DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 8 ~ 悪名高き依頼人 ~ 1
ウエスタン小説、第8弾。
電話連絡。
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1.
これまでの作中で何度も、さも当然のように使われてきた電話だが――史実として、電話のシステム自体が確立されたのは1876年(A・G・ベルの特許申請と成立)、そして合衆国において電話会社が開業されたのが、そのおよそ2年後である。さらにはその2年後、普及数は5万世帯にも上っていたと言われている。
その通信網の多くは当然、発展の目覚ましい東部に張られたものだが、「遠く離れた人間と瞬時かつ同時に会話できる」と言うかつてない利便性は、鉄道と馬以外の交通手段が乏しい西部においても、絶大な効果を発揮できたと考えられる。
その観点から、本作では電話を用いた通信網が西部にも、多少なりとも存在していると仮定・考察し、物語を展開している。
「報告は以上です」
淡々と報告を終え、彼は相手の言葉を待つ。
間を置いて、穏やかで飄々とした声が返って来た。
《ありがとう、A。ところで……》
その声に、いたずらじみた色が混じる。
《この前私が送った三人はどうだったかね? 君の眼鏡に適う者はいたかな?》
それに対し、A――アーサー・ボールドロイド老人も冗談交じりに答えた。
「茶髪のイタリア系だったか、あれは探偵向きでは無いでしょう。勘は鈍いし観察力も皆無。度胸も根性も無い。いわゆるヘタレですな。
ただ、敏捷性は申し分無いし、言うことも素直に聞く。根気良く鍛えれば多少は使い物になるでしょうな。と言っても探偵ではなく、兵卒かそこらとして、ですが。
赤毛の青年はまずまずと言ったところでしょう。探偵に不可欠の観察力、洞察力、推理力は身に付いているようですし、何より口が良く回る。交渉事や尋問、聞き込みに対してなら、恐らく探偵局一の逸材でしょう。
ま、口が回り過ぎなきらいもありますがね。弁が立つ分、舌禍や失言も多いでしょうな」
人物評を聞き、受話器の向こうから笑い声が聞こえてくる。
《ははは……、確かに、確かに。やはり君の人物眼は確かだ。
それで、彼女は? 若手の中では一番の期待株なのだが》
「彼女……、エミル・ミヌーですか」
ふう、とため息を付き、アーサー老人はこう続けた。
「若手どころか、私の知る全探偵局メンバーの中でも1、2を争うでしょう。戦闘能力に関しては、ですが。
いや、探偵としての能力も高い。先述の赤毛君よりも、もしかすれば高い観察力と洞察力を有しているかも知れません」
《ふむ。……A、そのエミルの戦闘能力について、君の考えを聞きたい》
尋ねられ、アーサー老人は応じる。
「物腰や身のこなしからして、近接戦闘の技術は非常に高いでしょう。ナイフや鞭はおろか、素手でも相当の実力を発揮するはずです。並のゴロツキ相手ならものの2、3秒でノックアウトでしょうな。
射撃能力に関しては、実際に銃を撃つ様子を目にしたことなどはありませんが、少なくとも相当な視力を有していると思われます。赤毛君が双眼鏡を使っていたところで、彼女はほぼ間違い無く裸眼で、私の顔を認識していたようですからな。
仮に20ヤード先に拳大のワッペンを置いたとしても、彼女ならきっちり意匠の詳細を認識し、階級や所属を言い当てるでしょう。
ただ、やはり現時点では、情報が甚だしく不足しています。願わくばまた彼女に会い、いくらか探りを入れてみたいところですな。
とは言え、また直に会うのは得策では無いでしょう」
《ふむ? ……いや、なるほど。彼女は警戒するからな。名前の通り、子猫(minou)のようなところがあると言うか。そんな状況で会っても、前回と変わらんからな》
「ええ、仰る通りです。可能ならば、彼女が何かに注視しているところを陰から観察する、……と言うようなシチュエーションがあればいいのですが」
《用意できればいいのだがね。難しい注文だな》
「いや……、あくまで単なる希望です。いつも通りの、私のやり方で探ってみるとします」
《うむ。
では、A。また次回の、定期連絡を待っているよ》
「ええ、では」
電話を終え、アーサー老人はくる、と踵を返し、サルーンのマスターに声をかける。
「バーボンを」
「はい、かしこまりま……」
マスターが答えかけたその瞬間――サルーンの空気が凍りつく。
その異様な気配をアーサー老人も感じ取り、入口に目を向ける。
「ごきげんよう、ご老人。騒がしい夜になりそうですな」
そこには全身真っ白のスーツに身を包んだ伊達男が、拳銃を構えて立っていた。
「……貴様……イクトミ……!?」
アーサー老人は戦慄する。
そして――銃声が、サルーン内に轟いた。
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電話連絡。
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これまでの作中で何度も、さも当然のように使われてきた電話だが――史実として、電話のシステム自体が確立されたのは1876年(A・G・ベルの特許申請と成立)、そして合衆国において電話会社が開業されたのが、そのおよそ2年後である。さらにはその2年後、普及数は5万世帯にも上っていたと言われている。
その通信網の多くは当然、発展の目覚ましい東部に張られたものだが、「遠く離れた人間と瞬時かつ同時に会話できる」と言うかつてない利便性は、鉄道と馬以外の交通手段が乏しい西部においても、絶大な効果を発揮できたと考えられる。
その観点から、本作では電話を用いた通信網が西部にも、多少なりとも存在していると仮定・考察し、物語を展開している。
「報告は以上です」
淡々と報告を終え、彼は相手の言葉を待つ。
間を置いて、穏やかで飄々とした声が返って来た。
《ありがとう、A。ところで……》
その声に、いたずらじみた色が混じる。
《この前私が送った三人はどうだったかね? 君の眼鏡に適う者はいたかな?》
それに対し、A――アーサー・ボールドロイド老人も冗談交じりに答えた。
「茶髪のイタリア系だったか、あれは探偵向きでは無いでしょう。勘は鈍いし観察力も皆無。度胸も根性も無い。いわゆるヘタレですな。
ただ、敏捷性は申し分無いし、言うことも素直に聞く。根気良く鍛えれば多少は使い物になるでしょうな。と言っても探偵ではなく、兵卒かそこらとして、ですが。
赤毛の青年はまずまずと言ったところでしょう。探偵に不可欠の観察力、洞察力、推理力は身に付いているようですし、何より口が良く回る。交渉事や尋問、聞き込みに対してなら、恐らく探偵局一の逸材でしょう。
ま、口が回り過ぎなきらいもありますがね。弁が立つ分、舌禍や失言も多いでしょうな」
人物評を聞き、受話器の向こうから笑い声が聞こえてくる。
《ははは……、確かに、確かに。やはり君の人物眼は確かだ。
それで、彼女は? 若手の中では一番の期待株なのだが》
「彼女……、エミル・ミヌーですか」
ふう、とため息を付き、アーサー老人はこう続けた。
「若手どころか、私の知る全探偵局メンバーの中でも1、2を争うでしょう。戦闘能力に関しては、ですが。
いや、探偵としての能力も高い。先述の赤毛君よりも、もしかすれば高い観察力と洞察力を有しているかも知れません」
《ふむ。……A、そのエミルの戦闘能力について、君の考えを聞きたい》
尋ねられ、アーサー老人は応じる。
「物腰や身のこなしからして、近接戦闘の技術は非常に高いでしょう。ナイフや鞭はおろか、素手でも相当の実力を発揮するはずです。並のゴロツキ相手ならものの2、3秒でノックアウトでしょうな。
射撃能力に関しては、実際に銃を撃つ様子を目にしたことなどはありませんが、少なくとも相当な視力を有していると思われます。赤毛君が双眼鏡を使っていたところで、彼女はほぼ間違い無く裸眼で、私の顔を認識していたようですからな。
仮に20ヤード先に拳大のワッペンを置いたとしても、彼女ならきっちり意匠の詳細を認識し、階級や所属を言い当てるでしょう。
ただ、やはり現時点では、情報が甚だしく不足しています。願わくばまた彼女に会い、いくらか探りを入れてみたいところですな。
とは言え、また直に会うのは得策では無いでしょう」
《ふむ? ……いや、なるほど。彼女は警戒するからな。名前の通り、子猫(minou)のようなところがあると言うか。そんな状況で会っても、前回と変わらんからな》
「ええ、仰る通りです。可能ならば、彼女が何かに注視しているところを陰から観察する、……と言うようなシチュエーションがあればいいのですが」
《用意できればいいのだがね。難しい注文だな》
「いや……、あくまで単なる希望です。いつも通りの、私のやり方で探ってみるとします」
《うむ。
では、A。また次回の、定期連絡を待っているよ》
「ええ、では」
電話を終え、アーサー老人はくる、と踵を返し、サルーンのマスターに声をかける。
「バーボンを」
「はい、かしこまりま……」
マスターが答えかけたその瞬間――サルーンの空気が凍りつく。
その異様な気配をアーサー老人も感じ取り、入口に目を向ける。
「ごきげんよう、ご老人。騒がしい夜になりそうですな」
そこには全身真っ白のスーツに身を包んだ伊達男が、拳銃を構えて立っていた。
「……貴様……イクトミ……!?」
アーサー老人は戦慄する。
そして――銃声が、サルーン内に轟いた。
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