「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・奔尉伝 1
神様たちの話、第94話。
尉官、奔走する。
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1.
謎の敵集団に動きがあったことが瞬く間に伝わり、砦内は騒然としていた。
「話は聞いたぜ、尉官さんよ。敵が来るって?」
話を聞き付けやってきたロウに、ハンは首を横に振る。
「確実じゃない。現状じゃまだ、来る『かも』って程度だ」
「かも?」
「確認できたのは、奴らが街の広場で集まって、隊列を整えてるってことだけだ。
今のところマリアが街を監視してる。また動きがあれば、周知する」
説明を受け、ロウもかぶりを振る。
「んなトロいこと言ってる場合か?
集まって、そんで終わりってわけ無いだろ? 集まる以上、何かしら行動するに決まってるぜ」
「ああ。俺もそれは危惧している。十中八九、付近の探査を行うと見ている」
「となりゃ、ここは危険だろう」
そう返し、ロウは辺りを見回す。
「向こうからも、この砦はギリギリ見える位置にある。『あいつらこっちに逃げてったかも知れん』と思って、真っ先にこっちへ来るって可能性は、相当高いと思うぜ」
「そうだな。俺も同意見だ。だが実際にあいつらがこっちに来た場合、どうすべきか。そこから考えなきゃならないだろう」
「どうすべき? 迎え撃つしかねーだろ?」
ロウの言葉に、もう一度ハンは首を振る。
「俺たちにそんな戦力は無い。あんたを始めとする元討伐隊の人間を集めたって、せいぜい十数名ってところだ。向こうはその4~5倍はいる。そんな状況で迎え撃ったとしても、砦内の半分以上が死ぬことになる。
だから、真っ向からは戦わない。それを回避するべく行動するんだ」
ハンの考えを聞いて、ロウはけげんな表情を浮かべている。
「どうやるんだ?」
「それは今から考える。ともかく、今は下手に動かないようにしてほしい。
猫獣人みたいに耳や目の利く奴が向こうに大勢いたら、こっちが無闇に騒いでるのを気取られるおそれがあるからな」
「は? このままじっとしてろって言うのかよ? んなことしてたらあっと言う間に攻め込まれちまうぜ」
ハンがなだめても、ロウはまったく応じる姿勢を見せてくれない。
仕方無く、ハンはこう返した。
「……分かった。じゃあ戦闘の準備だけ整えておいてほしい。
だがくれぐれも、大騒ぎしないようにしてほし……」
ハンが言い終わらない内に、既にロウは大声を上げ、その場を駆け出していた。
「敵が来るぞーッ! 迎え撃つ準備だーッ!」
「……っ!?」
ハンは絶句し――直後、ロウに駆け寄り、ぶん殴っていた。
「何やってるんだ!? 止まれッ!」
「いってえ!? 何すんだよ!?」
「何すんだ、じゃない! 俺の言ったことが分かってないのか!?」
「は? お前さん、戦闘準備しろって……」
「静かにやれ! 騒ぐなと言ったはずだッ!」
「なんだそれ? 聞いてねえぞ」
「はぁ……」
煙たがっているような顔をするロウに、ハンは頭を抱えつつ、こう続けた。
「頼むから、自分勝手に行動しないでくれ。
ただでさえこちらが圧倒的に不利な状況なんだ。一人ひとりがバラバラに動いたら、敵に『各個撃破して殺してくれ』と言っているも同然だ。
ここにいる間は、俺の指揮に従ってほしい」
「は? なんでお前さんの命令に従わなきゃならん? 俺はもう軍だの討伐隊だのを抜けたんだぞ」
「じゃあ一人で敵陣に乗り込んで死ぬか? あんたが自由意志で死にたいって言うなら、俺は止めないぞ」
「んなことするかよ。俺はただ、お前さんの勝手で動く気は無いって言ってるんだ」
「いい加減にしてくれ。あんた一人のわがままで、ここにいる全員を危険にさらすな」
「……」
「……」
二人とも黙り込み、互いににらみつける。
と――騒ぎを聞き付けたらしく、その場にぞろぞろと、砦内の人間が集まってきた。
「どうした、ロウ?」
「敵とか何とか聞こえたけど……」
「何かあったんですか?」
集まってきた者たちから異口同音に状況を尋ねられ、ハンがそれに答えようとする。
「ああ、今……」「敵だ! 敵が来やがる!」
が、ロウがさえぎり、まくし立てる。
「敵? ……って、あの虎みたいな熊みたいな奴ら?」
「来るって、こっちに?」
「ど、どうすんだ!?」
ロウの言葉に、周囲は騒然となった。
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尉官、奔走する。
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謎の敵集団に動きがあったことが瞬く間に伝わり、砦内は騒然としていた。
「話は聞いたぜ、尉官さんよ。敵が来るって?」
話を聞き付けやってきたロウに、ハンは首を横に振る。
「確実じゃない。現状じゃまだ、来る『かも』って程度だ」
「かも?」
「確認できたのは、奴らが街の広場で集まって、隊列を整えてるってことだけだ。
今のところマリアが街を監視してる。また動きがあれば、周知する」
説明を受け、ロウもかぶりを振る。
「んなトロいこと言ってる場合か?
集まって、そんで終わりってわけ無いだろ? 集まる以上、何かしら行動するに決まってるぜ」
「ああ。俺もそれは危惧している。十中八九、付近の探査を行うと見ている」
「となりゃ、ここは危険だろう」
そう返し、ロウは辺りを見回す。
「向こうからも、この砦はギリギリ見える位置にある。『あいつらこっちに逃げてったかも知れん』と思って、真っ先にこっちへ来るって可能性は、相当高いと思うぜ」
「そうだな。俺も同意見だ。だが実際にあいつらがこっちに来た場合、どうすべきか。そこから考えなきゃならないだろう」
「どうすべき? 迎え撃つしかねーだろ?」
ロウの言葉に、もう一度ハンは首を振る。
「俺たちにそんな戦力は無い。あんたを始めとする元討伐隊の人間を集めたって、せいぜい十数名ってところだ。向こうはその4~5倍はいる。そんな状況で迎え撃ったとしても、砦内の半分以上が死ぬことになる。
だから、真っ向からは戦わない。それを回避するべく行動するんだ」
ハンの考えを聞いて、ロウはけげんな表情を浮かべている。
「どうやるんだ?」
「それは今から考える。ともかく、今は下手に動かないようにしてほしい。
猫獣人みたいに耳や目の利く奴が向こうに大勢いたら、こっちが無闇に騒いでるのを気取られるおそれがあるからな」
「は? このままじっとしてろって言うのかよ? んなことしてたらあっと言う間に攻め込まれちまうぜ」
ハンがなだめても、ロウはまったく応じる姿勢を見せてくれない。
仕方無く、ハンはこう返した。
「……分かった。じゃあ戦闘の準備だけ整えておいてほしい。
だがくれぐれも、大騒ぎしないようにしてほし……」
ハンが言い終わらない内に、既にロウは大声を上げ、その場を駆け出していた。
「敵が来るぞーッ! 迎え撃つ準備だーッ!」
「……っ!?」
ハンは絶句し――直後、ロウに駆け寄り、ぶん殴っていた。
「何やってるんだ!? 止まれッ!」
「いってえ!? 何すんだよ!?」
「何すんだ、じゃない! 俺の言ったことが分かってないのか!?」
「は? お前さん、戦闘準備しろって……」
「静かにやれ! 騒ぐなと言ったはずだッ!」
「なんだそれ? 聞いてねえぞ」
「はぁ……」
煙たがっているような顔をするロウに、ハンは頭を抱えつつ、こう続けた。
「頼むから、自分勝手に行動しないでくれ。
ただでさえこちらが圧倒的に不利な状況なんだ。一人ひとりがバラバラに動いたら、敵に『各個撃破して殺してくれ』と言っているも同然だ。
ここにいる間は、俺の指揮に従ってほしい」
「は? なんでお前さんの命令に従わなきゃならん? 俺はもう軍だの討伐隊だのを抜けたんだぞ」
「じゃあ一人で敵陣に乗り込んで死ぬか? あんたが自由意志で死にたいって言うなら、俺は止めないぞ」
「んなことするかよ。俺はただ、お前さんの勝手で動く気は無いって言ってるんだ」
「いい加減にしてくれ。あんた一人のわがままで、ここにいる全員を危険にさらすな」
「……」
「……」
二人とも黙り込み、互いににらみつける。
と――騒ぎを聞き付けたらしく、その場にぞろぞろと、砦内の人間が集まってきた。
「どうした、ロウ?」
「敵とか何とか聞こえたけど……」
「何かあったんですか?」
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が、ロウがさえぎり、まくし立てる。
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「来るって、こっちに?」
「ど、どうすんだ!?」
ロウの言葉に、周囲は騒然となった。
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