「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・古砦伝 4
神様たちの話、第91話。
最善策の検討。
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4.
夜が更け始めても結局、街には何の動きも見られなかったため、ハンは監視を切り上げ、屋上を降りて砦内へ戻った。
(この調子じゃ交代に誰か監視させても、まったく成果は出ないだろう。それよりかぐっすり寝て英気を養ってもらってた方が、後々の旅路を考えたら得策だろうな。
……やれやれ。『得策』、か。現状、何がそうなるのか、判断が難しいところではある。そもそも自分たちが今ここにいる間、何をすれば最善なのかも、決めあぐねてるんだよな。
まず、ここからクロスセントラルまで、馬車使っても10日以上かかる。連絡したのがもう3日か、4日かくらい前だから、監視班が来るのは最短でも、あと一週間はかかる計算になる。
その間、ただこの状態を維持して監視を続けるのが最善の策だろうか? それとも相手を観察できる機会を狙って、何かしら行動を起こしてみるか?
いや、論外だな。十分な人員も装備も無い俺たちが無理に行動を起こすのは、得策なんてもんじゃない。はっきり言って愚策だ。
門前で騒ぐとか、壁越しに石放り投げるとかして多少突っつけば、そりゃ確かに何かしらの反応があるかも分からんが、それで相手を怒らせて囲まれたりしたら、馬鹿丸出しだしな。
相手は少なくとも50人以上はいる。今度捕まったら、もう逃げられないだろう。最悪、その場で殺される可能性もある。
やはりこのまま同じ作業を繰り返して、後は監視班に任せるのが最善策だろう。俺たちがわざわざ今、何か行動する意味も意義も無いし、不用意な行動を採れば、街の人間がいたずらに、危険にさらされるだけだからな)
砦内の廊下を進み、階段を1つ、2つ降り、食堂へと進む。
(だが、本当にこのまま監視だけしてて、親父はどう思うだろうか? 『いくらなんでも消極的すぎじゃないか?』とか思われたりしないかな。
……いや、親父がそんなこと言うわけないな。こう言う時は多分、『無理してまで前に進むな。できることだけやればいい』って言うだろうさ。俺も同感。しなくてもいい無理をして、後で辛くなったら、そこで挽回なんかできやしないからな。
無理は、するべき時にするさ)
食堂に着き、ハンは室内を見回す。
「誰かいるか?」
そう尋ねつつも、内心では返事を期待してはいない。
(もう皆、寝てるだろう。マリアとかならまだ、のんびり茶でも飲んでるかもと思ったが、流石にいないか)
厨房を覗くが、やはり誰の姿も見当たらない。
(まあいい。それなら気楽だしな)
かまどに置いてあった鍋からスープをよそい、パンを一切れ、二切れ皿に取り、がらんとした食堂の端の席に座って、食事の前で頭を垂れる。
「そんじゃ、いただきます」
挨拶し、頭を上げた瞬間――ハンの視界が、真っ暗になった。
「……おい、何だよ。誰だ?」
すぐに、自分の顔にひんやりとした、柔らかいものが当たっていることに気付き、冷静を装って尋ねる。
「誰だと思いますー?」
背後からかけられた女性の声に、ハンは呆れた口ぶりで答える。
「マリアだろ。
……ん? でもお前、こんなに手、ちっちゃかったか? それに槍使いにしちゃ、ぷにぷにだぞ。訓練、さぼってるんじゃないだろうな?」
「はずれでーす。声はあたしですが、手の方はー」
顔から手が離され、ハンはくる、と振り返る。
「わたくしです」
そこには、クスクスと笑うクーの姿があった。
「なんだ、君か。どうした?」
尋ねたハンに、クーは一転、ぷくっとほおをふくらませる。
「もう少し反応して下さってもよろしいのでは? 多少なりとも驚かせられたのではと、わたくし期待したのですけれど」
「そりゃ驚いたさ。反応してないように見えるのは、訓練の賜物ってやつだ。想定外の事態にも、冷静に対処できるようにってことでな」
「もう、つまらない方ですこと」
つん、と顔をそらしたクーに、ハンはもう一度尋ねた。
「それで、クー。何か俺に、用があって来たんじゃないのか?」
「用が無ければ、声もかけてはいけないのかしら?」
「ん、いや、そう言うわけじゃないが……」
しどろもどろになるハンを尻目に、クーは彼の正面の席に座る。
「お一人で寂しく晩餐(ばんさん)を召し上がっていらっしゃるのではないかと存じましたので、こうしてお話などして、場を温められればと」
「ああ、そうか、うん。マリアも?」
マリアもクーの横に座り、こくんとうなずく。
「クーちゃんに誘われましてー」
「流石に殿方と一対一と言うのは、不安ですから」
そう言ってマリアの腕を取るクーに、ハンは肩をすくめる。
「気にしすぎだ。君が思うようなことを俺がすることは、絶対に無い」
「断言されても、それはそれで無礼に思えますけれど。わたくしに魅力が無いと仰られているようにも取れますし」
「じゃあ、どう言えばいいんだ?」
そう返したハンに、クーはいたずらっぽく笑って見せる。
「わたくしの口から申し上げるよりも、あなたがご自分で懸命に考えて下さる方がわたくし、楽しく感じますわね。
次回の回答に期待しておりますわ」
「何だよ、それ……?」
翻弄してくるようなクーの言葉に、ハンはただただ憮然とするばかりだった。
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最善策の検討。
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夜が更け始めても結局、街には何の動きも見られなかったため、ハンは監視を切り上げ、屋上を降りて砦内へ戻った。
(この調子じゃ交代に誰か監視させても、まったく成果は出ないだろう。それよりかぐっすり寝て英気を養ってもらってた方が、後々の旅路を考えたら得策だろうな。
……やれやれ。『得策』、か。現状、何がそうなるのか、判断が難しいところではある。そもそも自分たちが今ここにいる間、何をすれば最善なのかも、決めあぐねてるんだよな。
まず、ここからクロスセントラルまで、馬車使っても10日以上かかる。連絡したのがもう3日か、4日かくらい前だから、監視班が来るのは最短でも、あと一週間はかかる計算になる。
その間、ただこの状態を維持して監視を続けるのが最善の策だろうか? それとも相手を観察できる機会を狙って、何かしら行動を起こしてみるか?
いや、論外だな。十分な人員も装備も無い俺たちが無理に行動を起こすのは、得策なんてもんじゃない。はっきり言って愚策だ。
門前で騒ぐとか、壁越しに石放り投げるとかして多少突っつけば、そりゃ確かに何かしらの反応があるかも分からんが、それで相手を怒らせて囲まれたりしたら、馬鹿丸出しだしな。
相手は少なくとも50人以上はいる。今度捕まったら、もう逃げられないだろう。最悪、その場で殺される可能性もある。
やはりこのまま同じ作業を繰り返して、後は監視班に任せるのが最善策だろう。俺たちがわざわざ今、何か行動する意味も意義も無いし、不用意な行動を採れば、街の人間がいたずらに、危険にさらされるだけだからな)
砦内の廊下を進み、階段を1つ、2つ降り、食堂へと進む。
(だが、本当にこのまま監視だけしてて、親父はどう思うだろうか? 『いくらなんでも消極的すぎじゃないか?』とか思われたりしないかな。
……いや、親父がそんなこと言うわけないな。こう言う時は多分、『無理してまで前に進むな。できることだけやればいい』って言うだろうさ。俺も同感。しなくてもいい無理をして、後で辛くなったら、そこで挽回なんかできやしないからな。
無理は、するべき時にするさ)
食堂に着き、ハンは室内を見回す。
「誰かいるか?」
そう尋ねつつも、内心では返事を期待してはいない。
(もう皆、寝てるだろう。マリアとかならまだ、のんびり茶でも飲んでるかもと思ったが、流石にいないか)
厨房を覗くが、やはり誰の姿も見当たらない。
(まあいい。それなら気楽だしな)
かまどに置いてあった鍋からスープをよそい、パンを一切れ、二切れ皿に取り、がらんとした食堂の端の席に座って、食事の前で頭を垂れる。
「そんじゃ、いただきます」
挨拶し、頭を上げた瞬間――ハンの視界が、真っ暗になった。
「……おい、何だよ。誰だ?」
すぐに、自分の顔にひんやりとした、柔らかいものが当たっていることに気付き、冷静を装って尋ねる。
「誰だと思いますー?」
背後からかけられた女性の声に、ハンは呆れた口ぶりで答える。
「マリアだろ。
……ん? でもお前、こんなに手、ちっちゃかったか? それに槍使いにしちゃ、ぷにぷにだぞ。訓練、さぼってるんじゃないだろうな?」
「はずれでーす。声はあたしですが、手の方はー」
顔から手が離され、ハンはくる、と振り返る。
「わたくしです」
そこには、クスクスと笑うクーの姿があった。
「なんだ、君か。どうした?」
尋ねたハンに、クーは一転、ぷくっとほおをふくらませる。
「もう少し反応して下さってもよろしいのでは? 多少なりとも驚かせられたのではと、わたくし期待したのですけれど」
「そりゃ驚いたさ。反応してないように見えるのは、訓練の賜物ってやつだ。想定外の事態にも、冷静に対処できるようにってことでな」
「もう、つまらない方ですこと」
つん、と顔をそらしたクーに、ハンはもう一度尋ねた。
「それで、クー。何か俺に、用があって来たんじゃないのか?」
「用が無ければ、声もかけてはいけないのかしら?」
「ん、いや、そう言うわけじゃないが……」
しどろもどろになるハンを尻目に、クーは彼の正面の席に座る。
「お一人で寂しく晩餐(ばんさん)を召し上がっていらっしゃるのではないかと存じましたので、こうしてお話などして、場を温められればと」
「ああ、そうか、うん。マリアも?」
マリアもクーの横に座り、こくんとうなずく。
「クーちゃんに誘われましてー」
「流石に殿方と一対一と言うのは、不安ですから」
そう言ってマリアの腕を取るクーに、ハンは肩をすくめる。
「気にしすぎだ。君が思うようなことを俺がすることは、絶対に無い」
「断言されても、それはそれで無礼に思えますけれど。わたくしに魅力が無いと仰られているようにも取れますし」
「じゃあ、どう言えばいいんだ?」
そう返したハンに、クーはいたずらっぽく笑って見せる。
「わたくしの口から申し上げるよりも、あなたがご自分で懸命に考えて下さる方がわたくし、楽しく感じますわね。
次回の回答に期待しておりますわ」
「何だよ、それ……?」
翻弄してくるようなクーの言葉に、ハンはただただ憮然とするばかりだった。
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