「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・金火伝 1
神様たちの話、第77話。
三つのプロトコル。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「結局、最初の作戦からもう、バケモノは出てないんだ」
ゲートからの報告を受け、魔術頭巾越しに、ゼロの声が返って来る。
《そっか。拍子抜け、と言うと語弊があるかも知れないけど、でも被害が少なくて何よりかな》
「いや、実は俺の方でもそう思ってた。初っ端から死人が出たんで、これはヤバい流れかも分からんと思ってたからな。
だけどもさっき報告した通り、基地を構えてから今日で1ヶ月経つが、一向にバケモノが集まってきたり、近くをうろついてたりって連絡は無い。
ネール氏の村にも何度か人を向かわせたが、あっちも平和だって話だ」
《なるほど。でもまあ、実はネール氏のところについては、その辺りは『絶滅』したんじゃないかなとは思ってたんだ。
モールたちがバケモノの群れを一回やっつけたって話を聞いてるから》
「『絶滅』……」
その言葉が気にかかり、ゲートはこう尋ねる。
「モールさんからも一度そんな話を聞いたんだが、『絶滅』って言うのはつまり、どう言うことなんだ?
俺たちが倒したからって、別のところに棲息してるかも知れないだろ?」
《あー、そうだね、ちょっと言葉が足らなかったかも。
ほら、ずっと昔、僕と君とフレンと、それからシノンの4人で、『バケモノには何か、行動規範(プロトコル)じみたものがあるんじゃないか』って話しただろ?》
「ああ、そんなこともあったな」
《モールともその辺りのこと、話し合ってたんだけど、その行動規範はいくつかあるんじゃないかって。
まず第一に、『人がある程度集まっていたら散らしに行く』。言い換えれば村や集落を積極的に襲うってことだ。この6年でバケモノたちがそう言う行動を取ってたことは、君も実感してるよね》
ゼロの言葉に、ゲートは頭巾を巻いたまま、一人でうなずく。
「ああ、それは分かる。村以外のところで接触したことは、滅多に無かったからな」
《そして第一の規範が実行中にその妨害、つまりバケモノを倒す人間が現れたら、第二の規範が実行される。
それは多分、『段階的に強いバケモノを出現させる』、だろう。これについてはモールからも尋ねられたことがあるし、確実に設定されていると思う》
「設定、……か。でも確かに、それもうなずけるな」
《そう。第三の規範を話す前に言及しておくけど、やっぱりバケモノは、自然に生まれたものじゃ無いと思うんだ。モールもそう言ってたよ。
第一、第二の規範から考えれば、人為的に生み出された存在であることは疑いようが無い。そもそも生み出した相手が『人』かどうかは怪しいけどね》
その一言に、ゲートの背筋に冷たいものが走る。
「人、じゃない……。じゃあ、悪魔ってことか?」
《そう言えるのかも知れない。いてほしくはないけど。
あ、と。話を戻すと、バケモノの存在理由は、その悪魔的人物のためだろうと思ってるんだ》
「どう言うことだ?」
《例えばバケモノが村を襲っている。村の皆は散り散りに逃げるか、食われるしか無い。
そんな状況で、そのバケモノを簡単に倒してしまうような人間が現れたら、皆はその人にどんな印象を抱くだろうか?》
「すげえ奴だと思うだろうな。俺にしても、お前がバケモノを倒した時、どれだけびっくりしたか。他の奴らだって、……!
つまり、そう言うことか」
《そう、倒した人間は間違い無く英雄扱いになる。その悪魔は英雄になりたかったんだ。
万人を無条件で平伏させるような、唯一無二の英雄にね》
それを聞いて、ゲートは苦笑する。
「ははは……、まさかそれがお前ってことは無いよな?」
《まさか! そんな趣味の悪いこと、とてもじゃないけど考え付かないよ》
「だよなぁ、くくく……」
《あはは……》
二人して笑ったところで、ゼロが真面目な口調に戻る。
《まあ、その悪魔氏にとって、バケモノはあくまで、『自分にしか倒せない』存在であってもらわないと困るし、英雄になった後には速やかにいなくなってもらわないと、やっぱり困るんだろう》
「何でだ? いや、『自分にしか』ってのは分かる。
第二の規範から言って、どんどんバケモノを強くして、悪魔氏以外に倒せる奴を確実に潰しとかなきゃ、悪魔氏には都合が悪いだろうからな。
まさか自分以外に英雄になっちまった奴を、悪魔氏が殺すわけにも行かんだろうし。それこそ悪魔呼ばわりされちまうからな。
だが、『いなくなってもらわないと』ってのは?」
《クロスセントラルとその周辺、僕らは結構回ったけど、あんなの何年も続けてたら、統治どころじゃない。
実際、僕が君と一緒に行ってた時、その度に陳情とか請願が山盛りに溜まっちゃって、シノンやパウロとかから、かなり文句言われたし。
だから悪魔氏が英雄になった後は、余計なバケモノなんかいてもらっちゃ、統治できなくて困るってわけさ。
そしてそれが、第三の規範にもつながってくるんだ》
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「結局、最初の作戦からもう、バケモノは出てないんだ」
ゲートからの報告を受け、魔術頭巾越しに、ゼロの声が返って来る。
《そっか。拍子抜け、と言うと語弊があるかも知れないけど、でも被害が少なくて何よりかな》
「いや、実は俺の方でもそう思ってた。初っ端から死人が出たんで、これはヤバい流れかも分からんと思ってたからな。
だけどもさっき報告した通り、基地を構えてから今日で1ヶ月経つが、一向にバケモノが集まってきたり、近くをうろついてたりって連絡は無い。
ネール氏の村にも何度か人を向かわせたが、あっちも平和だって話だ」
《なるほど。でもまあ、実はネール氏のところについては、その辺りは『絶滅』したんじゃないかなとは思ってたんだ。
モールたちがバケモノの群れを一回やっつけたって話を聞いてるから》
「『絶滅』……」
その言葉が気にかかり、ゲートはこう尋ねる。
「モールさんからも一度そんな話を聞いたんだが、『絶滅』って言うのはつまり、どう言うことなんだ?
俺たちが倒したからって、別のところに棲息してるかも知れないだろ?」
《あー、そうだね、ちょっと言葉が足らなかったかも。
ほら、ずっと昔、僕と君とフレンと、それからシノンの4人で、『バケモノには何か、行動規範(プロトコル)じみたものがあるんじゃないか』って話しただろ?》
「ああ、そんなこともあったな」
《モールともその辺りのこと、話し合ってたんだけど、その行動規範はいくつかあるんじゃないかって。
まず第一に、『人がある程度集まっていたら散らしに行く』。言い換えれば村や集落を積極的に襲うってことだ。この6年でバケモノたちがそう言う行動を取ってたことは、君も実感してるよね》
ゼロの言葉に、ゲートは頭巾を巻いたまま、一人でうなずく。
「ああ、それは分かる。村以外のところで接触したことは、滅多に無かったからな」
《そして第一の規範が実行中にその妨害、つまりバケモノを倒す人間が現れたら、第二の規範が実行される。
それは多分、『段階的に強いバケモノを出現させる』、だろう。これについてはモールからも尋ねられたことがあるし、確実に設定されていると思う》
「設定、……か。でも確かに、それもうなずけるな」
《そう。第三の規範を話す前に言及しておくけど、やっぱりバケモノは、自然に生まれたものじゃ無いと思うんだ。モールもそう言ってたよ。
第一、第二の規範から考えれば、人為的に生み出された存在であることは疑いようが無い。そもそも生み出した相手が『人』かどうかは怪しいけどね》
その一言に、ゲートの背筋に冷たいものが走る。
「人、じゃない……。じゃあ、悪魔ってことか?」
《そう言えるのかも知れない。いてほしくはないけど。
あ、と。話を戻すと、バケモノの存在理由は、その悪魔的人物のためだろうと思ってるんだ》
「どう言うことだ?」
《例えばバケモノが村を襲っている。村の皆は散り散りに逃げるか、食われるしか無い。
そんな状況で、そのバケモノを簡単に倒してしまうような人間が現れたら、皆はその人にどんな印象を抱くだろうか?》
「すげえ奴だと思うだろうな。俺にしても、お前がバケモノを倒した時、どれだけびっくりしたか。他の奴らだって、……!
つまり、そう言うことか」
《そう、倒した人間は間違い無く英雄扱いになる。その悪魔は英雄になりたかったんだ。
万人を無条件で平伏させるような、唯一無二の英雄にね》
それを聞いて、ゲートは苦笑する。
「ははは……、まさかそれがお前ってことは無いよな?」
《まさか! そんな趣味の悪いこと、とてもじゃないけど考え付かないよ》
「だよなぁ、くくく……」
《あはは……》
二人して笑ったところで、ゼロが真面目な口調に戻る。
《まあ、その悪魔氏にとって、バケモノはあくまで、『自分にしか倒せない』存在であってもらわないと困るし、英雄になった後には速やかにいなくなってもらわないと、やっぱり困るんだろう》
「何でだ? いや、『自分にしか』ってのは分かる。
第二の規範から言って、どんどんバケモノを強くして、悪魔氏以外に倒せる奴を確実に潰しとかなきゃ、悪魔氏には都合が悪いだろうからな。
まさか自分以外に英雄になっちまった奴を、悪魔氏が殺すわけにも行かんだろうし。それこそ悪魔呼ばわりされちまうからな。
だが、『いなくなってもらわないと』ってのは?」
《クロスセントラルとその周辺、僕らは結構回ったけど、あんなの何年も続けてたら、統治どころじゃない。
実際、僕が君と一緒に行ってた時、その度に陳情とか請願が山盛りに溜まっちゃって、シノンやパウロとかから、かなり文句言われたし。
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そしてそれが、第三の規範にもつながってくるんだ》
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