DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 8 ~ 悪名高き依頼人 ~ 4
ウエスタン小説、第4話。
アルジャン兄弟。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
「アンリ=ルイ・ギルマン?」
首を傾げつつも、アデルは懐からメモを取り出し、その名を書きつける。
「名前からしてそいつもフランス系か? スペルはこれでいいのか?」
「Hが抜けていますね。あと、AではなくEです」
「分かりづれえな、無音のアッシュ(注:フランス語は基本として、語頭の『H』を抜いて発音する)かよ」
「それがフランス語と言うものです」
「こいつが今、どこにいるのかが知りたいのか?」
尋ねたアデルに、イクトミは恭しくうなずく。
「その通りでございます」
「ちょっと待ちなさいよ」
と、エミルが再度さえぎる。
「あんた、受けるつもりなの? まだ報酬が何なのかも聞いてないのに?」
「ああ、そうか。つい流れに乗せられちまった」
アデルは首をぶるぶると振り、イクトミをにらみつける。
「いい加減聞かせてみろよ、お前が持ってきた報酬とやらをよ?」
「ええ。先程示したものこそが、わたくしの提示する報酬でございます」
「何だって?」
首を傾げるアデルとは反対に、エミルは納得言ったような表情を浮かべる。
「そう言うこと?」
「さて、どうでしょうか」
そんな風に言葉を交わしつつ、目配せし合った二人に、アデルは苛立たしさを覚えた。
「何だよ?」
「つまりね、こいつは知ってるのよ。『あの二人』の居場所を」
エミルからそう説明されるが、アデルには依然としてピンと来ない。
「あの……二人?」
「アルジャン兄弟よ。ほら、いつものあんたなら手帳開いて、賞金額を確かめるところじゃない?」
「ん? ……お、おう」
言われるがまま、アデルは自分の手帳を開き、賞金首のリストを確認する。
「トリスタン・アルジャン、賞金9800ドル。結構な大物だな。
ディミトリの方はデータが無いが……」
「一応ながら、ディミトリは一般市民として生活しているようですから。
しかし兄のトリスタン、即ち犯罪者へ改造拳銃を提供したり、非合法のルートでM1873のコピー品を国内外へ流したりと、裏を覗けばかなり『臭い』ことを行っているようです」
「M1873のコピー品……? おい、それってまさか」
「ええ、ご明察です。あのリゴーニ地下工場で見た、大量の武器。
あの製造にも、ディミトリが関わっていたようなのです」
「マジか」
これを聞いて、アデルは真剣になった。
「それが本当なら、アルジャン弟も立派な犯罪者ってわけだ。
少なくともウィンチェスター社からは著作権侵害で訴えられるだろうし、そもそも密輸って点でお縄になる」
エミルも真面目な顔でうなずいている。
「軽く見積もっても3~4000ドルのお尋ね者になるわね。兄弟合わせれば12000ドルに届くかも知れないわ」
「と言うわけです。これはかなりの報酬と言えるのではないかと、わたくしは思っているのですが」
そう尋ねたイクトミに、二人は揃ってうなずいて返した。
「なるほどね。確かに美味しい話だわ」
「捕まえられれば、の話だがな」
「お二人ならばそれが可能、そう思って提示した次第です。
どうでしょうか? わたくしの依頼、お受けになっていただけますか?」
「この場ですぐイエスとは言えないわね。あたしたちは基本的に、探偵局の人間だし」
そう返したエミルに、イクトミは苦い顔をする。
「と言って探偵局にわたくしが依頼しに参れば、その場で拘束されるでしょう?」
「当たり前だろ。強盗殺人犯を放っておくわけが無い」
アデルにも冷たい態度を取られ、イクトミはやれやれと言いたげに首を振る。
「では、ここは一旦お暇するといたしましょう。また明日、午後3時に、電話にてご連絡いたします。その時に返事をお聞かせ下さい。
では、わたくしはこれにて」
「え?」
次の瞬間、イクトミはほとんど垂直に飛び上がり、ビルとビルの間をとん、とんと蹴って二人の頭上をやすやすと越え、そのまま大通りへと消えた。
「……やられた」
上をぽかんと見上げたまま、アデルがうめく。
「あっちのペースに乗せられっぱなしね。
まあ、とりあえず帰って局長と相談しましょ」
そう言って、エミルは傍らに置いていた買い物袋を手に取った。
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アルジャン兄弟。
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「アンリ=ルイ・ギルマン?」
首を傾げつつも、アデルは懐からメモを取り出し、その名を書きつける。
「名前からしてそいつもフランス系か? スペルはこれでいいのか?」
「Hが抜けていますね。あと、AではなくEです」
「分かりづれえな、無音のアッシュ(注:フランス語は基本として、語頭の『H』を抜いて発音する)かよ」
「それがフランス語と言うものです」
「こいつが今、どこにいるのかが知りたいのか?」
尋ねたアデルに、イクトミは恭しくうなずく。
「その通りでございます」
「ちょっと待ちなさいよ」
と、エミルが再度さえぎる。
「あんた、受けるつもりなの? まだ報酬が何なのかも聞いてないのに?」
「ああ、そうか。つい流れに乗せられちまった」
アデルは首をぶるぶると振り、イクトミをにらみつける。
「いい加減聞かせてみろよ、お前が持ってきた報酬とやらをよ?」
「ええ。先程示したものこそが、わたくしの提示する報酬でございます」
「何だって?」
首を傾げるアデルとは反対に、エミルは納得言ったような表情を浮かべる。
「そう言うこと?」
「さて、どうでしょうか」
そんな風に言葉を交わしつつ、目配せし合った二人に、アデルは苛立たしさを覚えた。
「何だよ?」
「つまりね、こいつは知ってるのよ。『あの二人』の居場所を」
エミルからそう説明されるが、アデルには依然としてピンと来ない。
「あの……二人?」
「アルジャン兄弟よ。ほら、いつものあんたなら手帳開いて、賞金額を確かめるところじゃない?」
「ん? ……お、おう」
言われるがまま、アデルは自分の手帳を開き、賞金首のリストを確認する。
「トリスタン・アルジャン、賞金9800ドル。結構な大物だな。
ディミトリの方はデータが無いが……」
「一応ながら、ディミトリは一般市民として生活しているようですから。
しかし兄のトリスタン、即ち犯罪者へ改造拳銃を提供したり、非合法のルートでM1873のコピー品を国内外へ流したりと、裏を覗けばかなり『臭い』ことを行っているようです」
「M1873のコピー品……? おい、それってまさか」
「ええ、ご明察です。あのリゴーニ地下工場で見た、大量の武器。
あの製造にも、ディミトリが関わっていたようなのです」
「マジか」
これを聞いて、アデルは真剣になった。
「それが本当なら、アルジャン弟も立派な犯罪者ってわけだ。
少なくともウィンチェスター社からは著作権侵害で訴えられるだろうし、そもそも密輸って点でお縄になる」
エミルも真面目な顔でうなずいている。
「軽く見積もっても3~4000ドルのお尋ね者になるわね。兄弟合わせれば12000ドルに届くかも知れないわ」
「と言うわけです。これはかなりの報酬と言えるのではないかと、わたくしは思っているのですが」
そう尋ねたイクトミに、二人は揃ってうなずいて返した。
「なるほどね。確かに美味しい話だわ」
「捕まえられれば、の話だがな」
「お二人ならばそれが可能、そう思って提示した次第です。
どうでしょうか? わたくしの依頼、お受けになっていただけますか?」
「この場ですぐイエスとは言えないわね。あたしたちは基本的に、探偵局の人間だし」
そう返したエミルに、イクトミは苦い顔をする。
「と言って探偵局にわたくしが依頼しに参れば、その場で拘束されるでしょう?」
「当たり前だろ。強盗殺人犯を放っておくわけが無い」
アデルにも冷たい態度を取られ、イクトミはやれやれと言いたげに首を振る。
「では、ここは一旦お暇するといたしましょう。また明日、午後3時に、電話にてご連絡いたします。その時に返事をお聞かせ下さい。
では、わたくしはこれにて」
「え?」
次の瞬間、イクトミはほとんど垂直に飛び上がり、ビルとビルの間をとん、とんと蹴って二人の頭上をやすやすと越え、そのまま大通りへと消えた。
「……やられた」
上をぽかんと見上げたまま、アデルがうめく。
「あっちのペースに乗せられっぱなしね。
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