DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 8 ~ 悪名高き依頼人 ~ 13
ウエスタン小説、第13話。
独白。
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13.
「人に歴史あり、か。だがそれを私に聞かせて、何をしたい?」
アーサー老人に2杯めのバーボンを注がれ、それもイクトミは飲み干す。
「誰かに私の人となりを知っていただきたい、……などと言うのは厚かましいですな。いや、そんなことは申しますまい。お願いの話を、先にいたしましょう。
組織と戦い、壊滅させることは、わたくしに課された宿命。この生命を賭してでも、成し遂げねばならぬ役目です。ですがわたくしには今、味方がおりません。
どうか組織と戦うため、力をお貸しいただけませんでしょうか?」
アーサー老人もバーボンを呷(あお)り、静かにうなずく。
「どの道、私もFも組織と戦おうとしていたのだ。我々にとっても、君と言う凄腕の協力が得られると言うのならば、断る理由は無い。
だが君と手を組むと言うことは、即ち探偵が犯罪者と手を組むと言うことでもある。関係を明かすことは、我々にとってマイナスになるだろう」
「ご心配なく。いくつかの理由から、結果的にその心配は無くなるでしょう」
イクトミの回りくどい言い方に、アーサー老人は首を傾げる。
「どう言う意味かね?」
「わたくしが公に殺害した人間については、ご存知でしょうか」
「2件――1人目はN州レッドヤードの投資家、フランシスコ・メイ氏が秘匿していたと言う、18世紀製の気球用バーナーだったか、それを強奪するために殺害。
そして2人目は、全純金製のSAA(シングル・アクション・アーミー)を強奪するため、グレッグ・ポートマン氏を。……と記憶している」
「ええ、左様です。世間一般には、わたくしがそれら『ガラクタ』の蒐集のため、彼らを殺害したものと認識されているでしょう」
「『ガラクタ』だと?」
思いもよらないイクトミの言葉に、アーサー老人は自分の耳を疑った。
「お前は、……まさか、……まさか、数々の窃盗行為は、偽装だったと言うのか?」
「左様です。それについても、詳しく説明せねば、何が何だか見当も付きますまい」
わたくしが組織との戦いを始めたのは、およそ1年半か、2年ほど前でしたか……。
あの狂気の集団から逃れ、気ままな生活を謳歌していたのですが、そこへ突如、無くなったはずの組織からの召集令状が届きました。
偽名で生活し、犯罪とは縁遠い職業に就き、少しばかりの友人に囲まれていた、わたくしのところに。
当然、わたくしは令状を無視しました。今更あんなところには戻れない、戻りたくない、……と。
そして、半月ほど経った頃でしょうか――わたくしは突然、町の銀行を襲ったコソ泥としての汚名を着せられ、訳の分からぬままに拘束・投獄されました。
わたくしには、その一日はとても、とても恐ろしく、冷たく、おぞましい一日でした。昨日まで淡々と仕事に勤しんでいた職場を叩き出され、昨晩まで仲良く酒を飲んでいた友人たちに口汚く罵られながら、わたくしの新たな人生には無縁と信じていた監獄に突然、放り込まれたのですから。
しかし、さらに恐ろしいのは、ここからでした。
檻の中で打ちひしがれていたわたくしの前に、あの紋章を持つ者が2名、現れたのです。彼らはわたくしに、こう告げました。
「これで我々の力が、良く分かっただろう。
素直に我々の下に戻ってくるなら、すぐにでもここから出してやる。断ると言うのならば、君は明日にでも絞首刑になるだろう。
窃盗と、友人殺しの罪でね」
そう告げられた瞬間――わたくしの心の中に突如、天啓のようなものが飛来しました。いや、それはむしろ呪詛(じゅそ)、呪いの言葉と言ってもいいようなものだったのかも知れません。
組織がこの世にある限り、わたくしには未来永劫、平和で幸せな生活などと言うものは訪れないのだと。
わたくしは立ち上がり、檻の鉄柵をこの両の腕で引きちぎって牢を抜け、慌てふためく彼らを殴り据えて気絶させ、牢の中へ投げ捨てました。
そしてわたくしは、町から逃げたのです。
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独白。
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13.
「人に歴史あり、か。だがそれを私に聞かせて、何をしたい?」
アーサー老人に2杯めのバーボンを注がれ、それもイクトミは飲み干す。
「誰かに私の人となりを知っていただきたい、……などと言うのは厚かましいですな。いや、そんなことは申しますまい。お願いの話を、先にいたしましょう。
組織と戦い、壊滅させることは、わたくしに課された宿命。この生命を賭してでも、成し遂げねばならぬ役目です。ですがわたくしには今、味方がおりません。
どうか組織と戦うため、力をお貸しいただけませんでしょうか?」
アーサー老人もバーボンを呷(あお)り、静かにうなずく。
「どの道、私もFも組織と戦おうとしていたのだ。我々にとっても、君と言う凄腕の協力が得られると言うのならば、断る理由は無い。
だが君と手を組むと言うことは、即ち探偵が犯罪者と手を組むと言うことでもある。関係を明かすことは、我々にとってマイナスになるだろう」
「ご心配なく。いくつかの理由から、結果的にその心配は無くなるでしょう」
イクトミの回りくどい言い方に、アーサー老人は首を傾げる。
「どう言う意味かね?」
「わたくしが公に殺害した人間については、ご存知でしょうか」
「2件――1人目はN州レッドヤードの投資家、フランシスコ・メイ氏が秘匿していたと言う、18世紀製の気球用バーナーだったか、それを強奪するために殺害。
そして2人目は、全純金製のSAA(シングル・アクション・アーミー)を強奪するため、グレッグ・ポートマン氏を。……と記憶している」
「ええ、左様です。世間一般には、わたくしがそれら『ガラクタ』の蒐集のため、彼らを殺害したものと認識されているでしょう」
「『ガラクタ』だと?」
思いもよらないイクトミの言葉に、アーサー老人は自分の耳を疑った。
「お前は、……まさか、……まさか、数々の窃盗行為は、偽装だったと言うのか?」
「左様です。それについても、詳しく説明せねば、何が何だか見当も付きますまい」
わたくしが組織との戦いを始めたのは、およそ1年半か、2年ほど前でしたか……。
あの狂気の集団から逃れ、気ままな生活を謳歌していたのですが、そこへ突如、無くなったはずの組織からの召集令状が届きました。
偽名で生活し、犯罪とは縁遠い職業に就き、少しばかりの友人に囲まれていた、わたくしのところに。
当然、わたくしは令状を無視しました。今更あんなところには戻れない、戻りたくない、……と。
そして、半月ほど経った頃でしょうか――わたくしは突然、町の銀行を襲ったコソ泥としての汚名を着せられ、訳の分からぬままに拘束・投獄されました。
わたくしには、その一日はとても、とても恐ろしく、冷たく、おぞましい一日でした。昨日まで淡々と仕事に勤しんでいた職場を叩き出され、昨晩まで仲良く酒を飲んでいた友人たちに口汚く罵られながら、わたくしの新たな人生には無縁と信じていた監獄に突然、放り込まれたのですから。
しかし、さらに恐ろしいのは、ここからでした。
檻の中で打ちひしがれていたわたくしの前に、あの紋章を持つ者が2名、現れたのです。彼らはわたくしに、こう告げました。
「これで我々の力が、良く分かっただろう。
素直に我々の下に戻ってくるなら、すぐにでもここから出してやる。断ると言うのならば、君は明日にでも絞首刑になるだろう。
窃盗と、友人殺しの罪でね」
そう告げられた瞬間――わたくしの心の中に突如、天啓のようなものが飛来しました。いや、それはむしろ呪詛(じゅそ)、呪いの言葉と言ってもいいようなものだったのかも知れません。
組織がこの世にある限り、わたくしには未来永劫、平和で幸せな生活などと言うものは訪れないのだと。
わたくしは立ち上がり、檻の鉄柵をこの両の腕で引きちぎって牢を抜け、慌てふためく彼らを殴り据えて気絶させ、牢の中へ投げ捨てました。
そしてわたくしは、町から逃げたのです。
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