「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第2部
琥珀暁・金火伝 3
神様たちの話、第79話。
賜姓。
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3.
《ん、ん、……お願い?》
「アタシにゼロさんの後援が付いとるっちゅうコトを、アタシがただ言うだけやと説得力無いですよね」
《そりゃ、まあ》
「なので、まず人の派遣をお願いしたいんです。実際にアタシに付いてくれる人がおれば、説得力が出ると思います。
丁度『金が欲しいわー』ちゅうてる人もいてますし」
《……なるほど》
エリザの提案を受け、ゼロが感心した声を漏らす。
《そのことについては丁度、ゲートとどうしようかって話してたところなんだ。
そっちへの派遣期間中、復興支援って目的で鉱床を掘らせ、その何割かを僕たちへの報酬として受け取るなら、皆も不満は無いだろう。
それで味をしめて、長期的にそっちで働きたいって言う人がいれば、そのまま派遣継続って名目で居続けてもらってもいいしね》
「そう言うコトです。後もう一つ」
エリザはそこで言葉を切り、間を置いてこう続けた。
「アタシに、苗字くれません?」
《苗字?》
けげんな声を返したゼロに、エリザはこう説明する。
「今、そっちで苗字もろたり名前もろたりするん、結構価値があるらしいやないですか。順番待ちになっとるとか」
《ああ、そうだね、今はたまにしかできないから。……あー、そう言うこと》
「ええ。大半の人がなかなかもらえへんモノを、順番すっ飛ばしてもらえるっちゅうのんも、影響力を見せるのんにはええ方法やろと思いまして。
ソレに、元々アタシが持っとった『アーティエゴ』っちゅう苗字は、村では鼻つまみの半端者扱いでしたからな。その印象を消したいんですわ」
《なるほどね。分かった、考えるからちょっと待ってて》
一旦通信が切れ、エリザはゲートに向けて、ニヤっと笑いかける。
「……うぇへ、……えへふぇへへへー」
いや、そう思っているのはエリザだけである。
実際には、かなり複雑な表情をしていたらしい。ゲートがどう反応していいか、図りかねた顔をしていたからだ。
「あー、と、……エリちゃん?」
「あっ、……あの、……何ちゅうか、なんぼ何でもうまく行き過ぎたかなー、……て」
「……まあ、気持ちは分かるとは言えないが、何となくは察する。
ゼロの奴は際限無く気前いいからな。『くれ』っつったら『いいよ』って二つ返事だし。……とは言え、あんまり調子乗らないようにな。あんまりあれこれねだると、ゼロも困るし」
「は、はーい」
と、ゼロからの応答が返って来る。
《お待たせ》
「あ、はーい」
《色々考えてみたんだけど、シンプルに、『ゴールドマン』ってどうかな? 金鉱脈の持ち主ってことで》
「……んー」
エリザは心の中で一瞬、「ダサいかも」と思ったものの――。
(アタシがソコに注文付けたら、ゼロさんからもろたもんにならへんもんなぁ。……コレで手打ちかなー)
《どう?》
ゼロが返事を促してきたので、エリザはうなずいておいた。
「あ、ええ、ソレで。ありがとうございます、ども」
《……気に入ってない?》
「いえいえ全然そんなコトありまへんよー」
《なら、……うん》
こうして――ほんの少し、不満は残しつつも――エリザは時の為政者ゼロから名を賜り、この地での権力を確立した。
まだ年端も行かぬエリザが村長になることに、ゲートも当初、不安を感じないではなかったのだが――。
「ほな今日も、ワイルド班とゴア班は地質調査でお願いします。昨日、第5ポイントで調査したヤツ、金が含まれとるコトが分かったから、もうちょい付近を探って鉱脈の正確な場所を見付けて下さい。
ピット班、ラウ班、ソレからゲート班はアタシと会議。昨日話した続きで、クロスセントラルへの輸送ルートの検討を行います。
ソレから……」
200人の遠征隊――彼女より一回り、二回りも年上の、屈強な男たちを前に、少しも怯んだり気後れしたりする様子無く、てきぱきと指示を送るエリザの姿に、ゲートはただただ感心するばかりだった。
(ゼロも確かに大人物だけど、この子もすごいな。間違い無く将来、この村だけじゃなく、山から南全部を手中に収めちまうだろうな。
ぼんやりしてるとこの子に取って代わられかねないぞ、ゼロ)
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賜姓。
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《ん、ん、……お願い?》
「アタシにゼロさんの後援が付いとるっちゅうコトを、アタシがただ言うだけやと説得力無いですよね」
《そりゃ、まあ》
「なので、まず人の派遣をお願いしたいんです。実際にアタシに付いてくれる人がおれば、説得力が出ると思います。
丁度『金が欲しいわー』ちゅうてる人もいてますし」
《……なるほど》
エリザの提案を受け、ゼロが感心した声を漏らす。
《そのことについては丁度、ゲートとどうしようかって話してたところなんだ。
そっちへの派遣期間中、復興支援って目的で鉱床を掘らせ、その何割かを僕たちへの報酬として受け取るなら、皆も不満は無いだろう。
それで味をしめて、長期的にそっちで働きたいって言う人がいれば、そのまま派遣継続って名目で居続けてもらってもいいしね》
「そう言うコトです。後もう一つ」
エリザはそこで言葉を切り、間を置いてこう続けた。
「アタシに、苗字くれません?」
《苗字?》
けげんな声を返したゼロに、エリザはこう説明する。
「今、そっちで苗字もろたり名前もろたりするん、結構価値があるらしいやないですか。順番待ちになっとるとか」
《ああ、そうだね、今はたまにしかできないから。……あー、そう言うこと》
「ええ。大半の人がなかなかもらえへんモノを、順番すっ飛ばしてもらえるっちゅうのんも、影響力を見せるのんにはええ方法やろと思いまして。
ソレに、元々アタシが持っとった『アーティエゴ』っちゅう苗字は、村では鼻つまみの半端者扱いでしたからな。その印象を消したいんですわ」
《なるほどね。分かった、考えるからちょっと待ってて》
一旦通信が切れ、エリザはゲートに向けて、ニヤっと笑いかける。
「……うぇへ、……えへふぇへへへー」
いや、そう思っているのはエリザだけである。
実際には、かなり複雑な表情をしていたらしい。ゲートがどう反応していいか、図りかねた顔をしていたからだ。
「あー、と、……エリちゃん?」
「あっ、……あの、……何ちゅうか、なんぼ何でもうまく行き過ぎたかなー、……て」
「……まあ、気持ちは分かるとは言えないが、何となくは察する。
ゼロの奴は際限無く気前いいからな。『くれ』っつったら『いいよ』って二つ返事だし。……とは言え、あんまり調子乗らないようにな。あんまりあれこれねだると、ゼロも困るし」
「は、はーい」
と、ゼロからの応答が返って来る。
《お待たせ》
「あ、はーい」
《色々考えてみたんだけど、シンプルに、『ゴールドマン』ってどうかな? 金鉱脈の持ち主ってことで》
「……んー」
エリザは心の中で一瞬、「ダサいかも」と思ったものの――。
(アタシがソコに注文付けたら、ゼロさんからもろたもんにならへんもんなぁ。……コレで手打ちかなー)
《どう?》
ゼロが返事を促してきたので、エリザはうなずいておいた。
「あ、ええ、ソレで。ありがとうございます、ども」
《……気に入ってない?》
「いえいえ全然そんなコトありまへんよー」
《なら、……うん》
こうして――ほんの少し、不満は残しつつも――エリザは時の為政者ゼロから名を賜り、この地での権力を確立した。
まだ年端も行かぬエリザが村長になることに、ゲートも当初、不安を感じないではなかったのだが――。
「ほな今日も、ワイルド班とゴア班は地質調査でお願いします。昨日、第5ポイントで調査したヤツ、金が含まれとるコトが分かったから、もうちょい付近を探って鉱脈の正確な場所を見付けて下さい。
ピット班、ラウ班、ソレからゲート班はアタシと会議。昨日話した続きで、クロスセントラルへの輸送ルートの検討を行います。
ソレから……」
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