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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第5部

    蒼天剣・回顧録 4

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    晴奈の話、第216話。
    気迫だけで。

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    4.
    「クラウンを倒すと宣言した後も、ユキノは表面上、いつも通りに戦ったわ。それと平行して、あたしたちの商売の手伝いもしてくれたの。
     ピースと協力するようになってからはとってもうまく行ってたし、ユキノも力を貸してくれたおかげで、あっと言う間にあたしたちは……」



    「ついに……」
     建物の前で、ピースが口を開く。
    「ここまで……」
     横にいたボーダも、同じようにつぶやく。そして、互いにがばっと抱きしめ合い、喚起の声をあげた。
    「来たーっ!」
     三人の努力が実を結び、ようやく店を持つことができたのだ。
     と、二人を見守っていた雪乃がコホンと咳払いし、中に入るよう促す。
    「二人とも、喜ぶのは店の中にしましょ。見てるわよ、周り」
    「お、っと」「あ、ゴメン」
     ピースたちは慌てて離れ、店に駆け込んだ。

    「それでユキノ、もう一つの『ついに』が、とうとうやって来た。
     ついに次期のエリザリーグに、ユキノが選出された。これに優勝すれば賞金100万クラム、そして賭場もうまく制すれば……」
    「総額300万、いえ、400万にはなる。これだけあればもう、店だけじゃない。店の連合、商会まで作れちゃうわ。期待してるわよ、ユキノ」
     雪乃はピースたちの手をがっしりと握りしめ、力強く応えた。
    「ええ、任せて。ここまで来たら頂点を目指すまでよ。きっとあのクラウンを倒して、ちゃんぴょんになってみせるわ」
     雪乃の言葉に一瞬、ピースたちはうなずこうとした。
     が、二人は顔を見合わせ、笑い出す。
    「く、くくく……」「あ、あはは……」
    「え?」
     きょとんとする雪乃を見て、ボーダが笑いながら訂正した。
    「あのさ、くく、前から思ってたけど、ふふふ……」
    「それ、ちゃんぴょんじゃなくって、チャンピオンよ、あははは……」



     そして、このエリザリーグも雪乃は一気に駆け抜けた。
     参加総数5名、全10回戦のうち、雪乃が出場したのは4回。うち3回まで、まったく負けることなく勝ち進み、ついに4回目――あのクラウンと対決する時がやって来た。
    「さあ、今季のエリザリーグ、いよいよ注目のカードが並びました!
     西口からは、あの重鎮『キング』こと、ピサロ・クラウン! その豪腕ぶりで、この4年間ずっとエリザリーグを沸かせ続けている、闘技場の立役者です! 刃向かう者は皆、その人並外れた腕力と豪胆さで叩き潰し、い・ま・や! 死神、悪魔と恐れられる存在です!」
     偉そうに手を挙げながら、クラウンがリングに姿を現す。
    「勝てよ、キング!」
    「全財産かけてんだぞ、コラ!」
    「勝たなきゃどうなるか分かってんだろーなーッ!?」
     クラウンに声援をかける者はどれも、柄の悪そうな男ばかりである。
    「対する東口は『瞬殺の女神』、ユキノ・ヒイラギの登場です! 今季、突然現れた彼女は、な・ん・と! 異国の、女剣士です! そのエキゾチックな容姿と鋭い剣技から、数多のファンを作った、大変! 大変、興味深い好プレイヤーです!
     さらに、これまでの戦いで何と! 何と、無敗を誇っております!」
     リングに現れた雪乃は、観客席にぺこりと頭を下げる。
    「きゃーっ、ユキノさまぁ!」
    「がんばってくださーい!」
    「絶対、絶対勝ってくださいね……ッ!」
     雪乃の声援には多くの女性と、若い男性、それからクラウンに家族を傷つけられた者たちが付いていた。
     両者の登場で沸き立つ闘技場を、アナウンスがさらに盛り上げる。
    「『キング』クラウンと、『女神』ヒイラギ! 果たして勝つのは、女神か、王様か!
     それでは……、始めッ!」

     開始の合図が出され、クラウンは雪乃目がけて突進してくる。が、雪乃は右手を刀にかけ、腰を低く落としたまま、動かない。
    「オラオラ、何ボーっとしてやがる!」
     クラウンは雪乃の直前まで駆け込み、勢い良く鉈を上げる。
    「……稚拙ね」
     瞬間、雪乃の右腕が動き、弧を描いて刀が抜かれる。その軌跡は振り下ろされる鉈と交差し、ピン、と甲高い金属音をなびかせて、雪乃の体ごとクラウンの背後に流れていく。
    「……!?」
     異様な手ごたえを感じたクラウンは自分の右手を見る。鉈がどこにも無い。辺りを見回せば、雪乃の右後方に落ちている。
    「てめえ、こ……、の、……うぅ?」
     鉈を弾かれ文句を言おうと雪乃の目を見た瞬間、クラウンはピクリとも動けなくなった。
    「覚悟しなさい、クラウン」
    「……~ッ!?」
     その鋭い眼光と一言に、クラウンの全身がビクッと揺れる。
     これまでどんな対戦相手も出し得なかった、その体中を突き刺し、えぐるような威圧感――初めて浴びせられた殺気に、クラウンは怯む。
    「……」
     雪乃の刀が、ゆらりと動く。下段に構えられ、クラウンの左脚すぐ前に置かれた状態から、すっと右手首へ。
    「……ひっ」
     刀は右手首の上に流れ、肩の横、首筋まで進む。雪乃の目はなお、鋭さを消さない。
    「や、やめろっ」
     クラウンはここでようやく、動いた。ばっと後ろに飛びのき、怯えた目で雪乃を見ている。
    「やめろ? 勝負を、投げるのね?」
    「い、いや、そうじゃ……」
    「やるのね?」
     雪乃は刀を構え直し、クラウンののど元をもう一度狙う。クラウンはもう一歩後ろに下がり、首を振る。
    「いや、ちが……」
    「どっち?」
     雪乃が一歩踏み込む。クラウンはそこで己を奮い立たせ、鉈へと走り出した。
    「武器が、無きゃ、無理だろうが……!」
    「あら、そうなの」
     クラウンが自分の横を抜けようとした瞬間、雪乃は足払いをかける。
    「うわっ!?」
     クラウンは前のめりに転び、鉈に到達できずに倒れこむ。
    「それじゃ、わたしの勝ちね」
     クラウンが起き上がろうとしたところで、雪乃は首筋にもう一度、刀を当てた。
     滝のような汗を流しながら、クラウンは小さな声で「……参った」とつぶやいた。

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    2016.05.12 修正
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