「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・古砦伝 1
神様たちの話、第88話。
古い砦で。
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1.
「状況は?」
尋ねたハンに、マリアは首をコキコキと鳴らしながら答える。
「変わりないですねー。門は閉じたままですし、中から人が出て来る様子も無いですし」
「相手の動きは全く無し、か」
「そうですねー。……あれ? 尉官、登らないんですか?」
「いや、一旦全員で会議しようと思ってな。今後の監視体制について」
「今後って言えばー、本営からは何か、連絡ありました?」
マリアの方から尋ねられ、ハンは小さくうなずく。
「ああ。このまま何も無かったら戻ってこい、と。
既に監視班もこっちへ送られてるらしいから、状況がこのままならそいつらと交代して、……って感じになる。
そこら辺の伝達も兼ねて、会議で話そうと思ってた」
「あらー、そうでしたか。
でも、よーやく帰れますねぇ」
そう返したマリアに、ハンはもう一度、今度は大きくうなずいて返した。
「ああ。ただでさえ測量で3ヶ月もうろつき回ってたってのに、さらにここで足止めされたからな。いい加減、家が恋しいよ」
「同感ですねー。こっちのお魚もすっごく美味しいですけどー、そろそろクロスセントラルで山海焼き食べたいですもん」
「お前、本当にあれ好きだよな。
と言うか、超肉食系だよな。イーストフィールドでもステーキ3枚、ぺろっと行ってたし」
「この仕事、ガッツリ食べなきゃやってらんないじゃないですかー」
「ま、そりゃそうだ。俺も親父から良く言われたよ、『食える時に食ってないといざって時にキツいぞ』って」
「尉官はもうちょっと筋肉付けた方がいいですよー。痩せすぎです」
「そうか? 腕とか腹筋とか、しっかりしてると思うんだけどなぁ」
「顔が問題です。ほっぺた、こけてますし」
「これは生まれつきだ」
話の内容が堅い状況確認から緩い雑談に変わってきたところで、廊下の向こうからビートとシェロが現れた。
「マリアさん、お疲れ様です。もうご飯できてますよ」
「おつかれっスー」
ノースポートを脱出したハンたち測量班一同は、村人たちと共に西の古砦へ移り、そこに建てられた監視塔から、街の監視を交代で行っていた。
とは言え事件の発生から数日が経つも、正体不明の侵略者たちの動きはこの間、全く無く、一同は街を単眼鏡で遠巻きに眺めるばかりの毎日を続けていた。
「本日もご苦労様です、マリアさん」
白い少女、クーからお茶を差し出され、マリアは口をもぐもぐとさせたまま受け取る。
「ありがとうございますー、……んぐ、んぐっ」
「……いつも思うが、マリア」
それを眺めていたハンが、苦々しい声を漏らす。
「ちょっとくらい、綺麗に食べる努力をしようか」
「えー、綺麗に食べてますよー、ほら」
そう言って空になった皿をぺらっと見せるマリアに、ハンは頭を抱える。
「そうじゃない。食べ方が汚いと言ってるんだ」
「そですか?」
きょとんとした顔になるマリアに、測量班一同とクーは揃ってうなずく。
「言っちゃ何ですけど汚いっス」
「たまーに欠片、飛んできますよね」
「お召し物にもお汁、飛んでらっしゃいますわね。点々と」
「あうー……」
顔を真っ赤にし、慌てて服の食べカスを払うマリアに、クーがクスクスと笑いながらハンカチを差し出した。
「はい、マリアさん」
「えっ、……いやー、あの、汚れちゃいますし」
「お気になさらず。汚れを拭うためのものですから」
「あっ、はい、……どーも」
素直にハンカチを受け取り、服を拭くマリアを見て、シェロが噴き出す。
「ぷ、くくく……」
「……なによー」
一転、ほおをふくらませるマリアに、シェロは笑いをこらえつつ、こう返す。
「いや、いつものマリアさんらしくないなって。
尉官や俺たちが相手だったら、こーゆー時『全然気にしないで下さいよー』とか言って、強情張るのになーと思ったんスよ」
「そ、そっかなー」
服を拭き終え、ハンカチを返そうとしたマリアを見て、ハンがまた、苦い顔をした。
「汚したハンカチを返すなよ。ドロドロじゃないか」
「あ、……ホントだ、すみませーん」
マリアがハンカチを引っ込めようとしたところで、クーがそれを手に取る。
「お気になさらず。これくらいなら……」
そう返しつつ、クーはぼそっと何かを唱える。
途端に、ハンカチに付いていたトマトの汁は、綺麗に消えてしまった。
「……すごい」
成り行きを眺めていたビートが、驚いたような声を上げる。
「なにが?」
尋ねたシェロに、ビートが小声で返す。
「汚れの分解と乾燥と――あとついでに生地のシワ伸ばしも――一瞬でやっちゃったよ、あの子。
魔術が同時発動できるなんて、聞いたこと無い。なのにあの子、3つも同時にだなんて」
「……何が何だか分からんが、すごいってことか」
「う、うん。そう言うこと」
二人が目を白黒させている間に、クーはすっかり綺麗になったハンカチを、腰に付けていたポーチにしまいこんでいた。
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「状況は?」
尋ねたハンに、マリアは首をコキコキと鳴らしながら答える。
「変わりないですねー。門は閉じたままですし、中から人が出て来る様子も無いですし」
「相手の動きは全く無し、か」
「そうですねー。……あれ? 尉官、登らないんですか?」
「いや、一旦全員で会議しようと思ってな。今後の監視体制について」
「今後って言えばー、本営からは何か、連絡ありました?」
マリアの方から尋ねられ、ハンは小さくうなずく。
「ああ。このまま何も無かったら戻ってこい、と。
既に監視班もこっちへ送られてるらしいから、状況がこのままならそいつらと交代して、……って感じになる。
そこら辺の伝達も兼ねて、会議で話そうと思ってた」
「あらー、そうでしたか。
でも、よーやく帰れますねぇ」
そう返したマリアに、ハンはもう一度、今度は大きくうなずいて返した。
「ああ。ただでさえ測量で3ヶ月もうろつき回ってたってのに、さらにここで足止めされたからな。いい加減、家が恋しいよ」
「同感ですねー。こっちのお魚もすっごく美味しいですけどー、そろそろクロスセントラルで山海焼き食べたいですもん」
「お前、本当にあれ好きだよな。
と言うか、超肉食系だよな。イーストフィールドでもステーキ3枚、ぺろっと行ってたし」
「この仕事、ガッツリ食べなきゃやってらんないじゃないですかー」
「ま、そりゃそうだ。俺も親父から良く言われたよ、『食える時に食ってないといざって時にキツいぞ』って」
「尉官はもうちょっと筋肉付けた方がいいですよー。痩せすぎです」
「そうか? 腕とか腹筋とか、しっかりしてると思うんだけどなぁ」
「顔が問題です。ほっぺた、こけてますし」
「これは生まれつきだ」
話の内容が堅い状況確認から緩い雑談に変わってきたところで、廊下の向こうからビートとシェロが現れた。
「マリアさん、お疲れ様です。もうご飯できてますよ」
「おつかれっスー」
ノースポートを脱出したハンたち測量班一同は、村人たちと共に西の古砦へ移り、そこに建てられた監視塔から、街の監視を交代で行っていた。
とは言え事件の発生から数日が経つも、正体不明の侵略者たちの動きはこの間、全く無く、一同は街を単眼鏡で遠巻きに眺めるばかりの毎日を続けていた。
「本日もご苦労様です、マリアさん」
白い少女、クーからお茶を差し出され、マリアは口をもぐもぐとさせたまま受け取る。
「ありがとうございますー、……んぐ、んぐっ」
「……いつも思うが、マリア」
それを眺めていたハンが、苦々しい声を漏らす。
「ちょっとくらい、綺麗に食べる努力をしようか」
「えー、綺麗に食べてますよー、ほら」
そう言って空になった皿をぺらっと見せるマリアに、ハンは頭を抱える。
「そうじゃない。食べ方が汚いと言ってるんだ」
「そですか?」
きょとんとした顔になるマリアに、測量班一同とクーは揃ってうなずく。
「言っちゃ何ですけど汚いっス」
「たまーに欠片、飛んできますよね」
「お召し物にもお汁、飛んでらっしゃいますわね。点々と」
「あうー……」
顔を真っ赤にし、慌てて服の食べカスを払うマリアに、クーがクスクスと笑いながらハンカチを差し出した。
「はい、マリアさん」
「えっ、……いやー、あの、汚れちゃいますし」
「お気になさらず。汚れを拭うためのものですから」
「あっ、はい、……どーも」
素直にハンカチを受け取り、服を拭くマリアを見て、シェロが噴き出す。
「ぷ、くくく……」
「……なによー」
一転、ほおをふくらませるマリアに、シェロは笑いをこらえつつ、こう返す。
「いや、いつものマリアさんらしくないなって。
尉官や俺たちが相手だったら、こーゆー時『全然気にしないで下さいよー』とか言って、強情張るのになーと思ったんスよ」
「そ、そっかなー」
服を拭き終え、ハンカチを返そうとしたマリアを見て、ハンがまた、苦い顔をした。
「汚したハンカチを返すなよ。ドロドロじゃないか」
「あ、……ホントだ、すみませーん」
マリアがハンカチを引っ込めようとしたところで、クーがそれを手に取る。
「お気になさらず。これくらいなら……」
そう返しつつ、クーはぼそっと何かを唱える。
途端に、ハンカチに付いていたトマトの汁は、綺麗に消えてしまった。
「……すごい」
成り行きを眺めていたビートが、驚いたような声を上げる。
「なにが?」
尋ねたシェロに、ビートが小声で返す。
「汚れの分解と乾燥と――あとついでに生地のシワ伸ばしも――一瞬でやっちゃったよ、あの子。
魔術が同時発動できるなんて、聞いたこと無い。なのにあの子、3つも同時にだなんて」
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