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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第5部

    蒼天剣・武闘録 5

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    晴奈の話、第211話。
    瞬殺の女神伝説。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
    (まったく、ゴールドコーストと言う街は、どこへ行っても騒がしいな)
     裏通りを歩く晴奈はぼんやり、そんなことを考えていた。
     一通り体を動かし終えた次の日、晴奈と小鈴はピースに連れられ、闘技場までやって来た。ちなみに小鈴は参加するわけではなく、晴奈の応援役である。
    「あれが九尾闘技場だ。
     表向き、持ち主は九尾会って言う商会なんだけど、実質的にはゴールドマン系列。ここでの売り上げの一部が、金火狐一族の懐に入っていくらしい。世界的な名家がおおっぴらにこんな商売、できないってことなのかもね。
     ま、そんなこぼれ話は置いといて……」
     ピースを先頭に、晴奈たちは闘技場に入っていく。
    「あそこが受付だ。出場登録しに行こう。あ、それと……」
     ピースは懐から名刺を取り出し、いたずらっぽく笑う。
    「この通り、コウさんのマネージャーもさせてもらうよ。頑張ってくれよ、コウさん」

     登録して30分後、晴奈の初試合が組まれた。
    「次の試合はー、11時30分よりー、A闘技場にて行われますー。対戦者はー、東口にー、セイナ・コウさんー。西口にー、ベニト・ノースさんー」
     非常にやる気の無さげなアナウンスに呼ばれ、晴奈は東口からリングに上がった。相手はいかにも粗暴そうなチンピラである。
    「……へっ」
     その下卑た笑みに対し、晴奈は肩をすくめる。
    (あからさまに油断している。どうせ『女か、楽勝だ』とでも思っているのだろうな)
     対峙して間も無く、依然として気だるげなアナウンスが試合開始を告げた。
    「それじゃー、はじめー」
     が、その直後――拡声器の向こう側から、ボソボソと声が聞こえてきた。
    「……おい、終わってる」
    「何言ってるんですかー、今のは開始の合図ですよー?」
    「見ろって、ほら」
    「えー? ……えー!?」
     2秒もしないうちに、晴奈の対戦相手は大の字になって気絶していた。
    「は、はやっ」
     ピースは目を丸くして、観客席で口をあんぐり開けている。のんびり食べようとしていたらしいポップコーンが、口の端からポトポトこぼれていた。
    「し、勝者、セイナ・コウさん、です」
     間延びしていたアナウンスも、この時ばかりはしゃっきりと聞こえた。

    「鬼だな、コウさん」
     賞金を受け取るカウンターで、ピースは眼鏡を拭きつつ笑っていた。
    「まさか、2秒で決着付くとは思わなかった。このポップコーン、プレアのお土産になっちゃったな」
    「今日はもう、おしまいですか?」
     ピースは晴奈と小鈴にポップコーンを差し出しながら、小さくうなずく。
    「ああ。原則、参加は一日一回だけなんだ。
     ケガとかしてたら、早めに治療しないといけないからね。無茶やって死なれても、困るってわけさ」
    「なるほど」
     ピースはニヤリと笑い、袋を晴奈に差し出した。
    「ま、とりあえず今日はウチの取り分は無しでいいよ。もらった額が少ないし」
    「ほう……。いくらになりました?」
     小鈴が袋を開け、中を見る。
    「……銀貨、2枚」
    「200クラムだね。ま、ロイドリーグじゃこんなもんさ」



     ともあれその日は初勝利を記念して、朱海の店にチェイサー一家も集まって、祝杯を挙げることになった。
    「かんぱーい」
    「乾杯っ」
     ピースは楽しそうに、晴奈の勝利をたたえる。
    「いやぁ、流石に焔流の剣士だけはある。こんな幸先のいいスタートは、十数年ぶりだよ」
    「ほう……?」
     晴奈は少し、意外に思った。
    「その口ぶりだと、以前に私と同じく、瞬殺した者がいたと言うことですか?」
    「ええ、一人いたのよ。……あはは、すごいのよその人。何と、現チャンピオンを当時のエリザリーグで、たったの20秒で倒しちゃったんだから」
    「……?」
     その言葉で、晴奈の記憶が掘り起こされる。
    (闘技場のチャンピオンを? 10年ほど昔、何か、そんな話を聞いたような……?)
    「その、チャンピオンの名は?」
     ピースとボーダが、同時に答えた。
    「ピサロ・クラウン。一言で言えば、嫌な奴」
     その名を聞いた瞬間、晴奈は尻尾をバシバシと逆立たせた。
    「ま、まさか、とは思いますが、……クラウンを倒したその方の名前は、もしかして、……柊雪乃と言うのでは?」
    「あら? ユキノを知ってるの?」
     今度はチェイサー夫妻が、揃って目を丸くした。



    「セイナ、……だと?」
     裏通りの一角、いかにもごろつきばかりが住んでいそうな建物の奥で。
    「どうしたんですか、キング?」
     キングと呼ばれた熊獣人は、闘技場の試合結果を知らされ、短くうなった。
    「聞き覚えがあるぜ、そいつの名をよ。あのいけ好かねえ長耳女の弟子じゃなかったか?」
    「長耳女? あの、ヒイラギとか言う?」「てめえ」
     その「熊」は付き人の胸倉をつかみ、そのまま壁に叩きつけた。
    「ぎゃッ!?」
    「俺の前で、その名を呼ぶんじゃねえ!」
     倒れた付き人に唾を吐きかけ、その熊獣人――「キング」クラウンは鼻息荒く、激怒していた。

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    2016.05.12 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    確かにこのタイミングで名前が出たことはビックリですね。
    晴奈にとっても、LandMさんにとっても。

    NoTitle 

    この段階でユキノの名前に遭遇するとは思わなかったですね。4部では全く出番がなかったですからね。まあ、今着手している関係もあって、2重にびっくりしましたね。運命を感じるというか、なんというか……。
    どうも、LandMでした。本当にびっくりしました。
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