DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 8 ~ 悪名高き依頼人 ~ 6
ウエスタン小説、第6話。
探偵王と怪盗の邂逅。
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6.
翌日、3時。
壁に取り付けられた電話がじりりん、と鳴り出したところで、局長がすぐに受話器を取った。
「はい、こちらパディントン探偵局。……うむ、そうだ。私がパディントンだ。
君はイクトミかね?」
局長の後ろで様子を伺っていたアデルとエミルは、顔を見合わせる。
「来たわね」
「流石、伊達男。3時きっかりだな」
その間にも、局長とイクトミは電話越しに会話を交わしている。
「そうだ。私が話をする。……いや、彼女はいるよ。私の後ろにね。
……そうは行かない。君はエミル嬢にではなく、このパディントン探偵局に対して依頼したのだろう? ……個人的に、であったとしてもだ。彼女は個人業じゃあなく、局に所属する人間だ。である以上、彼女の仕事は局がマネジメントするのが道理だろう? ……ははは、馬鹿を言うものではない。いつ終わるとも知れん仕事をさせるために休暇を取らせるなど、私が認めると思うのかね? ……そう言うことだ。それが嫌だと言うのならば、これまで通り一人で捜索したまえ。
……うむ。ではもう少し詳しい話をしようじゃあないか。いつまでもそんなところで私たちを眺めていないで、……そうだな、こっちのビルの斜向いに店がある。君のいるウォールナッツビルの、3つ左隣の店だ。……そう、ブルース・ジョーンズ・カフェだ。
そこなら捕まる、捕まえるなんて話抜きで相談もできるだろう? 無論、衆人環視の中でドンパチやるほど、我々も無法者じゃあないからな。君もそう言うタイプのはずだ。
……決まりだな。私たちもすぐ向かうから、君もすぐ来たまえ」
そこで局長は電話を切り、窓の外に向かって手を振る。
その様子を眺めていたエミルが、呆れた声を上げた。
「あのビルにいたの?」
「うむ、予想はしていた。彼も慌てたようだよ。居場所を言い当てられたものだから、指摘した瞬間、声が上ずったよ」
「伊達男も形無しね、クスクス……」

15分後、局長が指定した喫茶店に、一般的な――今度は「東部都市では」と言う意味で――スーツ姿で、イクトミが姿を現した。
「あら、白上下じゃないのね」
指摘したエミルに、イクトミは苦笑いを返す。
「流石に目立ってしまいますから。わたくしも、色々と狙われる身でしてね」
「ふむ」
イクトミのその言葉に、局長が納得したような声を漏らす。
「つまりギルマン某を探したい、と言うのは、やはり組織に関係してのことかね?」
「左様です」
イクトミが椅子に座ったところで、局長がメニューを差し出す。
「私がおごろう。ここのコテージパイは絶品だそうだよ」
「ほう。ではそれと、コーヒーを」
そう返したイクトミに、局長はニヤっと笑いかける。
「君もコーヒー派かね?」
「ええ。氏はイギリス系とお見受けしますが、紅茶は?」
「実を言えば、あまり好きじゃあないんだ。それがイギリスを離れた理由の一つでもある」
「変わった方ですな」
「君ほどじゃあないさ」
やり取りを交わす間に注文し終え、間も無く一同の座るテーブルにコーヒーが4つ、運ばれてくる。
「コテージパイが温まるまでにはまだ多少、時間がある。それまでに話を詰めておこう。
まず、君からの依頼を受けるか否かについてだが、君から何かしらの情報を得られれば、受けてもいいと考えている」
「情報……、何のでしょうか?」
「まず、アンリ=ルイ・ギルマンとは何者なのか? 組織においてどんな役割を担っていたのか?
そして何故、君はギルマンを探しているのか? それを聞かせて欲しい」
「ふむ」
イクトミはコーヒーを一口飲み、それから局長の質問に応じた。
「ギルマンはいわゆる『ロジスティクス(兵站活動)』を担当していました。
武器・弾薬と言った装備の調達や侵攻・逃走経路の確保、基地や備蓄施設の設営、その他組織が行う作戦について、あらゆる後方支援を行う立場にありました。
そして……」
イクトミはそこで言葉を切り、エミルに視線を向けた。
「なによ?」
「大閣下がマドモアゼルの手にかかって死んだと思わせ――その実、陥落せんとする本拠地からまんまと彼を連れ出したのも、ギルマンの仕業なのです」
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探偵王と怪盗の邂逅。
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6.
翌日、3時。
壁に取り付けられた電話がじりりん、と鳴り出したところで、局長がすぐに受話器を取った。
「はい、こちらパディントン探偵局。……うむ、そうだ。私がパディントンだ。
君はイクトミかね?」
局長の後ろで様子を伺っていたアデルとエミルは、顔を見合わせる。
「来たわね」
「流石、伊達男。3時きっかりだな」
その間にも、局長とイクトミは電話越しに会話を交わしている。
「そうだ。私が話をする。……いや、彼女はいるよ。私の後ろにね。
……そうは行かない。君はエミル嬢にではなく、このパディントン探偵局に対して依頼したのだろう? ……個人的に、であったとしてもだ。彼女は個人業じゃあなく、局に所属する人間だ。である以上、彼女の仕事は局がマネジメントするのが道理だろう? ……ははは、馬鹿を言うものではない。いつ終わるとも知れん仕事をさせるために休暇を取らせるなど、私が認めると思うのかね? ……そう言うことだ。それが嫌だと言うのならば、これまで通り一人で捜索したまえ。
……うむ。ではもう少し詳しい話をしようじゃあないか。いつまでもそんなところで私たちを眺めていないで、……そうだな、こっちのビルの斜向いに店がある。君のいるウォールナッツビルの、3つ左隣の店だ。……そう、ブルース・ジョーンズ・カフェだ。
そこなら捕まる、捕まえるなんて話抜きで相談もできるだろう? 無論、衆人環視の中でドンパチやるほど、我々も無法者じゃあないからな。君もそう言うタイプのはずだ。
……決まりだな。私たちもすぐ向かうから、君もすぐ来たまえ」
そこで局長は電話を切り、窓の外に向かって手を振る。
その様子を眺めていたエミルが、呆れた声を上げた。
「あのビルにいたの?」
「うむ、予想はしていた。彼も慌てたようだよ。居場所を言い当てられたものだから、指摘した瞬間、声が上ずったよ」
「伊達男も形無しね、クスクス……」

15分後、局長が指定した喫茶店に、一般的な――今度は「東部都市では」と言う意味で――スーツ姿で、イクトミが姿を現した。
「あら、白上下じゃないのね」
指摘したエミルに、イクトミは苦笑いを返す。
「流石に目立ってしまいますから。わたくしも、色々と狙われる身でしてね」
「ふむ」
イクトミのその言葉に、局長が納得したような声を漏らす。
「つまりギルマン某を探したい、と言うのは、やはり組織に関係してのことかね?」
「左様です」
イクトミが椅子に座ったところで、局長がメニューを差し出す。
「私がおごろう。ここのコテージパイは絶品だそうだよ」
「ほう。ではそれと、コーヒーを」
そう返したイクトミに、局長はニヤっと笑いかける。
「君もコーヒー派かね?」
「ええ。氏はイギリス系とお見受けしますが、紅茶は?」
「実を言えば、あまり好きじゃあないんだ。それがイギリスを離れた理由の一つでもある」
「変わった方ですな」
「君ほどじゃあないさ」
やり取りを交わす間に注文し終え、間も無く一同の座るテーブルにコーヒーが4つ、運ばれてくる。
「コテージパイが温まるまでにはまだ多少、時間がある。それまでに話を詰めておこう。
まず、君からの依頼を受けるか否かについてだが、君から何かしらの情報を得られれば、受けてもいいと考えている」
「情報……、何のでしょうか?」
「まず、アンリ=ルイ・ギルマンとは何者なのか? 組織においてどんな役割を担っていたのか?
そして何故、君はギルマンを探しているのか? それを聞かせて欲しい」
「ふむ」
イクトミはコーヒーを一口飲み、それから局長の質問に応じた。
「ギルマンはいわゆる『ロジスティクス(兵站活動)』を担当していました。
武器・弾薬と言った装備の調達や侵攻・逃走経路の確保、基地や備蓄施設の設営、その他組織が行う作戦について、あらゆる後方支援を行う立場にありました。
そして……」
イクトミはそこで言葉を切り、エミルに視線を向けた。
「なによ?」
「大閣下がマドモアゼルの手にかかって死んだと思わせ――その実、陥落せんとする本拠地からまんまと彼を連れ出したのも、ギルマンの仕業なのです」
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ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
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