DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 8 ~ 悪名高き依頼人 ~ 5
ウエスタン小説、第5話。
無理筋の依頼。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「なるほど」
アデルたちの話を聞き終え、パディントン局長はそれだけ言って黙り込んだ。
「……どうしましょうか?」
沈黙に耐えかね、アデルが尋ねる。
「ふむ……」
しかし、局長はうなるばかりで、返事は返って来ない。
「迷うことがあるのかしら?」
エミルからそう問われ、ようやく局長は応じた。
「いや、迷っているわけじゃあない。
君の言う通り、その依頼は受けて然るべきものだろう。我が探偵局が凶悪犯2名を拿捕できる絶好のチャンスだ。情報提供者が犯罪者だとしても、そんなことはチャンスを逃す理由にはならん。
一方で、疑問がある。イクトミが何故我々に対し、そんな依頼をしてきたのか? その点だ」
「確かにね」
局長の指摘に、エミルもうなずいて返す。
「あの怪盗気取りの伊達男がわざわざあたしたちの前に現れ、わざわざ依頼なんかしに来るその理由が、さっぱり分からないものね」
「そう、それだ。
彼は探偵として動けば、恐らくそこいらのヘボ探偵より余程、いい仕事をするだろう。リゴーニ地下工場事件の一件だけでも、その才能と実力がよく分かる。
が、それ故に何故、我々に依頼してきたのかと言う疑問も、一つの解が付けられるだろう。即ち、彼のその『相当の手腕』を以てしてもなお、そのアンリ=ルイ・ギルマンなる人物の足跡を追うことができなかったのだろう、と言うことだ」
「なる……ほど」
局長の見解を聞き、アデルは嫌な予感を覚える。
「つまり我々にとっても、この依頼は相当な無理筋だ、と見るべきでしょうね」
「うむ。……そこでエミル、君に聞きたいことがある」
局長からそう尋ねられ、エミルはけげんな顔を向ける。
「どうしたの、改まって?」
「君は『組織』に詳しい、と考えていいのだね?」
「ええ、まあ。少なくともあなたよりは詳しいでしょうね」
「では尋ねるが、このギルマンと言う人物は、『組織』においてどんな役割を担っていたのかね?」
局長の質問に、エミルはわずかに表情を曇らせる。
「それは……」
「言えない、と言うことかね?」
「違うの。そうじゃなくて、……そうね、まず、あたしが『組織』でどんな立場にいたかってことから話すけれど」
そう前置きし、エミルはぽつりぽつりと言った口調で話し始めた。
「まず、あたしが『大閣下』の孫だったって話は、知ってるわよね?」
「うむ」
「その、言ってみれば、……何て言うか、そう言う立場って、例えば国王に対する王女、みたいなものじゃない?」
珍しく、顔を赤らめつつ話すエミルを見て、アデルは内心、笑いが込み上げそうになる。
それを見透かされたらしく、エミルがにらんでくる。
「なによ?」
「い、いや。何でも」
「……コホン。と、ともかく、そう言う、その、王女って、例えば騎士団に入ったり、政治に携わったりする?」
「なるほど。つまり、言わば君は『籠の鳥』として扱われていた、と言うことか」
「そう言うこと。だから、あんまり幹部がどうだったとか、『組織』が何をしてたかとか、詳しくないのよ。
だからそのギルマンって奴も、全然面識は無いの」
「ふーむ……。となると、手がかりが全く無いな。イクトミに聞くしか無さそうだ」
「どうでしょうね? 依頼してくるほどだから、相手も大したことは知らないんじゃ……?」
そう返したアデルに、局長は肩をすくめる。
「何の接点も関係も無い人間を探してくれなどと頼むような人間は、この世にはまずいるまい。捜索を依頼するのならば、必ず何かしらのつながりがあって然るべきだ。返事をするのはそれを聞いてからだろう。
仮にアデルが言う通り、本当に何の接点も無く、何の手がかりも与えられないとなると、その依頼は断る他無い。何の手がかりも無いまま局員をあてどなく放浪させるほど、我が探偵局は暇ではないからな」
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無理筋の依頼。
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5.
「なるほど」
アデルたちの話を聞き終え、パディントン局長はそれだけ言って黙り込んだ。
「……どうしましょうか?」
沈黙に耐えかね、アデルが尋ねる。
「ふむ……」
しかし、局長はうなるばかりで、返事は返って来ない。
「迷うことがあるのかしら?」
エミルからそう問われ、ようやく局長は応じた。
「いや、迷っているわけじゃあない。
君の言う通り、その依頼は受けて然るべきものだろう。我が探偵局が凶悪犯2名を拿捕できる絶好のチャンスだ。情報提供者が犯罪者だとしても、そんなことはチャンスを逃す理由にはならん。
一方で、疑問がある。イクトミが何故我々に対し、そんな依頼をしてきたのか? その点だ」
「確かにね」
局長の指摘に、エミルもうなずいて返す。
「あの怪盗気取りの伊達男がわざわざあたしたちの前に現れ、わざわざ依頼なんかしに来るその理由が、さっぱり分からないものね」
「そう、それだ。
彼は探偵として動けば、恐らくそこいらのヘボ探偵より余程、いい仕事をするだろう。リゴーニ地下工場事件の一件だけでも、その才能と実力がよく分かる。
が、それ故に何故、我々に依頼してきたのかと言う疑問も、一つの解が付けられるだろう。即ち、彼のその『相当の手腕』を以てしてもなお、そのアンリ=ルイ・ギルマンなる人物の足跡を追うことができなかったのだろう、と言うことだ」
「なる……ほど」
局長の見解を聞き、アデルは嫌な予感を覚える。
「つまり我々にとっても、この依頼は相当な無理筋だ、と見るべきでしょうね」
「うむ。……そこでエミル、君に聞きたいことがある」
局長からそう尋ねられ、エミルはけげんな顔を向ける。
「どうしたの、改まって?」
「君は『組織』に詳しい、と考えていいのだね?」
「ええ、まあ。少なくともあなたよりは詳しいでしょうね」
「では尋ねるが、このギルマンと言う人物は、『組織』においてどんな役割を担っていたのかね?」
局長の質問に、エミルはわずかに表情を曇らせる。
「それは……」
「言えない、と言うことかね?」
「違うの。そうじゃなくて、……そうね、まず、あたしが『組織』でどんな立場にいたかってことから話すけれど」
そう前置きし、エミルはぽつりぽつりと言った口調で話し始めた。
「まず、あたしが『大閣下』の孫だったって話は、知ってるわよね?」
「うむ」
「その、言ってみれば、……何て言うか、そう言う立場って、例えば国王に対する王女、みたいなものじゃない?」
珍しく、顔を赤らめつつ話すエミルを見て、アデルは内心、笑いが込み上げそうになる。
それを見透かされたらしく、エミルがにらんでくる。
「なによ?」
「い、いや。何でも」
「……コホン。と、ともかく、そう言う、その、王女って、例えば騎士団に入ったり、政治に携わったりする?」
「なるほど。つまり、言わば君は『籠の鳥』として扱われていた、と言うことか」
「そう言うこと。だから、あんまり幹部がどうだったとか、『組織』が何をしてたかとか、詳しくないのよ。
だからそのギルマンって奴も、全然面識は無いの」
「ふーむ……。となると、手がかりが全く無いな。イクトミに聞くしか無さそうだ」
「どうでしょうね? 依頼してくるほどだから、相手も大したことは知らないんじゃ……?」
そう返したアデルに、局長は肩をすくめる。
「何の接点も関係も無い人間を探してくれなどと頼むような人間は、この世にはまずいるまい。捜索を依頼するのならば、必ず何かしらのつながりがあって然るべきだ。返事をするのはそれを聞いてからだろう。
仮にアデルが言う通り、本当に何の接点も無く、何の手がかりも与えられないとなると、その依頼は断る他無い。何の手がかりも無いまま局員をあてどなく放浪させるほど、我が探偵局は暇ではないからな」
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