「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・奔尉伝 7
神様たちの話、第100話。
最悪の状況で。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
瞬く間にハンは敵に囲まれ、進退を窮める。
「……やっちまったなぁ」
ハンは苦笑いし、腰に佩いていた剣を抜く。
(これで状況は最悪になった。勝つ道は無い)
剣を構え、周囲をにらみつけて牽制しつつ、ハンは必死で頭を動かす。
(この状況、どう切り抜ける? どうすれば最良の結果を導ける?
最も俺にとって望ましい結果は、何ら犠牲無く、こいつらを翻弄することだった。それだけで済めば、一番消耗せずに済んだはずだ。
だがそれはもう、絶望的だ。敵意むき出しのこいつらを全員かわすことは、もうできない。それに俺が降りてきたことで、こいつらは付近に俺の仲間が潜んでいることを察しているだろう。
俺がこのままここから逃げ延びるか、もしくはこいつらに殺されたら、こいつらは今度こそ森に火を点け、いぶり出しを行うだろう。
そうなれば確実に仲間の半分、いや、ほとんどが死ぬ)
考えている間にも一歩、また一歩と、敵はハンに近付いて来る。
(次善の策としては、こいつらと戦い、一人の犠牲も無く勝利することだ。
だがそれも無理だ。俺と上の仲間が全員立ち向かったところで、この人数相手じゃ、間違い無く死人が出る。
……親父。済まない、俺はリーダー失格だ)
ごく、と唾を飲み、ハンは剣を構え直す。
(『人の上に立つ時は、下にいる奴を大事にしろ』ってあんたの教え、俺は守ったつもりなのにな。もうあと数分後には、誰かが死んでるだろう)
それを見た敵も、警戒する素振りを見せる。
(どうにかして誰も死なないような策をって、考えて考えてやってたってのに、どうしてこうなるんだかな。
仕方無い。……覚悟決めるか)
ハンはすう、と息を吸い、剣を振り上げた。
と――その時だった。
「ぐるぐる頭ん中で考え過ぎや、アンタ。まーだ覚悟決めへんのかいな」
「……っ?」
その声を聞き、ハンは驚きと、そして戦慄を覚えた。
(今の声、……まさか?)
空耳かと疑いかけたが、その女性の声は、続いてハンに投げかけられる。
「今アンタ、『どうにか逃げられへんかなー、死人出した無いなー』とか思てたやろ」
「そりゃ、思いますよ」
「うんうん、分かるでー。人が死ぬのんなんてそうそう、見たないもんな。ましてや自分が知っとるヤツやったら尚更や」
「そうですね」
応答しつつ、ハンは複雑な思いを抱えていた。
(助け、……が来たんだろうけど、色々信じたくない。
そんな都合良く助けが来るわけ無いだろって言うのと、何であの人が助けに来るんだって言うのと、よりによってあの人にまた助けられるのかって言うのと、……あー、もう頭ん中が大混乱だ、クソっ)
そんなハンの困惑に気付いているのかいないのか、彼女は優しく声をかけてくる。
「ま、とりあえず剣、収めとき。もう終わっとるで」
彼女の言う通り、いつの間にか敵は全員、その場に倒れ込んでいた。
「今の一瞬で? どうやったんです?」
ハンの問いに、いつの間にか正面に現れた彼女は、にこっと笑って答える。
「アタシが新しく組んだ術やね。アタマん中にどわーってやかましい音、仰山詰め込んだってん」
「聞くだけで頭が痛くなりそうですね」
ハンはどうにか笑顔を作り、目の前に現れた狐獣人の女性に会釈した。
「助かりました。お久しぶりです、エリザさん」
「おひさー」
女性――エリザ・ゴールドマンはにこにこと笑いながら、ハンをぎゅっと抱きしめる。
「ちょ、っと」
「ハンくん、アンタ相変わらずほっそいなー? アタシより腰、細いんとちゃう?」
「は、はは、まさか。……すみませんが、その」
「何や?」
「そろそろ離れてくれませんか? 部下に、威厳が……」
「あー」
ひょいと離れ、エリザはハンに笑いかける。
「ゴメンなぁ。久々に会うたから、そらぎゅーってしとかんとアカンやろなって思てなぁ」
(……これだから苦手なんだよ、この人)
そう思ったものの、ハンは極力、それを顔に出さないよう努めた。
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最悪の状況で。
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7.
瞬く間にハンは敵に囲まれ、進退を窮める。
「……やっちまったなぁ」
ハンは苦笑いし、腰に佩いていた剣を抜く。
(これで状況は最悪になった。勝つ道は無い)
剣を構え、周囲をにらみつけて牽制しつつ、ハンは必死で頭を動かす。
(この状況、どう切り抜ける? どうすれば最良の結果を導ける?
最も俺にとって望ましい結果は、何ら犠牲無く、こいつらを翻弄することだった。それだけで済めば、一番消耗せずに済んだはずだ。
だがそれはもう、絶望的だ。敵意むき出しのこいつらを全員かわすことは、もうできない。それに俺が降りてきたことで、こいつらは付近に俺の仲間が潜んでいることを察しているだろう。
俺がこのままここから逃げ延びるか、もしくはこいつらに殺されたら、こいつらは今度こそ森に火を点け、いぶり出しを行うだろう。
そうなれば確実に仲間の半分、いや、ほとんどが死ぬ)
考えている間にも一歩、また一歩と、敵はハンに近付いて来る。
(次善の策としては、こいつらと戦い、一人の犠牲も無く勝利することだ。
だがそれも無理だ。俺と上の仲間が全員立ち向かったところで、この人数相手じゃ、間違い無く死人が出る。
……親父。済まない、俺はリーダー失格だ)
ごく、と唾を飲み、ハンは剣を構え直す。
(『人の上に立つ時は、下にいる奴を大事にしろ』ってあんたの教え、俺は守ったつもりなのにな。もうあと数分後には、誰かが死んでるだろう)
それを見た敵も、警戒する素振りを見せる。
(どうにかして誰も死なないような策をって、考えて考えてやってたってのに、どうしてこうなるんだかな。
仕方無い。……覚悟決めるか)
ハンはすう、と息を吸い、剣を振り上げた。
と――その時だった。
「ぐるぐる頭ん中で考え過ぎや、アンタ。まーだ覚悟決めへんのかいな」
「……っ?」
その声を聞き、ハンは驚きと、そして戦慄を覚えた。
(今の声、……まさか?)
空耳かと疑いかけたが、その女性の声は、続いてハンに投げかけられる。
「今アンタ、『どうにか逃げられへんかなー、死人出した無いなー』とか思てたやろ」
「そりゃ、思いますよ」
「うんうん、分かるでー。人が死ぬのんなんてそうそう、見たないもんな。ましてや自分が知っとるヤツやったら尚更や」
「そうですね」
応答しつつ、ハンは複雑な思いを抱えていた。
(助け、……が来たんだろうけど、色々信じたくない。
そんな都合良く助けが来るわけ無いだろって言うのと、何であの人が助けに来るんだって言うのと、よりによってあの人にまた助けられるのかって言うのと、……あー、もう頭ん中が大混乱だ、クソっ)
そんなハンの困惑に気付いているのかいないのか、彼女は優しく声をかけてくる。
「ま、とりあえず剣、収めとき。もう終わっとるで」
彼女の言う通り、いつの間にか敵は全員、その場に倒れ込んでいた。
「今の一瞬で? どうやったんです?」
ハンの問いに、いつの間にか正面に現れた彼女は、にこっと笑って答える。
「アタシが新しく組んだ術やね。アタマん中にどわーってやかましい音、仰山詰め込んだってん」
「聞くだけで頭が痛くなりそうですね」
ハンはどうにか笑顔を作り、目の前に現れた狐獣人の女性に会釈した。
「助かりました。お久しぶりです、エリザさん」
「おひさー」
女性――エリザ・ゴールドマンはにこにこと笑いながら、ハンをぎゅっと抱きしめる。
「ちょ、っと」
「ハンくん、アンタ相変わらずほっそいなー? アタシより腰、細いんとちゃう?」
「は、はは、まさか。……すみませんが、その」
「何や?」
「そろそろ離れてくれませんか? 部下に、威厳が……」
「あー」
ひょいと離れ、エリザはハンに笑いかける。
「ゴメンなぁ。久々に会うたから、そらぎゅーってしとかんとアカンやろなって思てなぁ」
(……これだから苦手なんだよ、この人)
そう思ったものの、ハンは極力、それを顔に出さないよう努めた。
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50話突破から9ヶ月をかけ、どうにか100話突破。
思えば昨年の暮れまで、第3部をどうにか書き上げようと四苦八苦していた記憶が。
(そしてできたのが、こっちじゃなくてDW9と言う……)
ただ、ここからの話が書きたくてたまらなかったのは事実。
と言うのも――元々「双月千年世界」の元となった小説が存在していたことは、
以前からちょくちょくお伝えしていましたが、その始まりは、「琥珀暁」のこの部から。
ある意味、ここから双月世界が始まったと言えるわけで。
それが2007年くらいのこと。
(以下、自分語りになるので、タグで隠します。
見たい方はソースから確認して下さい)
ま、それはそれとして。
10年前に自分が全力で書いたモノを、今の自分の全力を以てリメイクしています。
あの頃よりきっと、100倍は面白いはず。
……ちょっと色々、どす黒くなったりアブなくなったりしてるけど。
50話突破から9ヶ月をかけ、どうにか100話突破。
思えば昨年の暮れまで、第3部をどうにか書き上げようと四苦八苦していた記憶が。
(そしてできたのが、こっちじゃなくてDW9と言う……)
ただ、ここからの話が書きたくてたまらなかったのは事実。
と言うのも――元々「双月千年世界」の元となった小説が存在していたことは、
以前からちょくちょくお伝えしていましたが、その始まりは、「琥珀暁」のこの部から。
ある意味、ここから双月世界が始まったと言えるわけで。
それが2007年くらいのこと。
(以下、自分語りになるので、タグで隠します。
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ま、それはそれとして。
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あの頃よりきっと、100倍は面白いはず。
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総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

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双月千年世界 2;火紅狐

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双月千年世界 1;蒼天剣

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