「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・古砦伝 6
神様たちの話、第93話。
弛緩と緊張。
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6.
監視班が来るまでの間、ハンたちの班は変わらず監視を続けていたが――。
(……う~、飽きたよ~。暇だぁ~)
相手の動きがまったく無いため、元々から落ち着きのないマリアは、この作業に半ば興味を失ってしまっていた。
「様子はどうだ?」
一方で、それを見過ごすようなハンでは無い。
監視塔に籠もっていたマリアを、度々訪ねてきていた。
「変わりなしでーす」
「そうか」
ほとんど定型化したやり取りを交わして、ハンが塔から降りようとする。
「あ、ちょっと尉官」
と、それをマリアが呼び止めた。
「どうした?」
「今何時ですかー?」
「2時半ってところだな。いや、3時前くらいか」
「えー……。まだそんなくらいですかぁ。もう4、5時間は経ったかなーって思ってたのにぃ」
だらけた声を漏らすマリアに、ハンは苦笑して返す。
「気持ちは分かる。相手の動きが無さすぎて、正直俺だって、無駄なんじゃないかとは思ってる。
だが万一ってこともあるだろ? その万一を見過ごしたりしたら、大変なことになる。その責任は忘れるな。
気合を入れ直して、しっかり監視に当たってくれ」
「はぁ~い」
ハンが降りて行ったところで、マリアは単眼鏡を手にし、ノースポートの状況を伺う。
(分かってるんですよー。分かってるんですけどねー)
ここまでの2時間と同様、街には特に、変わった様子は見られない。
(こっちに来てもう5日、6日くらい経ってますけどー、なーんにも起こらないんですもん。いい加減ダレてきちゃいますってばー)
ハンにたしなめられたものの、あっと言う間に興味を失い、マリアは単眼鏡を砦内に向ける。
(……お、ビートだ)
ビートが砦の中庭で、壁にもたれつつ本を読んでいる姿が視界に入る。
(勉強してるのかなー。……あ、反対側にシェロもいる。素振りしてる。
真面目だなぁ、二人とも)
と、ビートの側に白いものが近付いて来るのに気付く。
(お? あれ、クーちゃんかな)
単眼鏡の焦点をビートに戻し、二人の様子を眺める。
(ビート、なんか嬉しそうだなぁ。クーちゃんから魔術、教えてもらってるのかなー)
ビートとクーが仲良く談笑しているのを見て、マリアは思わず、ため息をつく。
(……あーあ、何か憂鬱だなぁ。早く交代時間にならないかなぁ)
マリアはもう一度ため息をつき、単眼鏡をノースポートに向けた。
と――。
(んっ?)
街の広場に人影があるのを確認し、マリアは目を凝(こ)らした。
(遠くて良く分からないけど、あれって街を占拠した奴らだよね?)
大きな耳を持つ者たちが広場に続々と集まり、隊列を成していくのが見える。
(あーゆーことするのって大体、何かやろうって時だよね? ……なんか、まずいっぽい?)
マリアは単眼鏡から目を離し、中庭に向かって声をかけた。
「ビート! 近くに尉官、いるー!?」
「どうしました、マリアさん?」
ビートがぎょっとした顔で返事し、尋ね返してくる。
「街の方、なんか動きがあるっぽいから呼んできてー!」
「は、はい! 了解です!」
そう答え、ビートは慌てて走り出す。シェロとクーも状況を察したらしく、同じように駆け出して行った。
その間に、マリアはもう一度街へと視線を向ける。
(尉官は敵の数、50人くらいだろうって言ってたよね。広場に集まってるのって、10人か20人くらいかな。
全員集合ってことじゃ無さそうだけど、……やっぱヤバそう)
そうこうしている内に、ハンが青白い顔で塔のはしごを登ってくる。
「どうした、マリア?」
「見て下さい、尉官」
ハンに単眼鏡を手渡し、マリアは状況を説明する。
「今ですね、敵が広場にどんどん集まってるんです。隊列も組んでますし、何かやるぞって感じがします」
「そうだな。その雰囲気はある」
ハンも確認を終え、単眼鏡をマリアに返す。
「何かする気でしょうか?」
尋ねたマリアに、ハンは緊張した面持ちでうなずく。
「でなきゃあんな風に集まらん。可能性として一番高いのは、近隣の探査だろう」
「探査?」
「敵がノースポートを占拠して以降、動きは無かった。と言うことは、街の外について何の情報も集めていなかったってことになる。だから集めに来るのさ。
ただ、その範囲が問題だ。本当に周囲をぐるっと回るだけならいいが、この砦まで来られたらまずい。攻め込まれたらひとたまりもないからだ」
「でも、この前は……」
反論しかけたマリアを、ハンは「いや」と制する。
「前回は近くに逃げ込める場所もあったし、成功の可能性は十分高かった。
だがこっちに攻め込まれたら、今度は逃げ場が無い。この砦にいる全員を移動させたとしても、その大人数を収容できるような当てが、この近隣にはもう無いんだ。
そんな状況でもし、逃げ出さなきゃならなくなったら、確実に半分以上が死ぬか、行方知れずになるだろう。
だから、奴らがこっちに来るようなことがあれば、俺たちで迎え撃たなきゃならん。急いで準備するぞ」
そう言ってハンははしごに飛び付き、大慌てで滑り降りて行った。
琥珀暁・古砦伝 終
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弛緩と緊張。
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6.
監視班が来るまでの間、ハンたちの班は変わらず監視を続けていたが――。
(……う~、飽きたよ~。暇だぁ~)
相手の動きがまったく無いため、元々から落ち着きのないマリアは、この作業に半ば興味を失ってしまっていた。
「様子はどうだ?」
一方で、それを見過ごすようなハンでは無い。
監視塔に籠もっていたマリアを、度々訪ねてきていた。
「変わりなしでーす」
「そうか」
ほとんど定型化したやり取りを交わして、ハンが塔から降りようとする。
「あ、ちょっと尉官」
と、それをマリアが呼び止めた。
「どうした?」
「今何時ですかー?」
「2時半ってところだな。いや、3時前くらいか」
「えー……。まだそんなくらいですかぁ。もう4、5時間は経ったかなーって思ってたのにぃ」
だらけた声を漏らすマリアに、ハンは苦笑して返す。
「気持ちは分かる。相手の動きが無さすぎて、正直俺だって、無駄なんじゃないかとは思ってる。
だが万一ってこともあるだろ? その万一を見過ごしたりしたら、大変なことになる。その責任は忘れるな。
気合を入れ直して、しっかり監視に当たってくれ」
「はぁ~い」
ハンが降りて行ったところで、マリアは単眼鏡を手にし、ノースポートの状況を伺う。
(分かってるんですよー。分かってるんですけどねー)
ここまでの2時間と同様、街には特に、変わった様子は見られない。
(こっちに来てもう5日、6日くらい経ってますけどー、なーんにも起こらないんですもん。いい加減ダレてきちゃいますってばー)
ハンにたしなめられたものの、あっと言う間に興味を失い、マリアは単眼鏡を砦内に向ける。
(……お、ビートだ)
ビートが砦の中庭で、壁にもたれつつ本を読んでいる姿が視界に入る。
(勉強してるのかなー。……あ、反対側にシェロもいる。素振りしてる。
真面目だなぁ、二人とも)
と、ビートの側に白いものが近付いて来るのに気付く。
(お? あれ、クーちゃんかな)
単眼鏡の焦点をビートに戻し、二人の様子を眺める。
(ビート、なんか嬉しそうだなぁ。クーちゃんから魔術、教えてもらってるのかなー)
ビートとクーが仲良く談笑しているのを見て、マリアは思わず、ため息をつく。
(……あーあ、何か憂鬱だなぁ。早く交代時間にならないかなぁ)
マリアはもう一度ため息をつき、単眼鏡をノースポートに向けた。
と――。
(んっ?)
街の広場に人影があるのを確認し、マリアは目を凝(こ)らした。
(遠くて良く分からないけど、あれって街を占拠した奴らだよね?)
大きな耳を持つ者たちが広場に続々と集まり、隊列を成していくのが見える。
(あーゆーことするのって大体、何かやろうって時だよね? ……なんか、まずいっぽい?)
マリアは単眼鏡から目を離し、中庭に向かって声をかけた。
「ビート! 近くに尉官、いるー!?」
「どうしました、マリアさん?」
ビートがぎょっとした顔で返事し、尋ね返してくる。
「街の方、なんか動きがあるっぽいから呼んできてー!」
「は、はい! 了解です!」
そう答え、ビートは慌てて走り出す。シェロとクーも状況を察したらしく、同じように駆け出して行った。
その間に、マリアはもう一度街へと視線を向ける。
(尉官は敵の数、50人くらいだろうって言ってたよね。広場に集まってるのって、10人か20人くらいかな。
全員集合ってことじゃ無さそうだけど、……やっぱヤバそう)
そうこうしている内に、ハンが青白い顔で塔のはしごを登ってくる。
「どうした、マリア?」
「見て下さい、尉官」
ハンに単眼鏡を手渡し、マリアは状況を説明する。
「今ですね、敵が広場にどんどん集まってるんです。隊列も組んでますし、何かやるぞって感じがします」
「そうだな。その雰囲気はある」
ハンも確認を終え、単眼鏡をマリアに返す。
「何かする気でしょうか?」
尋ねたマリアに、ハンは緊張した面持ちでうなずく。
「でなきゃあんな風に集まらん。可能性として一番高いのは、近隣の探査だろう」
「探査?」
「敵がノースポートを占拠して以降、動きは無かった。と言うことは、街の外について何の情報も集めていなかったってことになる。だから集めに来るのさ。
ただ、その範囲が問題だ。本当に周囲をぐるっと回るだけならいいが、この砦まで来られたらまずい。攻め込まれたらひとたまりもないからだ」
「でも、この前は……」
反論しかけたマリアを、ハンは「いや」と制する。
「前回は近くに逃げ込める場所もあったし、成功の可能性は十分高かった。
だがこっちに攻め込まれたら、今度は逃げ場が無い。この砦にいる全員を移動させたとしても、その大人数を収容できるような当てが、この近隣にはもう無いんだ。
そんな状況でもし、逃げ出さなきゃならなくなったら、確実に半分以上が死ぬか、行方知れずになるだろう。
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