DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 9
ウエスタン小説、第9話。
怪物。
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9.
ロー拘束から時間は進み、同日、夜7時。
じりりん、と鳴った電話を、ディミトリが取った。
いや――。
「はい、こちらレッドラクーン・ガンスミス。……ああ、いやいや、マドモアゼルでしたか」
ディミトリの姿をした男は、相手の声を聞くなり、己の声色をガラリと変えた。
「……ええ、ええ。問題はありません。たまに来る組織かららしき電話も、適当にあしらっております。……ええ、疑っている様子など、まったく。と言うより、そんなことは端から想定していないのでしょう。
まさかディミトリが既に、我々の手に落ちているなどとは、……ね」
そう言いつつ、ディミトリ――に変装したイクトミは、目の前に座らされている、本物のディミトリを見下ろす。
「……」
拘束されたディミトリが忌々しげな目で見つめていることに気付き、イクトミは彼に対し、恭しく会釈して返す。
「では予定通り、明日3時に。……はい、……はい、では」
電話を終え、イクトミはディミトリに尋ねる。
「如何されましたか、ディミトリ?」
「……その気取ったしゃべり方をやめろ、アレーニェ。気に障る」
「ははは」
突然、イクトミは乾いた笑い声を上げる。
「なっ、何だ?」
「じゃあ僕からも提案だ、ディミトリ。僕のことをアレーニェと呼ぶのはやめろ」
「何だって?」
「その名前は強制的に与えられた、僕にとって嫌な思い出しか無いものだ。
今の僕は、イクトミだ。僕のことを呼ぶのなら、そう呼べ」
「……何だっていい、お前が名乗りたい名前なんか、僕の知ったことじゃない。
とにかくこんな馬鹿げた真似は、すぐにやめるべきだ。組織の恐ろしさは、いや、兄貴の恐ろしさは、あんたが一番、身を以て知ってるはずだ。
特にその右目に、しっかりと刻まれてるはずだよな?」
ディミトリのその一言に、イクトミの笑顔が凍りつく。
「あんたはけったいな白スーツで現れたり気持ち悪いしゃべり方したり、道化芝居が随分上手みたいだけど、その目だけはごまかせないみたいだな。
その右目、兄貴にやられてるって聞いたぜ。一応目玉は残ってるみたいだけど、ほとんど見えやしないんだろ? へへ、へ、へっ」
「……」
次の瞬間――ディミトリの右膝から、血しぶきが飛び散る。
「はぐぁ……っ」
「僕を愚弄することこそ、やめるべきことだ。今の君は、僕に生殺与奪のすべてを握られているのだから」
「はぁ……はぁ……」
ディミトリが顔を真っ青にしたところで、イクトミの背後から「やめたまえ」と声がかけられる。
「他ならぬエミル嬢の頼みで、わざわざギルマン捜索を延期してまで確保した人質だ。殺しては、全てが水の泡だ。
君の冷静は、うわべや演技では無いだろう?」
「……ええ」
イクトミはアーサー老人にす、と頭を下げ、それからディミトリに止血を施した。
「弾はかすらせただけです。死に直結するようなものではございません」
「うむ、いつもの君だ。
さて、ディミトリ君。明日には君の兄、トリスタン・アルジャンがここへ到着するわけだが、君は兄にどの程度勝算があると思っているかね?」
「……100%だ。兄貴がこの程度の策や罠なんかで、やられたりするもんか」
「論理性を重視する君のことだ、何か明確な根拠があるのだろう? 言ってみたまえ」
アーサー老人に尋ねられ、ディミトリは脂汗の浮いた顔でニヤっと笑った。
「論理だって? あの人に論理なんか、何の意味も成さないよ」
突然頭が吹き飛んだ同僚を目の当たりにし、局員たちの顔が恐怖で凍りつく。
「なっ、あ……」
「す、スティーブ、……スティーブ!?」
「ち、……畜生ッ!」
振り向こうとしたその直後、さらにもう一人、ぼごんと胸に大穴が空き、大量の血しぶきを上げる。
「ひっ……」
「しょっ、ショットガンだ! 隠れろ!」
どうにか壁に潜み、局員たちは混乱を抑えようとする。
「何でだ!? あれだけ撃ち込んで、何故生きてる!?」
「そもそも変だろ!? 反撃してくるなんてよぉ!? できるわけねーじゃねーか!」
「ひっ……ひっ……はっ……ダメだ、ダメだ、ダメだ……」
だが、一瞬の内に同僚2名が惨殺され、彼らは半ば錯乱しかかっていた。
「……怪物(モンスター)……!」
誰からともなく漏れ出たその言葉に、その場にいた全員の絶望感が表れていた。
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怪物。
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ロー拘束から時間は進み、同日、夜7時。
じりりん、と鳴った電話を、ディミトリが取った。
いや――。
「はい、こちらレッドラクーン・ガンスミス。……ああ、いやいや、マドモアゼルでしたか」
ディミトリの姿をした男は、相手の声を聞くなり、己の声色をガラリと変えた。
「……ええ、ええ。問題はありません。たまに来る組織かららしき電話も、適当にあしらっております。……ええ、疑っている様子など、まったく。と言うより、そんなことは端から想定していないのでしょう。
まさかディミトリが既に、我々の手に落ちているなどとは、……ね」
そう言いつつ、ディミトリ――に変装したイクトミは、目の前に座らされている、本物のディミトリを見下ろす。
「……」
拘束されたディミトリが忌々しげな目で見つめていることに気付き、イクトミは彼に対し、恭しく会釈して返す。
「では予定通り、明日3時に。……はい、……はい、では」
電話を終え、イクトミはディミトリに尋ねる。
「如何されましたか、ディミトリ?」
「……その気取ったしゃべり方をやめろ、アレーニェ。気に障る」
「ははは」
突然、イクトミは乾いた笑い声を上げる。
「なっ、何だ?」
「じゃあ僕からも提案だ、ディミトリ。僕のことをアレーニェと呼ぶのはやめろ」
「何だって?」
「その名前は強制的に与えられた、僕にとって嫌な思い出しか無いものだ。
今の僕は、イクトミだ。僕のことを呼ぶのなら、そう呼べ」
「……何だっていい、お前が名乗りたい名前なんか、僕の知ったことじゃない。
とにかくこんな馬鹿げた真似は、すぐにやめるべきだ。組織の恐ろしさは、いや、兄貴の恐ろしさは、あんたが一番、身を以て知ってるはずだ。
特にその右目に、しっかりと刻まれてるはずだよな?」
ディミトリのその一言に、イクトミの笑顔が凍りつく。
「あんたはけったいな白スーツで現れたり気持ち悪いしゃべり方したり、道化芝居が随分上手みたいだけど、その目だけはごまかせないみたいだな。
その右目、兄貴にやられてるって聞いたぜ。一応目玉は残ってるみたいだけど、ほとんど見えやしないんだろ? へへ、へ、へっ」
「……」
次の瞬間――ディミトリの右膝から、血しぶきが飛び散る。
「はぐぁ……っ」
「僕を愚弄することこそ、やめるべきことだ。今の君は、僕に生殺与奪のすべてを握られているのだから」
「はぁ……はぁ……」
ディミトリが顔を真っ青にしたところで、イクトミの背後から「やめたまえ」と声がかけられる。
「他ならぬエミル嬢の頼みで、わざわざギルマン捜索を延期してまで確保した人質だ。殺しては、全てが水の泡だ。
君の冷静は、うわべや演技では無いだろう?」
「……ええ」
イクトミはアーサー老人にす、と頭を下げ、それからディミトリに止血を施した。
「弾はかすらせただけです。死に直結するようなものではございません」
「うむ、いつもの君だ。
さて、ディミトリ君。明日には君の兄、トリスタン・アルジャンがここへ到着するわけだが、君は兄にどの程度勝算があると思っているかね?」
「……100%だ。兄貴がこの程度の策や罠なんかで、やられたりするもんか」
「論理性を重視する君のことだ、何か明確な根拠があるのだろう? 言ってみたまえ」
アーサー老人に尋ねられ、ディミトリは脂汗の浮いた顔でニヤっと笑った。
「論理だって? あの人に論理なんか、何の意味も成さないよ」
突然頭が吹き飛んだ同僚を目の当たりにし、局員たちの顔が恐怖で凍りつく。
「なっ、あ……」
「す、スティーブ、……スティーブ!?」
「ち、……畜生ッ!」
振り向こうとしたその直後、さらにもう一人、ぼごんと胸に大穴が空き、大量の血しぶきを上げる。
「ひっ……」
「しょっ、ショットガンだ! 隠れろ!」
どうにか壁に潜み、局員たちは混乱を抑えようとする。
「何でだ!? あれだけ撃ち込んで、何故生きてる!?」
「そもそも変だろ!? 反撃してくるなんてよぉ!? できるわけねーじゃねーか!」
「ひっ……ひっ……はっ……ダメだ、ダメだ、ダメだ……」
だが、一瞬の内に同僚2名が惨殺され、彼らは半ば錯乱しかかっていた。
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