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    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN 8 ~ 悪名高き依頼人 ~ 11

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    ウエスタン小説、第11話。
    怪盗紳士の真の顔。

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    11.
    「それじゃ殺人犯として名前が知られ出したのは、最近の話なのね?」
     エミルにそう尋ねられ、局長はうなずく。
    「うむ。しかし妙なのは、それに関する風説の流れの、その『速さ』だ。
     確かに『強盗殺人』などと言うものは卑劣で恥ずべき犯罪であるし、故に悪評として広まるのが早いことは、想像に難くない。だがそれにしても、他の凶悪犯の名が知れ渡る速度と比較すれば、あまりにも早すぎるのだ。
     例えばあの『スカーレット・ウルフ』の場合、1881年にW州における大量殺人が発覚し、それを東部の司法当局が知り、懸賞金の額が上がったのは、そのさらに半年も後だった。
     80年代のはじめであれば、既に電話網が確立されて久しいし、鉄道網だって成熟の度合いは今とほとんど変わらない。にもかかわらず『ウルフ』は半年、イクトミは数週間だ。
     3桁を超える無差別殺人を犯してきた『ウルフ』と、資産家2人だけのイクトミであれば、人民に危険を及ぼす可能性は、どう考えたって前者だ。当局にしても、イクトミなんぞを『ウルフ』以上の危険人物だと捉えていたとは思えん。
     となれば、考えられるのは――風説を操り、司法当局へ伝わる速度を早めた者がいる、と言うことだ」
    「つまり組織の奴らが、イクトミを捕らえるために、世論と司法当局を利用したってこと?」
     エミルのこの問いにも、局長は同様にうなずいて見せた。
    「無論、『捕まえるのはあくまで自分たちだ』とは、考えていただろうがね。……おっと、話が逸れてしまった。
     ともかくイクトミを拿捕、拘束、あるいは殺害せんと、組織は全力を挙げている。風説の流布にしてもそうだし、滅多やたらに襲撃しているのも、そうと言える。
     であればギルマンも大忙しだろう。組織の兵隊たちに、じゃぶじゃぶと武器・弾薬を供給していたに違いない」
    「……! つまりO州・K州・N州で頻繁に武器の輸送を行っていた奴が……」
     アデルの言葉に、局長はニヤっと笑った。
    「そうだ。我々が黄金銃事件で得た、イクトミの犯行ルート及び盗難品リストと、その密輸送の情報を合わせれば……」
    「自ずとギルマンの動向がつかめる、ってワケね」



     3日後、ロドニーから伝えられた情報と、自分たちの資料を基にし、局長は見事、目標を割り出すことに成功した。
    「ジャック・スミサーなる、この人物が怪しいな。
     いかにも偽名だが、それだけじゃあない。イクトミが盗みを働く前後数日、決まって貨物車1~2台分の武器・弾薬をその近辺に送っている。
     この人物を洗えば、かなり高い確率でギルマンを突き止めることができるだろう」
    「ねえ、局長。あなたの話しぶりから、ずっと考えてたんだけど」
     と、エミルが口を挟む。
    「イクトミが『美術品』を盗むのは、もしかして口実だったんじゃない?
     そしてあなた、それを知っていたか、イクトミから聞いていたんじゃないかしら?」
    「……うむ」
     局長は目線を資料に落としたまま、小さくうなずく。
    「私も世間から見向きもされぬ、しかし一部の愛好家には高く評価されると言うような逸品にはロマンがあると考えるタイプであるし、多少は蒐集(しゅうしゅう)もしている。
     だがそんな私の目からしても、イクトミの集めた美術品のほとんどは、はっきり言ってガラクタとしか映らなかった。
     事実、黄金銃事件で押収し、持ち主のところに返そうとしたモノのほとんどは、『いらない』と突っ返された。元の持ち主もゴミとしか思っていなかったような、益体(やくたい)も無い代物ばかりだったんだよ。
     とすれば彼が盗みを働いていたのは、本来の目的を隠すための偽装(フェイク)なのではないか? ……と、そう考えていた。
     その考えが確信に変わったのは、リゴーニ事件だ。彼は『ガリバルディの剣』なるものを盗もうとうそぶいていたらしいが、地上の屋敷にも地下工場にも、それに該当しそうなものは無かったそうだ。
     リゴーニ、あるいは彼の部下が持ち去った可能性も無くは無いが、剣を置く台座であるとか壁に掛けるフックだとか、そう言うものも、どこにも無かったと聞いている。つまり『元々剣があった』と言う形跡は、まるで無かったんだ。
     その上、君たちをわざわざ、自分の隠れ家に連れ込んだこともおかしい。そんなことをすれば間違い無く、隠れ家は司法当局に抑えられる。血道を上げて集めたはずのコレクションが押収されてしまうことは、容易に想像できたはずだ。
     なのに彼はあっさり隠れ家に君たちを入れていたし、さらにその後、一つとして取りに戻ったような様子も無かった。
     つまり彼は剣を口実にして君たちに協力を求め、最初から地下工場を暴くつもりだったのだ」
    「え、……じゃあ」
     目を丸くするアデルに、局長は目線をチラ、と向けた。
    「そうだ。彼の正体は、フランス絡みの美術品を蒐(あつ)める怪盗紳士でも、卑劣な強盗殺人を繰り返す凶悪犯でも無い。
     彼は組織を潰すため、たった一人で行動していた、義勇の士だったのだ」
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