DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 9 ~ 赤錆びたガンスミス ~ 16
ウエスタン小説、第16話。
さらなる危機。
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16.
《……そうか》
電話の向こうから帰って来たミラー局長の声は、ひどく落ち込んでいた。
「申し訳ありません、局長」
答えたダンに、ミラー局長が《いや》と返す。
《君の責任では無い。と言うよりも、責任を追求できる状況には無い、と言った方が適切だろう》
「……と、言うと?」
《結論から言おう。
連邦特務捜査局はその権限と機能を、連邦政府からの命令によって停止された》
「な、何ですって? 一体、どう言うことなんですか?」
思いもよらないことを耳にし、ダンは声を荒げる。
「トリスタンの確保は、元から失敗の危険が大きかったんですよ? 実際に失敗したと言って、それだけで……」
《その一件だけでは無いのだ》
そう前置きし、ミラー局長は話を続ける。
《実は君たちの他に3件、同時に派遣を行っていたのだ。
君たちが発つ前後、いくつかの事件の捜査進展、もしくは解決に足る情報が入り、君たちも含めて4チーム、合計64名もの人員を合衆国中部・西部に送っていたのだ。
だが、……君たちの中にスパイがいたことから、おおよその想像は付くだろう?》
「……まさか」
ダンの顔から血の気が失せる。それを見越したかのように、ミラー局長が《そうだ》と答えた。
《結果から考えるに、特務捜査局には相当数のスパイがいたらしい。君たち以外の3チームはすべて消息を絶ち、誰一人として、ワシントンに戻って来ない。
事態を重く見た司法省は先程、特務局の業務停止を通達した。こっちに残っていた局員は全員拘束され、監視下に置かれている。私にしても、このオフィスに軟禁されている状態だ。
これまでの実績の低さから鑑みても、復活が認められることはまず、有り得ないだろう。恐らく君たちが成功していたとしても、覆ることは無い。
特務捜査局は、もう終わったのだ》
「そんな……!」
《……スタンハート捜査官。頼みがある》
と、ミラー局長の声が、これまでより一層、悲痛なものに変わった。
《私は、君たちに対して一つ、裏切りを犯していた》
「な、……何です、それは?」
ごくりと唾を呑んだダンに、ミラー局長が恐る恐ると言った口ぶりで答える。
《何も、私も実はスパイだったなどと、とんでもないことを言うつもりは無い。裏切りと言うのは、言うなれば、人事に関する操作だ。
私はある者に身分を偽らせ、特務局の捜査員として入局させたのだ。君たちには、その人物の名前は、サミュエル・クインシーと聞かせていた。
だが、実際には……》
続く局長の言葉に、ダンは耳を疑った。
「……はぁ!? あ、あいつがですか!?」
《そうだ。
頼む、スタンハート。あいつを助けてくれないか? 頼めるのは現在拘束されておらず、監視も受けていない君たちだけだ。
もし引き受けてくれれば、私に出来る限りのことは尽くさせてもらうつもりだ。
だから、……頼む。あいつがいなくなったら、私は、……私は……!》
「……」
ダンは黙り込み、その場にしゃがみ込んだ。
《スタンハート? どうした?》
「……俺一人でどうにかなる問題じゃ無いのは、分かってますよね?
残った仲間の中で動けるのは、俺を除けば2人しかいないんです。それと、パディントン探偵局の奴ら3人。
探偵局の奴らが手を貸してくれたとしても、6人です。たった6人で、サムを助け出せって言うんですか?」
《法外な頼みであることは、十分に承知している。成功の可能性は極めて低いだろう。
だが、私には頼むしか無いんだ》
「……10分、時間を下さい。相談してきます」
そこで、ダンは電話を切った。
アデルたちのいる小屋に戻ってきたダンは、ミラー局長から依頼された内容を皆に話した。
「……は?」
当然と言うべきか、全員が唖然とした顔になる。
「い、いや? どう言うことだよ、それ?」
「言ったままだ。
特務局は壊滅した。残った局員は全員、拘束・監視されてる。
そして生き残った奴でサムを助けてこい、……だとさ」
「前2つはまだ納得できる。当然の処置だろうからな」
「だがワケ分からんのは3つ目だ」
「何でわざわざこの状況で、サムを助けに行かなきゃならないんだ?」
異口同音に尋ねてくる皆に、ダンは苦い顔を向けた。
「その、……これも今聞かされて、俺自身もマジかよって思ってることなんだが」
と、ダンをさえぎり、エミルが口を開いた。
「あたしは知ってたわよ。サムのこと」
「え?」
目を丸くするダンに、エミルがこう続けた。
「本人から聞いたもの。『事情があるから』って。
あたしは手を貸すわよ。あの子、助けに行きましょう」
その一言に、アデルが手を挙げる。
「お前がやるってんなら、俺も行く。坊やには世話になってるしな」
「ありがと」
エミルが笑みを返したところで、ロバートも続く。
「さっきも言った通りっス。お二人が行くなら俺もっス」
「と言うわけで、これで3人よ。で、話を聞いたあんた自身は?」
エミルに尋ねられ、ダンは顔を帽子で覆いつつ、うなずいた。
「やるよ。事情を聞かされたら、嫌って言えねえよ」
「その事情って結局、何なんだ?」
残る2人が尋ねたところで、ダンが答えた。
「結論から言うぜ。
サミュエル・クインシーは偽名だ。本名はサマンサ・ミラーだとさ」
「……え」
「それって、つまり」
エミルとダンを除く全員が、驚いた様子を見せる。
それを受けて、エミルがこう続けた。
「つまり、そう言うこと。『あの子』は局長の娘なのよ」
DETECTIVE WESTERN 9 ~赤錆びたガンスミス~ THE END
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《……そうか》
電話の向こうから帰って来たミラー局長の声は、ひどく落ち込んでいた。
「申し訳ありません、局長」
答えたダンに、ミラー局長が《いや》と返す。
《君の責任では無い。と言うよりも、責任を追求できる状況には無い、と言った方が適切だろう》
「……と、言うと?」
《結論から言おう。
連邦特務捜査局はその権限と機能を、連邦政府からの命令によって停止された》
「な、何ですって? 一体、どう言うことなんですか?」
思いもよらないことを耳にし、ダンは声を荒げる。
「トリスタンの確保は、元から失敗の危険が大きかったんですよ? 実際に失敗したと言って、それだけで……」
《その一件だけでは無いのだ》
そう前置きし、ミラー局長は話を続ける。
《実は君たちの他に3件、同時に派遣を行っていたのだ。
君たちが発つ前後、いくつかの事件の捜査進展、もしくは解決に足る情報が入り、君たちも含めて4チーム、合計64名もの人員を合衆国中部・西部に送っていたのだ。
だが、……君たちの中にスパイがいたことから、おおよその想像は付くだろう?》
「……まさか」
ダンの顔から血の気が失せる。それを見越したかのように、ミラー局長が《そうだ》と答えた。
《結果から考えるに、特務捜査局には相当数のスパイがいたらしい。君たち以外の3チームはすべて消息を絶ち、誰一人として、ワシントンに戻って来ない。
事態を重く見た司法省は先程、特務局の業務停止を通達した。こっちに残っていた局員は全員拘束され、監視下に置かれている。私にしても、このオフィスに軟禁されている状態だ。
これまでの実績の低さから鑑みても、復活が認められることはまず、有り得ないだろう。恐らく君たちが成功していたとしても、覆ることは無い。
特務捜査局は、もう終わったのだ》
「そんな……!」
《……スタンハート捜査官。頼みがある》
と、ミラー局長の声が、これまでより一層、悲痛なものに変わった。
《私は、君たちに対して一つ、裏切りを犯していた》
「な、……何です、それは?」
ごくりと唾を呑んだダンに、ミラー局長が恐る恐ると言った口ぶりで答える。
《何も、私も実はスパイだったなどと、とんでもないことを言うつもりは無い。裏切りと言うのは、言うなれば、人事に関する操作だ。
私はある者に身分を偽らせ、特務局の捜査員として入局させたのだ。君たちには、その人物の名前は、サミュエル・クインシーと聞かせていた。
だが、実際には……》
続く局長の言葉に、ダンは耳を疑った。
「……はぁ!? あ、あいつがですか!?」
《そうだ。
頼む、スタンハート。あいつを助けてくれないか? 頼めるのは現在拘束されておらず、監視も受けていない君たちだけだ。
もし引き受けてくれれば、私に出来る限りのことは尽くさせてもらうつもりだ。
だから、……頼む。あいつがいなくなったら、私は、……私は……!》
「……」
ダンは黙り込み、その場にしゃがみ込んだ。
《スタンハート? どうした?》
「……俺一人でどうにかなる問題じゃ無いのは、分かってますよね?
残った仲間の中で動けるのは、俺を除けば2人しかいないんです。それと、パディントン探偵局の奴ら3人。
探偵局の奴らが手を貸してくれたとしても、6人です。たった6人で、サムを助け出せって言うんですか?」
《法外な頼みであることは、十分に承知している。成功の可能性は極めて低いだろう。
だが、私には頼むしか無いんだ》
「……10分、時間を下さい。相談してきます」
そこで、ダンは電話を切った。
アデルたちのいる小屋に戻ってきたダンは、ミラー局長から依頼された内容を皆に話した。
「……は?」
当然と言うべきか、全員が唖然とした顔になる。
「い、いや? どう言うことだよ、それ?」
「言ったままだ。
特務局は壊滅した。残った局員は全員、拘束・監視されてる。
そして生き残った奴でサムを助けてこい、……だとさ」
「前2つはまだ納得できる。当然の処置だろうからな」
「だがワケ分からんのは3つ目だ」
「何でわざわざこの状況で、サムを助けに行かなきゃならないんだ?」
異口同音に尋ねてくる皆に、ダンは苦い顔を向けた。
「その、……これも今聞かされて、俺自身もマジかよって思ってることなんだが」
と、ダンをさえぎり、エミルが口を開いた。
「あたしは知ってたわよ。サムのこと」
「え?」
目を丸くするダンに、エミルがこう続けた。
「本人から聞いたもの。『事情があるから』って。
あたしは手を貸すわよ。あの子、助けに行きましょう」
その一言に、アデルが手を挙げる。
「お前がやるってんなら、俺も行く。坊やには世話になってるしな」
「ありがと」
エミルが笑みを返したところで、ロバートも続く。
「さっきも言った通りっス。お二人が行くなら俺もっス」
「と言うわけで、これで3人よ。で、話を聞いたあんた自身は?」
エミルに尋ねられ、ダンは顔を帽子で覆いつつ、うなずいた。
「やるよ。事情を聞かされたら、嫌って言えねえよ」
「その事情って結局、何なんだ?」
残る2人が尋ねたところで、ダンが答えた。
「結論から言うぜ。
サミュエル・クインシーは偽名だ。本名はサマンサ・ミラーだとさ」
「……え」
「それって、つまり」
エミルとダンを除く全員が、驚いた様子を見せる。
それを受けて、エミルがこう続けた。
「つまり、そう言うこと。『あの子』は局長の娘なのよ」
DETECTIVE WESTERN 9 ~赤錆びたガンスミス~ THE END
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これにてDW9、終了です。
次回作はもう半年くらい待っていただければ、多分。
ちょっと間を置いて、2月5日よりいよいよ、「琥珀暁」第3部の連載を開始します。
とりあえず2018年、出だしは良さそうです。
お楽しみに!
これにてDW9、終了です。
次回作はもう半年くらい待っていただければ、多分。
ちょっと間を置いて、2月5日よりいよいよ、「琥珀暁」第3部の連載を開始します。
とりあえず2018年、出だしは良さそうです。
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