「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・奔尉伝 6
神様たちの話、第99話。
窮地。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「うらあああッ!」
戦鎚がうなりを上げ、ロウの正面にいた虎獣人の鎧を粉々に打ち砕く。
「**!?」
まるで手鞠のごとく弾き飛ばされ、ロウを囲んでいた敵たちは、一様に戦慄の表情を浮かべる。
「……*!」
だが、それでもじわじわと包囲を狭め、ロウの進退を窮(きわ)めさせていく。
「くっそ、しっつけえなあぁ!」
ロウ自身、どうにかして包囲を抜け、ハンのところに戻ろうと焦っているのだが、何故か敵たちは、明らかに他の仲間よりもロウを、集中的に狙ってきている。
(こないだボッコボコにしたのがまずかったか?)
撤退の合図はロウも確認していたものの、敵が執拗に行く手を阻んできた結果、その機を失ってしまったのである。
(畜生、このまんまじゃまたあの、ガリガリのっぽの尉官に『勝手なことすんな』だの何だの言われちまうな。……腹立つなぁ、クソ)
もう一人打ち倒し、包囲網にわずかな隙間ができるが、それもすぐ、他の敵に埋められてしまう。
(……ってーか、普通にヤバい。流石に息があがってきたぜ)
自分が肩で、ハァハァと荒い息を立てていることに気付き、ロウの額に冷たい汗が浮く。
「ちぇいやあああッ!」
と――誰かの叫び声と共に、敵の一人が前のめりに倒れる。
「おい! 無事か!?」
その背後から現れたのは、ハンだった。
「念入りに狙われたもんだな、あんたも」
「……へ、へへっ、ちっと大暴れしすぎたみたいでよ」
突如現れたハンに、敵全員の視線が集中する。すかさずロウは、ハンが開けてくれた隙間に飛び込み、包囲を突破する。
「**!」
一瞬遅れて敵が反応するが、ロウもハンもそのまま走り去り、広場を後にした。
10名以上の敵に追われたまま、ハンたちは皆がいるところまで戻ってくる。
「クー! やってくれ!」
「は、はい!」
ハンに命じられ、クーは魔術を発動させる。
途端に周囲から白い煙が立ち上り、敵も味方も煙に巻かれる。
その様子を見ていたビートが首を傾げ、不満げな口ぶりで漏らす。
「『ホワイトアウト』なら、僕も使えるのに……」
それを受けて、クーはどこか得意げな様子で答える。
「その術だけが必要であれば、わたくしがここまで馳せ参じる意味がございませんわ。
もっと効果的な術を使用しておりますの」
「と言うと?」
尋ねたところで、ビートの目の前を敵がそのまま通り過ぎ、そのまま自分から、家の壁に頭から突っ込んでいく。
「え? え?」
「この術は『ミラージュ』と申しまして、幻惑術の中でも高等と分類されているものですわ。実像と虚像の境界を操る、とでも申せばよろしいかしら。
そしてわたくしの場合、こうして範囲的に発動しておりますけれど、操りたい相手にのみ術をかけることがいたせますのよ」
「範囲型で、しかも対象選択を? 一体どうやって……?」
「詳しくご存知になりたいのであれば、後でご説明差し上げますわ。
とにかく今は、探査部隊が戻ってくる前に撤退いたしましょう」
「あ、そうでした」
全員が門を抜けたところで、ハンが叫ぶ。
「ビート! 中の奴らを足止めしてくれ!」
「了解です! 『ブレイズウォール』!」
すぐさまビートが呪文を唱え、門の周囲に火を放つ。
「……っ」
炎の壁に阻まれ、中にいた敵は立ち尽くし、ハンたちをにらむことしかできない。
「探査部隊の方は!?」
「こっち来てる! めちゃくちゃ怒ってるみたいだ!」
「森に逃げるんだ!」
ハンの指示に従い、一同は森へと逃げ込む。
奥まで進み、木の上へ登ったところで、敵も森の中へとなだれ込んでくる。
《静かに。動くんじゃないぞ》
ハンは樹上にいる者たちに目と手振りで指示を送りつつ、下の様子を窺う。
(見つからないはずだ。これだけあっちこっちに木があるんだし、一つ一つ探るのは骨が折れる。いくらなんでも、そこまで手間をかけてまで探るとは思えん。
火を点けていぶり出すって手もあるだろうが、そう街から離れてるわけでもない。飛び火して街を焼く可能性を考えたら、やろうなんて奴はまず……)
が――すぐに焦げた臭いが漂ってくる。
(……マジかよ!? いや、そうか。ここは俺たちの土地であって、あいつらの土地じゃないんだ。
クソ野郎めッ! 他人の土地なんかどうなろうと構わない、ってわけか!)
次の瞬間――ハンは地面に飛び降り、松明(たいまつ)を手にしていた虎獣人を殴り倒していた。
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窮地。
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「うらあああッ!」
戦鎚がうなりを上げ、ロウの正面にいた虎獣人の鎧を粉々に打ち砕く。
「**!?」
まるで手鞠のごとく弾き飛ばされ、ロウを囲んでいた敵たちは、一様に戦慄の表情を浮かべる。
「……*!」
だが、それでもじわじわと包囲を狭め、ロウの進退を窮(きわ)めさせていく。
「くっそ、しっつけえなあぁ!」
ロウ自身、どうにかして包囲を抜け、ハンのところに戻ろうと焦っているのだが、何故か敵たちは、明らかに他の仲間よりもロウを、集中的に狙ってきている。
(こないだボッコボコにしたのがまずかったか?)
撤退の合図はロウも確認していたものの、敵が執拗に行く手を阻んできた結果、その機を失ってしまったのである。
(畜生、このまんまじゃまたあの、ガリガリのっぽの尉官に『勝手なことすんな』だの何だの言われちまうな。……腹立つなぁ、クソ)
もう一人打ち倒し、包囲網にわずかな隙間ができるが、それもすぐ、他の敵に埋められてしまう。
(……ってーか、普通にヤバい。流石に息があがってきたぜ)
自分が肩で、ハァハァと荒い息を立てていることに気付き、ロウの額に冷たい汗が浮く。
「ちぇいやあああッ!」
と――誰かの叫び声と共に、敵の一人が前のめりに倒れる。
「おい! 無事か!?」
その背後から現れたのは、ハンだった。
「念入りに狙われたもんだな、あんたも」
「……へ、へへっ、ちっと大暴れしすぎたみたいでよ」
突如現れたハンに、敵全員の視線が集中する。すかさずロウは、ハンが開けてくれた隙間に飛び込み、包囲を突破する。
「**!」
一瞬遅れて敵が反応するが、ロウもハンもそのまま走り去り、広場を後にした。
10名以上の敵に追われたまま、ハンたちは皆がいるところまで戻ってくる。
「クー! やってくれ!」
「は、はい!」
ハンに命じられ、クーは魔術を発動させる。
途端に周囲から白い煙が立ち上り、敵も味方も煙に巻かれる。
その様子を見ていたビートが首を傾げ、不満げな口ぶりで漏らす。
「『ホワイトアウト』なら、僕も使えるのに……」
それを受けて、クーはどこか得意げな様子で答える。
「その術だけが必要であれば、わたくしがここまで馳せ参じる意味がございませんわ。
もっと効果的な術を使用しておりますの」
「と言うと?」
尋ねたところで、ビートの目の前を敵がそのまま通り過ぎ、そのまま自分から、家の壁に頭から突っ込んでいく。
「え? え?」
「この術は『ミラージュ』と申しまして、幻惑術の中でも高等と分類されているものですわ。実像と虚像の境界を操る、とでも申せばよろしいかしら。
そしてわたくしの場合、こうして範囲的に発動しておりますけれど、操りたい相手にのみ術をかけることがいたせますのよ」
「範囲型で、しかも対象選択を? 一体どうやって……?」
「詳しくご存知になりたいのであれば、後でご説明差し上げますわ。
とにかく今は、探査部隊が戻ってくる前に撤退いたしましょう」
「あ、そうでした」
全員が門を抜けたところで、ハンが叫ぶ。
「ビート! 中の奴らを足止めしてくれ!」
「了解です! 『ブレイズウォール』!」
すぐさまビートが呪文を唱え、門の周囲に火を放つ。
「……っ」
炎の壁に阻まれ、中にいた敵は立ち尽くし、ハンたちをにらむことしかできない。
「探査部隊の方は!?」
「こっち来てる! めちゃくちゃ怒ってるみたいだ!」
「森に逃げるんだ!」
ハンの指示に従い、一同は森へと逃げ込む。
奥まで進み、木の上へ登ったところで、敵も森の中へとなだれ込んでくる。
《静かに。動くんじゃないぞ》
ハンは樹上にいる者たちに目と手振りで指示を送りつつ、下の様子を窺う。
(見つからないはずだ。これだけあっちこっちに木があるんだし、一つ一つ探るのは骨が折れる。いくらなんでも、そこまで手間をかけてまで探るとは思えん。
火を点けていぶり出すって手もあるだろうが、そう街から離れてるわけでもない。飛び火して街を焼く可能性を考えたら、やろうなんて奴はまず……)
が――すぐに焦げた臭いが漂ってくる。
(……マジかよ!? いや、そうか。ここは俺たちの土地であって、あいつらの土地じゃないんだ。
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