「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・陥港伝 2
神様たちの話、第82話。
呑気な測量班。
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2.
人間の生息圏拡大によって、様々な問題が生じたことも事実である。
食糧や経済と言った大きく重要なものから近隣住民同士でのいざこざに至るまで、ゼロ降臨以前には考えられなかった様々な問題が、この20年で表出し始めていた。
勿論、それら諸問題に対して何も対策を講じず、放っておくようなゼロではない。彼の指導の元、大規模な畑や漁場を造ったり、「壁の山」やその南から貴金属を採掘して貨幣を鋳造したりと、彼は以前にも増して忙しなく動いていた。
とは言え、その全てに介入できるほど、流石の彼も万能ではない。本拠地であるクロスセントラルから遠く離れた地域で問題が発生した場合には、代わりの者を送るようになっていたし、そうした人間を多数育成・準備しておくため、政府や軍も創成していた。
彼らもそうして設立された軍に籍を置いており、数多くいる「ゼロの代理人」の一人から指令を与えられ、その任務に就いていた。
「……よし。これで終わりだな」
彼は測量機材を片付けつつ、離れたところで返事を待つ部下に手を振る。
「おーい、こっちに戻って来てくれー」
「はーい」
軍に身を置く将校や兵士たちと言っても、誰もがバケモノ討伐を命じられるわけでは無い。
今回彼らに与えられた任務は、山脈の北側地域――後に「央北」と名付けられる地域の、東側海岸沿いの地図を製作することであり、皆一様に、鎧も兜も無い、動きやすい軽装をしている。
「おつかれさん。……もうこれで、この辺り全部完成だよな?」
「いえ、まだノースポート周辺が残ってます」
「ん、……そうだったか? 今までの、見せてくれ」
「はーい」
部下から作成した地図の束を受け取り、彼は一枚一枚、つぶさに確認する。
「……確かに。とっくに終わらせたと思ってたんだが」
「街だからむしろ、もう終わってるって思い込んじゃった、……って感じですかね」
「そんな感じだな。
まあいい。一休みしたらちゃちゃっと行って、すぐ取り掛かろう」
「了解でーす」
彼の班4人は測量を行っていた丘の上に座り、遅めの昼食に手を付けた。
「ノースポート行ったら、ソコで一晩泊まりですかね」
「ん? うーん……、そうだな。一日じゃ終わらないだろうし」
うなずいた上官に、他の部下が嬉しそうに笑みを返す。
「じゃあ晩ご飯と朝ご飯、海の幸食べ放題ですねー」
「そうだな。俺もがっつり、魚とかエビとか食いたいな」
「ここから見えるでしょうか、街」
別の者からそう尋ねられ、彼は街のある方に顔を向ける。
「単眼鏡使えばギリ、かな。マリア、お前なら無しで見れるんじゃないか?」
「いやー、あたしでもちょいきついですよ」
そう言いつつ、マリアと呼ばれた猫獣人は手をかざしながら、街に目をやる。
「んっ、んー……、やっぱ無理です。黒い粒にしか見えないです」
「流石に五感バリバリの『猫』でもこの距離は無理か。ほら、単眼鏡」
彼から単眼鏡を渡され、マリアはもう一度、街を観察した。
「……ん? んー?」
「どうした? 単眼鏡でも見えないってことは流石に……」「いや、そうじゃなくてですね」
マリアは首を傾げながら、単眼鏡を返した。
「変なんですよね。なんか街の人、広場に固まってて動かないんです」
「祭りか何かやってんじゃないスか?」
そう返した同僚に、マリアはぷるぷると首を振る。
「露店っぽいのも無いし、そもそも特にそんな行事やってそうな時期じゃないでしょ?」
「それもそうか。尉官、何か見えます?」
そう聞かれて、単眼鏡を返された彼は、自分でも街の様子を確かめてみた。
「……うーん。確かに妙な気配がするな。少なくとも楽しそうな雰囲気じゃない」
「俺にも見せて下さい」
「ああ」
単眼鏡を渡し、尉官は仲間たちに尋ねる。
「どう思う? 不自然に人が集まって動かないって状況、祭りの他に何が考えられる?」
「話し合いか告知か……、例えば町長が演説してるとか」
「ソレか、事件ってコトもあるんじゃないっスか?」
「事件?」
おうむ返しに尋ねるが、尉官はすぐに首を振る。
「……いや、ここで何を話し合っても、はっきりしないだろう。さっさとメシ食って、もっと接近してみよう」
「了解っス」
部下2人が敬礼したところで、まだ単眼鏡を覗いていた残り1人が「あれ?」と妙な声を上げた。
「どうした、ビート?」
「あの、海の方に何か、変な影みたいなのが……」
「影?」
単眼鏡を受け取り、尉官も海に目をやる。
「……なんだ、ありゃ?」
部下の言う通り、海に黒い影がいくつも浮かんでいるのが、尉官の目にも映った。
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呑気な測量班。
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人間の生息圏拡大によって、様々な問題が生じたことも事実である。
食糧や経済と言った大きく重要なものから近隣住民同士でのいざこざに至るまで、ゼロ降臨以前には考えられなかった様々な問題が、この20年で表出し始めていた。
勿論、それら諸問題に対して何も対策を講じず、放っておくようなゼロではない。彼の指導の元、大規模な畑や漁場を造ったり、「壁の山」やその南から貴金属を採掘して貨幣を鋳造したりと、彼は以前にも増して忙しなく動いていた。
とは言え、その全てに介入できるほど、流石の彼も万能ではない。本拠地であるクロスセントラルから遠く離れた地域で問題が発生した場合には、代わりの者を送るようになっていたし、そうした人間を多数育成・準備しておくため、政府や軍も創成していた。
彼らもそうして設立された軍に籍を置いており、数多くいる「ゼロの代理人」の一人から指令を与えられ、その任務に就いていた。
「……よし。これで終わりだな」
彼は測量機材を片付けつつ、離れたところで返事を待つ部下に手を振る。
「おーい、こっちに戻って来てくれー」
「はーい」
軍に身を置く将校や兵士たちと言っても、誰もがバケモノ討伐を命じられるわけでは無い。
今回彼らに与えられた任務は、山脈の北側地域――後に「央北」と名付けられる地域の、東側海岸沿いの地図を製作することであり、皆一様に、鎧も兜も無い、動きやすい軽装をしている。
「おつかれさん。……もうこれで、この辺り全部完成だよな?」
「いえ、まだノースポート周辺が残ってます」
「ん、……そうだったか? 今までの、見せてくれ」
「はーい」
部下から作成した地図の束を受け取り、彼は一枚一枚、つぶさに確認する。
「……確かに。とっくに終わらせたと思ってたんだが」
「街だからむしろ、もう終わってるって思い込んじゃった、……って感じですかね」
「そんな感じだな。
まあいい。一休みしたらちゃちゃっと行って、すぐ取り掛かろう」
「了解でーす」
彼の班4人は測量を行っていた丘の上に座り、遅めの昼食に手を付けた。
「ノースポート行ったら、ソコで一晩泊まりですかね」
「ん? うーん……、そうだな。一日じゃ終わらないだろうし」
うなずいた上官に、他の部下が嬉しそうに笑みを返す。
「じゃあ晩ご飯と朝ご飯、海の幸食べ放題ですねー」
「そうだな。俺もがっつり、魚とかエビとか食いたいな」
「ここから見えるでしょうか、街」
別の者からそう尋ねられ、彼は街のある方に顔を向ける。
「単眼鏡使えばギリ、かな。マリア、お前なら無しで見れるんじゃないか?」
「いやー、あたしでもちょいきついですよ」
そう言いつつ、マリアと呼ばれた猫獣人は手をかざしながら、街に目をやる。
「んっ、んー……、やっぱ無理です。黒い粒にしか見えないです」
「流石に五感バリバリの『猫』でもこの距離は無理か。ほら、単眼鏡」
彼から単眼鏡を渡され、マリアはもう一度、街を観察した。
「……ん? んー?」
「どうした? 単眼鏡でも見えないってことは流石に……」「いや、そうじゃなくてですね」
マリアは首を傾げながら、単眼鏡を返した。
「変なんですよね。なんか街の人、広場に固まってて動かないんです」
「祭りか何かやってんじゃないスか?」
そう返した同僚に、マリアはぷるぷると首を振る。
「露店っぽいのも無いし、そもそも特にそんな行事やってそうな時期じゃないでしょ?」
「それもそうか。尉官、何か見えます?」
そう聞かれて、単眼鏡を返された彼は、自分でも街の様子を確かめてみた。
「……うーん。確かに妙な気配がするな。少なくとも楽しそうな雰囲気じゃない」
「俺にも見せて下さい」
「ああ」
単眼鏡を渡し、尉官は仲間たちに尋ねる。
「どう思う? 不自然に人が集まって動かないって状況、祭りの他に何が考えられる?」
「話し合いか告知か……、例えば町長が演説してるとか」
「ソレか、事件ってコトもあるんじゃないっスか?」
「事件?」
おうむ返しに尋ねるが、尉官はすぐに首を振る。
「……いや、ここで何を話し合っても、はっきりしないだろう。さっさとメシ食って、もっと接近してみよう」
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「あの、海の方に何か、変な影みたいなのが……」
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