DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 6
ウエスタン小説、第6話。
猛火牛、来る。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
ジョージタウンで作戦会議が行われた、その2日後。
駅に掛けられた時計が2時40分を指すとほぼ同時に、列車がスリーバックス駅に到着した。
「……」
到着と同時に、一瞬、熊と見紛うほどの筋骨隆々の男が、のそりと客車から現れる。
件(くだん)の「猛火牛」こと、トリスタン・アルジャンである。
「……ふむ」
彼は辺りをうかがい、むすっとした表情のまま、駅を後にし、通りを闊歩(かっぽ)する。
その間にも時折、彼は周囲に視線を向けていたが、その都度安心したかのような、しかし、どこか腑に落ち無いと言いたげな鼻息を漏らし、歩き続ける。
やがて目的の場所――弟の経営するガンスミス店が入った3階建ての木造建築、レッドラクーンビルの前に着く。
「……」
そこでももう一度、トリスタンは周囲を見回し、首を傾げる。
が、それ以上何かするでもなく、彼は店に入った。
「ディム、私だ。少し早いが、来たぞ」
「ああ、兄さん」
店の奥から弟、ディミトリ・アルジャンが手を拭きながら現れる。
「いや、時間通りだよ。3時きっかり」
「そうか」
トリスタンは自分の懐中時計と、壁に掛けられた時計とを見比べ、またわずかに首を傾げた。
「ではお前の時計が早いようだ。
私の時計は駅の時計と合致していたが、こちらとは合っていない」
「いいじゃないか」
ディミトリは肩をすくめ、ふたたび店の奥へ戻る。
「2つ時計があるんだ。同じ時間を示したって無駄だろ」
「変わり者だな、相変わらず」
「僕に言わせりゃ、兄さんも相当さ。なんだってそこまで神経質に、時間を気にするのさ?」
「それが時間と言うものだ」
トリスタンは奥へ進まず、店の中央に佇んだまま、弟の背中を眺めている。
「私には、守らぬ人間の方が信じられん」
「人それぞれ。合わせようって無理矢理言う方が、僕にはどうかしてると思うけどね」
「その点は相変わらず、意見が合わんな」
「逆に言えばその1点だけさ。他はわりと合ってるじゃないか」
奥から戻ってきたディミトリが、左手に持っていたコーヒー入りのカップを差し出す。
「これもね。バーボン嫌いだったろ?」
「当然だ」
トリスタンはカップを受け取り、掲げてみせる。
「酒は人を堕落させる」
「出た、兄さんの流儀その1」
ディミトリはニヤニヤ笑いながら、右手のフラスコを掲げる。
「ま、どんどん飲んでよ。いっぱいあるから」
「いや」
と、トリスタンはカップを傍らの机に置く。
「本来の目的を先に済ませておきたい。渡してくれ」
「ん? ああ、うん、拳銃だったね」
ディミトリは棚から箱を取り出し、トリスタンに向かって開ける。
「はいこれ。M1874のノンフルート、6インチカスタム。しっかり整備しといたよ」
「うむ」
トリスタンは拳銃を受け取り、懐に収め――ると見せかけ、それを突然、ディミトリに向けた。
「な……、何だよ、兄さん? 物騒だなぁ」
「妙なことばかりが起こっている」
ディミトリの問いに応えず、トリスタンはじっとその顔を見据えつつ、話をし始める。
「お前から銃を受け取るため、この町に来た。それ自体はいつものこと、至極まともな出来事だ。疑いの目を向ける余地など無い。
疑うべきはこの町に着く2駅前、ジョージタウンからのことだ。私に対して、妙な視線が向けられているのを感じていた。明らかにあの狗(いぬ)共、連邦特務捜査局の奴らのものだ。
なのでいつもの如く、組織に確認を取ってみれば、確かに私を拿捕せんと向かっている一団があると言う。数は20名。だが組織からの指示により無力化されており、後は私が各個撃破すれば終わりだ、との返答も得ていた。
故に待ち構えていたが、ジョージタウンにおいても、その次のトマスリバーにおいても、そしてここ、スリーバックスに到着しても、視線は感じれど、姿をまったく現さず、何か仕掛けてくるような気配も無い。
そして極めつけは――ディム、お前のことだ」
かちり、と拳銃の撃鉄を起こし、トリスタンは続けて問う。
「お前の瞳は私が知る限り、この31年間ずっと、緑色だったはずだ。
だが今のお前は何故、茶色い目をしているのだ?」
「……っ」
飄々(ひょうひょう)と振る舞っていたディミトリの顔に、ここで初めて、焦りの色が浮かんだ。
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猛火牛、来る。
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6.
ジョージタウンで作戦会議が行われた、その2日後。
駅に掛けられた時計が2時40分を指すとほぼ同時に、列車がスリーバックス駅に到着した。
「……」
到着と同時に、一瞬、熊と見紛うほどの筋骨隆々の男が、のそりと客車から現れる。
件(くだん)の「猛火牛」こと、トリスタン・アルジャンである。
「……ふむ」
彼は辺りをうかがい、むすっとした表情のまま、駅を後にし、通りを闊歩(かっぽ)する。
その間にも時折、彼は周囲に視線を向けていたが、その都度安心したかのような、しかし、どこか腑に落ち無いと言いたげな鼻息を漏らし、歩き続ける。
やがて目的の場所――弟の経営するガンスミス店が入った3階建ての木造建築、レッドラクーンビルの前に着く。
「……」
そこでももう一度、トリスタンは周囲を見回し、首を傾げる。
が、それ以上何かするでもなく、彼は店に入った。
「ディム、私だ。少し早いが、来たぞ」
「ああ、兄さん」
店の奥から弟、ディミトリ・アルジャンが手を拭きながら現れる。
「いや、時間通りだよ。3時きっかり」
「そうか」
トリスタンは自分の懐中時計と、壁に掛けられた時計とを見比べ、またわずかに首を傾げた。
「ではお前の時計が早いようだ。
私の時計は駅の時計と合致していたが、こちらとは合っていない」
「いいじゃないか」
ディミトリは肩をすくめ、ふたたび店の奥へ戻る。
「2つ時計があるんだ。同じ時間を示したって無駄だろ」
「変わり者だな、相変わらず」
「僕に言わせりゃ、兄さんも相当さ。なんだってそこまで神経質に、時間を気にするのさ?」
「それが時間と言うものだ」
トリスタンは奥へ進まず、店の中央に佇んだまま、弟の背中を眺めている。
「私には、守らぬ人間の方が信じられん」
「人それぞれ。合わせようって無理矢理言う方が、僕にはどうかしてると思うけどね」
「その点は相変わらず、意見が合わんな」
「逆に言えばその1点だけさ。他はわりと合ってるじゃないか」
奥から戻ってきたディミトリが、左手に持っていたコーヒー入りのカップを差し出す。
「これもね。バーボン嫌いだったろ?」
「当然だ」
トリスタンはカップを受け取り、掲げてみせる。
「酒は人を堕落させる」
「出た、兄さんの流儀その1」
ディミトリはニヤニヤ笑いながら、右手のフラスコを掲げる。
「ま、どんどん飲んでよ。いっぱいあるから」
「いや」
と、トリスタンはカップを傍らの机に置く。
「本来の目的を先に済ませておきたい。渡してくれ」
「ん? ああ、うん、拳銃だったね」
ディミトリは棚から箱を取り出し、トリスタンに向かって開ける。
「はいこれ。M1874のノンフルート、6インチカスタム。しっかり整備しといたよ」
「うむ」
トリスタンは拳銃を受け取り、懐に収め――ると見せかけ、それを突然、ディミトリに向けた。
「な……、何だよ、兄さん? 物騒だなぁ」
「妙なことばかりが起こっている」
ディミトリの問いに応えず、トリスタンはじっとその顔を見据えつつ、話をし始める。
「お前から銃を受け取るため、この町に来た。それ自体はいつものこと、至極まともな出来事だ。疑いの目を向ける余地など無い。
疑うべきはこの町に着く2駅前、ジョージタウンからのことだ。私に対して、妙な視線が向けられているのを感じていた。明らかにあの狗(いぬ)共、連邦特務捜査局の奴らのものだ。
なのでいつもの如く、組織に確認を取ってみれば、確かに私を拿捕せんと向かっている一団があると言う。数は20名。だが組織からの指示により無力化されており、後は私が各個撃破すれば終わりだ、との返答も得ていた。
故に待ち構えていたが、ジョージタウンにおいても、その次のトマスリバーにおいても、そしてここ、スリーバックスに到着しても、視線は感じれど、姿をまったく現さず、何か仕掛けてくるような気配も無い。
そして極めつけは――ディム、お前のことだ」
かちり、と拳銃の撃鉄を起こし、トリスタンは続けて問う。
「お前の瞳は私が知る限り、この31年間ずっと、緑色だったはずだ。
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