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    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第5部

    蒼天剣・回顧録 5

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    晴奈の話、第217話。
    クラウンの苦悩と狂気。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
    「本当に行っちゃうの?」
     クラウンとの対戦から、3ヵ月後。
     雪乃はゴールドコーストを離れることを、ピースとボーダに伝えた。
    「うん、結構長居しちゃったし、そろそろ故郷に戻ろうかなって」
    「そう……。寂しくなるわね、ユキノがいないと」
     ピースもボーダも、しんみりした顔で別れを惜しんでいる。
    「そんな顔しないで、二人とも。また機会があれば、遊びに来るから」
    「うん、待ってる」
    「元気でね」
     雪乃は二人と堅い握手を交わし、旅支度へ移ろうとした。
    「……あ、待って」「最後に、いっこだけ」
     ところが、二人は手を放そうとしない。どちらも赤い顔をして、もじもじしている。
    「え?」
    「その、最後に一つだけ」「見て行って欲しいものがあるんだ」
     そう言ってピースとボーダは、ぼそっと雪乃に耳打ちした。
    「ああ、そう言うことね。うふふ……」
     話を聞いた雪乃は、嬉しそうに笑った。



    「そこで、お式を挙げたんですのね?」
    「うん、そう言うこと、はは……」
     酒を運んできたフォルナに先読みされ、ピースは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
    「コイツ、こんな顔してロマンチックなことが好きなのよ」
    「き、君こそ『絶対、ユキノに見せたいんだ』って言ったじゃないか」
    「はいはいはい、ノロケはその辺その辺っ」
     フォルナと同じく料理を運んできた朱海に止められ、ピースはコホンと咳払いをする。
    「ま、そう言うわけでユキノに結婚式を見てもらって、彼女はそのまま国に帰った。
     本当に、いい思い出だよ……。あ、そうだコウさん。君、彼女の弟子だって言ってたよね」
    「ええ、はい」
     それを確認したピースは、身を乗り出して尋ねてきた。
    「今、ユキノはどうしてるの? 元気?」
    「ええ。5年前に結婚し、子供もおりますよ」
    「本当に!? へぇ~……」
     今度はボーダが食いついてくる。
     その日の祝宴は主役の晴奈よりもむしろ、雪乃のことで盛り上がった。



    「あれ以来ヒイラギは、街から姿を消した。
     その後、何とか央南に戻ったことを突き止め、勝負をしたが――なぜか、負けちまう。全盛期の俺でも、だ。今はもう、絶対勝てねえだろうな。俺は老けたが、アイツはまだ、若々しいはずだからな。
     くそ……、何でアイツはまだ若いんだよ!?」
     クラウンの思い出話が、いつの間にか愚痴に変わっている。側近の黒服が、恐る恐る答える。
    「それは、あの、エルフだから……」「分かってんだよ、んなこたあ!」
     クラウンの逆鱗に触れ、答えた黒服は殴り飛ばされた。
    「アイツと比べて、俺は年を取った! 闘技場に行く度、ゼーハーゼーハー息切れしちまう! 商売もうまく行かねえし、いまだにこんな薄汚ねえあばら家をアジトにしてる始末だ!
     あああ、ちくしょう! 何で! 俺は! 成功しねえんだッ!」
     怒りに任せ、クラウンは机をドカドカと蹴り続ける。何度目かの蹴りで穴が空いたところで、もう一度爆発した。
    「くそーッ! イラつくぜーッ! ぐあーッ!」
     机を思い切り蹴飛ばし、完全に粗大ゴミにする。まるで子供の癇癪なのだが、殴られるのを恐れる側近たちは何も言わない。
     しばらく放っておいた後、ようやくクラウンの怒りは収まってきた。
    「ハァ、ハァ。くっそ、まだイライラするぜ。こうなりゃまたアレで、憂さ晴らしすっかな」
    「あれ、とは?」
     尋ねた黒服に、またクラウンが怒鳴る。
    「アレに決まってんだろうが! 『売る』んだよ!」
    「う、売るってまた、奴らに、その……」
    「他に何があるってんだ!? ああ!?」
     怒鳴るクラウンに対し、側近たちは怯えるよりも先に、嫌そうな顔をした。
    「その、あの。あんまり、やばいんじゃないですか? 金火公安に、そろそろ目、付けられるんじゃないか、と」
    「ああぁ!?」
     助言した側近を、クラウンがものすごい形相で睨んだ。
    「今、なんつった?」
    「で、ですから、やめた方が」
    「はあぁ? 聞こえねえなあぁ? お前からあぁ、売り飛ばしてやろうかあああぁ!?」
     またもクラウンは激昂する。怯えた側近たちは慌てて、訂正した。
    「い、いえ、何でもないです!」
    「そうか、ならいい。
     ……何をボーっとしてやがる? さっさと探して来いよ、オラ!」
     クラウンは机の残骸を投げつけ、側近たちを部屋から追い出した。途端に、ゼェゼェと肩で息をし始める。
    「くそ、苦しい……」
     ヨタヨタと椅子に座り込み、床に落ちた新聞を手に取って眺める。
    「……シリン、シュンジ、ウィアード。そこにセイナ、……か。くそ、何でこう、強いやつばっかり集まってくるんだ、最近は? 俺がますます、苦戦しちまうじゃねえか。
     ……でも、今のうちだぜ。いずれ『あいつら』に……。く、くくく……! 考えただけで笑えちまう! 『あいつら』に売り渡す時が楽しいんだ……。絶望した顔を見るのもいい。無駄にあがいて、張っ倒される時も笑いがこみ上げちまう。
     ああ、早くあいつら、獲物を見つけて戻って来ねえかな、く、くは、ははっ、ひひひひ……」
     誰もいない部屋でクラウンは笑う。
     その笑いには少なからず、狂気がこびりついていた。

    蒼天剣・回顧録 終

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    2016.05.12 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    終わった後で本人、または関係した人たちが振り返る。
    エンディングっぽい展開ですね。
    自分の場合は、「蒼天剣」が終わったところで思いっきり過去へ戻ってしまいましたがw

    休日に入ったので、また推敲しますね。
    ありがとうございます。

    NoTitle 

    今、こうしてヒイラギの回想を見ると、昔のことだと思いますね。まあ、時代は進み続ける小説なのは、グッゲンハイムもここも同じなんですけどね。クロンも昔の主人公に・・・いつなるんだろう・・・と思いながら見ております。また小説よろしくお願いします。とりあえずですが、推敲終了しました。
    どうも、LandMでした。
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