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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第5部

    蒼天剣・武闘録 3

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    晴奈の話、第209話。
    ふぬけ晴奈にチャンス到来。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     頭巾と割烹着姿のまま、晴奈は街を走っていた。
    (屈辱だ……! ああ、私は堕ちてしまった!
     悪魔に敗北し、誇り高き剣士から、場末の売り子に堕落してしまった! 刀を買う金も、仇敵を追いかける金も無いとは、何たる体たらくか! もう、私はおしまいだ……ッ!)
     出口の見えない状況に、晴奈は押しつぶされそうになっていた。
     やがて走るのにも疲れ、晴奈は街の広場に置いてある椅子に腰かける。残り少ない金で飲み物を買い、うつろな気分でチビチビとのどに流し込んでいた。
    (ああ……! 一体、どうすればいいのだ?
     この前チラ、と武器屋を覗いたが、刀の値は最も安いものでも、25000クラムだった。朱海殿の店でこのまま働けば、一日の日当が240クラム。……3ヶ月以上働かねばならぬ。いや旅費を考えれば、もっと必要になるだろう。十分に金が貯まるのは一体いつだ? 半年? 一年? それ以上か?
     あああっ……! 私はいつまで、この街に囚われなければならぬのだ……)
     旅の途上では清々しく見えていた青空も、今の晴奈には絶望的な色にしか見えなかった。

    「あれ? セイナさん?」
     突然、正面から声をかけられた。晴奈は驚き、空に向けていた視線を正面に戻した。
    「……プレア?」
     目の前に、3ヶ月半前に知り合った「狼」の女の子、プレアが立っていた。
    「どしたの? たびは?」
    「……うっ」
     思わず、晴奈は泣きそうになる。無理矢理こらえて、ごまかそうとした。
    「い、いや、その。少し、街が恋しくなってな」
    「……セイナさん、うそ、下手だね」
     一瞬で看破され、晴奈は顔を赤くした。
    「うぐ……」
    「『なにかじじょー、』があるんだね」
     そう言うとプレアは晴奈の手を引っ張った。
    「お父さんたちのとこ、来てみない? ほら、前に『なにかこまったことがあれば、なんでも言ってください』って、お父さん言ってたし」
     晴奈は一瞬、その提案を呑もうかどうか、逡巡した。
    (うーむ……。あの時『いらぬ』と言ってしまったからな。白猫にも行けと言われたが、こればかりは私にも、誇りと言うものがあるし……)
    「あのさ、セイナさん」
     プレアが心配そうな目をしながら、ハンカチを差し出す。
    「泣きたいくらいつらかったら、すなおになった方がいいとおもうよ」
    「……!」
     いつの間にか、晴奈は泣いていた。



     しばらく泣いた後、晴奈は素直にプレアの言葉に従い、チェイサー商会に足を運んだ。
    「へーい、いらっしゃいませ。……あ!」
     店のカウンターで新聞を眺めていた「狐」、ピースは晴奈を見るなり、慌ただしく立ち上がった。
    「コウさんじゃないですか! お久しぶりです!」
     ピースは新聞をガサガサとしまい、カウンターから出てきた。
    「え、ええ。しばらくぶりです」
    「いやぁ、その節はどうもどうも!」
     初めに会った時と同様、ピースはガッチリと、堅い握手を結んできた。
    「どうされたんです? 旅の方は、順調なんですか?」
    「そ、それがですね……」
     口ごもる晴奈を見て、眼鏡の奥にあるピースの目が、賢しげにキラリと光った。
    「何か事情、がおありのようですね。……奥で、お話しましょう」
     事務所に移り、事情を聞き終えたピースは、腕を組んでうなる。
    「なるほど、金策ですか。うーん……。恩人のコウさんには、無償で融資したいところではあるんですが」
     ピースの後ろから妻の「狼」、ボーダが姿を現す。
    「うちもそこまで儲かってるわけでは無いし、貸すことになるわね。でも、コウさんは実際のところ、有効な担保を持ってないし、かなりの高利で貸し付けることになる」
    「そう、ですよね」
     ピースが眼鏡を直しながら、すまなさそうに尋ねる。
    「しかしそうなると――これは大変、大変失礼な言い方をしてしまうのですが――返済の手段は、ありませんよね?」
    「……はい」
     晴奈の実家は富豪だが、自分の借金を家に回すような真似はできないし、窮状を伝える手段も無い。よって晴奈の身一つで返済しなければならないが、つぶしの利かない剣士がそんなに簡単に、金を返せるわけが無い。
    「ですから、コウさんが金を稼げる手段を提示、紹介させていただく、と言うのが私共の商売に関して言えば、最も確実な方策では無いかと」
    「……?」
     回りくどい言い方に、晴奈もプレアも首をかしげた。
    「簡単に言いますとですね……」「もういい、ピース。アンタの説明じゃ、うざったくてしゃあないわ」
     ボーダはピースを押しのけ、チラシを一枚、晴奈の前に差し出した。
    「手っ取り早く言えば、コウさんがこれに出て、紹介料及び手数料として賞金のいくらかをあたしたちにくれ、ってことね」
     チラシには、次のような文言が書かれていた。



    「勇 者 求 む !
     当闘技場では、戦いに秀でた勇士たちを募集しています。
     そのご自慢の力、披露してみませんか?
     ストレス発散に、腕自慢に。
     ご自分の強さの証明に。
     心より、お待ちしております。

    九尾闘技場

     なお、闘技場におけるノミ行為、トト、その他賭博に該当する行為は禁止しております。
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    2016.05.12 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    おっと、『賭博行為厳禁』でしたね。

    昔T&Tいうゲームでさんざん遊んだ、ギャンブル公認の「カザンの闘技場」を思い出したもんでつい……(^^;)

    続きはこれから読むであります。

    NoTitle 

    確かに用心棒よりは稼げるけど、ひとつ間違えたらさらに借金が増えたりするんじゃないのかなあこの仕事(^^;)

    まあ晴奈ほどの腕ならなんとかなるかもしれないが……。
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