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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第2部

    琥珀暁・金火伝 4

     ←琥珀暁・金火伝 3 →琥珀暁 目次(第2部;「モール師事記」編)
    神様たちの話、第80話。
    金火狐神話のはじまり。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     遠征隊の派遣から3ヶ月が経ち、彼らが引き上げる時が来た。
     とは言え――。
    「まさか50人も、こっちに残りたいなんて言うとは思わなかった」
    「そうですな。よっぽど居心地良かったんでしょうね」
     エリザと最後の会議に臨んでいたゲートが、しみじみとした口ぶりでつぶやく。
    「居心地かぁ。確かに暖かくて過ごしやすかったし、海の幸も山の幸も毎日堪能してたし。フレンなんか『俺の羊たちを全部こっちに連れてきてやりたい』なんて言ってたからな」
    「アハハ、言うてましたな」
    「俺も正直、家族がいなけりゃこっちに骨を埋めてもいいって気もしてるからなぁ」
     その言葉に、エリザの心のどこかが、ずきんと痛む。
    「……あの」
    「ん?」
    「ホンマに、……住んでみません?」
     恐る恐る切り出したエリザに、ゲートは苦笑を返す。
    「いやいや、そりゃ無理だよ。メノーは身重だし、ハンもまだ小さいし。連れて来るのは……」「そ、そうや、なくて」
     エリザは意を決して席を立ち、ゲートの側に立つ。
    「どうした?」
    「しも、……ゲートさん、一人で、こっちに」
    「何を言って……」
     言いかけたゲートに、エリザはぎゅっと抱きついた。
    「……エリちゃん?」
    「しょ、正直に、言います。アタシ、ゲートさんのコト、好き、……なんです」
    「いや……、その、俺には家族が」
    「無理なお願いしとるんは分かってます。でも、……でも! アタシ、好きなんです」
    「……困る」
     ゲートは苦い顔をし、エリザを押し返そうとする。
     それでもエリザは抱きついたまま、離れない。
    「分かってます。ゲートさんには奥さんも子供もいてはるし、ココはゲートさんの家やないですから、絶対うんって言うてくれへんのは、十分分かってます。
     だから、……今夜だけで、ええですから、……アタシのコト、奥さんにしてくれません?」
    「……いや、……それは」
     ゲートの押す力が、弱まる。
    「……お願い……」
    「……」
     突っ張っていたゲートの両腕が、エリザを抱きしめた。
    「……分かった。今夜だけだ。……でも、分かって欲しいが」
    「ええ。内緒です。2人だけの」
    「ああ」
     ゲートはまだ、わずかに顔を強張らせたまま、ぼそぼそと尋ねる。
    「いいんだな、……エリザ」
    「はい、……あなた」
     ゲートは目を閉じ――エリザに口付けした。

     二人が睦み合う会議場の、その出入口の裏で――あの黒毛の狼獣人、ロウが、愕然とした表情のまま、そこに硬直していた。
    「……そ、っか……」
     ロウはそのまま、そこから静かに歩き去って行った。



     翌日、最初から何も無かったかのように、エリザは帰還する遠征隊と、その前に立つゲートに、謝辞を述べていた。
    「3ヶ月に渡る遠征、ホンマにありがとうございました。今後は良い取引相手として協力し合い、互いの繁栄につなげていきましょう」
    「あ、……ああ。こちらこそ、うん、……よろしく頼む」
    「では、お元気で」
     どことなく落ち着きのないゲートとは対照的に、遠征隊の皆の目が眩もうかと言うほどの笑顔と共に、エリザは彼と握手を交わした。
    「そ、……それじゃ、帰投するぞ! 全隊、回れ右!」
    「おうっ!」
     ゲートの号令に合わせ、遠征隊の皆は二列縦隊で、その場から歩き去っていく。
     と――その中から一人、ぴょんと飛び出る者がいる。
    「ちょ、ちょっと悪い、すまね、……おっとと」
    「ロウ? どうした?」
     まだエリザの前に棒立ちになっていたゲートが、けげんな顔になる。
    「い、いやさ、その、なんだ、……エリザ」
    「どないしたん?」
     きょとんとするエリザに、ロウは息せき切って尋ねた。
    「ず、ずーっと前にさ、あの、俺の名前聞いた時にさ、何か言いかけてたよな? あれ、何だったんだ?
     このまま帰っちまったら俺、気になって仕方無くなっちまうよ。教えてくれよ、な?」
    「あー、そうやったな。すっかり言う機会逃してたわ、ゴメンな」
     エリザはにこっと笑い、こう続けた。
    「アンタ、苗字付けてへんって言うてたやん。アンタ、まだ付けてへんよな?」
    「おっ、おう。全然っ、まだ、まっさらだっ」
    「ほなな、アタシが付けてもええかな?」
    「もっ、もち、……勿論だ」
     かくんかくんと首を縦に振るロウに、エリザも、ゲートも噴き出す。
    「ぶっ、ふふふ、はは……」
    「そんな期待してたん? アハハ、付け甲斐あるわぁ。
     ほな、……せやな、『ルッジ』ちゅうのんはどう? ゼロさんトコの言葉やと『咆哮』ちゅう意味やけど、アンタに似合いそうやと思って。
     先生殴り飛ばした時も、大声でアタシのコト、かばってくれたしな」
    「ルッジ、……うん、いいな。じゃあありがたく、使わせてもらうぜ」
    「ん、大事に使てや」
     ニコニコと笑みを浮かべているエリザに、ロウはもう、それ以上何も言えなかった。
    「……あ、……じゃあ、な。……元気でな」
    「うん。アンタもな」



     エリザ・アーティエゴ=ゴールドマン。
     彼女こそ、後の歴史に連綿と影響を及ぼし続ける、央北・央中の両天帝教における大聖人、「金火狐」エリザである。
     彼女が人として生きていた時代に築かれた、伝説の女傑としての英雄譚は、この時から始まったのである。

    琥珀暁・金火伝 終

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    これにて「琥珀暁」第2部終了です。

    現時点での構想として、「琥珀暁」は3つの時代、前中後編に分けようと考えています。
    この第2部までが前編です。
    そして時代はちょっと進み、次回の第3部から、中編の始まりです。
    ……いつ連載開始できるか、まだ未定ですが。



    しばらくは週1でイラストやらSSやらを掲載する、ゆっくりペースでの更新となります。
    少なくとも7月一杯まで、のんびりすると思います。
    8月以降の予定は第3部の進捗具合と、「DW8」の状況次第です。
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