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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第1部

    蒼天剣・手本録 2

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    晴奈の話、20話目。
    柊雪乃の四番勝負。

    2.
     バン、と力任せな音を立ててその熊獣人の男が入ってきた。
    「よう、ヒイラギ」
     人を端から見下した目つき、胸を反らした尊大な態度、そして央南ではあるまじき、屋内での土足――どこからどう見ても、まともな性格と礼儀を持った人間には見えなかった。
     そしてその口から出てくる言葉も、彼の態度がそのまま現れていた。
    「今度こそ、俺の方が強いと証明しに来たぜ。さあ、勝負しやがれ!」
    「はいはい」
     柊は本当に面倒くさそうな様子で立ち上がり、「熊」に向き直った。
    「これで4度目よ? もういい加減、観念したらどうなの?」
    「フン。言っとくがな、これまでの3回は理由があって負けたんだ。
     最初のは油断してたからだし、2度目のは体調が悪かったんだ。3度目のも武器の調子が悪かった。
     今度は元気一杯、武器も新調したし、お前みたいなガリガリ女に負けるはずが無え」
     戦う前からべらべらと言い訳を並べるこの男に、晴奈は内心、呆れ返っていた。
    (本当に言い訳がましい。本当にあの『熊』、強いのか?)
     そんな晴奈の視線に気付いたのか、「熊」は晴奈の方をぐるっと向いた。
    「何だ、このガキ? 人をじろじろ見やがって」
    「ガキとは失礼ね。わたしの一番弟子よ」
     柊がたしなめるが、「熊」はフン、と馬鹿にしたような鼻息を漏らす。
    「へーそうかい。こんな乳臭い小娘はべらせて、先生気分か? お偉くなったもんだな、ヒイラギ」
     その言い草に晴奈は激怒しかけたが、より早く、激しく怒り出したのは柊の方だった。
    「クラウン、わたしの悪口ならいくらでも言って構わないわ。でもね」
     次の瞬間、柊は熊獣人の首に刃を当てていた。
    「わたしの弟子を侮辱するなら、命も覚悟しなさいよ。もしもう一度侮辱するようなことがあったら、勝負なんか関係無く叩き斬るわよ」
    「……ヘッ」
     クラウンは刃をつかみ、くい、と横に流した。
    「分かった分かった、じゃあさっさとやれよ」
     謝るどころか、うざったそうに答えるクラウンを見て、晴奈は心の中で叫んだ。
    (師匠ッ! 絶対、勝って下さい! 私もこの『熊』、捨て置けません!)



     傍目に観ても、柊がかなり頭に来ていることは明らかだった。
     武具を装備している間中ずっと無言だったし、付き人に肩や腕を揉ませ、斜に構えて笑っているクラウンに対して何度も、侮蔑と怒りの混じった視線を向けていたからだ。

     そして両者の準備が整い次第、すぐに柊とクラウンの勝負が始まった。
     当初からクラウンは、手にしている鉈をブンブンと振り回して柊を追う。剛力で知られる「熊」のせいか、何太刀かに一度、柊の武具をかすめ、その度に柊は少し、弾かれているように見える。
    「楽勝だな」
    「そうかしら」
     ニヤニヤと笑い、勝ち誇って鉈を振るうクラウンに対し、柊はただ睨みつけるだけで、刀を抜こうともしない。柄に手をかけたまま、飛び回ってばかりいるのだ。
    (師匠、何をされているのですか!? 反撃してくださいッ!)
     二人の戦いを見守っている晴奈は、何もしない師匠の姿にうろたえている。
    「ふーむ」
     と、いつの間にか、晴奈の横に重蔵が立っており、二人の勝負を眺めている。
    「なるほどなるほど。どうやら雪さん、一撃必殺を狙っておるのじゃな」
    「一撃必殺、……ですか?」
     晴奈はけげんな表情を重蔵に向けた。

    「一撃必殺」と言えば聞こえはいいが、これは実際狙ってみると、非常に難しい。
     まず、敵を一撃で倒すような攻撃、威力となると、よほど強力な打撃を与えなければならない。となれば自然に、攻撃の動作は大がかりなものとなり、比例して隙も大きくなる。
     さらに一撃で倒すとなれば、必然的に急所を狙った攻撃となるため、敵に動きが察知されやすくなる。
     強力な攻撃手段の確保、隙の抑制、敵に悟らせないための配慮――この3点を揃えなければ、一撃必殺の成功は無い。

     重蔵の言葉を聞き、晴奈は頭の中で勝負の状況を検討する。
    (確かに今、敵は油断している。師匠も間合いを取り、大きな隙を見せていない。
     後は打撃か。一体いつ、どう出る? その一撃をどう出すのだ?)
     晴奈は固唾を呑み、柊の一挙手一投足を見守っている。それを横目で眺めながら、重蔵が解説してくれた。
    「ほれ、あの『熊』さん。動作が一々、大仰じゃと思わんか?」
    「ふむ……」
     言われて見れば、クラウンの動作はどれも大味で単調に見える。
     鉈を大きく払い、振り下ろすその動きは、傍から見ていればとても分かりやすい。クラウンの鉈の振り回し方には、上から振り下ろすか、左右に払うか程度の差異しか無いのだ。
     普段から形稽古で、様々な刀の構え方、振るい方を学んでいる晴奈から見れば、クラウンの攻撃は呆れるほど稚拙で一本調子なものに見えた。
    (なるほど、あれなら攻撃を繰り出す直前の動作を見切ってしまえば、簡単にかわせるな)
     続いて、重蔵はこう指摘する。
    「それと、雪さんの動き。相手を引っ張りまわしておるな」
    「ふむ……」
     ただ退いているようにしか見えなかった柊の動きも、敵の動作と合わせて考えれば、すべて空振りさせるための戦術なのだと分かる。
    「ああして相手を動かすだけ動かし、疲労するのを待って……」
    「そこで、必殺を?」
    「きっと、その算段を整えておるのじゃろうな」
     程無く、クラウンの動きが目に見えて鈍ってきた。
     大兵肥満なその巨体でバタバタと動き回らされていたために、クラウンはとても苦しそうに肩で息をし、ボタボタと汗を流している。
    「ハッ、ハッ、俺を、ハッ、おちょ、ハッ、おちょくってんのか、ハッ」
    「……」
     答えないまま、柊はそこでようやく刀を抜いたようだ。
    「ようだ」と言うのは、晴奈にはその動作が確認できなかったからだ。

     ともかく、一瞬のうちに決着は付いた。
     クラウンの鉈は彼方に弾き飛ばされており、丸腰になった彼の首筋にいつの間にか、柊がぴたっと刀を当てていた。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2008.10.07 転載及び加筆修正
    2016.02.04 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    本当に言いワケから入って来たよ
    見ている方は面白いな
    お気になったよコイツ
    言いワケ大王だぬ
    男らしくないのぅ
    最後まで言いワケだった
    雑魚だったね
    でも、こういう奴って結構しぶといから生き残りそう

     

    クラウンはそう言うヤツですw

     

    たった1話でやられるなんてv-406
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