「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・回顧録 3
晴奈の話、第215話。
外道。
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3.
「あたしたちは友達になったんだけど、央南の人を見るのは初めてだったし、無茶苦茶強い子だったから、興味が尽きなくってね。
色々、変なこと聞いたりしたわね」
「ねえ、ユキノ」
「ん?」
宿で刀の手入れをする雪乃を見ていたボーダは、どこかで聞いた話を尋ねてみることにした。
「ユキノって、サムライ?」
「え? えー、まあ。刀を使うし、央南の剣士だから、そうなるかな」
「じゃあさ、あの……、気合いで、敵倒せるの?」
「はぁ?」
雪乃はきょとんとした顔になり、刀を置いた。
「気合いで、倒す?」
「いや、ほら。昔話だか何だかで、サムライは向かい合った敵を、睨んだだけで倒せたとか」
「うーん……。おとぎ話と混同してない? 聞いたこと無いなぁ」
「そうよねぇ、あはは。現実的に考えたら、無いわよねー」
自分でも変なことを聞いたと思い、ボーダは少し恥ずかしくなって笑った。
そこにピースが手紙を持って、部屋に入ってきた。
「ユキノ、いい報せだ。……っと、ボーダも一緒か」
「あら、一緒にいちゃ悪い?」
半ば冗談で文句を言うボーダに、ピースも苦笑しつつ肩をすくめる。
一緒に仕事をし、雪乃が間に入るようになって――多少のケンカは続いたものの――二人は妙に仲良くなった。
「いや、一向に構わないさ。まあ、丁度いいかも。これを見てくれ」
「何? ……へぇ、もうニコルリーグの誘い?」
ピースから手紙を受け取り、しげしげと眺めるボーダの横に、雪乃が寄ってきた。
「もっと時間かかるって言ってなかった?」
「ま、普通は、って言う話だから。それだけユキノが強いってことだよ」
「うんうん。ニコルリーグでも、きっと大活躍よ」
ほめちぎる二人に、雪乃は少し顔を赤くした。
「そんな、わたしなんかまだまだよ」
謙遜する雪乃を見て、二人はますますほめ倒す。
「いやいや、ユキノならきっと、エリザリーグまで行っちゃうよ」
「行ける行ける、絶対行けるって」
二人の言葉に気を良くしたのか、雪乃も少しその気になったようだ。
「そう、かな?」
「うんっ」
「じゃ、じゃあ……、その、ちゃんぴょん、とかにもなれるかしら?」
ところが雪乃がこう尋ねた途端、二人は顔を見合わせてうなる。
「う、うーん。それは、どうかなぁ」「アイツが、相手じゃねえ」
「アイツ? ちゃんぴょんって、そんなに強いの?」
「いや、強いと言うか」「えげつないと言うか」
口で説明するより見た方が早い、と言うわけで、三人は闘技場にやって来た。
「丁度今、そのチャンピオンが戦ってるところだ。……ほら、あれだ」
ピースの指差す先、闘技場のリング内に、チャンピオン――「キング」クラウンがいた。
その戦い方を見た途端、雪乃は口に手をそえてうめいた。
「うわ……。ひどい、あの人」
勿論ここまで勝ち上がり、リーグの雰囲気を少なからずつかんでいる雪乃が、単に相手が打ちのめされているだけであれば、こんなことは言わない。
ひどいと言ったのは、クラウンの戦い方である。
「のどを潰されてる。降参できないじゃない!」
クラウンの相手は口から血を垂れ流し、既に膝を着いている。だが、クラウンが自分の体を使って相手を隠し、審判やアナウンス席に見えないようにして、いたぶっているのだ。
「ね? えげつないって言った意味が分かったでしょ?」
ボーダが声をかけたが、雪乃は答えない。
「……」
じっと、クラウンを睨んでいる。初めて見る雪乃の怒った顔に、ピースたちは戸惑った。
「ユキノ?」
「……」
内臓を潰されたのか、ついに相手が大量の血を吐いて倒れた。
そこでようやく審判が気付き、慌てて試合終了を告げる。横目でそれを確認したクラウンは倒れた相手に唾を吐き、侮辱した。
「ヘッ、弱っちいの」
クラウンはそのまま、リングから姿を消した。
「……」
「ユキノ……?」
この間雪乃は、ずっとクラウンを睨みつけていた。
対戦相手が担架で運ばれていくのを見送った後、雪乃はぼそっとつぶやいた。
「……すわ」
「え?」
雪乃はもう一度、静かに、しかしたぎるような闘気を含んだ声で答えた。
「倒すわ。あのクラウンって男、わたしは許せない」
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外道。
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「あたしたちは友達になったんだけど、央南の人を見るのは初めてだったし、無茶苦茶強い子だったから、興味が尽きなくってね。
色々、変なこと聞いたりしたわね」
「ねえ、ユキノ」
「ん?」
宿で刀の手入れをする雪乃を見ていたボーダは、どこかで聞いた話を尋ねてみることにした。
「ユキノって、サムライ?」
「え? えー、まあ。刀を使うし、央南の剣士だから、そうなるかな」
「じゃあさ、あの……、気合いで、敵倒せるの?」
「はぁ?」
雪乃はきょとんとした顔になり、刀を置いた。
「気合いで、倒す?」
「いや、ほら。昔話だか何だかで、サムライは向かい合った敵を、睨んだだけで倒せたとか」
「うーん……。おとぎ話と混同してない? 聞いたこと無いなぁ」
「そうよねぇ、あはは。現実的に考えたら、無いわよねー」
自分でも変なことを聞いたと思い、ボーダは少し恥ずかしくなって笑った。
そこにピースが手紙を持って、部屋に入ってきた。
「ユキノ、いい報せだ。……っと、ボーダも一緒か」
「あら、一緒にいちゃ悪い?」
半ば冗談で文句を言うボーダに、ピースも苦笑しつつ肩をすくめる。
一緒に仕事をし、雪乃が間に入るようになって――多少のケンカは続いたものの――二人は妙に仲良くなった。
「いや、一向に構わないさ。まあ、丁度いいかも。これを見てくれ」
「何? ……へぇ、もうニコルリーグの誘い?」
ピースから手紙を受け取り、しげしげと眺めるボーダの横に、雪乃が寄ってきた。
「もっと時間かかるって言ってなかった?」
「ま、普通は、って言う話だから。それだけユキノが強いってことだよ」
「うんうん。ニコルリーグでも、きっと大活躍よ」
ほめちぎる二人に、雪乃は少し顔を赤くした。
「そんな、わたしなんかまだまだよ」
謙遜する雪乃を見て、二人はますますほめ倒す。
「いやいや、ユキノならきっと、エリザリーグまで行っちゃうよ」
「行ける行ける、絶対行けるって」
二人の言葉に気を良くしたのか、雪乃も少しその気になったようだ。
「そう、かな?」
「うんっ」
「じゃ、じゃあ……、その、ちゃんぴょん、とかにもなれるかしら?」
ところが雪乃がこう尋ねた途端、二人は顔を見合わせてうなる。
「う、うーん。それは、どうかなぁ」「アイツが、相手じゃねえ」
「アイツ? ちゃんぴょんって、そんなに強いの?」
「いや、強いと言うか」「えげつないと言うか」
口で説明するより見た方が早い、と言うわけで、三人は闘技場にやって来た。
「丁度今、そのチャンピオンが戦ってるところだ。……ほら、あれだ」
ピースの指差す先、闘技場のリング内に、チャンピオン――「キング」クラウンがいた。
その戦い方を見た途端、雪乃は口に手をそえてうめいた。
「うわ……。ひどい、あの人」
勿論ここまで勝ち上がり、リーグの雰囲気を少なからずつかんでいる雪乃が、単に相手が打ちのめされているだけであれば、こんなことは言わない。
ひどいと言ったのは、クラウンの戦い方である。
「のどを潰されてる。降参できないじゃない!」
クラウンの相手は口から血を垂れ流し、既に膝を着いている。だが、クラウンが自分の体を使って相手を隠し、審判やアナウンス席に見えないようにして、いたぶっているのだ。
「ね? えげつないって言った意味が分かったでしょ?」
ボーダが声をかけたが、雪乃は答えない。
「……」
じっと、クラウンを睨んでいる。初めて見る雪乃の怒った顔に、ピースたちは戸惑った。
「ユキノ?」
「……」
内臓を潰されたのか、ついに相手が大量の血を吐いて倒れた。
そこでようやく審判が気付き、慌てて試合終了を告げる。横目でそれを確認したクラウンは倒れた相手に唾を吐き、侮辱した。
「ヘッ、弱っちいの」
クラウンはそのまま、リングから姿を消した。
「……」
「ユキノ……?」
この間雪乃は、ずっとクラウンを睨みつけていた。
対戦相手が担架で運ばれていくのを見送った後、雪乃はぼそっとつぶやいた。
「……すわ」
「え?」
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