「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・陥港伝 5
神様たちの話、第85話。
出会い。
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5.
静かに壁を越え、街の中に入ったところで、尉官が無言でマリアの手を引く。
(どこかに隠れよう)
(了解でーす)
二人はさっと身を翻し、近くの民家に滑り込む。
「……よし。誰にも気付かれてなさそうだ」
「どうしましょ? はしごは無さそうですけど」
「ロープなんかはどうだろう」
二人で家中を探り、壁越えに使えそうなものを探す。
「……何にも無いな。ただ寝泊まりするためだけの家って感じだ」
「かまどとか物置とかも無いですよねー? 一応ベッドとテーブルだけはありますけど。
と言うか鍵すら無かったですよね、この家。びっくりするくらい何にも無いですね。もしかしてここ、物置小屋なんじゃないですか?」
「外から見た限りじゃ、家だと思ったんだがな」
そんな会話を交わしながら、尉官はベッドの下を覗き込む。
「案の定、何にも無いな」
口でそう言いつつ、尉官はベッドの下に手を伸ばした。
すると――。
「ん?」
わずかながら、ふにっ、とした感触が手に伝わってくる。
そして次の瞬間――。
「なななな何をなさるのですかっ、ぶっ、無礼者っ!」
何も無いはずの空間から突然手が伸び、尉官の手をつかんだ。
「わわわたくしをどどどどうしどうしようといい言うのですかっ!?」
「え? は? な、何だ?」
何が起こっているのか分からず、尉官は面食らう。
「ててて手を出すと言う言うのならばわわわわたわたわたくし、よよよ容赦いたいたしましませ、にぇっ」
どもるような言葉の羅列が続いた後、唐突に黙り込む。どうやら舌を噛んでしまったらしい。
「……えーと、お嬢ちゃん。大丈夫か?」
「ひっ」
ベッドの下に姿を現したその長耳の少女は、尉官の腕をつかんだまま、さらに奥へ潜り込もうとする。
当然、尉官もそのまま引っ張られるのだが――。
「こっ、来ないで下さい! ててて、手を離して!」
「いや、君が引っ張ってるんだが」
「え? ……あっ、あっ、失礼いたしました」
尉官から手を離し、少女は再度、奥へ潜む。
それを引き留めようと、尉官はやんわりと声をかけた。
「言っておくが、俺たちは君に危害を加えるつもりは無い。
街の人たちを助けるため、道具を探してるところだ。だから出てきてくれないか?」
「……本当に?」
ベッドの下から恐る恐る尋ねてきた銀髪の少女に、今度はマリアが答える。
「本当ですよー。尉官はいっつも青白い顔してるし、大抵しょっぱい表情してますし、パッと見怖い人なのかなーって思ったりしちゃいますけど、実はとっても優しい人ですから、安心して出てきて下さいよー」
「しょっぱい? 怖い? ……顔がか? 血色のせいか? そんなにか?」
尉官がそう尋ねるが、マリアは応じず、ベッドの下と同じ目線までしゃがみ込む。
「あたしはマリア・ロッソって言います。あなたの名前は何ですか?」
「わたくしはくら、……いえ、クーと申しますわ」
「クーちゃんですね、よろしくー」
マリアは顔を挙げ、尉官に促す。
「ほら、尉官も自己紹介して下さい。いきなり『出てこい』とか言っても、怖がらせちゃいますよ?」
「それもそうだな」
尉官も再度しゃがみ込み、クーに自己紹介した。
「俺の名前はハンニバル・シモン。階級は尉官だ。周りからはハンって呼ばれてる。
この街には元々、測量目的で訪れたんだが、変な奴らが街を占拠してるのに気付いて、それで町民を解放するため、街に忍び込んだんだ。
どうだ? これで納得してくれたか?」
「……クスっ」
小さく噴き出すような声を挙げ、クーがベッドの下から這い出てきた。
「ええ、納得いたしました。確かに悪い方では無さそうですわね。
先程のことも――わたくしが姿を消していたことですし――不可抗力だったとしておきましょう」
「先程?」
尋ねたハンに、クーは顔を真っ赤にする。
「あ、あなた、うら若き乙女に、あの状況をつぶさに説明しろと仰るのかしら?」
「あの状況と言われても、何が何だか」
「わっ、分からない方ですわね。あなたわたくしの胸を、……いえ、……何でもございませんわ。もう水に流しますから。もうお聞きにならないで下さいませ。
ええと、ともかくあなた方は街の方々を助けに来られた、と言うことでよろしいのかしら?」
「そう言うことだ」
ハンがうなずいたところで、クーは窓の方をチラ、と眺める。
「わたくしも昨日この街を訪れたばかりですので、あまり詳しい地理は存じ上げないのですけれど、この家を出て左に少々進んだところに、宿がございますわ。
宿であれば、少なくともこの家よりも何らかの設備があるのではと」
「なるほど。少々ってどのくらいかな?」
「そうですわね……、わたくしも動揺しておりましたので正確には申せませんが、3分もかからなかったかと」
「慌てて3分、か。多分、200メートルも無い程度だろうが……」
ハンも窓の外にチラ、と目線を向ける。
「宿までの道ってなると、どこの街でも大体見通しがいい、大通りに出るだろうからな。敵に見つからないように移動するのは難しい」
「あたしの脚なら、ぱぱーっと……」
そう提案したマリアに、ハンは首を振る。
「うまく潜り込めてはしごなり何なりを手に入れたとしても、そこからビートたちのいる壁まで、はしごを持って戻らなきゃならん。結局、目立つ」
「あ、そっか。……じゃあ宿の方に行く案はまずいっぽいですねー」
「だな」
と、二人のやり取りを眺めていたクーが手を挙げる。
「あの、わたくしに考えが」
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5.
静かに壁を越え、街の中に入ったところで、尉官が無言でマリアの手を引く。
(どこかに隠れよう)
(了解でーす)
二人はさっと身を翻し、近くの民家に滑り込む。
「……よし。誰にも気付かれてなさそうだ」
「どうしましょ? はしごは無さそうですけど」
「ロープなんかはどうだろう」
二人で家中を探り、壁越えに使えそうなものを探す。
「……何にも無いな。ただ寝泊まりするためだけの家って感じだ」
「かまどとか物置とかも無いですよねー? 一応ベッドとテーブルだけはありますけど。
と言うか鍵すら無かったですよね、この家。びっくりするくらい何にも無いですね。もしかしてここ、物置小屋なんじゃないですか?」
「外から見た限りじゃ、家だと思ったんだがな」
そんな会話を交わしながら、尉官はベッドの下を覗き込む。
「案の定、何にも無いな」
口でそう言いつつ、尉官はベッドの下に手を伸ばした。
すると――。
「ん?」
わずかながら、ふにっ、とした感触が手に伝わってくる。
そして次の瞬間――。
「なななな何をなさるのですかっ、ぶっ、無礼者っ!」
何も無いはずの空間から突然手が伸び、尉官の手をつかんだ。
「わわわたくしをどどどどうしどうしようといい言うのですかっ!?」
「え? は? な、何だ?」
何が起こっているのか分からず、尉官は面食らう。
「ててて手を出すと言う言うのならばわわわわたわたわたくし、よよよ容赦いたいたしましませ、にぇっ」
どもるような言葉の羅列が続いた後、唐突に黙り込む。どうやら舌を噛んでしまったらしい。
「……えーと、お嬢ちゃん。大丈夫か?」
「ひっ」
ベッドの下に姿を現したその長耳の少女は、尉官の腕をつかんだまま、さらに奥へ潜り込もうとする。
当然、尉官もそのまま引っ張られるのだが――。
「こっ、来ないで下さい! ててて、手を離して!」
「いや、君が引っ張ってるんだが」
「え? ……あっ、あっ、失礼いたしました」
尉官から手を離し、少女は再度、奥へ潜む。
それを引き留めようと、尉官はやんわりと声をかけた。
「言っておくが、俺たちは君に危害を加えるつもりは無い。
街の人たちを助けるため、道具を探してるところだ。だから出てきてくれないか?」
「……本当に?」
ベッドの下から恐る恐る尋ねてきた銀髪の少女に、今度はマリアが答える。
「本当ですよー。尉官はいっつも青白い顔してるし、大抵しょっぱい表情してますし、パッと見怖い人なのかなーって思ったりしちゃいますけど、実はとっても優しい人ですから、安心して出てきて下さいよー」
「しょっぱい? 怖い? ……顔がか? 血色のせいか? そんなにか?」
尉官がそう尋ねるが、マリアは応じず、ベッドの下と同じ目線までしゃがみ込む。
「あたしはマリア・ロッソって言います。あなたの名前は何ですか?」
「わたくしはくら、……いえ、クーと申しますわ」
「クーちゃんですね、よろしくー」
マリアは顔を挙げ、尉官に促す。
「ほら、尉官も自己紹介して下さい。いきなり『出てこい』とか言っても、怖がらせちゃいますよ?」
「それもそうだな」
尉官も再度しゃがみ込み、クーに自己紹介した。
「俺の名前はハンニバル・シモン。階級は尉官だ。周りからはハンって呼ばれてる。
この街には元々、測量目的で訪れたんだが、変な奴らが街を占拠してるのに気付いて、それで町民を解放するため、街に忍び込んだんだ。
どうだ? これで納得してくれたか?」
「……クスっ」
小さく噴き出すような声を挙げ、クーがベッドの下から這い出てきた。
「ええ、納得いたしました。確かに悪い方では無さそうですわね。
先程のことも――わたくしが姿を消していたことですし――不可抗力だったとしておきましょう」
「先程?」
尋ねたハンに、クーは顔を真っ赤にする。
「あ、あなた、うら若き乙女に、あの状況をつぶさに説明しろと仰るのかしら?」
「あの状況と言われても、何が何だか」
「わっ、分からない方ですわね。あなたわたくしの胸を、……いえ、……何でもございませんわ。もう水に流しますから。もうお聞きにならないで下さいませ。
ええと、ともかくあなた方は街の方々を助けに来られた、と言うことでよろしいのかしら?」
「そう言うことだ」
ハンがうなずいたところで、クーは窓の方をチラ、と眺める。
「わたくしも昨日この街を訪れたばかりですので、あまり詳しい地理は存じ上げないのですけれど、この家を出て左に少々進んだところに、宿がございますわ。
宿であれば、少なくともこの家よりも何らかの設備があるのではと」
「なるほど。少々ってどのくらいかな?」
「そうですわね……、わたくしも動揺しておりましたので正確には申せませんが、3分もかからなかったかと」
「慌てて3分、か。多分、200メートルも無い程度だろうが……」
ハンも窓の外にチラ、と目線を向ける。
「宿までの道ってなると、どこの街でも大体見通しがいい、大通りに出るだろうからな。敵に見つからないように移動するのは難しい」
「あたしの脚なら、ぱぱーっと……」
そう提案したマリアに、ハンは首を振る。
「うまく潜り込めてはしごなり何なりを手に入れたとしても、そこからビートたちのいる壁まで、はしごを持って戻らなきゃならん。結局、目立つ」
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「だな」
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