「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・回顧録 1
晴奈の話、第213話。
狼と狐のケンカ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
双月暦503年、ゴールドコーストの商店街の一角。
「また邪魔してくれたな!」
「何言ってんのよ、アンタが邪魔したんでしょ?」
「狐」と「狼」の、二人の商人が口喧嘩をしていた。
「いいか? 君が横から口を出したせいで、僕が話をしていた客が、逃げた。この流れはどう考えても、君が邪魔したんじゃないか! そうだろう!?」
「はぁ? アンタがあたしの真似して得ようとしてた客に、本家のあたしが適正条件で、ご奉仕申し上げようとしてたのよ? そこでアンタがいちゃもん付けてきたから離れた。でしょ!?」
「誰が君の真似なんかするか! 君こそ僕の真似ばかりして、客を横取りしてるじゃないか!」
「話にならないわ、チェイサー! 盗人猛々しいって、ホントね!」
「誰が泥棒だ! ふざけるな、グロリア!」
売り言葉に買い言葉を繰り返し、場の雰囲気はどんどん険悪になっていく。
と、そこへ央南人らしき深い緑髪の長耳が、二人の間に入った。
「あの、ちょっと。一体、どうされたんですか? こんな往来のど真ん中で言い争っては、他の方の迷惑になりますよ」
「うるさい!」「黙ってて!」
二人に怒鳴られ、長耳は素直に黙り込んだ。
その代わり――。
「大体お前の……、はうっ!?」「いい加減にしないと……、あだっ!?」
怒鳴り合っていた二人が突然黙り込み、その場にうずくまる。
「……ごめんなさいね。あんまり騒がしいから、どうしても見ていられなくって」
ぐったりとして動かなくなった二人に、長耳が手を合わせて謝った。
「いてて……」「あたた……」
鳩尾を押さえてうめいている二人に、長耳が飲み物を差し出した。
「ごめんなさいね、本当に」
「……いや、いいさ。確かに君の言う通り、多少、騒々しかったことは認める」
「そうね。ちょっと、迷惑だったかも」
二人は落ち着いた様子で、長耳にすまなそうな顔を向けた。
「狼獣人と狐獣人は仲が悪いって聞いたけれど、本当なのね」
「いや、それはこいつが僕の真似をしたから……」
「何ですって? それはこっちのセリフよ」
「何だと?」「何よ?」
二人がまたも喧嘩しかけたところで、長耳がトントンと、二人の肩に手を置いた。
「まあまあ、その辺にしなさいって。……ね?」
長耳は笑顔こそ浮かべていたが、肩に置かれた手からジワジワと、怒りを含んだ力が込められてくる。
二人はそこで喧嘩をやめ、揃って頭を下げた。
「……はい」「……すいません」
「いやぁ、怖かったなぁ」
ピースの言葉に、ボーダもうなずく。
「うん。ユキノは滅多に怒らない子だったけど、絶対怒らせちゃダメだって、その時良く分かったわ」
話は現代に戻る。
晴奈の祝勝会で偶然、晴奈の師匠、雪乃がチェイサー夫妻と親友であることが分かり、そこから自然に、雪乃の思い出話が始まった。
「それが僕らと、ユキノとの出会いだった。そして僕らが結婚し、チェイサー商会を立ち上げることができたのも、ユキノのおかげだ。
僕らは元々タチバナさんと同じように、情報の仲介を生業としていたんだ。で、ある時僕とボーダは、似たような商売のネタを思いついた。闘技場に参加している人たちの参戦日程とか、賞金の管理・運用とかを斡旋する、マネージメント業だ。
外国からあの闘技場に参加する人は大抵、武者修行の目的で来てる武人ばかりだからね。お国柄の違いや、細かい手続きなんかで戸惑ってる人がよく出てくるんだ。
だから、そこを手助けしてあげる。それを商売にしてたんだ」
ピースに続いて、ボーダが話をする。
「でも、なかなかうまく行かなくってね。二人ともあの時は行き詰ってたから、よくケンカしてたわ」
「へぇ、そんな商売があるのね」
ピースたちの話を聞き終えた雪乃は、興味深そうにうなずいていた。
「でも実際、なかなかうまく行かなくってね。ニコルリーグに来られる人自体、少なくって」
「うんうん。それに行けたとしても、すぐボロボロになっちゃうし」
ピースとボーダの話は、仕事の説明から愚痴話に移っていく。
「そうそう。で、うまく勝ち残ったとしても、そう言う奴ほど、無茶苦茶な主張をしてくるんだよな」
「そうなのよ! こっちが商会も用心棒も無い身ひとつなもんだから、ナメてくんのよね」
「『俺が獲った金は俺のモノだろ』とか言ってくるしな。まったく、契約を何だと思ってるんだかな!」
「そうよ、ホントにねぇ!」
相槌を打ち合う二人を見て、雪乃はクスクスと笑い出した。
「ふふ……」
「ん?」「どうしたの、ヒイラギさん?」
「いえ、二人とも仲がいいのね」
それを聞いた二人は、同時に手を振る。
「いやいやいやいや」「仲良くない仲良くない」
その様子が面白かったのか、雪乃はまた笑い出した。
「クス、あはは……。っと、そうだ。ちょっといいかしら?」
雪乃はコホンと咳払いをし、真面目な顔になった。
「二人は闘技場参加者のマネージメントをしてるって言ってたわよね? 良かったら、お願いしてみてもいいかな?
わたしもこの街に来たばかりで、よく分からなくって」
「え? うーん、いいよ」「まあ、ヒイラギさんの頼みなら」
二人の返事を聞いた途端、雪乃は嬉しそうな顔をする。
「良かった! よろしくお願いします!」
「うん、まあそれはいいけど」「マネージメントする人は、今どこに?」
二人の言葉に、雪乃はきょとんとした顔で聞き返してくる。
「え? いえ、あの、……ここにいるんだけど」
「ここに?」「ヒイラギさんしかいないじゃない」
二人の反応を見た雪乃は、今度は合点が行った様子で手を挙げた。
「ああ、えっと。わたし。わたしが、闘技場に出るの」
「……は?」「ヒイラギさんが?」
ピースたちは冗談か何かと思い、もう一度聞き返す。
「本気で?」
「ええ、本気よ」
二人は雪乃の言葉に驚き、声を上げた。
「ちょ、ちょっと待ってよ、女の子が出るなんて!?」
「え? おかしい?」
「い、いや。そりゃ、たまーに出るけどさ」
「ならいいじゃない」
本当に本気らしいと理解し、二人は慌てて止めようとする。
「いえ、本当にたまにしか出ないのよ? それも、『熊』とか『虎』の、筋骨隆々の」
「わたし、見た目で勝負するわけじゃないし」
「そりゃそうだけどさ。何かさ、武術とかでもやってるの、ヒイラギさん?」
ピースの問いに、雪乃は腰に差していた刀の柄をトントンと叩き、静かにこう答えた。
「ええ、剣の修行を。幼い頃から鍛えてきたこの体と腕が、どこまで通用するのか試してみたいの。
そのために、わたしはここへ来たのよ」
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狼と狐のケンカ。
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双月暦503年、ゴールドコーストの商店街の一角。
「また邪魔してくれたな!」
「何言ってんのよ、アンタが邪魔したんでしょ?」
「狐」と「狼」の、二人の商人が口喧嘩をしていた。
「いいか? 君が横から口を出したせいで、僕が話をしていた客が、逃げた。この流れはどう考えても、君が邪魔したんじゃないか! そうだろう!?」
「はぁ? アンタがあたしの真似して得ようとしてた客に、本家のあたしが適正条件で、ご奉仕申し上げようとしてたのよ? そこでアンタがいちゃもん付けてきたから離れた。でしょ!?」
「誰が君の真似なんかするか! 君こそ僕の真似ばかりして、客を横取りしてるじゃないか!」
「話にならないわ、チェイサー! 盗人猛々しいって、ホントね!」
「誰が泥棒だ! ふざけるな、グロリア!」
売り言葉に買い言葉を繰り返し、場の雰囲気はどんどん険悪になっていく。
と、そこへ央南人らしき深い緑髪の長耳が、二人の間に入った。
「あの、ちょっと。一体、どうされたんですか? こんな往来のど真ん中で言い争っては、他の方の迷惑になりますよ」
「うるさい!」「黙ってて!」
二人に怒鳴られ、長耳は素直に黙り込んだ。
その代わり――。
「大体お前の……、はうっ!?」「いい加減にしないと……、あだっ!?」
怒鳴り合っていた二人が突然黙り込み、その場にうずくまる。
「……ごめんなさいね。あんまり騒がしいから、どうしても見ていられなくって」
ぐったりとして動かなくなった二人に、長耳が手を合わせて謝った。
「いてて……」「あたた……」
鳩尾を押さえてうめいている二人に、長耳が飲み物を差し出した。
「ごめんなさいね、本当に」
「……いや、いいさ。確かに君の言う通り、多少、騒々しかったことは認める」
「そうね。ちょっと、迷惑だったかも」
二人は落ち着いた様子で、長耳にすまなそうな顔を向けた。
「狼獣人と狐獣人は仲が悪いって聞いたけれど、本当なのね」
「いや、それはこいつが僕の真似をしたから……」
「何ですって? それはこっちのセリフよ」
「何だと?」「何よ?」
二人がまたも喧嘩しかけたところで、長耳がトントンと、二人の肩に手を置いた。
「まあまあ、その辺にしなさいって。……ね?」
長耳は笑顔こそ浮かべていたが、肩に置かれた手からジワジワと、怒りを含んだ力が込められてくる。
二人はそこで喧嘩をやめ、揃って頭を下げた。
「……はい」「……すいません」
「いやぁ、怖かったなぁ」
ピースの言葉に、ボーダもうなずく。
「うん。ユキノは滅多に怒らない子だったけど、絶対怒らせちゃダメだって、その時良く分かったわ」
話は現代に戻る。
晴奈の祝勝会で偶然、晴奈の師匠、雪乃がチェイサー夫妻と親友であることが分かり、そこから自然に、雪乃の思い出話が始まった。
「それが僕らと、ユキノとの出会いだった。そして僕らが結婚し、チェイサー商会を立ち上げることができたのも、ユキノのおかげだ。
僕らは元々タチバナさんと同じように、情報の仲介を生業としていたんだ。で、ある時僕とボーダは、似たような商売のネタを思いついた。闘技場に参加している人たちの参戦日程とか、賞金の管理・運用とかを斡旋する、マネージメント業だ。
外国からあの闘技場に参加する人は大抵、武者修行の目的で来てる武人ばかりだからね。お国柄の違いや、細かい手続きなんかで戸惑ってる人がよく出てくるんだ。
だから、そこを手助けしてあげる。それを商売にしてたんだ」
ピースに続いて、ボーダが話をする。
「でも、なかなかうまく行かなくってね。二人ともあの時は行き詰ってたから、よくケンカしてたわ」
「へぇ、そんな商売があるのね」
ピースたちの話を聞き終えた雪乃は、興味深そうにうなずいていた。
「でも実際、なかなかうまく行かなくってね。ニコルリーグに来られる人自体、少なくって」
「うんうん。それに行けたとしても、すぐボロボロになっちゃうし」
ピースとボーダの話は、仕事の説明から愚痴話に移っていく。
「そうそう。で、うまく勝ち残ったとしても、そう言う奴ほど、無茶苦茶な主張をしてくるんだよな」
「そうなのよ! こっちが商会も用心棒も無い身ひとつなもんだから、ナメてくんのよね」
「『俺が獲った金は俺のモノだろ』とか言ってくるしな。まったく、契約を何だと思ってるんだかな!」
「そうよ、ホントにねぇ!」
相槌を打ち合う二人を見て、雪乃はクスクスと笑い出した。
「ふふ……」
「ん?」「どうしたの、ヒイラギさん?」
「いえ、二人とも仲がいいのね」
それを聞いた二人は、同時に手を振る。
「いやいやいやいや」「仲良くない仲良くない」
その様子が面白かったのか、雪乃はまた笑い出した。
「クス、あはは……。っと、そうだ。ちょっといいかしら?」
雪乃はコホンと咳払いをし、真面目な顔になった。
「二人は闘技場参加者のマネージメントをしてるって言ってたわよね? 良かったら、お願いしてみてもいいかな?
わたしもこの街に来たばかりで、よく分からなくって」
「え? うーん、いいよ」「まあ、ヒイラギさんの頼みなら」
二人の返事を聞いた途端、雪乃は嬉しそうな顔をする。
「良かった! よろしくお願いします!」
「うん、まあそれはいいけど」「マネージメントする人は、今どこに?」
二人の言葉に、雪乃はきょとんとした顔で聞き返してくる。
「え? いえ、あの、……ここにいるんだけど」
「ここに?」「ヒイラギさんしかいないじゃない」
二人の反応を見た雪乃は、今度は合点が行った様子で手を挙げた。
「ああ、えっと。わたし。わたしが、闘技場に出るの」
「……は?」「ヒイラギさんが?」
ピースたちは冗談か何かと思い、もう一度聞き返す。
「本気で?」
「ええ、本気よ」
二人は雪乃の言葉に驚き、声を上げた。
「ちょ、ちょっと待ってよ、女の子が出るなんて!?」
「え? おかしい?」
「い、いや。そりゃ、たまーに出るけどさ」
「ならいいじゃない」
本当に本気らしいと理解し、二人は慌てて止めようとする。
「いえ、本当にたまにしか出ないのよ? それも、『熊』とか『虎』の、筋骨隆々の」
「わたし、見た目で勝負するわけじゃないし」
「そりゃそうだけどさ。何かさ、武術とかでもやってるの、ヒイラギさん?」
ピースの問いに、雪乃は腰に差していた刀の柄をトントンと叩き、静かにこう答えた。
「ええ、剣の修行を。幼い頃から鍛えてきたこの体と腕が、どこまで通用するのか試してみたいの。
そのために、わたしはここへ来たのよ」
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「書いているうちにボリュームが増えていく」と以前に述べてましたが、
この話はボリュームが本格的に増える前に書いてました。
つまり「蒼天剣」をブログに上げ始めた頃、恐らく第1部辺りを掲載していた時です。
当然、文章力も今より低いわけで。
改めて読み直すと、文章のおかしい点が目につきます。
ボリュームが増える度に加筆修正してるので、つなぎ目が見えてきそうな気が……。
例えば上げる直前になって、「雪乃」の呼び方が第1部の「柊」になっているのに気付きました。
読点(、)も異様に多いし、言い回しも変ですし……。
上げた後の修正が多そうですorz
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2016.05.12 修正
「書いているうちにボリュームが増えていく」と以前に述べてましたが、
この話はボリュームが本格的に増える前に書いてました。
つまり「蒼天剣」をブログに上げ始めた頃、恐らく第1部辺りを掲載していた時です。
当然、文章力も今より低いわけで。
改めて読み直すと、文章のおかしい点が目につきます。
ボリュームが増える度に加筆修正してるので、つなぎ目が見えてきそうな気が……。
例えば上げる直前になって、「雪乃」の呼び方が第1部の「柊」になっているのに気付きました。
読点(、)も異様に多いし、言い回しも変ですし……。
上げた後の修正が多そうですorz
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2016.05.12 修正



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総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

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ああ、そう言えば、私も表記をどうしようか迷いましたね、ユキノかヒイラギか。…結局、名前を取ることで落ち着いたのですが。最初はヒイラギで試行錯誤していたときもありました。
今月中に最終遂行が終わりそうです。ユキノの描写もかなり書いておりますね。今頼んでいるのが終わったら、また送りますのでよろしくお願いします。
今月中に最終遂行が終わりそうです。ユキノの描写もかなり書いておりますね。今頼んでいるのが終わったら、また送りますのでよろしくお願いします。
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呼び方によって、その人のイメージが堅くなったり、柔らかくなったり。
現在執筆中の「火紅狐第5部」も、ある人物をどう呼ぼうか悩みっぱなしです。
了解です。
楽しみにしてますね。