状」に気付き、言葉を失った。
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6.
エリザの放った魔術によって巨獅子は吹き飛ばされ、基地の壁に叩きつけられる。
「グウ……ウ……」
そのまま壁を突き破り、基地の中にまで入ってきたものの、巨獅子はぴくりとも動かず、大量の血を流している。
頭や体も左半分ほどしか残っておらず、絶命したのは明らかだった。
「よっしゃ!」
エリザは魔杖を振り上げ、一目散に基地へと向かう。
「皆、無事ですー!?」
中に入るなり、エリザは大声を上げて尋ねる。
「ああ、大丈夫だ!」
「ヒヤヒヤしたけど、問題なし!」
すぐに大声で返事が返され、エリザも、続いて基地に戻ってきた本隊も、一様にほっとした表情を浮かべた。
やぐらから降りてきた見張りに、エリザはにこっと笑いかける。
「後はシモンさんらを待つだけですな」
「いや、その前にさ」
が、見張りは苦笑いを浮かべる。
「壁直さないと。そこから入って来られたら困るし」
「あ、……すんません」
ぺこっと頭を下げたエリザに、見張りが「いやいや」と返す。
「巨獅子が生きて入ってくるより全然ましだし、気にしないでいい。
それより疲れただろ? 寝床の準備できてるらしいから、皆、ゆっくり休んでくれ」
「は~い」
見張りに促され、エリザたちはぞろぞろと屋内に向かった。
一方、村の方では――。
「掃討班、応答願う。こちら隊長のゲート・シモン、どうぞ」
まだ疲労の回復しきっていないゲートが、まだわずかに形を残していた廃墟にもたれかけながら、救助を要請していた。
《こちら掃討班、ゴア。どうしました、隊長?》
「村に出現した巨獅子を撃破したが、疲れて動けん。
こっちに残ってるのも似たような奴ばっかりだから、戻るのに手を貸して欲しい」
《了解です。何人残ってますか?》
返事を受け、ゲートは周囲の人数を数える。
「えーと……、14人だな、俺含めて。ケガ人もいるし、マジで立ち上がれんくらいぐったりしてるのもいるから、担架がいりそうだ。そっちで用意できそうか?」
《いやー、ちょっと持ってきてないです。そちらで作れます?》
「分かった。有り合わせでどうにか作ってみる。何人くらい来られる?」
《そうですね……、巡回がもう必要なければ全員で向かいますが、どうしましょう?》
「そうだな、村は制圧したし、増援が来る可能性もほとんど無いだろう。分かった、皆こっちに来てくれ」
《了解》
通信を終えるなり、ゲートはその場に座り込む。
「ふー……、どうにかなったな」
その一言に、周囲の緊張も緩み始める。
「そうですね」
「一時はどうなるかと思ったけどな」
「ああ。ドッジがやられたって聞いた時は……」
それを聞いて、ゲートがふらふらと立ち上がる。
「どうしたんですか、隊長?」
「いや、バタバタしてて一瞬忘れてたが、……ドッジたちを弔ってやらなきゃな」
「ああ……」
ゲートの後を何人かが続き、巨獅子が現れた周辺を探る。
「ひどい格好だな。……原型残ってるだけマシか」
ゲートたちは仲間の死体を集める一方で、村の外れに穴を掘り、そこに埋めていく。
「勝手にこんなとこ掘っていいのか?」
一人がそう尋ねたが、ゲートは苦い顔を返す。
「他に無いだろ。持って帰るには数が多いし。
それに――エリちゃんには悪いが――既に村としては崩壊してるからな。どこに穴掘ったって、咎める奴はいないさ。一応、通行の邪魔にならなさそうな場所にはしたが」
「ここ、これからどうするんだろうな?」
と、また別の一人がそうつぶやき、ゲートが尋ね返す。
「どうって言うと?」
「お前も自分で今言っただろ? ここはもう、村としては終わっちまってる。元いた奴らもネール氏の村に移ってるし。
もっぺん村として作り直すには、かなり手をかけなきゃならんだろうし、もう放棄するかも知れないな、って」
「いや、エリちゃんが言ってたが、ここにはかなり良質の鉱床があるらしい。金も出るって言ってた」
「そうなのか? ……そうか」
ゲートの言葉に、何人かがきょろ、と辺りを見回す。
「どこにあるって?」
「さあ? そこまでは聞いてないな。……まさかお前ら、勝手に掘ろうって思ってるんじゃないだろうな」
「いや、思わない方が無理だろ?」
ゲートに咎められるが、反発する者も現れる。
「あの山越えてまで遠征させられた上、死人が出たんだぜ? それなりの報酬が無きゃ、誰だって納得できないだろうと、俺は思うがね」
「……うーん、……確かに、一理ある」
「だろ? そこら辺、一度タイムズに確認するべきじゃないのか?
この遠征を指示したのはタイムズだし、報奨もあいつの裁量で決定されるだろうし」
「そうだな。基地に戻ってから報告する予定だから、その時に聞いてみるよ」
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