「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・奔尉伝 2
神様たちの話、第95話。
撹乱作戦の検討。
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2.
ロウが騒ぎ立てたために、皆は慌てふためいている。
たまりかねたハンが、そこで一喝した。
「静かに! 騒ぐな! 黙れええええッ!」
「……っ」
ハンがこれまで見せていた、穏やかな物腰からは想像もできなかったであろうその怒声に、場は一瞬で静まり返った。
視線が自分に集まったのを確認して、ハンは咳払いをする。
「……コホン。まず3つ、言うことがある。
1つ。これから俺が言うことを、落ち着いて聞いて欲しい。まだ不確かなことが多いから、断言できることは少ない。だから回りくどい表現をしたり、はっきりしない言い方をしたりするだろう。それでも最後まで、静かに、落ち着いて聞いてくれ。
2つ。基本的に、俺の言うことに従ってくれ。状況が状況だから、切羽詰まって命令口調になったり、納得してもらえないまま行動に移ってもらったりすることもある。だが、あくまで俺は、この砦内にいるノースポートの皆の命を守るために行動するし、そのために命令する。それを分かって欲しい。
そして3つ」
自分のすぐ後ろで棒立ちになっていたロウの鳩尾に、ハンは突然、裏拳を叩き付けた。
「うぐぉ!?」
ロウが顔を真っ青にし、うずくまったところで、ハンは続けざまに剣を抜き、ロウの首に当てる。
「この2つを前提として、それでも勝手なことをする奴がいたら、最悪の場合、俺はそいつを動けなくなるまでボコボコにする。
この状況で勝手なことをする奴が一人でも出たら、全員が道連れになって死ぬ危険があるからだ。全員がその勝手な奴のせいで死ぬくらいなら、俺はそいつを迷いなく殺すからな。
分かったか?」
「……わ、分かった」
「き、聞きます」
ロウを含め、全員がうなずいたところで、ハンは剣を収め、改めて状況を説明した。
「……と言うわけだ。だから至急、対策を講じなければならない。
だが真っ向から迎撃するのは、戦力面でも武器や備蓄の面でも不可能だ。と言って逃げるのも難しい。一番近い村落まで、ここから30キロメートル以上あるからな」
「きろ?」
「め……とー……?」
「……って何?」
何人かが、ハンの使った言葉にきょとんとする。が、先程のロウの場合とは違い、ハンは苛立ったりはせず、丁寧に説明する。
「数年前に、陛下が度量衡(どりょうこう:長さと量、重さ)の単位を定められた。『メートル』もその一つだ。大まかに言えば、普通の大人が歩いて6~7時間はかかる距離だってことだ。
この砦には子供や老人も少なくない。健脚な者でも6時間を要する距離を歩くとなれば、もっと時間がかかることは明白だ。対して、向こうには屈強な男共がゴロゴロ揃ってる。そいつらに6時間以上も捕まらず、無事逃げ切るなんてことは、はっきり言って有り得ないだろう。
戦うのは無理だし、逃げることも不可能だ。だからこれ以外の対策を考える必要がある」
「それ以外って……」
「無くないか?」
一様に顔を青ざめさせる町民たちに、ハンはいつも通りの穏やかな声色を作る。
「要は、相手がこっちに襲い掛かってこなければいいんだ。
引き返してもらうか、あるいは襲い掛かる対象を、別のところに用意すればいい」
「……つまり?」
「作戦はこうだ。
敵の探査部隊がノースポートを出たら、すぐに5~10名程度の人間がノースポートに攻め込む。わざと大声を上げたり、音を立てたりしてな」
「ええっ!?」
ハンの作戦を聞き、一同は目を丸くする。
それを受けて、ハンはこう続けた。
「勿論、攻め込む役は俺たち軍の人間が中心になって行う。だが、街の奪還だとか敵の親玉を潰すだとか、そんな無謀なことをする気は無い。
これはあくまで、敵に『ちょっとでも陣地を離れたら危ないぞ』と思わせるために行う作戦なんだ」
「それって、どう言う……?」
「大軍を挙げ、苦労して占拠した街を奪い返されたりなんかしたら、たまらんだろ?
それに陸からじゃなく、海から来てるってことは、近隣に奴らの基地やら詰所なんかも設営されて無いってことだろうし、兵士の増員は難しいはずだ。それならうかつに兵を分散させてみすみす痛手を食らうよりも、温存策を採るはずだ。
この作戦が成功すれば、相手は今度こそ、街から出なくなる。しばらくは皆の安全が確保できるはずだ」
「街から出なくなる、って……」
作戦を聞いて、不安の声が上がる。
「追い出す方法は無いのか? いつまでもここで暮らすわけにも行かんし」
「それはまだ無理だ。だが情報は軍本営に伝えてあるし、いずれ大部隊がノースポート奪還のためにやって来る。
でもその時、あんたたちが死んでたりなんかしたら、俺たちは何のために奪還するんだって話になる。俺たち、いや、俺は、街の本来の持ち主であるあんたたちに、ちゃんと生きててもらいたいんだよ。奪還に成功する、その日までな。
だから今は、生きてもらうことを優先し、敵を街に閉じ込めることで、危害を加えられないようにしておきたいんだ」
「……まあ、うん。そこまで言われちゃ、なぁ」
町民たちはようやく、納得した様子を見せてくれた。
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撹乱作戦の検討。
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ロウが騒ぎ立てたために、皆は慌てふためいている。
たまりかねたハンが、そこで一喝した。
「静かに! 騒ぐな! 黙れええええッ!」
「……っ」
ハンがこれまで見せていた、穏やかな物腰からは想像もできなかったであろうその怒声に、場は一瞬で静まり返った。
視線が自分に集まったのを確認して、ハンは咳払いをする。
「……コホン。まず3つ、言うことがある。
1つ。これから俺が言うことを、落ち着いて聞いて欲しい。まだ不確かなことが多いから、断言できることは少ない。だから回りくどい表現をしたり、はっきりしない言い方をしたりするだろう。それでも最後まで、静かに、落ち着いて聞いてくれ。
2つ。基本的に、俺の言うことに従ってくれ。状況が状況だから、切羽詰まって命令口調になったり、納得してもらえないまま行動に移ってもらったりすることもある。だが、あくまで俺は、この砦内にいるノースポートの皆の命を守るために行動するし、そのために命令する。それを分かって欲しい。
そして3つ」
自分のすぐ後ろで棒立ちになっていたロウの鳩尾に、ハンは突然、裏拳を叩き付けた。
「うぐぉ!?」
ロウが顔を真っ青にし、うずくまったところで、ハンは続けざまに剣を抜き、ロウの首に当てる。
「この2つを前提として、それでも勝手なことをする奴がいたら、最悪の場合、俺はそいつを動けなくなるまでボコボコにする。
この状況で勝手なことをする奴が一人でも出たら、全員が道連れになって死ぬ危険があるからだ。全員がその勝手な奴のせいで死ぬくらいなら、俺はそいつを迷いなく殺すからな。
分かったか?」
「……わ、分かった」
「き、聞きます」
ロウを含め、全員がうなずいたところで、ハンは剣を収め、改めて状況を説明した。
「……と言うわけだ。だから至急、対策を講じなければならない。
だが真っ向から迎撃するのは、戦力面でも武器や備蓄の面でも不可能だ。と言って逃げるのも難しい。一番近い村落まで、ここから30キロメートル以上あるからな」
「きろ?」
「め……とー……?」
「……って何?」
何人かが、ハンの使った言葉にきょとんとする。が、先程のロウの場合とは違い、ハンは苛立ったりはせず、丁寧に説明する。
「数年前に、陛下が度量衡(どりょうこう:長さと量、重さ)の単位を定められた。『メートル』もその一つだ。大まかに言えば、普通の大人が歩いて6~7時間はかかる距離だってことだ。
この砦には子供や老人も少なくない。健脚な者でも6時間を要する距離を歩くとなれば、もっと時間がかかることは明白だ。対して、向こうには屈強な男共がゴロゴロ揃ってる。そいつらに6時間以上も捕まらず、無事逃げ切るなんてことは、はっきり言って有り得ないだろう。
戦うのは無理だし、逃げることも不可能だ。だからこれ以外の対策を考える必要がある」
「それ以外って……」
「無くないか?」
一様に顔を青ざめさせる町民たちに、ハンはいつも通りの穏やかな声色を作る。
「要は、相手がこっちに襲い掛かってこなければいいんだ。
引き返してもらうか、あるいは襲い掛かる対象を、別のところに用意すればいい」
「……つまり?」
「作戦はこうだ。
敵の探査部隊がノースポートを出たら、すぐに5~10名程度の人間がノースポートに攻め込む。わざと大声を上げたり、音を立てたりしてな」
「ええっ!?」
ハンの作戦を聞き、一同は目を丸くする。
それを受けて、ハンはこう続けた。
「勿論、攻め込む役は俺たち軍の人間が中心になって行う。だが、街の奪還だとか敵の親玉を潰すだとか、そんな無謀なことをする気は無い。
これはあくまで、敵に『ちょっとでも陣地を離れたら危ないぞ』と思わせるために行う作戦なんだ」
「それって、どう言う……?」
「大軍を挙げ、苦労して占拠した街を奪い返されたりなんかしたら、たまらんだろ?
それに陸からじゃなく、海から来てるってことは、近隣に奴らの基地やら詰所なんかも設営されて無いってことだろうし、兵士の増員は難しいはずだ。それならうかつに兵を分散させてみすみす痛手を食らうよりも、温存策を採るはずだ。
この作戦が成功すれば、相手は今度こそ、街から出なくなる。しばらくは皆の安全が確保できるはずだ」
「街から出なくなる、って……」
作戦を聞いて、不安の声が上がる。
「追い出す方法は無いのか? いつまでもここで暮らすわけにも行かんし」
「それはまだ無理だ。だが情報は軍本営に伝えてあるし、いずれ大部隊がノースポート奪還のためにやって来る。
でもその時、あんたたちが死んでたりなんかしたら、俺たちは何のために奪還するんだって話になる。俺たち、いや、俺は、街の本来の持ち主であるあんたたちに、ちゃんと生きててもらいたいんだよ。奪還に成功する、その日までな。
だから今は、生きてもらうことを優先し、敵を街に閉じ込めることで、危害を加えられないようにしておきたいんだ」
「……まあ、うん。そこまで言われちゃ、なぁ」
町民たちはようやく、納得した様子を見せてくれた。
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