DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 4
ウエスタン小説、第4話。
bewitched by the "F"ox。
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4.
「そんで、だ」
と、ダンが真面目な顔になり、こう続けた。
「あんましマトモなもんじゃないが――こっちの情報を教えたんだ。今度はあんたらの持ってる情報を教えて欲しいんだがな?」
「って言うと?」
そう返したアデルに、ダンはまた、ニヤっと笑う。
「今回の件について、だよ。
いや、大体のことは俺も把握してるつもりだ。凶悪犯トリスタン・アルジャンと、その弟を逮捕しようって話だろ?」
「ええ、そうよ」
うなずくエミルに、ダンは肩をすくめて返す。
「だが、そこに至るまでの経緯がよく分からん。
そもそも俺たち『実働部隊』に通達が来たのが、ほとんど出発前のことだ。うちの局長からいきなり『トリスタンの居場所をつかんだ。弟にも容疑がかかってる。すぐ向かってすぐ拘束しろ』、って言われて装備ポイポイ渡されて、そんで汽車にダダっと乗り込んだわけさ。
だが、それまで俺たちも――多分あんたたちもだろうが――トリスタンの居場所どころか、奴についてのろくな情報も持っちゃいなかった。
悪名ばかりを轟かせ、我々捜査当局を嘲笑う、実体無き凶悪犯ってわけだ。そんな幽霊(ゴースト)みたいな奴の情報をつかんだのが、あんたらんトコの局長だって言うじゃないか。
東洋のことわざじゃ、何が何だか分かんねえって状況を、『狐につままれる』って言うだろ? まさに今回、それなんだよ。『フォックス』パディントンに首根っこつままれて、振り回されてるようなもんさ、俺たち特務局側は。
だもんで、いまいち『やってやるぞ』って気分にならん。実際、ミラー局長だって半信半疑って感じで説明していたしな。
だからさ、あんたらが知ってること、教えてくれないかなーってさ。これは俺だけじゃなく、今ここにいる全員が思ってることでもあるんだよ」
ダンの言う通り、いつの間にか客車内にいた特務局員全員が、エミルたちに視線を向けている。
そのプレッシャーに圧されたのか、エミルがふう、と息を吐いた。
「分かったわよ。でも知ってることと言えることだけよ? こっちも業務上の守秘義務があるから、言えないことは絶対に言わない。
それでオーケー?」
「おう」
「まず、今回とはまったく別件の捜査を依頼してた人間から、リークがあったのよ。それもズバリ、『自分はトリスタン・アルジャンの居場所を知っている』ってね。で、その別件の解決と引き換えに、居場所を教えてもらったってわけ。
ただしあたしたちがその依頼者から直接聞いたわけじゃない。その依頼者からパディントン局長に電話で伝えられて、それがあたしたちや、あんたたちの局長に伝えられたのよ。
あたしから言えることはそれくらいね。それ以上は、これ」
そう言って人差し指を口に当てたエミルに、ダンは苦い顔を見せる。
「あんまり有力な情報じゃないな。想像の範疇(はんちゅう)を超えない、ってくらいだ」
「でしょうね」
「正直、それじゃ納得しきれん」
「同感ね。でもあたしからはこれ以上、何とも言えないわ」
「……じゃあ」
がた、がたっとあちこちから音を立てて、特務局員たちがエミルの周りに寄ってくる。
「到着まで一旦、仕事のことは抜きにしてさ、何かさ、あれだ、話でもしようや」
「な、いいだろ? いや、下心なんかありゃしねえよ? たださ、こう言う稼業やってるとさ」
「何と言うか、あれだ。女と、いや、レディと、ほら、真っ当に親しくなるチャンスってのが、なかなか、あれで、うん」
「って言うかお嬢さん、普通に、いや、普通以上に綺麗だし、こりゃ話しかけなきゃ男じゃねえって言うか、な?」
揃って助平顔でニヤつく特務局員たちを一瞥(いちべつ)し、エミルは頬杖を突きつつ、はぁ、とため息をついた。
「サムの印象があるから、あたし、もっと特務捜査局ってお堅いイメージ持ってたんだけど、そうでもないのね」
「だけどさ」
と、アデルが肩をすくめる。
「俺たちが一番最初に会った特務局員って、結構乱暴なクソ野郎だったろ? マド何とかって言ったっけか」
「それもそうね。じゃ、本当にあの子が特殊なのね。何かと」
「だろうな。……ん?」
アデルはうなずいて返そうとしかけたが、その途中、違和感を覚える。
「エミル、『何かと』ってどう言う意味……」
尋ねようとしたが――既にエミルは特務局員たちから質問攻めに遭っており、アデルには答えられないようだった。
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「そんで、だ」
と、ダンが真面目な顔になり、こう続けた。
「あんましマトモなもんじゃないが――こっちの情報を教えたんだ。今度はあんたらの持ってる情報を教えて欲しいんだがな?」
「って言うと?」
そう返したアデルに、ダンはまた、ニヤっと笑う。
「今回の件について、だよ。
いや、大体のことは俺も把握してるつもりだ。凶悪犯トリスタン・アルジャンと、その弟を逮捕しようって話だろ?」
「ええ、そうよ」
うなずくエミルに、ダンは肩をすくめて返す。
「だが、そこに至るまでの経緯がよく分からん。
そもそも俺たち『実働部隊』に通達が来たのが、ほとんど出発前のことだ。うちの局長からいきなり『トリスタンの居場所をつかんだ。弟にも容疑がかかってる。すぐ向かってすぐ拘束しろ』、って言われて装備ポイポイ渡されて、そんで汽車にダダっと乗り込んだわけさ。
だが、それまで俺たちも――多分あんたたちもだろうが――トリスタンの居場所どころか、奴についてのろくな情報も持っちゃいなかった。
悪名ばかりを轟かせ、我々捜査当局を嘲笑う、実体無き凶悪犯ってわけだ。そんな幽霊(ゴースト)みたいな奴の情報をつかんだのが、あんたらんトコの局長だって言うじゃないか。
東洋のことわざじゃ、何が何だか分かんねえって状況を、『狐につままれる』って言うだろ? まさに今回、それなんだよ。『フォックス』パディントンに首根っこつままれて、振り回されてるようなもんさ、俺たち特務局側は。
だもんで、いまいち『やってやるぞ』って気分にならん。実際、ミラー局長だって半信半疑って感じで説明していたしな。
だからさ、あんたらが知ってること、教えてくれないかなーってさ。これは俺だけじゃなく、今ここにいる全員が思ってることでもあるんだよ」
ダンの言う通り、いつの間にか客車内にいた特務局員全員が、エミルたちに視線を向けている。
そのプレッシャーに圧されたのか、エミルがふう、と息を吐いた。
「分かったわよ。でも知ってることと言えることだけよ? こっちも業務上の守秘義務があるから、言えないことは絶対に言わない。
それでオーケー?」
「おう」
「まず、今回とはまったく別件の捜査を依頼してた人間から、リークがあったのよ。それもズバリ、『自分はトリスタン・アルジャンの居場所を知っている』ってね。で、その別件の解決と引き換えに、居場所を教えてもらったってわけ。
ただしあたしたちがその依頼者から直接聞いたわけじゃない。その依頼者からパディントン局長に電話で伝えられて、それがあたしたちや、あんたたちの局長に伝えられたのよ。
あたしから言えることはそれくらいね。それ以上は、これ」
そう言って人差し指を口に当てたエミルに、ダンは苦い顔を見せる。
「あんまり有力な情報じゃないな。想像の範疇(はんちゅう)を超えない、ってくらいだ」
「でしょうね」
「正直、それじゃ納得しきれん」
「同感ね。でもあたしからはこれ以上、何とも言えないわ」
「……じゃあ」
がた、がたっとあちこちから音を立てて、特務局員たちがエミルの周りに寄ってくる。
「到着まで一旦、仕事のことは抜きにしてさ、何かさ、あれだ、話でもしようや」
「な、いいだろ? いや、下心なんかありゃしねえよ? たださ、こう言う稼業やってるとさ」
「何と言うか、あれだ。女と、いや、レディと、ほら、真っ当に親しくなるチャンスってのが、なかなか、あれで、うん」
「って言うかお嬢さん、普通に、いや、普通以上に綺麗だし、こりゃ話しかけなきゃ男じゃねえって言うか、な?」
揃って助平顔でニヤつく特務局員たちを一瞥(いちべつ)し、エミルは頬杖を突きつつ、はぁ、とため息をついた。
「サムの印象があるから、あたし、もっと特務捜査局ってお堅いイメージ持ってたんだけど、そうでもないのね」
「だけどさ」
と、アデルが肩をすくめる。
「俺たちが一番最初に会った特務局員って、結構乱暴なクソ野郎だったろ? マド何とかって言ったっけか」
「それもそうね。じゃ、本当にあの子が特殊なのね。何かと」
「だろうな。……ん?」
アデルはうなずいて返そうとしかけたが、その途中、違和感を覚える。
「エミル、『何かと』ってどう言う意味……」
尋ねようとしたが――既にエミルは特務局員たちから質問攻めに遭っており、アデルには答えられないようだった。
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bewitched by a Fox:「狐につままれる」の英訳。
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