「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・奔尉伝 5
神様たちの話、第98話。
陽動開始。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「首尾は上々、ってところだな」
陽動部隊を招き入れつつ、ハンはその向こう側、砦の方向へ目をやる。
「砦にも変わった様子は無さそうだ。
すぐ暴れてもらうぞ。準備はいいか?」
「いつでもいいぜ」
ロウはニヤっと笑い、手にした戦鎚(せんつい)を掲げる。
「それじゃ行ってくるぜ、尉官さんよ」
「頼んだ」
ハンがうなずくとほぼ同時に、ロウは鬨(とき)の声を挙げた。
「うおらあああああッ! 出てきやがれええええッ!」
他の者たちも口々に叫び、街へと駆け出していく。
その場に残ったのはハンとビートだけになり、そこでビートが尋ねてくる。
「クーさんは?」
「あそこの家の中だ。魔術師に近接戦闘なんか頼めないからな。大人しくしてもらってる」
「そうですね。じゃあ彼女には、逃走時の手引きを頼む感じですか?」
「ああ」
二人でその家に戻り、ビートがクーに声をかける。
「大丈夫ですか、クーさん?」
「あら、ビートさん。ええ、何ら問題ございませんわ」
クーににこっと微笑まれ、ビートも笑みを返す。
「落ち着いてるみたいですね」
「これしきのこと、平気です」
クーがそう返したところで、ハンはぷっと吹き出した。
「……何かしら?」
一転、じろっとにらんできたクーに、ハンは笑いを噛み殺しつつ、こう返す。
「いや、さっきまで真っ青な顔してどもってたじゃないか」
「そっ、そんなことございません! たたた、泰然自若でございましたわ!」
「まあ、君がそう言うなら、そう言うことで構わないさ。
それよりクー、逃げる準備を整えておこう。皆が無事にここを出られるよう、手配して欲しい」
「ええ。承知いたしました、ハン」
クーはうなずき、家の外に出る。ハンたちもその後に続き、周囲を警戒する。
「敵は無し。安全を確認」
「それでは詠唱を始めますわね」
「頼んだ」
クーが魔術に集中し始めたところで、ビートも呪文を唱える。
「『ホワイトアウト』」
発動と共に白煙が辺りに漂い始め、上空へと上がっていく。
「これで探査部隊も異状に気付き、すぐに引き返してくるでしょう」
「となると、猶予は5分ちょっとってところか。向こうはどうかな」
「今のところ順調っぽいです。暴れ回ってます」
「ロウか?」
「皆さん全員ですね」
「どうやら皆、鬱憤(うっぷん)が溜まってたみたいだな」
「案外、これで奪還まで行けるんじゃ……」
そんなことを言うビートに、ハンは首を横に振る。
「深追いして探査部隊が戻ってきたら、退路を失うことになる。陽動作戦で疲れ切った皆が突破できる可能性は低い。
そもそも俺たちは敵の全容を把握していない。先日の退却の時にしても、敵全軍が広場に揃っていたとは思えん。俺たちが遭遇した何倍もの人員が潜んでいたとしたら、奪還なんて到底できない。
作戦の目的はあくまで、探査部隊を街まで引き返させることだ。それ以上は現状で望むべきじゃない」
「そう……ですね」
と、クーが声をかけてくる。
「こちらも準備完了いたしました。いつでも発動できますわよ」
「ありがとう。それじゃビート、合図を頼む」
「はい」
ハンの命令に従い、ビートは魔術で音を立てる。
「『ラウドビート』!」
バン、バンとけたたましい音が鳴り、広場に散っていた者たちが一人、また一人とハンたちのところへ戻ってくる。
「もう終わりでいいのか?」
「ふーっ、参った参った」
「奴らしぶといわー」
汗だくになっていたり、軽く傷が付いていたりはするものの、動けないほどの重傷を負った様子は、誰にも見られない。
それに安堵しつつ、ハンは退却を命じようとしたが――。
「……待て」
「ん?」
「どうした、尉官さん?」
ハンは内心の苛立ちを極力押さえながら、皆に尋ねた。
「ロウは? どこだ?」
その問いに、皆は辺りを見回し、そして一様に頭を抱えた。
「アイツ……いねえ」
「まだ戦ってんのかよ?」
「マジで人の話聞かねえな、あのバカ」
「……ふざけるな」
ハンは怒りで頭に血が上りそうになるのを抑え込みつつ、広場に駆け出した。
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陽動開始。
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「首尾は上々、ってところだな」
陽動部隊を招き入れつつ、ハンはその向こう側、砦の方向へ目をやる。
「砦にも変わった様子は無さそうだ。
すぐ暴れてもらうぞ。準備はいいか?」
「いつでもいいぜ」
ロウはニヤっと笑い、手にした戦鎚(せんつい)を掲げる。
「それじゃ行ってくるぜ、尉官さんよ」
「頼んだ」
ハンがうなずくとほぼ同時に、ロウは鬨(とき)の声を挙げた。
「うおらあああああッ! 出てきやがれええええッ!」
他の者たちも口々に叫び、街へと駆け出していく。
その場に残ったのはハンとビートだけになり、そこでビートが尋ねてくる。
「クーさんは?」
「あそこの家の中だ。魔術師に近接戦闘なんか頼めないからな。大人しくしてもらってる」
「そうですね。じゃあ彼女には、逃走時の手引きを頼む感じですか?」
「ああ」
二人でその家に戻り、ビートがクーに声をかける。
「大丈夫ですか、クーさん?」
「あら、ビートさん。ええ、何ら問題ございませんわ」
クーににこっと微笑まれ、ビートも笑みを返す。
「落ち着いてるみたいですね」
「これしきのこと、平気です」
クーがそう返したところで、ハンはぷっと吹き出した。
「……何かしら?」
一転、じろっとにらんできたクーに、ハンは笑いを噛み殺しつつ、こう返す。
「いや、さっきまで真っ青な顔してどもってたじゃないか」
「そっ、そんなことございません! たたた、泰然自若でございましたわ!」
「まあ、君がそう言うなら、そう言うことで構わないさ。
それよりクー、逃げる準備を整えておこう。皆が無事にここを出られるよう、手配して欲しい」
「ええ。承知いたしました、ハン」
クーはうなずき、家の外に出る。ハンたちもその後に続き、周囲を警戒する。
「敵は無し。安全を確認」
「それでは詠唱を始めますわね」
「頼んだ」
クーが魔術に集中し始めたところで、ビートも呪文を唱える。
「『ホワイトアウト』」
発動と共に白煙が辺りに漂い始め、上空へと上がっていく。
「これで探査部隊も異状に気付き、すぐに引き返してくるでしょう」
「となると、猶予は5分ちょっとってところか。向こうはどうかな」
「今のところ順調っぽいです。暴れ回ってます」
「ロウか?」
「皆さん全員ですね」
「どうやら皆、鬱憤(うっぷん)が溜まってたみたいだな」
「案外、これで奪還まで行けるんじゃ……」
そんなことを言うビートに、ハンは首を横に振る。
「深追いして探査部隊が戻ってきたら、退路を失うことになる。陽動作戦で疲れ切った皆が突破できる可能性は低い。
そもそも俺たちは敵の全容を把握していない。先日の退却の時にしても、敵全軍が広場に揃っていたとは思えん。俺たちが遭遇した何倍もの人員が潜んでいたとしたら、奪還なんて到底できない。
作戦の目的はあくまで、探査部隊を街まで引き返させることだ。それ以上は現状で望むべきじゃない」
「そう……ですね」
と、クーが声をかけてくる。
「こちらも準備完了いたしました。いつでも発動できますわよ」
「ありがとう。それじゃビート、合図を頼む」
「はい」
ハンの命令に従い、ビートは魔術で音を立てる。
「『ラウドビート』!」
バン、バンとけたたましい音が鳴り、広場に散っていた者たちが一人、また一人とハンたちのところへ戻ってくる。
「もう終わりでいいのか?」
「ふーっ、参った参った」
「奴らしぶといわー」
汗だくになっていたり、軽く傷が付いていたりはするものの、動けないほどの重傷を負った様子は、誰にも見られない。
それに安堵しつつ、ハンは退却を命じようとしたが――。
「……待て」
「ん?」
「どうした、尉官さん?」
ハンは内心の苛立ちを極力押さえながら、皆に尋ねた。
「ロウは? どこだ?」
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「アイツ……いねえ」
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