「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・陥港伝 7
神様たちの話、第87話。
ノースポート脱出。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
町民たちがなだれ込んできたのを見て、門前に陣取っていた敵が目を丸くする。
「***! ***!」
雰囲気から、どうやら「止まれ」と言うようなことを叫んでいるらしいが、いつの間にか魁(さきがけ)に立っていたハンが、それをかき消すように叫ぶ。
「皆、止まるな! 全速力だッ!」
それに応じるように、マリアが敵に向かって駆け出す。
「とりゃーッ!」
槍をぐるんぐるんと振り回し、その勢いのまま、槍の腹を敵のほおに叩きつける。
「***~……っ」
槍に引っ叩かれ、敵は歯を1本、2本と吐き出しながら、門の前から吹っ飛んでいく。
「もいっちょお!」
槍の勢いをまったく衰えさせないまま、マリアは2人目も弾き飛ばす。
「**……!」
それを見た3人目がいきり立った様子を見せたが、武器を構えるよりも前に、ハンがその懐に入っていた。
「やらせんッ!」「**!?」
ハンのタックルを食らった敵は門に叩きつけられ、そのまま気を失う。
「よし、排除! 後ろは!?」
「クリアっス!」
シェロの返事を受け、ハンは門の閂を外す。
「開いたぞ! 急げ、急げ、急げ!」
開かれた門を、町民たちが勢い良く駆け抜けていく。
大部分が逃げたところで、殿(しんがり)にいたビートの声が聞こえてくる。
「敵、来てます!」
「急げーッ!」
町民全員が出たところで、ハンが門を閉じる。
「頼んだぞ、マリア!」
「りょうかーい!」
一人残されたマリアは閂をかけ、横の壁に向かって走り出す。
「***! ***! ***!」
同時に敵の集団が角を曲がり、怒涛の勢いで迫ってくる。
「よーい……、しょーっ、と!」
マリアは3メートル近い垂直の壁を軽々と駆け上り、空高くジャンプして、そのまま壁の向こうへと消えていった。
「*****ーッ!」
敵集団は勢いを殺せず、次々と門にぶつかっていく。
どうにか衝突を免れた者たちが仲間をかき分け、門を開けるも――。
「……***!」
町民の姿は、既にどこにも見当たらなかった。
「助かったよ、クー」
追跡を諦めたらしく、敵が正門を閉ざしたところで、ハンたちと町民らが姿を現す。
「お礼には及びませんわ。当然のことをいたしたまでですので」
クーが提案した作戦は、彼女が得意とする潜遁術――「インビジブル」を活用したものだった。
彼女の術により、ハンたちは姿を消したまま、壁を越えるはしごの調達や逃走経路の確保が行えた上に、堂々と町民の側まで近寄り、ロウを始めとする元手練の協力を得ることもできた。
「……でも」
と、ビートがけげんな顔をしている。
「クーさん、どこでそんな術を学んだんですか? 僕も軍で魔術教わりましたけど、そんな術、見たことも聞いたことも無いのに。
それにそもそも、これだけ大量の人間を一度に隠せるなんて、並の魔力じゃ絶対できないですよ。クーさんは一体、何者なんですか?」
「えっ、……と」
素性を尋ねられ、クーは困った顔になる。
「それについては、その……、詳しいことは申せません」
「だそうだ」
見かねたハンが、話に割って入る。
「言いたくないって話を無理に聞く必要は無い。そうだろ?」
「そ、そうですね。すみません、クーさん」
「い、いえ。こちらこそ申し訳ございません、ビートさん」
「あ、いや、そんな、全然」
二人してぺこぺこ謝り合うのを見て、マリアがクスクス笑う。
「もー、二人ともおっかしー」
「えー……」「そ、そうですか?」
周囲を含め、ひとしきり笑い合ったところで、ハンが手を挙げる。
「もうそろそろ、日が暮れる時間だ。このままこんな野外に留まっていたら、折角逃げられたのに体を壊しかねない。
ちょっと辛いかも知れないが、皆で西に移動しよう。1時間ほど歩いたところに昔、バケモノ討伐に使ってたって基地がある。そこなら200人全員、問題無く収容できるだろう」
「あら、お詳しいですのね」
そう返したクーに、ハンは肩をすくめて返した。
「元々それが、俺たちの仕事だからな。
本当、今日は柄にも無いことばっかりしたもんだよ」
「ほんとですよねー」
「まったくっスよ」
「すごく疲れました」
揃って気の抜けたことを言う英雄4人を囲み、町民たちはまた笑っていた。
琥珀暁・陥港伝 終
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町民たちがなだれ込んできたのを見て、門前に陣取っていた敵が目を丸くする。
「***! ***!」
雰囲気から、どうやら「止まれ」と言うようなことを叫んでいるらしいが、いつの間にか魁(さきがけ)に立っていたハンが、それをかき消すように叫ぶ。
「皆、止まるな! 全速力だッ!」
それに応じるように、マリアが敵に向かって駆け出す。
「とりゃーッ!」
槍をぐるんぐるんと振り回し、その勢いのまま、槍の腹を敵のほおに叩きつける。
「***~……っ」
槍に引っ叩かれ、敵は歯を1本、2本と吐き出しながら、門の前から吹っ飛んでいく。
「もいっちょお!」
槍の勢いをまったく衰えさせないまま、マリアは2人目も弾き飛ばす。
「**……!」
それを見た3人目がいきり立った様子を見せたが、武器を構えるよりも前に、ハンがその懐に入っていた。
「やらせんッ!」「**!?」
ハンのタックルを食らった敵は門に叩きつけられ、そのまま気を失う。
「よし、排除! 後ろは!?」
「クリアっス!」
シェロの返事を受け、ハンは門の閂を外す。
「開いたぞ! 急げ、急げ、急げ!」
開かれた門を、町民たちが勢い良く駆け抜けていく。
大部分が逃げたところで、殿(しんがり)にいたビートの声が聞こえてくる。
「敵、来てます!」
「急げーッ!」
町民全員が出たところで、ハンが門を閉じる。
「頼んだぞ、マリア!」
「りょうかーい!」
一人残されたマリアは閂をかけ、横の壁に向かって走り出す。
「***! ***! ***!」
同時に敵の集団が角を曲がり、怒涛の勢いで迫ってくる。
「よーい……、しょーっ、と!」
マリアは3メートル近い垂直の壁を軽々と駆け上り、空高くジャンプして、そのまま壁の向こうへと消えていった。
「*****ーッ!」
敵集団は勢いを殺せず、次々と門にぶつかっていく。
どうにか衝突を免れた者たちが仲間をかき分け、門を開けるも――。
「……***!」
町民の姿は、既にどこにも見当たらなかった。
「助かったよ、クー」
追跡を諦めたらしく、敵が正門を閉ざしたところで、ハンたちと町民らが姿を現す。
「お礼には及びませんわ。当然のことをいたしたまでですので」
クーが提案した作戦は、彼女が得意とする潜遁術――「インビジブル」を活用したものだった。
彼女の術により、ハンたちは姿を消したまま、壁を越えるはしごの調達や逃走経路の確保が行えた上に、堂々と町民の側まで近寄り、ロウを始めとする元手練の協力を得ることもできた。
「……でも」
と、ビートがけげんな顔をしている。
「クーさん、どこでそんな術を学んだんですか? 僕も軍で魔術教わりましたけど、そんな術、見たことも聞いたことも無いのに。
それにそもそも、これだけ大量の人間を一度に隠せるなんて、並の魔力じゃ絶対できないですよ。クーさんは一体、何者なんですか?」
「えっ、……と」
素性を尋ねられ、クーは困った顔になる。
「それについては、その……、詳しいことは申せません」
「だそうだ」
見かねたハンが、話に割って入る。
「言いたくないって話を無理に聞く必要は無い。そうだろ?」
「そ、そうですね。すみません、クーさん」
「い、いえ。こちらこそ申し訳ございません、ビートさん」
「あ、いや、そんな、全然」
二人してぺこぺこ謝り合うのを見て、マリアがクスクス笑う。
「もー、二人ともおっかしー」
「えー……」「そ、そうですか?」
周囲を含め、ひとしきり笑い合ったところで、ハンが手を挙げる。
「もうそろそろ、日が暮れる時間だ。このままこんな野外に留まっていたら、折角逃げられたのに体を壊しかねない。
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