「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・駆逐伝 7
神様たちの話、第76話。
3頭目の巨獅子。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
「……バカな」
どうにかその一言だけ、のどから絞り出すようにつぶやいたものの、ゲートはそれ以上、何も言うことができなかった。
ゲートの前方30メートルほど先に、巨獅子がうずくまっていたからである。
「い、いつの間に……!?」
誰かがそううめくが、ゲートは何も答えられず、ただ首を横に振る。
「おい、ゲート……。お前言ってたよな、いっぺん巨獅子が出たら、それで打ち止めだって」
「あ、ああ」
どうにか混乱を心の奥に押し込め、ゲートはぎこちなくうなずく。
「基地と、この村に1頭ずつ出て、それで終わり、……のはずだ。俺はそう、思ってた」
「じゃあ何で、ここに」
「分からん。だが、とにかく、やるしか」
「やるしかって、……もうそんな余力は」
「く……」
ゲートは周りを見回し、残った本隊の誰もが疲弊しきった様子であること、掃討班がまだ近くに来ていないことを確認し、歯噛みする。
「……やらなきゃ、どっちみち死ぬ、んだ」
「ゲート……」
立ち上がり、魔杖を手にするが、その手がかくかくと震えている。恐怖のためだけではなく、気を張らなければ立っていられないほどの疲労感が体中にまとわりついているためだ。
「……畜生、マジでまずい」
苦々しげにそうつぶやき、ゲートは一歩前に踏み出した。
と――。
「ソコで止まりな。無理するもんじゃないね」
ゲートと巨獅子の間に一人、何者かが立ちはだかった。
「……あんたは!?」
ゲートを始め、全員が驚く。
そこに現れたのが、モールだったからだ。
「まさか私があのまんま、コドモみたいに不貞腐れてどっか雲隠れしたと思ってたね?」
「思わないわけ、無いだろ」
「ははは……、まあいいさ、そんなコトはね。
ゲートとか言ったっけね、ちょいと詰めが甘いんじゃないね? ソレか、楽観的とも言うかもね。
コイツらはちょっとやそっと魔力がある奴が出てきたくらいじゃ、生息圏を明け渡したりしないのさ。そう、ゼロのヤツや私くらい、底無しに魔力を持ってるヤツが現れなきゃ、絶滅してくれないってワケさね」
「な……、え?」
モールの言っている意味が分からず、ゲートは硬直する。
それに構う様子も無く、モールは魔術を放った。
「『ジャガーノート』!」
ばぢ、ばぢっと気味の悪い音を立て、巨獅子が仄青い、真っ白な炎に包まれる。
「いっちょあがり、ってね」
モールが勝ち誇ると同時に、巨獅子は一声も咆哮を上げることなく、ぐしゃりと潰れた。
「……さてと」
モールがくる、と振り返り、真面目な顔になる。
「ちょいと皆にお願いしておきたいコトがあるんだけどもね、ちゃんと聞いてるかね?」
「あ、……ああ、うん。何だ?」
ゲートが我に返り、こくこくとうなずいたところで、モールはこう続ける。
「ここで私が現れたコトを、エリザに知らせないで欲しいんだよね」
「何でだ?」
「あの子ももうじき独り立ちすべき年頃だし、力も十分付いた。コレ以上、私が近くをウロウロしてちゃ、むしろ悪影響になるね。
考えてもみな、あの子はきっと、この村を復興させようとする。つまり、村長ってワケだ。となりゃ皆が彼女を頼る流れになる。
ソコに彼女とは別に、頼れるヤツがいつまでもいたらどうなるね?」
「……割れる、だろうな」
「そう言うコトだね。民意が割れる、派閥に分かれる、意志や思想が統一できない、……そんなんじゃ、復興どころか戦争になるね。
ましてや私と争う? そんなのエリザが望むはずも無いし、私だって嫌だね。そんなら後腐れ無いよう、スパッと縁を切っといた方がいい。
だからケンカ別れしたってワケだね。ああなれば誰だって私を頼ろうなんて思わない。エリザを頼ろうって流れになる」
「不器用だな、あんた」
ゲートにそう返され、モールは「ヘッ」と悪態をつく。
「不器用で結構。誰にもコレ以上、迷惑かけるつもり無いしね。
じゃ、ね」
そこでモールが踵を返し、離れようとしたところで、ゲートが引き止めた。
「待てよ。さっき言ってたこと、あれは何なんだ?」
「ん?」
「ほら、『バケモノが絶滅してくれない』って」
「ああ。……詳しい説明が欲しけりゃ、ゼロに聞きな。
もう人が来るし、さっさとどっか隠れたいんだよね」
「そうか。……じゃあ、な」
「ああ」
短く返し、モールはそそくさと、その場から消えた。
琥珀暁・駆逐伝 終
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3頭目の巨獅子。
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「……バカな」
どうにかその一言だけ、のどから絞り出すようにつぶやいたものの、ゲートはそれ以上、何も言うことができなかった。
ゲートの前方30メートルほど先に、巨獅子がうずくまっていたからである。
「い、いつの間に……!?」
誰かがそううめくが、ゲートは何も答えられず、ただ首を横に振る。
「おい、ゲート……。お前言ってたよな、いっぺん巨獅子が出たら、それで打ち止めだって」
「あ、ああ」
どうにか混乱を心の奥に押し込め、ゲートはぎこちなくうなずく。
「基地と、この村に1頭ずつ出て、それで終わり、……のはずだ。俺はそう、思ってた」
「じゃあ何で、ここに」
「分からん。だが、とにかく、やるしか」
「やるしかって、……もうそんな余力は」
「く……」
ゲートは周りを見回し、残った本隊の誰もが疲弊しきった様子であること、掃討班がまだ近くに来ていないことを確認し、歯噛みする。
「……やらなきゃ、どっちみち死ぬ、んだ」
「ゲート……」
立ち上がり、魔杖を手にするが、その手がかくかくと震えている。恐怖のためだけではなく、気を張らなければ立っていられないほどの疲労感が体中にまとわりついているためだ。
「……畜生、マジでまずい」
苦々しげにそうつぶやき、ゲートは一歩前に踏み出した。
と――。
「ソコで止まりな。無理するもんじゃないね」
ゲートと巨獅子の間に一人、何者かが立ちはだかった。
「……あんたは!?」
ゲートを始め、全員が驚く。
そこに現れたのが、モールだったからだ。
「まさか私があのまんま、コドモみたいに不貞腐れてどっか雲隠れしたと思ってたね?」
「思わないわけ、無いだろ」
「ははは……、まあいいさ、そんなコトはね。
ゲートとか言ったっけね、ちょいと詰めが甘いんじゃないね? ソレか、楽観的とも言うかもね。
コイツらはちょっとやそっと魔力がある奴が出てきたくらいじゃ、生息圏を明け渡したりしないのさ。そう、ゼロのヤツや私くらい、底無しに魔力を持ってるヤツが現れなきゃ、絶滅してくれないってワケさね」
「な……、え?」
モールの言っている意味が分からず、ゲートは硬直する。
それに構う様子も無く、モールは魔術を放った。
「『ジャガーノート』!」
ばぢ、ばぢっと気味の悪い音を立て、巨獅子が仄青い、真っ白な炎に包まれる。
「いっちょあがり、ってね」
モールが勝ち誇ると同時に、巨獅子は一声も咆哮を上げることなく、ぐしゃりと潰れた。
「……さてと」
モールがくる、と振り返り、真面目な顔になる。
「ちょいと皆にお願いしておきたいコトがあるんだけどもね、ちゃんと聞いてるかね?」
「あ、……ああ、うん。何だ?」
ゲートが我に返り、こくこくとうなずいたところで、モールはこう続ける。
「ここで私が現れたコトを、エリザに知らせないで欲しいんだよね」
「何でだ?」
「あの子ももうじき独り立ちすべき年頃だし、力も十分付いた。コレ以上、私が近くをウロウロしてちゃ、むしろ悪影響になるね。
考えてもみな、あの子はきっと、この村を復興させようとする。つまり、村長ってワケだ。となりゃ皆が彼女を頼る流れになる。
ソコに彼女とは別に、頼れるヤツがいつまでもいたらどうなるね?」
「……割れる、だろうな」
「そう言うコトだね。民意が割れる、派閥に分かれる、意志や思想が統一できない、……そんなんじゃ、復興どころか戦争になるね。
ましてや私と争う? そんなのエリザが望むはずも無いし、私だって嫌だね。そんなら後腐れ無いよう、スパッと縁を切っといた方がいい。
だからケンカ別れしたってワケだね。ああなれば誰だって私を頼ろうなんて思わない。エリザを頼ろうって流れになる」
「不器用だな、あんた」
ゲートにそう返され、モールは「ヘッ」と悪態をつく。
「不器用で結構。誰にもコレ以上、迷惑かけるつもり無いしね。
じゃ、ね」
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「ん?」
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