fc2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第5部

    蒼天剣・武闘録 4

     ←蒼天剣・武闘録 3 →蒼天剣・武闘録 5
    晴奈の話、第210話。
    新たなる戦いの場。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     晴奈は渡されたチラシから顔を上げ、ボーダに尋ねる。
    「闘技場、ですか?」
    「そう。この街の裏通りに闘技場があるの。そこに参加して勝つと、賞金がもらえるのよ」
    「ふむ。それでその賞金のいくらかを、チェイサー商会にお渡しする、と」
    「それだけじゃないわ。ここに……」「ここに、『賭けはしない』って書いてあるけど」
     そこでピースがさっきの仕返しとばかりに、話に割り込んできた。
    「実際には賭けを取り仕切っている組織があって、この闘技場の結果も賭け対象にしているんだ。で、僕らもコウさんに賭けて、首尾よく勝ってくれれば……」
    「……大儲けできる、と。
     なるほど、よく分かりました。確かにそれなら、店働きよりも私に合った稼ぎ方であるように思います。
    ただ、是非ともお受けしたいところなのですが、生憎今の私には、武器が……」
    「ああ、そうだった。どうしようかな……」
     ピースもボーダも、その点をどう処理しようかと顔を見合わせた。
    「刀ならあるよ、晴奈」
     そこに、朱海と小鈴が現れた。
    「朱海殿?」
     朱海は細長い木箱を抱えながら、すまなさそうに頭をかいた。
    「さっきは悪かったな、ホント。
     コレを渡す時に、驚かせようと思ってあんなこと言っちゃったんだけどな。アタシ、口が悪いから」
     朱海は持っていた箱を晴奈の前に差し出す。晴奈は恐る恐る手に取り、箱を開けた。
    「……これは!」
     その刀身はまるで蛇のように、ぬらぬらとした妖しげな光を放っている。普段晴奈が使っている程度のものよりも相当、質の高い業物だった。
    「43000クラムの逸品、『大蛇(おろち)』だ。奮発してやったんだ、大事に使ってくれよ?」
    「……ありがとうございます!」
     晴奈は床に伏せ、朱海に深々と頭を下げる。
     それに対し、朱海は恥ずかしそうに、尻尾をプラプラ揺らしていた。
    「まあ、何だ。そんなかしこまらないでくれよ。
     ……この際だ、闘技場のチャンピオンにでもなってみろよ、晴奈」

     朱海とのわだかまりが解けたところで、晴奈はボーダから闘技場のシステムについての説明を受けた。
    「闘技場は、4種類のランク別に試合が行われているの。
     まず、一番下のランク。誰でも入れる『ロイドリーグ』。ここは毎日、その日に参加表明した人を適当に組んで、試合が開催されてるの。まったくの未経験者、戦いの素人ばっかりで、ほとんど一般人のストレス解消にしか使われてないから、賞金も賭けで動く額も少ない。
     で、ロイドリーグである程度勝って行くと、闘技場側からもう一段上のランク、『レオンリーグ』に誘われるの。ここは賞金も賭けの額もぐっと上がるけど、その分強い人が集められて、試合日程もきっちり決められてくる。まずはロイドリーグで勝ち抜いて、ここを目指すことになるわね」
     今度はピースが説明に入る。
    「そこを勝ち上がると次のランク、『ニコルリーグ』に移される。金はもっと動くようになるから、ここで3ヶ月くらい生き残っていられれば、およそ10万クラムは稼げるだろう。
     ただしその反面、出場者も相当手強くなってくる。ぶっちゃけると、焔流の剣士や、黒炎教団の僧兵でもなかなか3ヶ月は持たない。僕の知り合いだった焔剣士も数名、ここで潰されている。
     でも、ここで優秀な成績を残せば……」
     図の頂上部にペンを置き、トントンと指す。
    「最大のランク、『エリザリーグ』に到達できる。
     ここは半年に一回しか開催されないし、出場できるのは5名だけだけど、一回勝つだけでも10万の賞金。そして優勝賞金100万クラム。さらに賭け総額は平均、およそ300万クラムと言われている。
     ここで勝てればうちはかなり潤うし、コウさんもしばらく旅費に困ることは無くなる」
    「なるほど」
     図を眺めていた晴奈は、腕を組んだままうなずいた。
    「……しかし出る前に一つ、やっておきたいことがあります」
    「ん?」
    「この三ヶ月、ずっと修行をしていなかったから、腕が鈍っているかも知れません。
     それに初めて扱う刀ですし、具合も見ておかねば」

    「これでいい?」
    「ああ。では、それをあちらに……」
     晴奈は小鈴とプレアを連れ、郊外の空き地に来た。周りに生えていた草を束ね、棒状にしたものを何本も突き刺す。それを敵に見立て、居合いの相手にするつもりなのだ。
    「よし、準備は整った。……さて、それでは二人とも、後ろに」
    「はーい」
     小鈴とプレアは晴奈の後ろに回り、晴奈の動きを見守っていた。晴奈は朱海から受け取った刀を腰に佩き、柄に手をかけ、腰を低く落として、そのまま静止する。
    「……セイナさん?」「しっ。見てましょ、プレアちゃん」
    「すぅ、はぁ……」
     晴奈はまだ刀を抜かず、気を落ち着け、深呼吸を三回、四回と続ける。
     繰り返すうち、3ヶ月の間ずっと淀んでいたようだった自分の心の内が、急速に澄んでいくのを感じ取っていた。
    (いいぞ、これなら行ける。問題無い。さあ、足を動かせ)
     ゆらりと、足が進んでいく。
    (もう一歩、さらにもう一歩)
     とん、とんと音を立てて、足が地面を軽く、しかし鋭く叩く。
    (ここだ――抜けッ!)
     晴奈は右腕を刀に回し、弧を描くような動作で、そのまま抜き払う。
     刀は空中にきらっと軌跡を残し、草の束を薙ぐ。
    「おっ、……と?」
     一瞬、あまりの手ごたえの無さに、打ち損じたかと思ったが――。
    「お見事、晴奈!」
    「すごーい、きれい!」
     草の束は真っ二つになり、弾けるようにほどけ、風に舞っていった。
     刀を振り上げたまま静止し、晴奈はその成果をじっくりと思い返す。
    (この『大蛇』――切れ味が恐ろしく鋭いと言うか、『透明』とも言うべきか、今までに感じたことの無い、爽快極まりない感触だった。
     うん、何の問題も無い)
     晴奈は刀を納め、二人ににっこりと笑いかけた。
    「上々だ」

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2016.05.12 修正
    関連記事


    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【蒼天剣・武闘録 3】へ
    • 【蒼天剣・武闘録 5】へ

    ~ Comment ~

    NoTitle 

    ゴールドコーストはこの世界有数の大都市ですからね。
    むしろ、あってしかるべき、なくらい。こういうのは。

    連載、頑張ってください。
    楽しみにしてます。色々、と。

    NoTitle 

    闘技場ですね。どこでもあるものですね。こういうのは。
    まあ娯楽要素と賭博と両方を兼ね備えたものですからね。よく考えられたものですね。こういうものは。
    ようやく連載開始しました。この連載が終われば…次は・・・ですね。
    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【蒼天剣・武闘録 3】へ
    • 【蒼天剣・武闘録 5】へ