「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・古砦伝 2
神様たちの話、第89話。
双月世界の「魔法」と「魔術」。
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2.
食事と会議が終わった後、ハンを除く測量班の3人は、クーと話をしていた。
「クーさん、いくつか質問してもいいですか?」
そう切り出したビートに、クーはにこりと笑って応える。
「構いませんわ」
「あの、さっきマリアさんに渡してたハンカチ、魔術をかけてましたよね?」
「ええ。ご覧になっていたのですね」
「はい。それで、あの時なんですけど、魔術を3つ、同時に発動させてましたよね?」
ビートにそう尋ねられ、クーは「あら」と返す。
「お気付きでしたのね」
「軍では魔術兵として鍛えられてきましたから、それなりに心得はあります。
その経験から言って、あれはそんな簡単にできるようなものではないと、僕には分かってます。只者じゃないですよね、クーさん」
「いえ、そんなことはございませんわ。教われば誰にでもできることですから」
謙遜したクーに、ビートはぶんぶんと首を横に振った。
「いやいや、そもそも『教わる』機会自体が無いんですってば。
僕、9歳の頃に軍の訓練学校入って、それから卒配まで6年、ずっと魔術を教わりましたけど、一度に複数の魔術を発動させるような方法なんて聞いたことありませんし、きっと教官たちですら知らなかったはずです。
一般人が魔術を習う機会なんて、訓練学校入るかどこかの工房行くかしかありませんが、そのどちらでも、そんなに高等な魔術を教わることは、まずありません。
クーさんは一体、どこで魔術を学んだんですか? いえ、尉官から釘刺されてますし、あまり言いたくなければ、これ以上は聞きませんが」
「えっと……」
クーは困ったような顔を見せ、たどたどしく答えた。
「そうですわね、確かにその、わたくしが使ったあの多段発動術ですとか、街で使った潜遁術ですとか、そう言った魔術は、……えっと、確かにですね、あまりと言うか、まったくと言うか、市井に広まっている類のものではございませんわね。
その、……わたくしは父上から教わったのですけれど、父上は、何と言うかその、魔術の専門家と言うか、大家と言うか、……ええ、そう、ですから他の方よりお詳しくて、えっと、あまり一般的でない使用法についても存じていらっしゃると言うか、ええと、研究していらっしゃるのです」
「はあ……」
「そうなんですか」
どことなく要領を得ないクーの説明に、ビートもシェロも、揃って首をひねる。
そして、輪をかけて理解していないであろうマリアが、ひょいっと手を挙げる。
「はいはーい」
「どうされました?」
「じゃあクーちゃんって、魔法使いなんですねー」
満面の笑みでそう言ったマリアに、ビートもシェロも、苦い顔を向ける。
(……マリアさん、何で今更、ソコなんスか)
(それは今、重要な問題じゃないんですが。……と言うか)
ビートも手を挙げ、マリアの指摘を訂正する。
「『魔法』と言うのは的確な表現じゃないです、マリアさん」
「ふぇ? どーゆーこと?」
「『魔法』と言うその言葉は山の南から伝わったものですが、そもそもその表現を使ったのはモール氏、つまりこの世で――陛下と双璧を成す――最高かつ最強の存在です。
モール氏と陛下は確かに『魔法(Magic Law)』を使えます。それはまさに『法則(Law)』、つまりこの世の理(ことわり)そのものを直に動かす御業(みわざ)なんです。
一方で僕たちが使うのは『魔術(Magic Arts)』、即ちその法則の下で使用する、単なる『技術(Arts)』なんですよ。
ですからクーさんを『魔法使い(Wizard)』と呼ぶのは的確じゃありません。『魔術師(Magician)』と呼ぶべきです」
「……う、うーん? えーと、……えーと?」
ビートの説明を、マリアはまったく理解できていないようだった。
その反応を見て、ビートも説明を諦めたらしい。
「……いいです、もう。
とにかくクーさんは『魔術師』です。それだけ分かって下さい、マリアさん」
「う、うん。それで……、いいのかな、クーちゃん?」
「ええ、わたくしは魔術師ですわ」
クーは先程と同様に、にっこりと皆に微笑みかけた。
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双月世界の「魔法」と「魔術」。
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食事と会議が終わった後、ハンを除く測量班の3人は、クーと話をしていた。
「クーさん、いくつか質問してもいいですか?」
そう切り出したビートに、クーはにこりと笑って応える。
「構いませんわ」
「あの、さっきマリアさんに渡してたハンカチ、魔術をかけてましたよね?」
「ええ。ご覧になっていたのですね」
「はい。それで、あの時なんですけど、魔術を3つ、同時に発動させてましたよね?」
ビートにそう尋ねられ、クーは「あら」と返す。
「お気付きでしたのね」
「軍では魔術兵として鍛えられてきましたから、それなりに心得はあります。
その経験から言って、あれはそんな簡単にできるようなものではないと、僕には分かってます。只者じゃないですよね、クーさん」
「いえ、そんなことはございませんわ。教われば誰にでもできることですから」
謙遜したクーに、ビートはぶんぶんと首を横に振った。
「いやいや、そもそも『教わる』機会自体が無いんですってば。
僕、9歳の頃に軍の訓練学校入って、それから卒配まで6年、ずっと魔術を教わりましたけど、一度に複数の魔術を発動させるような方法なんて聞いたことありませんし、きっと教官たちですら知らなかったはずです。
一般人が魔術を習う機会なんて、訓練学校入るかどこかの工房行くかしかありませんが、そのどちらでも、そんなに高等な魔術を教わることは、まずありません。
クーさんは一体、どこで魔術を学んだんですか? いえ、尉官から釘刺されてますし、あまり言いたくなければ、これ以上は聞きませんが」
「えっと……」
クーは困ったような顔を見せ、たどたどしく答えた。
「そうですわね、確かにその、わたくしが使ったあの多段発動術ですとか、街で使った潜遁術ですとか、そう言った魔術は、……えっと、確かにですね、あまりと言うか、まったくと言うか、市井に広まっている類のものではございませんわね。
その、……わたくしは父上から教わったのですけれど、父上は、何と言うかその、魔術の専門家と言うか、大家と言うか、……ええ、そう、ですから他の方よりお詳しくて、えっと、あまり一般的でない使用法についても存じていらっしゃると言うか、ええと、研究していらっしゃるのです」
「はあ……」
「そうなんですか」
どことなく要領を得ないクーの説明に、ビートもシェロも、揃って首をひねる。
そして、輪をかけて理解していないであろうマリアが、ひょいっと手を挙げる。
「はいはーい」
「どうされました?」
「じゃあクーちゃんって、魔法使いなんですねー」
満面の笑みでそう言ったマリアに、ビートもシェロも、苦い顔を向ける。
(……マリアさん、何で今更、ソコなんスか)
(それは今、重要な問題じゃないんですが。……と言うか)
ビートも手を挙げ、マリアの指摘を訂正する。
「『魔法』と言うのは的確な表現じゃないです、マリアさん」
「ふぇ? どーゆーこと?」
「『魔法』と言うその言葉は山の南から伝わったものですが、そもそもその表現を使ったのはモール氏、つまりこの世で――陛下と双璧を成す――最高かつ最強の存在です。
モール氏と陛下は確かに『魔法(Magic Law)』を使えます。それはまさに『法則(Law)』、つまりこの世の理(ことわり)そのものを直に動かす御業(みわざ)なんです。
一方で僕たちが使うのは『魔術(Magic Arts)』、即ちその法則の下で使用する、単なる『技術(Arts)』なんですよ。
ですからクーさんを『魔法使い(Wizard)』と呼ぶのは的確じゃありません。『魔術師(Magician)』と呼ぶべきです」
「……う、うーん? えーと、……えーと?」
ビートの説明を、マリアはまったく理解できていないようだった。
その反応を見て、ビートも説明を諦めたらしい。
「……いいです、もう。
とにかくクーさんは『魔術師』です。それだけ分かって下さい、マリアさん」
「う、うん。それで……、いいのかな、クーちゃん?」
「ええ、わたくしは魔術師ですわ」
クーは先程と同様に、にっこりと皆に微笑みかけた。
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