DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 8 ~ 悪名高き依頼人 ~ 7
ウエスタン小説、第7話。
組織攻略の端緒。
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7.
イクトミの言葉に、エミルは血相を変えた。
「嘘でしょ?」
「これが嘘であれば、わたくしは喜んでホラ吹きと呼ばれましょう。どんな嘲(あざけ)りを受けたとしても、どれほど幸せなことか。
ですが、甚(はなは)だ残念なことに、これは事実なのです。わたくしも間違い無く死んだものだ、と思っておりました」
「何があったの?」
「そもそもの発端は、古巣に呼び戻されたことです。
そう、再び組織の幹部として活動せよ、との命令が、わたくしに下ったのです」
やってきたコテージパイにチラ、と左目を向けつつ、イクトミはこう続ける。
「しかし今やわたくしは、孤独と砂漠の乾いた風、そして祖国フランスから渡ってきた美術品の数々を愛する日々を謳歌(おうか)しております。今更あの狂気の集団に戻ろうなどとは、露ほども思っておりません。
ですので丁重にお断りいたしましたところ、それから執拗(しつよう)に襲撃を受けまして。無論、トリスタン級の怪人でも現れぬ限り、わたくしが手こずるようなことは全くもってありえないのですが、それでも昼も夜も、場所も構わずに襲われては、たまったものではありません。
故に組織の現状を知り、逆にこちらから襲撃することで、二度と勧誘されぬようにと画策していたのですが、その過程で3つのことが分かったのです。
1つは、組織は以前と変わらず、大閣下の統率下にあること。2つは、組織はわたくしと同様、生き残った元幹部たちに召集をかけ、そのほとんどがそれに応じ、復帰していること。
そして3つ、元幹部の一人であるギルマンには召集がかかっておらず、にもかかわらず、組織の兵站が以前のように機能していることです」
「どう言うことだ?」
尋ねたアデルに、イクトミではなく、局長が答えた。
「つまりギルマンは組織から離れることなく、ずっとシャタリーヌの元にいたと言うことか」
「左様でございます。恐らくは大閣下が逃走している間もずっと、彼の本分である逃走ルートの確保に努め、同道していたものと思われます。
であれば彼のいるところに、かなり高い確率で、大閣下本人か、もしくは本拠地なり移動ルートなり、彼に関する何らかの情報が存在するものと」
「その情報をつかみ、君は組織を攻撃すると言うわけか。
そして――なるほど、君が何故、アルジャン兄弟を売るような真似をするのか。それも理解したよ。
要するに君は、エミルにアルジャン兄弟を始末してもらいたいと言うわけだね?」
「ええ、仰る通りです。先程も申し上げました通り、流石のわたくしでも、トリスタンには一歩及ばぬものでして。
ですがマドモアゼルならば、あの怪人を下すことは容易なはずです。事実、以前に対決した際にも、彼女はトリスタンを退けておりますから」
「買いかぶりよ」
エミルはそう返すが、イクトミは首を横に振る。
「買いかぶりなどではございません。極めて公平かつ客観的な評価です。わたくしはマドモアゼルの実力を、良く存じておりますから」
そう返したイクトミに、局長と、そしてアデルが反応した。
「ふむ?」
「どう言うことだ? 一緒に戦ってたって言うのか?」
アデルに問われ、イクトミはけげんな表情を浮かべる。
「左様ですが、何か? 顔ぶりから察するに、『そんなわけがあるか』とでも言いたげなご様子ですな」
「昨日、我々がエミル嬢に、ギルマンに付いて何か知らないか尋ねたのだが、彼女は『自分は幹部連中との関わりは無かった』と答えたんだ。
しかし君は幹部だったのだろう? となれば話が矛盾する。彼女が嘘をついたとも考えにくい」
「ふむ」
イクトミはエミルにチラ、と視線を向け、こう返した。
「確かに一緒に仕事をしていたとか、作戦に参加していたとか、そう言った事実はございません。ですがプライベートでは、それなりに親交はございます。
その折に、実力の程は十分拝見しております」
「なるほど。
まあ、ともかく――君の言葉を額面通り信じるとすれば、君にはアルジャン兄弟を無傷で葬れると言うメリットが有るわけだ。
そして我々も、彼らに懸けられた懸賞金を手にし、名うての賞金首を仕留めた名声をも得られると言うわけだ。
いいだろう。君の依頼、受けることにしよう」
「ありがとうございます」
イクトミがほっとした顔をし、握手しようと手を差し出したところで、局長がこう続けた。
「ただし、こちらも条件がある」
「なんでしょうか?」
いぶかしげに片眉を上げたイクトミに、局長は立ち上がるよう促す。
「詳しい話は離れてしよう。君と私だけでね」
「局長?」
目を丸くするエミルとアデルをよそに、イクトミは素直に立ち上がり、そのまま二人で店の奥へと消えた。
「……どう言うこと?」
尋ねたエミルに、アデルは肩をすくめるしか無かった。
「局長お得意の工作か何か、……だろうな」
数分後、二人は何事も無かったかのように奥から戻り、それからにこやかに歓談しつつ、コテージパイとコーヒーを平らげた後、そのままイクトミは店を出ていった。
アデルたちは局長の出した条件や密談の内容について尋ねたが、局長はニコニコと微笑みながらコーヒーを飲むばかりで、何も答えなかった。
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組織攻略の端緒。
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イクトミの言葉に、エミルは血相を変えた。
「嘘でしょ?」
「これが嘘であれば、わたくしは喜んでホラ吹きと呼ばれましょう。どんな嘲(あざけ)りを受けたとしても、どれほど幸せなことか。
ですが、甚(はなは)だ残念なことに、これは事実なのです。わたくしも間違い無く死んだものだ、と思っておりました」
「何があったの?」
「そもそもの発端は、古巣に呼び戻されたことです。
そう、再び組織の幹部として活動せよ、との命令が、わたくしに下ったのです」
やってきたコテージパイにチラ、と左目を向けつつ、イクトミはこう続ける。
「しかし今やわたくしは、孤独と砂漠の乾いた風、そして祖国フランスから渡ってきた美術品の数々を愛する日々を謳歌(おうか)しております。今更あの狂気の集団に戻ろうなどとは、露ほども思っておりません。
ですので丁重にお断りいたしましたところ、それから執拗(しつよう)に襲撃を受けまして。無論、トリスタン級の怪人でも現れぬ限り、わたくしが手こずるようなことは全くもってありえないのですが、それでも昼も夜も、場所も構わずに襲われては、たまったものではありません。
故に組織の現状を知り、逆にこちらから襲撃することで、二度と勧誘されぬようにと画策していたのですが、その過程で3つのことが分かったのです。
1つは、組織は以前と変わらず、大閣下の統率下にあること。2つは、組織はわたくしと同様、生き残った元幹部たちに召集をかけ、そのほとんどがそれに応じ、復帰していること。
そして3つ、元幹部の一人であるギルマンには召集がかかっておらず、にもかかわらず、組織の兵站が以前のように機能していることです」
「どう言うことだ?」
尋ねたアデルに、イクトミではなく、局長が答えた。
「つまりギルマンは組織から離れることなく、ずっとシャタリーヌの元にいたと言うことか」
「左様でございます。恐らくは大閣下が逃走している間もずっと、彼の本分である逃走ルートの確保に努め、同道していたものと思われます。
であれば彼のいるところに、かなり高い確率で、大閣下本人か、もしくは本拠地なり移動ルートなり、彼に関する何らかの情報が存在するものと」
「その情報をつかみ、君は組織を攻撃すると言うわけか。
そして――なるほど、君が何故、アルジャン兄弟を売るような真似をするのか。それも理解したよ。
要するに君は、エミルにアルジャン兄弟を始末してもらいたいと言うわけだね?」
「ええ、仰る通りです。先程も申し上げました通り、流石のわたくしでも、トリスタンには一歩及ばぬものでして。
ですがマドモアゼルならば、あの怪人を下すことは容易なはずです。事実、以前に対決した際にも、彼女はトリスタンを退けておりますから」
「買いかぶりよ」
エミルはそう返すが、イクトミは首を横に振る。
「買いかぶりなどではございません。極めて公平かつ客観的な評価です。わたくしはマドモアゼルの実力を、良く存じておりますから」
そう返したイクトミに、局長と、そしてアデルが反応した。
「ふむ?」
「どう言うことだ? 一緒に戦ってたって言うのか?」
アデルに問われ、イクトミはけげんな表情を浮かべる。
「左様ですが、何か? 顔ぶりから察するに、『そんなわけがあるか』とでも言いたげなご様子ですな」
「昨日、我々がエミル嬢に、ギルマンに付いて何か知らないか尋ねたのだが、彼女は『自分は幹部連中との関わりは無かった』と答えたんだ。
しかし君は幹部だったのだろう? となれば話が矛盾する。彼女が嘘をついたとも考えにくい」
「ふむ」
イクトミはエミルにチラ、と視線を向け、こう返した。
「確かに一緒に仕事をしていたとか、作戦に参加していたとか、そう言った事実はございません。ですがプライベートでは、それなりに親交はございます。
その折に、実力の程は十分拝見しております」
「なるほど。
まあ、ともかく――君の言葉を額面通り信じるとすれば、君にはアルジャン兄弟を無傷で葬れると言うメリットが有るわけだ。
そして我々も、彼らに懸けられた懸賞金を手にし、名うての賞金首を仕留めた名声をも得られると言うわけだ。
いいだろう。君の依頼、受けることにしよう」
「ありがとうございます」
イクトミがほっとした顔をし、握手しようと手を差し出したところで、局長がこう続けた。
「ただし、こちらも条件がある」
「なんでしょうか?」
いぶかしげに片眉を上げたイクトミに、局長は立ち上がるよう促す。
「詳しい話は離れてしよう。君と私だけでね」
「局長?」
目を丸くするエミルとアデルをよそに、イクトミは素直に立ち上がり、そのまま二人で店の奥へと消えた。
「……どう言うこと?」
尋ねたエミルに、アデルは肩をすくめるしか無かった。
「局長お得意の工作か何か、……だろうな」
数分後、二人は何事も無かったかのように奥から戻り、それからにこやかに歓談しつつ、コテージパイとコーヒーを平らげた後、そのままイクトミは店を出ていった。
アデルたちは局長の出した条件や密談の内容について尋ねたが、局長はニコニコと微笑みながらコーヒーを飲むばかりで、何も答えなかった。
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