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    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 2

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    ウエスタン小説、第2話。
    合同捜査チーム。

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    2.
    「大事(おおごと)になってるな」
     そうつぶやいたアデルに、向かいの席に座っていたロバートがかくんかくんと首を振って答える。
    「マジすごいっスね。こんな大勢……」
    「しかもこの車輌1台、丸ごと俺たちの貸し切りだぜ。
     その上、経費も向こう持ちだってさ。局長が喜んでた」
    「太っ腹っスねー、流石お役人って感じっス」
     騒いでいた二人の脚を、エミルが蹴りつける。
    「いてっ」「あいたっ!? ……なにするんスか、姉御」
    「みんな、こっちにらんできてるわよ。騒ぐんなら客車の外でやりなさい」
    「……おっとと」
     慌てて口を手で押さえるが、それでもアデルは会話をやめない。
    「しかしさ、特務捜査局も本気出してきてるよな、これ」
    「そりゃそうよ。かなりの凶悪犯だもの、トリスタンは。
     むしろこれくらいの人数でかからなきゃ、返り討ちにされるわ」
     そう返し、エミルも客車の中を一瞥する。
     客車にはアデルたちを含め20人ほど乗っていたが、その全員が連邦特務捜査局の人間である。
     さらには拳銃や小銃、散弾銃と言った物騒なものを軒並み装備しており、その光景は「捕物」と言うよりも、軍隊の遠征を彷彿とさせるものだった。
    「奥に2つある木箱、何だか分かるか?」
     尋ねたアデルに、ロバートは、今度は首を横に振る。
    「何スか?」
    「ガトリング銃だよ。どうしても逃げられそうになった時の、最後の手段らしいぜ」
    「が、ガトリングっスか!? 無茶苦茶じゃないっスか」
    「あんたらねぇ」
     もう一度、エミルが二人の脚を蹴る。
    「いってぇ」「あうちっ!?」
    「あんまりぐだぐだしゃべってると、あたしがあんたたちをガトリングで撃つわよ」
    「わ、分かった、分かった」「すんませんっス……」
     二人が黙り込み、ようやくエミルがほっとしたような表情を見せる。
    「あ、そう言や」
     が、すぐにロバートが口を開き、エミルがまた、目を吊り上がらせた。
    「まだ何かあるの?」
    「あ、いえ、あのー、……ちょっと質問っス、はい」
    「どうぞ。短めにね」
    「そ、そのっスね、何でこんなに厳重警戒なんだろうなーって。
     トリスタン・アルジャンって、そんなにヤバいヤツなんスか? いや、俺も一回遭ったし、ヤバさは何となく分かるんスけど、相手は弟含めて、たったの2人っスよ?
     ガトリングまで用意するなんて、やり過ぎなんじゃないかなーって思うんスけども」
    「やり過ぎとは思わないわね、あたしは」
     一転、エミルの顔から険が抜ける。
    「聞いた話じゃ、あいつには猛火牛(レイジングブル)だなんて大仰な仇名があるらしいけど、実態はそれどころじゃないわ。
     その野牛と、それから獅子と灰色熊を足して、そこへさらに3を掛けたような、屈強かつ異様な肉体の持ち主よ。その上、一度こうと決めたら絶対に曲げない、まさに鋼の如き精神をも兼ね備えてる。
     そんな人間重機関車みたいなバケモノが真っ向から襲ってきたら、あんた勝てると、……いえ、生きてられると思う?」
    「う……」
     トリスタンの人物評を聞き、ロバートは顔を青くする。
    「犯罪歴も凶悪よ。局長が調べた範囲だけでも、5つの州と準州、30近い町で殺人と強盗、州や連邦政府の施設に対し不法侵入および破壊工作。さらには東海岸沖でも船を沈めたり積荷を奪ったりの海賊行為、……と、やりたい放題。
     その存在が政府筋に知られて以降、懸賞金は右肩上がり。でも検挙しようとする度、捜査官や保安官は重傷を負うか、殺されるか。軍隊まで動かして捕まえようとしたこともあったらしいけれど、それもことごとく失敗。
     実は今回も、局長からA州州軍へ働きかけたらしいんだけど、断られたって話よ。局長曰く、『派遣できるほどの余裕が無いとの返事だったが、失敗して恥をかきたくないと言うのが本音だろう』、……ですって」
    「そんな、……軍まで尻尾巻いて逃げるようなヤツ相手に、……俺たち、大丈夫なんスか?」
     恐る恐る尋ねたロバートに、エミルはぷい、と顔をそらしつつ、こう返した。
    「大丈夫ってことにしなきゃまずいわよ。そうじゃなきゃ死ぬんだし」
     どことなく弱気そうなエミルの様子に、アデルも不安を覚えていた。
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