「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第3部
琥珀暁・奔尉伝 8
神様たちの話、第101話。
生ける伝説の登場。
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8.
樹上から次々降りてきた皆に、エリザは優しく笑いかけてくる。
「皆、無事かー?」
「え、ええ」
一様に面食らった顔をしている皆に、ハンが声をかけた。
「俺にも何が何だか分からないんだが、ともかく、彼女の紹介をさせてもらう。
構いませんか、エリザさん?」
「えーよ」
エリザの許可を得たところで、ハンは続ける。
「もしかしたら知っている者もいるかも知れないが、彼女はエリザ・ゴールドマン女史。ウォールロック山脈の南地域に住む、魔術師兼商人だ」
「し、知ってるどころか、エリザ・ゴールドマンと言えばっ」
彼女を見て、ビートの顔が上気している。
「陛下やモール氏と並ぶ『魔法使い』じゃないですか!」
「あらどーも、ありがとさん」
「お、お会い出来て光栄です! あ、握手、いいですかっ!?」
「えーよえーよー」
気前良く握手に応じるエリザを、ロウがまるで宝石か黄金を愛でるかのような目で見つめている。
「お、あ、あのっ」
「ん? どないしはりました?」
「お、俺、あの、覚えてますか?」
珍しく敬語調で話すロウを見て、ハンはぎょっとする。
「ロウ? あんた一体どうしたんだ?」
ハンの問いに応じず、ロウはエリザの側に寄る。
「双月暦6年の、あの、討伐で一緒に戦った、ロウっス」
「んー? ……えーと、アタシが苗字考えた、あのロウ?」
そう返され、ロウは尻尾をばたばたとさせて喜んでいる。
「そうっス! お久しぶりっス!」
「ホンマお久しぶりやねぇ。大分老けたんとちゃう?」
「うっ、……ま、まあ、あれも14年前っスから、ははは、へへ、……へへ」
ロウはいつもの彼らしくない、ヘラヘラとした笑みを浮かべており、それを見た周囲の者は一様に、奇怪なものを見るような目をしていた。
と、自分の右手を左手で握り、嬉しそうにはにかんでいたビートが、真顔に戻る。
「……あれ? クーさんは?」
「ん?」
言われてハンも、クーの姿が無いことに気付く。
「木の上にはいたよな?」
「ええ。一緒にいました」
「じゃ、まだ上に?」
そう言って上を見上げたところで、恐る恐る下を窺っていたクーと目が合う。
「あっ」
「あっ、……じゃないだろ。いつまでいるつもりだ?」
ハンに声をかけられ、クーはしどろもどろに応じる。
「それは、あの、今から、……いえ、あの、都合が、……ではなくて、えーと」
「とりあえず降りてこいよ」
「え、……ええ」
顔をしかめつつ、クーが降りてきたところで、エリザが「あら?」と声を上げる。
「アンタ、見覚えあるな?」
「い、いえっ」
エリザと目が合うなり、クーは慌てた素振りでハンの後ろに隠れる。
「わっ、わたくし、あの、あなたとはそんな、その、めめめ面識など無いと思うと、その、思うのですけれど、ええ、あの、多分、そう、きっと」
「あるで?」
クーが必死に否定するものの、エリザはさらっと肯定する。
それを受けて、クーは涙目になっていく。
「なっ、無いです、無いですぅ~」
(言葉遣い変わってる……)
クーが相当狼狽していることを察し、ハンは仲立ちする。
「エリザさん。彼女が無いと言ってるんですから、多分本当に、無いんじゃないですか?」
「せやろか? まあ、そう言うコトにしとこか。
あー、と。ハンくん、本題言うん忘れてたから、今から言うけどな」
急に真顔になったエリザに、ハンも姿勢を正す。
「何でしょうか?」
「アタシがこっち来た理由やけどな、アンタ、監視班寄越してくれって軍本営に要請したやろ?」
「ええ」
「丁度クロスセントラルにアタシ来てたんやけども、そん時にゼロさんからその話聞いてん。
で、アタシが『行ってみよか?』言うて、監視班の子ら連れて、一緒に来たんよ。馬車速よ動かす術の実験がてらな。あ、監視班はもう砦の方に行ってもろてるからな。
そしたらマリアちゃんやったっけ、あの『猫』の子から、陽動作戦しとるって聞いたからな、もしかしたら困っとるんちゃうかなーって思てな」
「え? どうしてそんなことが……」
面食らうハンに、エリザはニヤっと笑いかける。
「陽動作戦で敵さんらの気ぃそらしたろっちゅう着眼点はええけどな、街出る時はどうしたって皆で集まって門くぐらなアカンやろ? どんだけ街ん中でうまいコトやっとっても、くぐる前後ら辺で危ない目に遭うやろなっちゅうコトは、ほぼ確実やん。
そもそも陽動で中入った直後に、敵さんトコの別働隊が門閉めに来たら、ソレで一巻の終わりやし。この人数やとその別働隊に対応する余裕あらへんし、ソコ考えてへんかったやろ、アンタ」
「う……」
「後もういっこ問題点言うとくとな、砦向かっとる探査部隊からしたら、アンタらの動き丸見えやろ? 門出るのんに手間取るコト考えたら、隠れるタイミングもまずあらへんし。
あんなんやっとったら自殺行為やで」
「うぐっ」
「予想通り、アンタら森に逃げ込んで窮々しよるし。アタシが助けに来おへんかったら、ホンマに皆まるっと丸焼きやったで」
「……返す言葉もありません」
エリザの指摘に打ちのめされ、ハンはうつむいてしまう。
そんな彼の頭をぽん、と優しく叩きながら、エリザが皆に声をかけた。
「ほなとりあえず、砦に戻ろか」
琥珀暁・奔尉伝 終
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生ける伝説の登場。
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樹上から次々降りてきた皆に、エリザは優しく笑いかけてくる。
「皆、無事かー?」
「え、ええ」
一様に面食らった顔をしている皆に、ハンが声をかけた。
「俺にも何が何だか分からないんだが、ともかく、彼女の紹介をさせてもらう。
構いませんか、エリザさん?」
「えーよ」
エリザの許可を得たところで、ハンは続ける。
「もしかしたら知っている者もいるかも知れないが、彼女はエリザ・ゴールドマン女史。ウォールロック山脈の南地域に住む、魔術師兼商人だ」
「し、知ってるどころか、エリザ・ゴールドマンと言えばっ」
彼女を見て、ビートの顔が上気している。
「陛下やモール氏と並ぶ『魔法使い』じゃないですか!」
「あらどーも、ありがとさん」
「お、お会い出来て光栄です! あ、握手、いいですかっ!?」
「えーよえーよー」
気前良く握手に応じるエリザを、ロウがまるで宝石か黄金を愛でるかのような目で見つめている。
「お、あ、あのっ」
「ん? どないしはりました?」
「お、俺、あの、覚えてますか?」
珍しく敬語調で話すロウを見て、ハンはぎょっとする。
「ロウ? あんた一体どうしたんだ?」
ハンの問いに応じず、ロウはエリザの側に寄る。
「双月暦6年の、あの、討伐で一緒に戦った、ロウっス」
「んー? ……えーと、アタシが苗字考えた、あのロウ?」
そう返され、ロウは尻尾をばたばたとさせて喜んでいる。
「そうっス! お久しぶりっス!」
「ホンマお久しぶりやねぇ。大分老けたんとちゃう?」
「うっ、……ま、まあ、あれも14年前っスから、ははは、へへ、……へへ」
ロウはいつもの彼らしくない、ヘラヘラとした笑みを浮かべており、それを見た周囲の者は一様に、奇怪なものを見るような目をしていた。
と、自分の右手を左手で握り、嬉しそうにはにかんでいたビートが、真顔に戻る。
「……あれ? クーさんは?」
「ん?」
言われてハンも、クーの姿が無いことに気付く。
「木の上にはいたよな?」
「ええ。一緒にいました」
「じゃ、まだ上に?」
そう言って上を見上げたところで、恐る恐る下を窺っていたクーと目が合う。
「あっ」
「あっ、……じゃないだろ。いつまでいるつもりだ?」
ハンに声をかけられ、クーはしどろもどろに応じる。
「それは、あの、今から、……いえ、あの、都合が、……ではなくて、えーと」
「とりあえず降りてこいよ」
「え、……ええ」
顔をしかめつつ、クーが降りてきたところで、エリザが「あら?」と声を上げる。
「アンタ、見覚えあるな?」
「い、いえっ」
エリザと目が合うなり、クーは慌てた素振りでハンの後ろに隠れる。
「わっ、わたくし、あの、あなたとはそんな、その、めめめ面識など無いと思うと、その、思うのですけれど、ええ、あの、多分、そう、きっと」
「あるで?」
クーが必死に否定するものの、エリザはさらっと肯定する。
それを受けて、クーは涙目になっていく。
「なっ、無いです、無いですぅ~」
(言葉遣い変わってる……)
クーが相当狼狽していることを察し、ハンは仲立ちする。
「エリザさん。彼女が無いと言ってるんですから、多分本当に、無いんじゃないですか?」
「せやろか? まあ、そう言うコトにしとこか。
あー、と。ハンくん、本題言うん忘れてたから、今から言うけどな」
急に真顔になったエリザに、ハンも姿勢を正す。
「何でしょうか?」
「アタシがこっち来た理由やけどな、アンタ、監視班寄越してくれって軍本営に要請したやろ?」
「ええ」
「丁度クロスセントラルにアタシ来てたんやけども、そん時にゼロさんからその話聞いてん。
で、アタシが『行ってみよか?』言うて、監視班の子ら連れて、一緒に来たんよ。馬車速よ動かす術の実験がてらな。あ、監視班はもう砦の方に行ってもろてるからな。
そしたらマリアちゃんやったっけ、あの『猫』の子から、陽動作戦しとるって聞いたからな、もしかしたら困っとるんちゃうかなーって思てな」
「え? どうしてそんなことが……」
面食らうハンに、エリザはニヤっと笑いかける。
「陽動作戦で敵さんらの気ぃそらしたろっちゅう着眼点はええけどな、街出る時はどうしたって皆で集まって門くぐらなアカンやろ? どんだけ街ん中でうまいコトやっとっても、くぐる前後ら辺で危ない目に遭うやろなっちゅうコトは、ほぼ確実やん。
そもそも陽動で中入った直後に、敵さんトコの別働隊が門閉めに来たら、ソレで一巻の終わりやし。この人数やとその別働隊に対応する余裕あらへんし、ソコ考えてへんかったやろ、アンタ」
「う……」
「後もういっこ問題点言うとくとな、砦向かっとる探査部隊からしたら、アンタらの動き丸見えやろ? 門出るのんに手間取るコト考えたら、隠れるタイミングもまずあらへんし。
あんなんやっとったら自殺行為やで」
「うぐっ」
「予想通り、アンタら森に逃げ込んで窮々しよるし。アタシが助けに来おへんかったら、ホンマに皆まるっと丸焼きやったで」
「……返す言葉もありません」
エリザの指摘に打ちのめされ、ハンはうつむいてしまう。
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