「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・武闘録 6
晴奈の話、第212話。
おかしな黒服。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
時間は少し戻り、晴奈が闘技場に出向いていた、丁度その頃。
「いらっしゃいませ」
フォルナと朱海は開店準備をすませ、本日一人目の客を出迎えていた。
「あ、ど、ども」
その客を見たフォルナは、首をかしげた。
「あら?」
「どした、フォルナ?」
朱海がフォルナの様子に気付いて、声をかけてきた。
「いえ、……あちらの黒服のお客さん、見覚えが無いような」
「そうだな、初顔だ」
朱海は水を持ち、その狐獣人の黒服に声をかける。
「お客さん、この店初めてかい?」
「ん、ああ。いつもは、ほら、えっと、……あっちの店に行ってんだけど、たまには、別の店に行ってみようかな、ってさ」
「そっか。……帽子、取ったらどうだ? 暑いよ、店ん中じゃ」
黒服はつばの深い帽子を深く被り、目線を会わせようとしない。
「……いや、ちょい事情があってな。……ほら、まあ、色々あんだよ」
「そっか。……ま、いいけどさ。何にする、お客さん?」
「ぅえ?」
黒服は素っ頓狂な声を上げる。
「だからー、飯は何食うの、って聞いてんだけど」
「あ、あーあー。そうですね、……コホン、そうだったな、うん。えーと、じゃ、んー」
「今日は美味しそうな鮭が入っておりますけれど」
しどろもどろになっている黒服を見かねたフォルナが、助け舟を出した。
「お、ああ、えっと、サケ? あ、んじゃ、それお願い、……頼もうかな、うん」
「アンタさ、ウチのご飯じゃなくてウチの『裏メニュー』に用があんじゃないの?」
朱海も見かねていたらしい。黒服はようやく、顔を上げた。
「あ、う、うん。……良かった、間違ってたらどうしようかと思ってたんです、だ、うん」
「……ドコのもんだよ、アンタ?」
「え、うー、それは、あのー、言えない」
「じゃ、売らない」
「……な、内緒にしてくれるなら」
黒服があまりにおどおどとしているので、朱海もフォルナもたまらず笑い出した。
「……ぷっ、くくく」「ふふ、クスクス……」
「ちょ、ちょっと。何で笑うんですかぁ」
「そりゃ笑うよ、バカ。落ち着けって。
ホラ、水飲め。楽にしていいから。あと、しゃべりやすいようにしゃべれ」
「あ、……はい。……あの、じゃあ、えっと」
「『えーと』とか『あの』『その』とかはいらない。まず、ドコのヤツなのか教えてくれ」
「は、はい」
黒服はコソコソと朱海に耳打ちする。朱海の虎耳がピクピクと動き、続いて目を丸くする。
「へー、そーなんだ。ふーん」
「だ、誰にも言わないでくださいよ」
「まあ、言いやしないけどさ。んで、その金火……」「わわわわわわ、言わないでって!」「おっと、悪い悪い。んで、ウチに何を買いに来たんだ?」
「……これ、を」
黒服はおどおどしながら、スーツの内ポケットから一枚の紙を差し出す。朱海はそれを手に取り、しげしげと眺めた。
「あー、はいはい。ちょっと待ってな」
朱海はそう言うと、カウンターの奥に消えた。二人きりになったフォルナと黒服は、黙って見つめ合っている。
「わたくしの顔に何か付いておりますかしら?」
「あ、……いや、何でもないです」
黒服はぷい、とそっぽを向く。そのしぐさが面白かったので、フォルナはもう一度声をかけてみた。
「ふふふ……。わたくし、フォルナ・ファイアテイルと申します。あなた、お名前は?」
「……エラン」
「よろしく、エラン」
そう言ってフォルナはにっこり笑って会釈した。
それを見たエランの耳がぱたっと揺れ、帽子がずれる。その拍子に、ずれた帽子のその下にある金髪がチラリと見えた。
「わ、わっ」
「あら、綺麗な髪。わたくしと同じ色ですわね」
「あっ、うん。まあ、ちょっとちが、……あ、いや、一緒ですね、はい」
エランが慌てて帽子を被り直したところで、朱海が戻ってきた。
「待たせたな。ほれ、こいつがその資料だ」
「あ、ども。……そ、それじゃこれで失礼して」
「おいおい、金払わずに出るつもりかい?」
「あっ、あ、すみません」
エランは終始おどおどとし、ひどく慌てていた。
この変な客が来た以外は、極めて平和に、赤虎亭は繁盛していた。
蒼天剣・武闘録 終
@au_ringさんをフォロー
おかしな黒服。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
時間は少し戻り、晴奈が闘技場に出向いていた、丁度その頃。
「いらっしゃいませ」
フォルナと朱海は開店準備をすませ、本日一人目の客を出迎えていた。
「あ、ど、ども」
その客を見たフォルナは、首をかしげた。
「あら?」
「どした、フォルナ?」
朱海がフォルナの様子に気付いて、声をかけてきた。
「いえ、……あちらの黒服のお客さん、見覚えが無いような」
「そうだな、初顔だ」
朱海は水を持ち、その狐獣人の黒服に声をかける。
「お客さん、この店初めてかい?」
「ん、ああ。いつもは、ほら、えっと、……あっちの店に行ってんだけど、たまには、別の店に行ってみようかな、ってさ」
「そっか。……帽子、取ったらどうだ? 暑いよ、店ん中じゃ」
黒服はつばの深い帽子を深く被り、目線を会わせようとしない。
「……いや、ちょい事情があってな。……ほら、まあ、色々あんだよ」
「そっか。……ま、いいけどさ。何にする、お客さん?」
「ぅえ?」
黒服は素っ頓狂な声を上げる。
「だからー、飯は何食うの、って聞いてんだけど」
「あ、あーあー。そうですね、……コホン、そうだったな、うん。えーと、じゃ、んー」
「今日は美味しそうな鮭が入っておりますけれど」
しどろもどろになっている黒服を見かねたフォルナが、助け舟を出した。
「お、ああ、えっと、サケ? あ、んじゃ、それお願い、……頼もうかな、うん」
「アンタさ、ウチのご飯じゃなくてウチの『裏メニュー』に用があんじゃないの?」
朱海も見かねていたらしい。黒服はようやく、顔を上げた。
「あ、う、うん。……良かった、間違ってたらどうしようかと思ってたんです、だ、うん」
「……ドコのもんだよ、アンタ?」
「え、うー、それは、あのー、言えない」
「じゃ、売らない」
「……な、内緒にしてくれるなら」
黒服があまりにおどおどとしているので、朱海もフォルナもたまらず笑い出した。
「……ぷっ、くくく」「ふふ、クスクス……」
「ちょ、ちょっと。何で笑うんですかぁ」
「そりゃ笑うよ、バカ。落ち着けって。
ホラ、水飲め。楽にしていいから。あと、しゃべりやすいようにしゃべれ」
「あ、……はい。……あの、じゃあ、えっと」
「『えーと』とか『あの』『その』とかはいらない。まず、ドコのヤツなのか教えてくれ」
「は、はい」
黒服はコソコソと朱海に耳打ちする。朱海の虎耳がピクピクと動き、続いて目を丸くする。
「へー、そーなんだ。ふーん」
「だ、誰にも言わないでくださいよ」
「まあ、言いやしないけどさ。んで、その金火……」「わわわわわわ、言わないでって!」「おっと、悪い悪い。んで、ウチに何を買いに来たんだ?」
「……これ、を」
黒服はおどおどしながら、スーツの内ポケットから一枚の紙を差し出す。朱海はそれを手に取り、しげしげと眺めた。
「あー、はいはい。ちょっと待ってな」
朱海はそう言うと、カウンターの奥に消えた。二人きりになったフォルナと黒服は、黙って見つめ合っている。
「わたくしの顔に何か付いておりますかしら?」
「あ、……いや、何でもないです」
黒服はぷい、とそっぽを向く。そのしぐさが面白かったので、フォルナはもう一度声をかけてみた。
「ふふふ……。わたくし、フォルナ・ファイアテイルと申します。あなた、お名前は?」
「……エラン」
「よろしく、エラン」
そう言ってフォルナはにっこり笑って会釈した。
それを見たエランの耳がぱたっと揺れ、帽子がずれる。その拍子に、ずれた帽子のその下にある金髪がチラリと見えた。
「わ、わっ」
「あら、綺麗な髪。わたくしと同じ色ですわね」
「あっ、うん。まあ、ちょっとちが、……あ、いや、一緒ですね、はい」
エランが慌てて帽子を被り直したところで、朱海が戻ってきた。
「待たせたな。ほれ、こいつがその資料だ」
「あ、ども。……そ、それじゃこれで失礼して」
「おいおい、金払わずに出るつもりかい?」
「あっ、あ、すみません」
エランは終始おどおどとし、ひどく慌てていた。
この変な客が来た以外は、極めて平和に、赤虎亭は繁盛していた。
蒼天剣・武闘録 終



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
「収益金は世界平和のために使われています」ですね(^^)
熊獣人、クラウンとかいったけど、「王冠(CROWN)」じゃなくて「道化師(CLOWN)」のほうじゃないのかなあ、晴奈が相手じゃ……。
熊獣人、クラウンとかいったけど、「王冠(CROWN)」じゃなくて「道化師(CLOWN)」のほうじゃないのかなあ、晴奈が相手じゃ……。
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
NoTitle
>用心棒よりは稼げるけど、ひとつ間違えたらさらに借金が増えたりするんじゃないのかなあ
一応、ピースさんとこの規約としては、「賞金と賭けの賞金から何割かを徴収」となってます。
緒戦で負けが込めばそのまんま首切り、損害は闘技場への登録料と数回のマネジメント費くらいで済む。
順当に勝ってくれればホクホク。そんな感じになってます。
>おっと、『賭博行為厳禁』でしたね
建前上は厳禁です。
しかし実際のところ、現実世界においても某ボードゲームから某国技、某プロスポーツに至るまで、勝負事には賭けが付きもの。
いくら厳しく禁止したって、やる人間・組織はポコポコ現れます。
それなら非公式ででも、管理する団体を設けて制御した方が、……と金火狐財団も考えるわけで。
そんなわけで、事実上は厳禁でもなんでもなかったり。
>「収益金は世界平和のために使われています」ですね(^^)
そこはもう、平和と利益を愛する金火狐財団ですから( ´∀`)b
>「王冠(CROWN)」じゃなくて「道化師(CLOWN)」のほうじゃないのかなあ
キャラ紹介では「CROWN」となっていますが、これはダブルミーニング。
ポールさんの仰るとおりな面もありますね。
詳しくは後ほど……。