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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第3部

    琥珀暁・奔尉伝 4

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    神様たちの話、第97話。
    ノースポート再侵入。

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    4.
     ハンとクーが問答している間に、探査部隊は街の南方向へと進み始めていた。
    「おい、ハン」
     ロウがハンの肩をトントンと叩き、敵を指し示す。
    「あいつら、やっぱり砦の方に向かうみたいだぜ」
    「ん、……ああ、らしいな」
    「大丈夫なのか? さっさと始めねーと、あいつら砦に着いちまうぞ」
    「そうだな。俺たちはそろそろ向かおう」
     ハンはクーの口から手を離し、右手を握る。
    「クー、術をかけてくれ」
    「ふぇ? ……はっ、はい」
     クーはまだ顔を赤くしつつも、呪文を唱え、潜遁術「インビジブル」を発動させた。
     二人の姿が透明になったところで、ハンはクーの手を引き、街へと向かう。
    (それにしてもこの術、便利なんだか不便なんだか。確かに透明になって動けるってのは、こう言う潜入行動には絶大な効果がある。
     だが『声を出せない』ってのが、どうもなぁ。なんだっけ、声の振動だけでも術が崩れやすいんだっけか? 誰が作ったか知らんが、不安定すぎやしないか、それ?
     今だって、不測の事態に見舞われたら、クーに指示ができないし)
     ハンは懸念したものの、何の妨害や問題も無く、ハンたちは門の前に到着する。
    (よし、まだ開いてる)
     そのまま門を通ろうとしたが、右手が引っ張られる。
    (……ん?)
     ハンは引っ張り返そうとして、その手が震えていることに気付く。
    (どうした?)
     そう尋ねたつもりで、ハンは右手にぐっと力を入れる。
     震えていたクーの手も握り返してきたが、ハンはその意味を測りかねる。
    (なんだよ? 敵か? ……探査部隊はまだ近くにいるが、全員背を向けてる。こっちの様子に気付くはずが無い。門の周りには流石に見張りがいるが、声を出さない限り、俺たちには気付かないだろう。
     敵に関しては問題無い。……単に怖がってるのか?)
     もう一度ぐっと握り、握り返されるのを確認して、ハンは手を引っ張る。今度は抵抗無く付いて来たので、ハンはそのまま門をくぐった。

     近くの空き家に忍び込み、ハンは声を上げる。
    「どうしたんだ、クー?」
     途端に術が解除され、顔を蒼くしているクーと目が合う。
    「ど、どうした、とは?」
    「不安か?」
     そう尋ねられ、クーはうなずく。
    「え、ええ、そっ、そう、そうですわね」
    「クー」
     ハンはクーから手を離し、ぽんぽんと、彼女の頭を優しく撫でる。
    「ひゃ、……な、なんですの?」
    「いや、落ち着いてもらおうと思ったんだが」
    「こっ、子供みたいに扱わないで下さいまし」
     一転、またクーの顔が赤く染まる。
    「ん、そうか。悪かったな。妹とかだと、これで結構機嫌直すんだけどな」
    「ですから、……妹?」
     またクーは表情を変え、興味深そうに尋ねてくる。
    「あなた、妹さんがいらっしゃるの?」
    「ああ。2人いる」
    「おいくつ? いえ、そもそもあなたのご年齢も伺っておりませんわね」
    「そんなこと……」
     どうでもいいだろ、と言いかけ、ハンは考える。
    (どう考えてもクーは怯えてる。話に付き合って、気を紛らわせておいた方がいいか)
     コホンと咳払いし、ハンは質問に答えた。
    「俺は今、20歳だ。妹は大きい方が15歳。小さい方は11歳」
    「15歳と言うと、わたくしと同い年ですわね。お名前は?」
    「上はヴァージニア。周りからはジニーって呼ばれてる。下の方はテレサ。こっちはそのまんま、テレサって呼んでるな」
    「お二人とも、可憐なお名前ですわね」
    「首都に戻ったら会ってみるか? 二人とも魔術の勉強もしてるから、色々教えてやってくれると助かる」
    「ええ、機会があれば。……あ、それよりもハン」
     クーは窓の外をうかがいつつ、尋ねてくる。
    「もうそろそろ、門を開けた方がよろしいのでは?」
    「そうだな、頃合いだろう。ここで待っててくれ」
     そう言ってハンはクーを残し、空き家を離れた。

    (さて、と。とりあえず敵は、あそこの2人だけだな)
     門の前には見張りが立っているが、それ以外に敵の姿は無い。
     ハンは見張りに気付かれないようそっと近付き、後ろから襲い掛かった。
    「それッ!」
     黒い毛並みをした熊獣人の襟を引っ張りつつ、膝の裏に軽く蹴りを入れ、仰向けに転倒させる。
    「**!?」
    (当たり前だが、……何言ってるか分からんな)
     もう一人の、金色の毛並みの熊獣人が目を丸くしている間に、ハンは黒い方の鳩尾を踏みつけ、完全に気絶させる。
    「ごあっ!?」
    (あ、今のは何て言ったか、ちょっと分かった。……と言うか単純に悲鳴だな、これ)
     そんなことを呑気に考えつつ、ハンは姿勢を低くし、金色の方の懐に駆け込む素振りを見せる。
    「***!」
     当然、金色はハンをつかもうと、両腕を振り下ろしてくる。
     が、ハンはその直前で足を止め、その攻撃を空振りさせる。
    「……*」
    (今のは『あっ』とか『えっ』って感じか?)
     ハンはその場でジャンプし、屈み気味になっていた金色の顔面を、思い切り蹴り飛ばした。
    「べぶぅ!?」
     金色はごろんと後ろに転がり、ガツンと痛々しい音を立てて門に頭をぶつけ、黒色同様に気絶した。
    「悲鳴はどこでも、どんな奴でも一緒、か」
     倒れた二人をどかし、ハンは門を開ける。
    「よう」
     開けたところで、ロウと目が合った。
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